|
私のアンプ設計マニュアル / 雑学編 13.負帰還 |
考え方:
今のところ、これぞという決まったコンセプトはありません。はっきりしているのは、無帰還が一番でもなさそうだということと、3段以上にわたる深い負帰還はアンプの安定度を損ねるだけだということです。
負帰還では入力換算雑音は減らない:
メインアンプを組み上げて、かりに残留雑音が1mVあったとします。このアンプにオーバーオールに6dBの負帰還をかけてやると、ほとんどの場合残留雑音は1/2すなわち0.5mVに減少するものです。スピーカーから漏れて聞こえる雑音も半分になって、メデタシメデタシです。ですから、負帰還は雑音を減らす効果があるともいえますが、必ずしもそうとはいえない場合があります。RIAAイコライザ・アンプではどうでしょうか。残留雑音が1mVあってさすがに雑音が気になったので、更に6dBの負帰還をかけたとします。そして残留雑音も半分の0.5mVになりました。6dBの負帰還をかけると、回路の利得も6dB減り(すなわち半分になり)ますから、今までと同じ音量で聴くためにはボリューム・コントロールをちょうど6dB上げてやらなければなりません。そうすると、減ったはずの雑音も6dB増加をして元に戻ってしまいます。
雑音がアンプ内部で発生したと考えないで、アンプの入力に外から注入されたものとして算定した雑音レベルのことを入力換算雑音レベルといいます。上記のRIAAイコライザ・アンプのように、残留雑音が1/2になっても、アンプの利得が半分になったのであれば入力換算雑音レベルは同じであるということです。従って、メインアンプの残留雑音改善にはたいへん効果的な負帰還も、入力回路では雑音の改善という目的での適用はほとんど意味がないと考えたほうがいいでしょう。
歪みが減る:
例外もありますが、一般論として負帰還量に応じた歪みの改善があります。6dBの負帰還をかければ歪みは半分になりますし、12dBかければ4分の1になります。そして、10分の1にしたければすくなくとも20dBの負帰還が必要になります。しかし、20dBという帰還量は、真空管回路にとってはたいへん困難な数字です。結論からいうと、歪みを少なくしたかったら負帰還だけに頼っては駄目ということです。いろいろな手をつくして歪みをできる限り少なくしておき、更に負帰還でもうワンランク低歪みにするのだというくらいの感覚が必要です。
また、負帰還をかけたばっかりにかえってアンプ全体の歪みが増加してしまうケースもあります。「EL343結シングルアンプその2」のケースがそうです。
利得の調節に使う:
利得が60dB(1000倍)の回路に「1kΩ:47kΩ」の比率の帰還素子による負帰還をかけたとします。この場合、負帰還をかけた時の利得は45.8倍になります。さて、何らかの事情で元の利得が3dB減って57dB(707倍)に低下してしまったとします。それでも同じ負帰還の条件であれば、最終利得は44.9倍となって元の利得(45.8倍)とほとんど変わることがありません。アンプの設計上で、負帰還を利用する目的のひとつにこの「安定した利得を保証する」ことがあげられます。また、増幅素子固有の増幅率に関係なく、任意の利得が欲しい場合にもよく利用されます。
回路の出力インピーダンスが下がる:
負帰還の持つ最大の効用はこの「回路の出力インピーダンスが下がる」ということではないでしょうか。多極管を出力段に使用したメインアンプの場合、無帰還では出力インピーダンスは非常に高いものになり、そのままではほとんど実用になりませんが、少し負帰還をかけてやるだけで簡単にダンピング・ファクタを1以上にすることができます。このへんのことは本ホームページの「データ・ライブラリ」でもふれています。プリアンプでも同じことがいえます。12AX7単独で無帰還で動作させると、出力インピーダンスは40kΩ〜60kΩくらいになります。このままでプリ出力とするには少々無理がありますが、10dB程度の負帰還をかけてやることで、プリ出力とメイン入力をつなぐ回路インピーダンスを10kΩ程度にまで下げることができます。
負帰還の種類:
負帰還を「局部帰還」と「オーバーオール帰還」に分けて考えることにします。局部帰還のよい点は、位相の回転が90度未満あるいは180度未満で済むため、非常に安定した帰還が可能であるということです。「P-G帰還」は、出力インピーダンスが下がってくれるので、入力インピーダンスが低くてもよい条件(そういう条件はあまりありませんが)のときは良く使います。「カソードの電流帰還」は、増幅素子が3極管の場合だけは敬遠することにしています。3極管の持つ低出力インピーダンスというありがたい特徴を台無しにしてしまうからです。出力段で行なうOPTの2次巻き線を使った「カソード帰還」は、簡単でメリットが多く、欠点も少ないのでよく利用します。ただし、カソード帰還をかけることでかえってトータルの歪みが増加してしまう場合もあるので、2次歪みの打ち消しバランスを充分考慮する必要があります。
「オーバーオール帰還」では、負帰還をかけた後の回路全体の安定度で勝負が決まります。最近では、アンプの広帯域化が進んで、スタガリングのための帯域の余裕がなくなってきています。第1ポールを、30Hzだとか30kHzだなどと悠長なことを言っていられなくなってきたからです。下は5Hz以下、上は100kHz以上にしようとするとたちまちスタガー比がとれなくなってしまいます。この問題を回避するには、負帰還ループに含まれる低域の時定数は2つ以下、高域の時定数は3つ以下にする必要があります。段数を減らしたり、段間を直結にする等の工夫が必要です。
まとめ:
20Hz〜20kHzあたりがフラットであればよかった時代の広帯域と、今、要求されている広帯域とでは大きな隔たりがあります。10Hz〜100kHzにわたってフラットにしようとすると、スタガー比問題が原因となってもはや多量の負帰還をかけるのが困難になってしまいました。従って、比較的少ない負帰還でも十分な特性が得られるように、無帰還時での歪み率特性や帯域特性に高度なものが要求されるようになったわけです。特性改善のために考案された負帰還が、特性改善の切り札として活躍しずらい時代になったとは皮肉なものです。
余計なひとこと:
ところで、なんで、記事を読むと矢鱈と「音に躍動感を与えたいので無帰還・・・・」なんてみなさん同じことをおっしゃるのでしょう。もっと、自分でお考えなさいな、自分で試してごらんなさいな、といいたいですわ、ほんまに。わたしゃ、化粧なしの起き掛けのすっぴんのままの我が妻と娘を連れて、公の場に出るのはかんべんしてほしいと切に願うものであります。
![]() |
私のアンプ設計マニュアル に戻る |