私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
13.負帰還

考え方:

はっきりしているのは、負帰還を毛嫌いしても何の得にもならないし、負帰還を否定した時点でその人の成長と言うか進歩は確実に停止するということです。フィードバックのメカニズムは自然界に普通に存在する技術の一つであり、これを否定してしまうと私達の生活の営みすら不安定かつ危険なものになります。たとえば、トーストは真っ黒こげになるでしょうし、エアコンの温度指定は不可能になり、エレベーターはいつもずれた位置に停止します。

但し、負帰還は設計を誤るとぎこちない動きをしたり、期待通りの働きをしなくなります。オーディオアンプにおける負帰還も基本的に同じで、設計が悪ければ逆効果にもなります。負帰還をかけて音が悪くなったのであれば、それは設計がへたくそだということにほかなりません。負帰還が悪いのではなく、あなた自身が××なのです。だから、負帰還のせいにしてはいけません。


歪みが減る:

例外もありますが、一般論として負帰還量に応じた歪みの改善があります。6dBの負帰還をかければ歪みは半分になりますし、12dBかければ4分の1になります。そして、10分の1にしたければすくなくとも20dBの負帰還が必要になります。しかし、20dBという帰還量は、真空管回路にとってはたいへん困難な数字です。

結論からいうと、歪みを少なくしたかったら負帰還だけに頼っては駄目ということです。いろいろな手をつくして歪みをできる限り少なくしておき、更に負帰還でもうワンランク低歪みにするのだというくらいの感覚が必要です。半導体回路では、負帰還をかけ前に回路的に直線性が良くなるような工夫をこらして、その上でドカッと多量の負帰還をかけるので、0.001%を割るような低歪みが得られるのです。負帰還をかけたばっかりにかえってアンプ全体の歪みが増加してしまうケースもあります。「EL343結シングルアンプその2」のケースがそうです。

ただ、歪み率という数字ばかり追いかけてもいい音は得られませんので、歪み率を下げる目的としての負帰還はほどほどになさってくださいまし。


利得の調節に使う:

利得が60dB(1000倍)の回路に「1kΩ:47kΩ」の比率の帰還素子による負帰還をかけたとします。この場合、負帰還をかけた時の利得は45.8倍になります。さて、何らかの事情で元の利得が3dB減って57dB(707倍)に低下してしまったとします。それでも同じ負帰還の条件であれば、最終利得は44.9倍となって元の利得(45.8倍)とほとんど変わることがありません。

アンプの設計上で、負帰還を利用する目的のひとつにこの「安定した利得を保証する」ことがあげられます。また、増幅素子固有の増幅率に関係なく、任意の利得が欲しい場合にもよく利用されます。


回路の出力インピーダンスが下がる:

負帰還の持つ効用のひとつはこの「回路の出力インピーダンスが下がる」ということではないでしょうか。多極管を出力段に使用したメインアンプの場合、無帰還では出力インピーダンスは非常に高いものになり、そのままではほとんど実用になりませんが、少し負帰還をかけてやるだけで簡単にダンピング・ファクタを1以上にすることができます。このへんのことは本ホームページの「データ・ライブラリ」でもふれています。

プリアンプでも同じことがいえます。12AX7単独で無帰還で動作させると、出力インピーダンスは40kΩ〜60kΩくらいになります。このままでプリ出力とするには少々無理がありますが、12dB程度の負帰還をかけてやることで、プリ出力とメイン入力をつなぐ回路インピーダンスを数kΩ程度にまで下げることができます。

但し、出力インピーダンスが低いということと、低いインピーダンス負荷も駆動できる、ということは別物です。12AX7という球を使う限り、数kΩという低い負荷インピーダンスを駆動することできません。


負帰還では「残留雑音」は減るが「入力換算雑音」は減らない:

メインアンプを組み上げて、かりに残留雑音が1mVあったとします。このアンプにオーバーオールに6dBの負帰還をかけてやると、ほとんどの場合残留雑音は1/2すなわち0.5mVに減少するものです。スピーカーから漏れて聞こえる雑音も半分になって、メデタシメデタシです。ですから、負帰還は雑音を減らす効果があるともいえますが、必ずしもそうとはいえない場合があります。

RIAAイコライザ・アンプではどうでしょうか。残留雑音が1mVあってさすがに雑音が気になったので、更に6dBの負帰還をかけたとします。そして残留雑音も半分の0.5mVになりました。6dBの負帰還をかけると、回路の利得も6dB減り(すなわち半分になり)ますから、今までと同じ音量で聴くためにはボリューム・コントロールをちょうど6dB上げてやらなければなりません。そうすると、減ったはずの雑音も6dB増加をして元に戻ってしまいます。

雑音がアンプ内部で発生したと考えないで、アンプの入力に外から注入されたものとして算定した雑音レベルのことを入力換算雑音レベルといいます。上記のRIAAイコライザ・アンプのように、残留雑音が1/2になっても、アンプの利得が半分になったのであれば入力換算雑音レベルは同じであるということです。従って、メインアンプの残留雑音改善にはたいへん効果的な負帰還も、入力回路では雑音の改善という目的での適用はほとんど意味がないと考えたほうがいいでしょう。


まとめ:

ところで、なんで、記事を読むと矢鱈と「音に躍動感を与えたいので無帰還・・・・」なんてみなさん同じことをおっしゃるのでしょう。 著書のコラムにも書きましたが、負帰還の音というものはありません。負帰還をかけたらある特定の音になるかというと、そういうものでもありません。ただ、負帰還でしくじった時の音というのはあるかもしれません。良く設計された回路では、負帰還の有無や帰還量の多寡によって音の素性は変化しません。駄目な音は駄目なままですし、いい音は負帰還をかけてもいい音です。


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