私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
負帰還その3 (その種類と実装のポイント)

負帰還方法の種類

真空管・半導体を問わず、あらゆる回路において負帰還技術は応用されています。ここでは、特に真空管増幅回路に的を絞って、あれこれ見てゆきたいと思います。

P-G帰還

真空管1段増幅のプレートからグリッドに帰還する方法です。この方法では、歪みが減少し、出力インピーダンスも下がりますが、一方で入力インピーダンスがかなり低くなってしまうのが欠点です。入力インピーダンスは、入力に直列に挿入されている抵抗値+アルファになります。この欠点を承知の上でP-G帰還を採用した例として有名なのが、LUX製のSQ38FDです。
LUX製SQ38FD(ラインアンプ部)

LUXの初代SQ38では、ラインアンプ部は12AU7を無帰還で使用していました。SQ38FDになった時、12AU7を12AX7に変更し、P-G帰還をかけることで高すぎる12AX7のゲインを殺し(12AU7はちょうど良かった)、高すぎる12AX7の出力インピーダンスを12AU7並に下げてます。ここまでならば12AU7のままで良かったわけですが、P-G帰還のおかげで歪みを大幅に下げることができています。

こまかいことを言わせてもらうと、250kΩのボリューム・コントロールの位置によって信号源インピーダンスが変化するので、実質的な帰還抵抗値は(ここに掲載した回路図での計算上)47kΩ〜105.8kΩの範囲で変化します。すなわち、ボリューム・コントロールの位置によって負帰還量が変化してしまっているのです。結構、綱渡り的な設計だなぁと思う反面、そういう事情はアンプを使う側には全く見えないわけで、うまい設計だとも思います。SQ38FDの回路についての考察はここにあります。

ところで、p-g帰還の増幅回路の入力インピーダンスはどうやって計算したらいいかですが、これが意外に簡単で、以下の式で求まります・・でも、何故どの本にも書かれていないのでしょう?

入力インピーダンス = グリッド抵抗+{負帰還抵抗÷(裸利得+1)}

なぜそうなるか。下の図をみてください。

入力抵抗100kΩ、帰還抵抗1MΩで裸利得50倍のp-g帰還回路があるとします。

(1)(1)' 何らかの信号を入力して出力側に1000mVの信号が現われたとします。-1000mVとなっているのは、プレート側出力の位相はグリッド入力と反対だからです。
(2)裸利得は50倍でしたから、グリッド入力は、1000mV÷50=20mVであるはずです。
(3)1MΩの抵抗の両端にかかる電圧は、20mV+1000mV=1020mVですから、
(4)1MΩに流れる電流は、1020mV÷1MΩ=1.02μAです。
(5)同じ電流が100kΩにも流れますから、100kΩの両端の電圧は、1.02μA×100kΩ=102mV
(6)従って、そもそも入力された電圧は、102mV+20mV=122mVだったことになれば辻褄が合います。
(7)そこでオームの法則(R=E/I)に従って計算すると、122mV÷1.02μA=119.6kΩが求まるというわけです。
(7)'この式を代入・変形を繰り返してゆくと最終的に「100kΩ+{1MΩ÷(50+1)}=119.6kΩ」になるのです。

この式を使ってSQ38FDの場合で計算してみると、

入力インピーダンス=47kΩ+{1MΩ÷(約43+1)}=70kΩ

ということになります(注:入力のところの1MΩは計算にいれていません)。

MCカートリッジ用ヘッドアンプ部

上の例は、本ホームページ「真空管MCヘッドアンプ付プリ・アンプ」のMCヘッドアンプ部です。MCヘッドアンプであるため、入力インピーダンスが低いというP-G帰還の欠点が表面に出ずに済んでいます。負帰還抵抗(84kΩ)がモロに12AX7のプレート負荷抵抗(150kΩ)と並列になるため、非常に負荷の重い動作となってしまっています。

P-G帰還では、利得の計算が前章で述べた一般的な負帰還のときとちょっと違っています。それは、入力に直列に割り込んでいる帰還抵抗のために、入力信号が2つの帰還抵抗によって分流された分ゲインが低下したしまうからです。計算上は、まず通常どおりの計算を行い、最後に分流された分(SQ38FDでしたら、1M/(47k+1M)=0.96倍)だけ割り引いてやります。

従って、2つの帰還抵抗を全く同じ値にしてしまうと、通常の負帰還の利得イン計算では帰還後の利得は約2になるのに、P-G帰還では帰還後の利得は約1になります。内部的な利得は約2になっているのですが、2つの抵抗による分流分による利得定低下があるために最終利得は約1に落ち着くことになるのです。

この原理を使ったプッシュプル用の位相反転回路があり、一般にバランス型位相反転回路と呼ばれています。また、トーンコントロール回路として著名なBAX型とLUX型ともにP-G帰還の応用です。珍回路として知られるQuad22型フォノイコライザーも、実はP-G帰還そのものなのであって少しも珍回路ではないのです。

P-K帰還

2段増幅回路の2段目プレートから初段カソードに帰還する方法です。この方法では、P-G帰還のように入力インピーダンスの低下はありません。むしろ、超高域での入力容量が無帰還時よりも減少するといった点で、入力インピーダンスは高くなるといっても良いでしょう。

32.負帰還その1(メカニズム)では以下のような2段増幅回路を例に負帰還のメカニズムについて説明しましたが、この回路は典型的なP-K帰還にあたります。


32.負帰還その1(メカニズム)より

上のような2段増幅回路では、初段と2段目との間に直流遮断用の結合コンデンサが必要になり、さらに2段目の出力側にも直流遮断用のコンデンサが必要になります。さらに、一番最後のコンデンサがないと、初段カソードの電圧が負帰還抵抗(91kΩ)を介して出力側に出てきてしまいます。

2段目の出力側にある直流遮断用のコンデンサを省略したのが、「EL343結シングル・アンプその2」の回路です。負帰還抵抗(150kΩ)を通って、2段目プレートから初段カソード側に若干の電流が漏れてしまいますが、そういった条件をすべて考慮して回路全体の直流バランスと負帰還条件のバランスの両方を取るわけです。

EL343結シングル・アンプその2より

ひとつの負帰還ループ内に存在する結合コンデンサの数は、1個以下のときが最も安定で、2個でも基本的に発振はしませんが条件によっては超低域にピークができることがあります。3個になると発振するのが普通(と考えた方がよい)になります。そういう意味で、段間コンデンサの数を少なくできるような回路の工夫というのは非常に重要な意味を持ちます。

カソード帰還

メインアンプの出力段に局部帰還をかけると、出力管の出力インピーダンスを下げたのと同じ効果を得ることができます。しかし、出力管にP-G帰還をかけると、出力段の入力インピーダンスが下がってしまうために、ドライバ段の負荷が重くなってしまい、却って設計が難しくなってしまいます。そこで、出力トランスの2次側から出力管のカソードに負帰還をかける方法が考案されました。これを一般にカソード帰還と呼びます。

EL343結シングル・アンプその2」では、このカソード帰還を使っています。普通の回路であれば、図中のX点はアースされるはずですが、これが出力トランスの2次側に接続されています。カソード帰還では、負帰還量を制御するための抵抗がありません。

EL343結シングル・アンプその2より

カソード帰還における帰還量は、出力トランスの2次側で発生する信号電圧と、出力管のグリッドに入力される信号電圧の2つの比によって求めます。たとえば、「EL343結シングル・アンプその2」の最大出力が5Wであるとすると、出力トランスの2次側16Ωタップでの出力電圧は、

平方根(5W×16Ω)=8.95V

となり、最大出力時の出力管グリッドの入力信号電圧は、バイアス電圧(約35V)のルート2分の1とみなせますから、

35÷1.414=25V

になります。この2つの数字を使って帰還量を求めると、

(8.95V+25V)/25V=1.358倍=3dB弱

と求まります。わずかな負帰還量ですが、これでEL34(3結)単独で3程度であったダンピング・ファクタを4.4まで改善できます。もしこれが、6V6のビーム管接続であったならば、6V6オリジナルのダンピング・ファクタ(たった0.1)が一挙に1.2まで改善されてしまいます。

出力側から初段カソードへの帰還

真空管アンプにおけるもっともオーソドックスな帰還方法が、これではないかと思います(下図)。一般に、出力トランスの2次側(またはNFB専用巻線)から、初段カソードに帰還させます。こうすることで、アンプ全体の特性を一挙に改善しようというわけです。

帰還定数は、RNFとRk0の比で決定されます。初段管の内部抵抗を低くして高域特性とドライブ能力を高めるために、初段カソードは抵抗1本で済ますことをせず、Rk1とRk0とに分けて、Ck1を抱かせる工夫をすることが多くみられます。こうすることで、初段の利得の目減りも防ぐことができます。

問題は、出力トランスの1次側と2次側の位相関係です。負帰還回路では、位相が逆転していると正帰還になってしまい、即座に発振します。よく、出来上がったメインアンプの電源をONにした途端に、スピーカからけたたましく「ギャー!」という音が出ることがありますがこれが正帰還です。日本駄球協会では、これを「産声」と呼んでいます。さて、正帰還になってしまったら、出力トランスの1次側または2次側の接続を反対に繋ぎ替えてやります。この位相関係は、ドライバの段数が1段増えるごとに反対になりますから、1段ドライブのアンプを2段ドライブに改造した場合は要注意です。

負帰還抵抗(RNF)は、よくコンデンサ(CNF)を抱いていることがあります。このコンデンサは、負帰還時の超高域での位相回転を抑制して、動作を安定させる働きがあります。方法としては、100kHz以上の周波数特性や波形の崩れと相談しながら、コンデンサ容量を決定してゆきます。このような操作のことを「位相補正」といい、負帰還回路ではつきものです。この方法による位相補正で手に余る場合は、負帰還量を減らすか、アンプ自体の高域特性を故意に悪くするという方法が取られました。

かつては、「電圧増幅段の高域特性を故意に悪くする」という方法が一般的でしたが、最近では、これをやるとアンプの中高域の音の品位を損ねるというので、逆に「電圧増幅段の高域特性を極端に良くする(・・・そういうことができる時代になったのです)」という方法に変化しつつあります。古典アンプの名機達にはなかった発想です。

出力側から差動初段グリッドへの帰還

マイケルソン・オースチンのTVA1アンプを筆頭に、初段を差動回路で構成するアンプがひとつの流れを作り始めています。それは、位相反転精度が非常に高いということ、理論的に2次歪みが発生しないということが主なる理由です。初段を差動回路とした場合、その一方のグリッドに信号を入力しますが、負帰還は残った側のグリッドに戻します。

以下の回路は、初段を真空管ではなくFETを使用していますが、基本は真空管の場合と全く同じで、負帰還は出力トランス2次側から初段FETのゲートにかけられています。

帰還定数を決定する帰還抵抗のうち、受け側は100Ωの可変抵抗器になっており、この可変抵抗器を0Ωとした場合は無帰還アンプとなります。そして抵抗値を増やしてゆくにつれて、帰還量は徐々に増加してゆきます。この方法は非常に便利で、そのアンプにとって最適な任意の負帰還量を自在に設定できます。

負帰還抵抗1.8kΩには、300pFの位相補正コンデンサを抱かせており、この位相補正は200kHzあたりから効きはじめ、290kHzで-3dBのレスポンス低下の定数設定になっています。また、出力トランスの2次側に、抵抗とコンデンサの直列回路(15Ω+0.068μF)が挿入されています。これは、超高域でのスピーカを含む負荷系全体のインピーダンスが高くなりすぎるのを補正するためのもので、これがあるのとないのとでは、アンプの超高域での安定度に大きな差が出ます。どちらの回路も、負帰還をかけたアンプの安定度を確保する重要な働きがあります。

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