| 私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編 35.負帰還その4 (位相補正) |
周波数特性と位相
ここに、低域をカットするような回路と、高域をカットするような回路があります。(右図)
低域をカットする回路では、34Hzで-3dBの減衰になり、それよりも低い周波数ではどんどん減衰していって、その減衰の度合いは周波数が半分になる(音程でいうと1オクターブ)ごとに-6dB(つまり1/2)です。このような減衰の度合いのことを「-6dB/oct」と表現します。
高域をカットする回路では、16kHzで-3dBの減衰になり、それよりも高い周波数ではどんどん減衰していって、その減衰の度合いはやはり周波数が半分になるごとに-6dBです。このような減衰の度合いのことを「-6dB/oct」と表現します。
周波数特性に変化が生じるような回路では、その周波数特性の変化に応じて位相が進んだり遅れたりする性質があります。低域をカットする回路では位相は進み、高域をカットする回路では位相は遅れます。その時の位相の進遅は、最大で90°になります。
低域をカットする回路の例では、-3dBポイントである34Hzで45°進み、-7dBポイントである17Hzでは60°、もっと低い周波数では90°に収束してゆきます。高域をカットする回路の例でも、-3dBポイントである16kHzで45°進み、-7dBポイントである32kHzでは70°、もっと高い周波数では90°に収束してゆきますが、90°には至りません。そして、低域をカットする回路や高域をカットする回路が2段重なった場合は、位相の進遅の最大値は180°(すなわち逆相)に収束します。非常に低い周波数や、非常に高い周波数では、位相が180°近くまで回転してしまうわけです。3段重なった場合の位相は180°を越えて270°に収束します。
この低域をカットする回路や高域をカットする回路が存在することを、時定数がある、といいます。時定数が1つあるごとに、-6dB/octの特性が生じ、位相のずれの最大値は90°です。時定数が2つならば180°、3つならば270°です。
発振のメカニズム
さて、このような時定数が存在する回路に負帰還をかけたとします。周波数特性がフラットな帯域では位相のずれはありませんから、負帰還は安定してかかります。しかし、位相が180°ずれている(逆相である)ような超低域や超高域では、負帰還ではなく正帰還になってしまいます。そして、利得が1以上ある回路で正帰還がかかると発振します。たとえば、1kHzにおける裸利得が1000倍ある増幅回路で、超高域の位相は100kHzで180°遅れるような特性だとします。100kHzにおける利得は20倍まで低下しているとします。この回路の出力側から入力側に、100kΩと6.8kΩの抵抗によって負帰還をかけたとすると、20倍に増幅された100kHzの信号のうち1/16.4が正帰還状態で入力側に戻されることになるため、利得が1.2倍あることになって発振するに至るわけです。
時定数の数と発振の可能性
時定数が1つしかない回路では、位相のずれは90°を越えることはありませんから、どんなに負帰還をかけても発振には至りません。時定数が2つの回路でも、位相のずれが180°近くになるような周波数では、利得も著しく減衰してしまうので、基本的に発振はしません。ところが、時定数が3つ以上存在する回路では、-7dBポイントで位相は60°ずれますから、これが3つ重なった状態で21dB以上の利得が得られていれば、負帰還をかけただけで容易に発振に至ります。
右の回路は、最も簡単な発振器の基本回路です。プレートからグリッドにCとRによって負帰還がかけられていますが、1つのCと1つのRとで時定数が1つできますので、時定数は全部で3つになります。このような回路では、3つの時定数による位相の進みかたが180°になった時の利得が1以上あれば必ず発振するわけです。
負帰還をかけても発振しないで安定した動作をするようなアンプを設計するには、1にも2にも、負帰還ループ内の時定数の個数をいかに少なく抑えるかにかかっています。
低域の時定数の数え方
負帰還ループ中に存在する、低域を減衰させるような素子がいくつあるかを数えます。
段間の結合コンデンサ
普通、前段の増幅回路のプレート出力側と次段の増幅回路のグリッド入力とは、1個の結合コンデンサでつながれます。この結合コンデンサ1個ごとに、低域時定数を1個と計算します。このコンデンサは、直流を遮断しており、低域をカットする減衰特性を持っているからです。減衰とともに、位相も最大90°まで進むようになります。カソード抵抗と並列のバイパス・コンデンサ
交流信号を完全にカットしないような場合は計算には入れません。その代表格が、カソード抵抗と並列にはいっているバイパス・コンデンサです。確かに、ある周波数以下では一旦低域特性は低下しますが、より低い周波数では低下したなりの状態で周波数特性はフラットに落ちつきます。このような周波数特性の場合は、位相は一旦進みますが、やがて元に戻ってしまうからです。出力トランス
出力管の内部抵抗(rp)と出力トランスの1次インダクタンス(H)とで決定される時定数も、位相を進ませる効果があります。ある周波数以下では、低域がどんどん減衰してゆき、直流を遮断しているからです。減衰してゆくにつれて、位相の進みは90°に収束しますので、これも低域時定数を1個と計算します。
スタガーリング
ごくオーソドックスな設計のシングルアンプでは、段間ごとに1個の時定数、そして出力トランスのところで1個の時定数が生じます。「ドライバ段〜C〜出力段〜OPT」の構成であれば、時定数は合計2個で済みますが、「初段〜C〜ドライバ段〜C〜出力段〜OPT」の構成では、時定数は合計で3個になってしまいます。ところで、発振に至らないための条件は、時定数は最大2個まででしたから、「ドライバ段〜C〜出力段〜OPT」の構成では低域発振の心配はありませんが、「初段〜C〜ドライバ段〜C〜出力段〜OPT」の構成のアンプでオーバーオールの負帰還をかけると、低域発振の危険が生じます。この危険をわずかでも回避する方法として、各時定数の値が近接しないようにする手法(スタガーリング)が知られています。それぞれの時定数の比をスタガー比といい、スタガー比が大きいほど安定してかけられる負帰還量が多くなるというものです。
何故、スタガーリングを行うと発振しにくくなるのでしょうか。今、ここに「裸利得100倍」の増幅回路があり、低域時定数が全部で3つあるとします。そして、低域時定数は3つとも100Hzだとします。1つの時定数あたりで考えると、位相は100Hzで45°進み、50Hzでは60°進みます。全部の時定数で考えると、50Hzで180°進む計算になります。その時の減衰量は-21dBすなわち0.089倍ですから、位相が180°進んでしまう周波数においても裸利得は8.9倍あることになります。こういう条件のもとで負帰還をかけようとすると、容易に発振します。
今度は、同じ「裸利得100倍」の増幅回路、低域時定数が全部で3つのままで、1つめは1Hz、残りの2つが100Hzだとします。50Hzにおける位相は、2つの時定数の場合で120°進みますが、もう1つの時定数は1Hzですから50Hzでは位相はほとんど変化ありませんから、50Hzでは発振する条件が満たされません。このように、時定数が複数ある場合は、その時定数がすべて同じである場合が、もっとも少ない減衰でもっとも位相が進んだり遅れたりします。そのうち1つの時定数の値を離してやるだけで、発振に至る条件が揃いにくくできるのです。これがスタガーリングのメカニズムです。
しかし、時定数が3個以上存在する限り、発振こそしないまでも超低域における安定度を確保するのは困難で、多くの場合、低域において周波数特性にピーク(わずかでも盛り上がり)が生じたりします。増幅回路の動作を損ねないで、極端に大きなスタガー比をとることは難しいからです。スタガーリングという手法は万能ではありません。
この問題を根本的に解決するには、2段構成にするか、3段以上の構成であっても、直結を採用するなどして低域時定数が2個になるようにしなければなりません。何故ならば、いくらスタガー比を大きくしたところで、時定数が3個ある限り、位相の進みの最大値が270°であることには変わりはないからです。計算どおりのスタガー比を確保しても、必ずしも安定なアンプにならないことを知っておいてください。
工事中
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