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私のアンプ設計マニュアル / トラブル・シューティング編 7.ハムがでる |
せっかく出来上がったアンプなのに、通電してみたらいきなりハムが出てがっくり、という経験をされた方は多いと思います。おおむね完成したのだけれど、ちょっと気になる程度のハムが残っていてこれがなかなか退治できない、というケースも多いと思います。また、これまでずっと正常に動作してきたのに、どうも最近ハムが耳につくようになってきた、というケースもあるでしょう。日常生活のあらゆる局面で、50Hzまたは60Hzの交流電源を使っている限り、オーディオ機器も常にハムの問題がつきまといます。本章では、どのような原因によってハムが生じるのかを理解することで、さまざまな局面におけるハム退治のヒントになるように説明してゆくつもりです。
ハムの原因
ハムの原因として考えられるものを列挙してみました。
電源の問題 電源の残留リプルからのハム 100Hz/120Hz ヒーターの問題 ヒーター/カソード間のリーク 50Hz/60Hz ヒーターの誘導ハム 交流点火:50Hz/60Hz、直流点火:100Hz/120Hz 直熱管のフィラメント・ハム 交流点火:50Hz/60Hz、直流点火:100Hz/120Hz 実装・部品配置の問題 電源トランスからの誘導ハム 50Hz/60Hz 平滑用チョークからの誘導ハム 100Hz/120Hz ACラインからの誘導ハム 50Hz/60Hz シールドの問題 50Hz/60Hz、100Hz/120Hz アースの問題 アースループによるハム 100Hz/120Hz アースループがないのに出るハム 100Hz/120Hz アースしなかったことによって出るハム 50Hz/60Hz、100Hz/120Hz
電源の問題・・・電源の残留リプルからのハム
電源回路を設計する時、十分なリプル除去ができるかどうか検証しなければなりません。この設計に関しては、電源の設計その3 (リプル・フィルタ回路の基礎)以下で詳細に述べていますから是非とも参照してください。電源回路に残留するリプルが原因となるハムは、計算でかなり正確に求めることができます。しかし、はからずもハムが出てしまったら、説明にあるような方法で、電源の残留リプルを測定してみてください。そして、残留リプルが許容値を十分下回っているのであれば、ハムの原因はもっと別のところにあるということになります。
ヒーターの問題・・・ヒーター/カソード間のリーク
カソードがヒーターからハムを拾ってしまうことが多く、その値はスピーカ出力端子のところで1mV〜十数mVにもなることがあります。特に、カソードがアースに対して交流的に高いインピーダンスである場合は、ヒーター/カソード間のリークによるハムが生じる可能性は非常に高くなります。
右図(1)のように、カソード抵抗がバイパス・コンデンサを抱いていない場合は、残留ハムを0.5mV以下にまとめるのに苦労すると思います。この問題を回避するには、カソード抵抗にコンデンサを抱かせるか(2)、カソード抵抗の値を数十Ω程度まで小さくしてやります(3)。グリッドにマイナスのバイアスを与えて、固定バイアスのする方法も有効です(4)。ヒーターを直流点火してしまえば、この問題はなくなります。
メインアンプの場合、オーバーオールのNFBを初段管のカソードに戻すことが多いと思いますが、そのような場合には、初段は(1)のようにしないで、右図(3,4)のような工夫をすることをおすすめします。カソードのバイパス・コンデンサを省いて電流帰還をかけることで、低歪み化を図りたいという考えもありますが、3極管の場合、カソードのバイパス・コンデンサがないと内部抵抗が著しく上昇してしまって、高域の帯域特性に支障をきたします。音のクォリティに対するインパクトを考えると、(1)の回路は避けるのが賢明だと考えます。
ヒーターの問題・・・ヒーターの誘導ハム
ヒーターが原因で生じるハムには、ヒーターからの電磁誘導によるものもあります。この誘導ハムの量は、ヒーターの構造によって比較的安定しています。以下に、雑学編の7.真空管の「内部構造」の章から引用します。いろいろな傍熱管のヒーターを比べてみると、おおよそ3種類あることがわかります。もっとも基本的なものは、白くコーティングされたまっすぐのヒーター線を何度も折り曲げた状態のものがカソード・スリーブ中に収められているタイプです。一方、オーディオ用途の球の多くは、カソード・スリーブ中で1往復しかしておらず、よく見るとこまかく螺旋状になっています。これをスパイラル・ヒーターといいます。スパイラルのまま1往復させることでヒーターで発生する誘導磁界を打ち消そうとしているためです。スパイラル構造とすることで、折り曲げヒーターと比較してヒーターから発生する誘導ハムが数分の1に低減されています。スパイラル構造をもう1ランク向上させたのが、ダブル・スパイラルといわれる構造で、往復のヒーター線を竜巻のように1対の螺旋状に仕上げたものもあります。ダブル・スパイラル構造のヒーターを持った球はたいへん珍しく、私の手元にはWestinghouse製の6AU6しかありませんが、スパイラル構造の球ならたくさん見当たります。ヒーターからの誘導ハムが問題になるのは、プリアンプのPhonoイコライザ等、mVクラスの微小信号を扱う場合です。0.1V以上のラインレベルを扱う回路では、誘導ハムは無視してもかまいません。誘導ハムを減らすには、内部構造上、スパイラル・ヒーターあるいはダブル・スパイラル・ヒーターを採用した球を使ったり、ヒーターの点火電圧を低減します。但し、ヒーターの点火電圧を下げると、gmが低下し、内部抵抗が上昇してしまいますので、設計上の注意が必要です。ヒーターを直流点火してしまえば、この問題はなくなります。
ヒーターの問題・・・直熱管のフィラメント・ハム
直熱管のフィラメントを交流点火すると、少なからずハムを生じます。2A3や45のような2.5V管の場合は、交流点火を行っても、スピーカ端子に現れるフィラメント・ハムは実用に耐える程度に少なく、ハム・バランサを調整することで1mV以下に抑えることも無理ではありません。しかし、5V管またはそれ以上の球では、どのように調整しても1mVを割るどころか、数mVくらいは出てしまいます。家庭用のアンプで、このハムを我慢できるひとはまずいないでしょう。従って、5V以上のフィラメントを持った出力管を使う場合は、直流点火を視野に入れて設計しなければなりません。4V管の場合はきわどいところですが、直流点火をおすすめします。また、2.5V管を直流点火したい場合もありえますが、たとえば2A3の場合では、2.5Aもの直流電流をまかなわなければなりませんから、整流ダイオードにはかなり大きな放熱板を与えてやらなければなりません。そのとき、整流ダイオードの順方向電圧による電圧降下が顕著になりますから、AC2.5Vを整流したのでは1.5Vくらいしか得られません。電源トランスには、3.5V、3.5A以上の巻き線が必要になります。
実装・部品配置の問題・・・電源トランスからの誘導ハム
メインアンプ用として販売されている電源トランスのほとんどは、一部の高価なものを除いて、電磁シールドあるいはショートリング等の電磁ハム対策がなされていないのが普通です。プリアンプ等微小な信号を扱うオーディオ機器で、このようなトランスを使用した場合は、電源トランスからの誘導ハムを引く可能性が高くなりますが、入力感度が0.5V〜1V程度のメインアンプでは、案外、ハムを引くことはありません。私が製作したアンプでは、いずれも、電源トランスと出力管とは近接しており、電源トランスと初段管との距離も3cm〜10cmの範囲にありますが、問題となるようなハムは出ていません。殊更に逃げ回る必要はないのです。しかし、出力トランスが電源トランスに近接している場合は、トランスの向きによっては、出力トランスの2次側(8Ω端子)において、1mV程度またはそれ以下のレベルで誘導ハムが検出されることがあります。この問題は、電源トランスと出力トランスとの距離を2cm以上、できれば3cm以上離すことでほとんど回避できます。
ただし、電源回路に半波整流方式を採用した場合は、両波整流の場合と比べて磁束の漏れが著しく増加しますので注意が必要です。
油断できないのが、近接した他のオーディオ機器に及ぼす影響です。レコードプレーヤとメインアンプを横に並べて配置した時、トーンアームをアームレストに戻すとPHONO入力からハムを拾う、カセットデッキとメインアンプを縦に並べて配置した時、テープを再生するとハムを拾う、といったことが起こります。PHONOカートリッジもテープヘッドも微弱な磁気を拾うように設計されているため、10cm以上離れた場所にあるメインアンプの電源トランスの磁束を拾ってしまうのです。
また、シャーシ内に小型の電源トランスを追加で設置する場合もありますが、小さいからといって油断はできません。
実装・部品配置の問題・・・平滑用チョークからの誘導ハム
電源トランスだけでなく、平滑用チョークもハムの源となる磁束を撒き散らします。特にチョークインプット型の電源回路では、チョークのコア唸るくらい強い磁束が生じますので、このチョークだけはある程度隔離しなければなりません。
実装・部品配置の問題・・・ACラインからの誘導ハム
ACラインの配線から生じる磁束が思わぬ悪さをすることがあります。アンプ筐体内部に引き込んだAC100Vラインの問題です。
右図は、アンプ筐体内部に引き込んだAC100Vラインの実装配線のイメージ図です。AC100Vラインは、ヒューズ(FUSE)と電源(SW)を経て、電源トランス(PT)につながっています。このとき、左側の図のように、行きと帰りの線を接近させ、あるいは接近させるだけでなく捻ったりしたのと、右側の図のように、行きと帰りの線を離して別ルートにしてぐるっと一周(ループ)させたのとでは、ノイズに関して天と地ほども違ってきます。
ループができてしまうと、このループがコイルとなって磁界を生じます。シャーシ内部の部品が、すっぽりとコイルの中にはいってしまったようなものです。これでは、ハムが出ない方が不思議なくらいです。交流が流れる回路では、行きと帰りの線は密着させ、できれば捻ることが重要です。捻るということは、周囲に及ぼす影響を最小にするための最も有効な方法です。
実装・部品配置の問題・・・シールドの問題
シールドには、静電シールドと電磁シールドの2種類があります。一般いわれているシールドのほとんどは静電シールドのことです。静電結合によるノイズは周波数が高いほど影響を受けやすく、低い周波数ではほとんど影響を受けません。静電シールドでは、薄いアルミ箔程度でも十分な効果があります。「ブーン」というハムの周波数は50Hz〜120Hzと非常に低く静電結合によって拾うことはまずありません。したがって、「ブーン」というハムが出たからといって、静電シールドを施しても効果はありません。但し、「ジー」という高い周波数のノイズにハムが乗ったような場合には、静電シールドでも大きな効果を生むことがあります。電磁誘導によって生じたハムを防ぐためには、電磁シールドを施すことによってある程度防ぐことができますが、その効果は知れています。誘導ハムを防ぐには、電磁シールドではなく、ノイズ源との距離を確保したり、ループができないようにしたり、信号経路を捻ったりすることの方がはるかに効果的です。
さて、右図は、入力端子から初段までの信号経路の配線のイメージ図です。どちらの場合も、入力端子から入った左右両チャネルの信号は、2本のシールド線によってそれぞれシャーシ手前の初段管まで導かれています。一方で、アース側は入力端子のところからアンプ中央手前のアース母線につながれており、さらにそこから初段管まで引かれています。
右側の図では、L-chのシールド線アースライン沿うように配置されていますが、R-chシールド線はアースラインから離れて大回りをして初段に至っています。この場合、R-chではシールド線を使っても使わなくても、信号ラインには大きなループができていますから、このループが電源トランスや外部からやってくる磁束によってハムを拾ってしまいます。ところが、L-chでは、ループの面積が小さいためにハムを拾いにくくなっていますから、L-ch側はハムを拾いません。左側の図では、L-ch、R-chともに信号経路であるシールド線とアースラインとが近接しているため、ハムを拾いにくくなっています。
このように、配線上のループの出来具合によって誘導ハムの大小が決定されますが、シールド線を使ったかどうかはほとんど関係がありません。シールド線というのは、ハムに関しては案外無力なのです。
アースの問題・・・アースループによるハム、アースループがないのに出るハム
実に、アンプのハム・トラブルの大半がアースに対する理解不足と、その理解不足に起因するアース配線ミスが犯人です。この問題を解決するには、アースのメカニズムに対する基本的な知識を持っていただかなければなりません。残念ながら、アンプの自作記事やマニュアル本には、このアースのメカニズムについてのかんじんな記述がすっぽりと抜け落ちています。そこで、是非とも読んでいただきたいのが、本「私のアンプ設計マニュアル」の「基礎・応用編」の3つの章、です。この3章に書かれていることさえちゃんと理解できていれば、もう、これ以上の説明は不要なのではない思います。もしかしたら、これを読まれたことによって、みなさんがこれまでご自分なりに理解したつもりでいたアースというものは、全然違うものであったのではないでしょうか。だとすれば、このページにアクセスされたことは充分に意義があったことと思います。
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