私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
14.電源

雑音対策:

第3章をごらんください。


AC回路:

ACプラグとコードについて、その長さをどのくらいにするか真面目に考えたことはあるでしょうか。ACコードの長さは、機器の設置場所によって20cmで充分なこともあれば3mでも足りないこともあります。中をとって1.5mにしたとして、20cmで足りるようなケースでは、余ったコードの始末に困ります。オーディオ・ラックの後面はただでさえひどいスパゲッティ状態なのですから。

オーディオ・ラックに設置されたアンプを手前に引き出したい場合、ACコードの存在は実に厄介です。メイン・アンプの場合、入力のピン・コードやスピーカー・コードははずせても、ACコードだけははずせないままずるずると引き出さなければなりません。

この2つの問題を解決するために、自作のすべての機器について、ACコードをじか付けせず、機器の背面に共通の仕様のコネクタを取り付けるようにしています。また、ACコードは先端にACプラグ、根元にコネクタを取り付けたいろいろな長さのを用意して、設置環境に合わせて交換できるようにします。ACコードは思い切って短くできますし、ラックからの引き出しの際もスムーズで、これで上記の2つの問題は解決です。

ACプラグのナイフ・エッジ部分の材質についてですが、クロムメッキのものと真鍮のままのものがあり、その材質によって音が変わる、という話を聞いたことがあります。私は現在のところ、音には関係ない、と考えています。

右画像のようなフェライトコアのクランプフィルタが1個150円〜300円くらいで市販されています。このフィルタは10MH程度の周波数にはほとんど効果がなく、50MHz以上で徐々にフィルタが効きはじめます。これをオーディオ装置の電源ケーブルに取り付けても何も変わらない、というのが普通ですがたまに効果を発揮することがあります。特にパソコンと接続した環境でそれが顕著に現れます。これをつけたら、かすかに聞こえた原因不明のハムが減った、という現象には何度か出会いました。

なお、、これをつけることで音が良くなる、なんていう妄想には囚われないように心を確かに持ちましょう。


100V 50/60Hz:

電力会社から供給される「従量電灯B」というのが我々が一般的に使っている電力サーヴィスの名称です。俗にいうAC100Vのことです。各家庭のコンセントのところで100Vを保証しようとすると、柱上トランスのところの電圧はどうしても高めになります。さらに、夏場の甲子園大会たけなわの時でも100Vが守れるようにさらに高めになってしまいます。電化製品の中には、100V以下になってしまうとちゃんと動作しないものが数多くあるため、そういったトラブルを回避する目的もあって、95V〜105Vくらいだったらいいじゃないか、というわけにはゆかないらしいのです。ただし、日本全国そんな感じかと言うとどうもそうではないらしく、山口県の日本海側のある町の電気屋さんの話では90Vくらいまで下がっていることもあるらしいです。

電力消費の大きい都会では、日常的に高め(102V〜105Vくらい)であることが多く、秋葉原では、そもそもかなり高めになっていて、店の開店と同時に電圧がどんどん低下しはじめます。アンプを設計する場合、そのアンプがどのような電力事情下で使われるかは十分検討しなければなりません。特に、電源を定電圧化した場合は、電源電圧がある一線を割るとちゃんと動作しなくなったり、ノイズを発生させたりします。反対に、電源電圧が高くなると、回路の発熱量が激増したりします。

周波数の方はどうかというと、周波数カウントが時計に使えるくらいに正確です。ところが、1日の合計カウント数は正確なのに、その時々の周波数は結構ゆらいでいます。

全般に、今日の電力供給は相当に良く管理されているといっていいと思います。私が子供の頃なんか、台風が通過するたびに送電線のどこかが切れて停電していました。電圧が95Vを割る、なんてうことは基本的になくなりましたし、周波数の管理も立派なものだと思います。ただ、ご近所のエアコンがON/OFFを繰り返せば、電源電圧はやはり微妙に増減しますし、昼と夜、夏と冬ではやはり変化します。我が家では表通りから微妙に引っ込んでいるのですが、その引き込みケーブルが細いらしく、通常は101Vくらいあるのですが負荷の重い装置を動かすと明らかに99Vを割ります。アンプの測定をやっていると、その微妙な変化がもろに測定結果に跳ね返ってくるのでよくわかります。少々の電圧変動があっても、その影響を受けにくい設計というのが望ましいと思っています。

電源の波形は時代とともにどんどんいびつになってきている気がします。右の画像は上が我が家の通常のAC100V電源の波形で、下が歪みのない正弦波形ですが、ずいぶんと違いますね。正弦波の頭がすぱっと切れるのは整流回路のコンデンサの仕業です。整流回路の直後、最初にくる平滑コンデンサの容量がでかいと、整流電流が波形の頭の部分の時に集中してしまうためこのようなことになります。整流回路に巨大コンデンサを入れる馬鹿野郎が多いとこんなことになるわけです。強力な電源にしたつもりがAC100Vの波形をぶっこわす、天に唾吐く行為でございます。

私が設計するアンプの電源回路で、整流ダイオードの直後で平滑コンデンサの手前に一定の抵抗を入れることが多いのは、装置の機能を損なわない範囲でこの種の悪影響を少しでも減らしたいという思いがあるからです。なお、整流回路および電源回路のレギュレーションの低下は音よくないのではないか、とおっしゃるオーディオファンが多いようですが、はっきり申し上げますがそれは「根拠のないイメージ」「妄想」です。もし、それが本当なら私が作った回路など、とっくの昔にネット上から葬り去られています。


ヒューズ:

AC回路に挿入されるヒューズは、電源のONのたびに過渡電流のせいでかなりの温度上昇がおきます。実機のヒューズを目視しながら電源をONにすると、ヒューズの中央部分がぽっと赤熱するのを観察できることがあります。温度上昇が大きくなっているヒューズは、取り出してみると時間とともにたるみができてくるのでわかります。電源ON時のAC回路過渡電流の大きなアンプでは、ヒューズに無理がかからないように、容量に若干の余裕をもたせた方がいいでしょう。

ヒューズが切れた場合は、その切れたヒューズを良く観察します。中央がぷつんと切れただけならば、単なる経年変化による疲労劣化の可能性が高いですし、溶断して飛沫が飛び散っているような場合では、回路のショート等の事故を疑う必要があります。

よく、ヒューズの「ある・なし」や、「銘柄」によってアンプの音が変化すると言われています。私はまだ、そのような目的での実験をしたことがないので、ここではコメントはできません。ただ、たった1台だけですがヒューズを省略したアンプというのを作りましたが、電源ダイオードのトラブル(ショート・モードの破壊)のせいで複数の部品をだめにしました。ヒューズがついていれば被害の拡大を回避できたトラブルでした。そういう意味でも、ヒューズは決して省略してはならないことを思い知らされました。ヒューズを省略してはいけません。


整流回路:

商用電源を利用する限り、電源回路のどこかで交流を直流に変換しなければなりません。整流方式には、(1)半波整流、(2)両波整流、(3)ブリッジ両波整流、(4)倍電圧整流、(5)n倍電圧整流・・・といろいろ方式がありますし、整流素子にも(a)ダイオード、(b)真空管、(c)セレン・・・とこれまたいろいろあります。

整流方式や整流素子によっても音が違うという説もありますが、私は関係ないと思っています。一部の宗教家の間では、半波整流をよしとする教義がささやかれているようですが、私はこれを「半端整流」と称して撲滅を願っております。「半端整流」はAC100Vの正弦波形の片側のみ使うため、世間に流通する電源波形の対称性を損ねます。これも、いい音をめざしたつもりがAC100Vの波形をぶっこわす、天に唾吐く行為でございます。教養を欠いた馬鹿なことはやめてください。

私のアンプ設計マニュアル に戻る