私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
3.雑音対策

総論

雑音性能は私達が思っている以上に重要であり、低雑音性能を実現することは非常に効果的である、というのが実感があります。たとえば、メインアンプの残留雑音は従来「1mV以下であればよい」という文献もありますが私は「1mVもあったらお話にならない」と思っています。残留雑音1mVのメインアンプと、残留雑音0.5mVのメインアンプとでは明らかに違いを認識できます。残留雑音を0.3mVまで減らすとやはり認識できます。明確にハムとして聞えない場合でも「静かさ」の感じが違います。私のスピーカーは小型のHARBETHですのでどちらかというと低能率の部類にはいりますが、そんなスピーカーでこのような実感がありますから、より大型で高能率なスピーカーではもっと厳しい数字が要求されます。

「雑音が聞えない」ということと「静かだ」と感じることとはどうも異なるようで、「雑音が聞えない」と感じるレベルのアンプと「静かだ」と感じるアンプの雑音性能を比較するとおおよそですが雑音性能に数倍の開きがあります。メインアンプの残留雑音においては、1mVではなく、0.5mVあるいは0.3mVくらいの基準を設定してそれを実現するように工夫するのが効果的だと考えます。ちなみに、本サイトで記事を公開しているアンプの場合、基本的に0.3mV以下、できれば0.2mV以下が基準です。中には0.1mV以下のものもあります。

低雑音性能を実現する近道は、一に回路の基本設計、二に実装です。低雑音部品の投入は三番目だと思った方がいいでしょう。つまり、モノに頼ってもその効果は知れているということです。勉強と工夫がないと真の低雑音性能は得られません。また、雑音の種類ですが「サー」とか「シー」というノイズに比べて「ハム」は思いのほか有害で「静かさ」を阻害します。「ハムは出さない」という目標観が必要です。


普遍的な雑音

ジョンソン・ノイズ(熱雑音):

抵抗体における自由電子の不規則な熱振動(ブラウン運動という)によって生じる雑音で、抵抗体すべてが持っている物理的な性質です。抵抗値が大きいほど、温度が高いほど雑音電圧は高くなります。
・抵抗値が2倍になると、雑音電圧は√2倍になる。
・抵抗値が4倍になると、雑音電圧は2倍になる。
・抵抗値を1/4にすると、雑音電圧は1/2に減る。
・雑音電圧は絶対温度の平方根に比例する(25℃と90℃の違いは+10%程度)。
回路インピーダンスを下げれば下げるほどジョンソンノイズは小さくなります。なお、このノイズは抵抗体でのみ発生しますので、コンデンサやインダクタのリアクタンス(疑似抵抗成分)では発生しません。抵抗器の種類を変えても、ジョンソンノイズの大きさは一定で変化しません。

真空管アンプの雑音

B電源回路のリプル:

普通、メインアンプの電源回路では、交流200〜350Vくらいの電圧を両波整流して47〜100μF程度のコンデンサで受けると、数V程度の残留リプルが発生します。このリプルをどのくらいまで減らせば残留ハムを満足のゆく水準にすることができるのでしょうか。

EL34を3結シングルで5KΩ負荷で構成したシングルアンプを例に考えてみます。出力側を8Ωとすると、OPTの1次2次インピーダンス比は5000Ω:8Ωすなわち625:1になります。従って巻き線比は平方根の25:1です。仮に、8Ω出力側の残留ハムを0.5mV以下にしたいとするならば、単純計算でOPTの1次側にかかるハムレベルは0.5mV×25=12.5mV以下でなければならないことになります。

さて、EL34の3結動作時の内部抵抗(rp)はどのくらいかというと、エイヤで1.4KΩくらいです※。シングルアンプでは、B+とアースとの間にはOPT(5K)と出力管(1.4KΩ)が直列にはいりますね。OPT(5K)側にかかるリプルが12.5mV以下ということは、12.5mV×(5+1.4)/5=16mVとなって、B+とアースの間にかかるリプルは16mV以下でなければならないという計算になります。

※後になって、EL34の3結時の内部抵抗を再度測定したところ、1kΩ〜1.2kΩになりました。

電源回路の整流出力のところでのリプルがかりに5Vあるとすると、5V÷16mV=312.5となりますから、整流出力から出力段のB+供給までに100〜120Hzにおいて312.5分の1の減衰が得られるリプル・フィルタが必要であることがわかります。これは5KΩ+100μFの組み合わせのπ型1段フィルタまたは10Hチョーク+100μFのπ型1段フィルタに相当します。2段フィルタとした場合ですと、(270Ω+100μF)×2段に相当します。

このような場合、私は廉価なチョークまたは高耐圧MOS-FET(あるいは高耐圧パワートランジスタ)を使ったフィルタを使うことにしています。半導体式リプル・フィルタの良い点は、抵抗に比べて少ない電圧降下で同等かそれ以上の効果が得られること、電源電圧のレギュレーションがあまり低下しないこと、設計如何でフィルタ効果絶大で簡単に残留リプルを1mV以下にできること、B+電圧を徐々に立ち上げる効果もあることです。一方、欠点としては、電源ON時B+電源のCを充電する突入電流で破壊されやすいことがあります。出力段を含むループで負帰還をかけた場合は、負帰還の効果として帰還量に比例してさらに残留ハムは減少するのはいうまでもありません。

B電源に含まれる残留リプルは容易に概算できますので、作ってハムが出てから慌てるのではなく、設計段階から「このアンプのB電源の残留リプルは何mV以下でなければならないか」を予測し、管理された状態で製作することが望ましいです。


電源トランス(PT)からの誘導ハム:

電源トランス(PT)からの誘導によるハムは、一旦、これにひっかかると大変厄介な問題になります。電源トランスの位置や向きを変えるしか解決する方法がない場合がほとんどなのですが、組みあがってしまったアンプのPTの位置や向きをどうやって変えろというのでしょう。ほとんど無理というものです。

メインアンプの場合のポイントをいくつかまとめてみました。

(1)PTとOPTのコアの向きをハムが最小となるように工夫する。(実験レポートはこちら→http://www.op316.com/tubes/datalib/jisoku.htm、拙著「真空管アンプの素」にも具体的なデータがあります)
(2)PTが電磁シールドされていない場合、OPTとは3cm以上離す。
(3)PTのコアの中心線上10cm以内に入力回路および初段まわりのアースループを配置しない。
(4)ちょっと贅沢ですが電磁シールドあるいはショートリングのあるPTを使う。(効果はまあまあ)
(5)かなり贅沢ですが磁気シールドケース入りのOPTを使う。(効果は大きい)

OPTが拾う誘導ハムは、OPTの向きで大きく変化します。しかし、頭で考えて向きを決めても必ずしもその向きが最適かというとそうでもないことが多く、やってみなければわかりません。一般則としては、コアの中心の向きが互いに並行にならずに直交するようにします。これをシャーシに実装する前に確認する方法があります。

自分で確かめる方法:
電源トランスにAC100Vだけ配線します。出力トランスの8Ω端子にACVレンジにしたデジタル・テスターを当て、表示される電圧の変化を見ながら、電源トランスのそばを移動させます。たぶん、数mVくらいが表示されると思います。この値が最小になるように位置決めをおこなえばよろしい。なお、この方法では、表示される電圧は回路に実装した時よりも大きめに出ます。

余談ですが、カセットデッキからハムが出るようになったので調べてみたら、下に重ねたチューナのPTがカセットデッキのヘッドの真下にあった、ということがありました。PTからの誘導は、外部の機材にも迷惑をかけますので、配置には大人の心配りがいるようです。


傍熱管のヒーターハム:

交流点火した真空管のヒーターからは3種類のハムが出ます。

ヒーターに流れる交流電流によって生じる磁界によるもの:
ヒーターには大電流が流れます。電線に電流が流れれば磁界が生じ、交流電流によるものであればハムの原因になります。この種のハムが最も出やすいのはまっすぐなヒーター線を折り曲げたヘアピンヒーターです。カソードの中を覗き込んでみると、折り曲げたヒーターが見えるのですぐにわかります。6SN7GTなどの古い球やパワー管は大体これです。ヒーター線をちいさくコイル状にしたものを1往復させたのがスパイラルヒーターで、2つのコイルによって磁界が互いに打ち消し合うように工夫されているのでこの種のハムがかなり減っています。12AX7/ECC83や6GW8など多くの近代管がこの形状のヒーターを採用しています。ヒーター線を竜巻のように捻じったのがダブルスパイラルヒーターで、この形状のものが最もハムが少ないです。私が持っている6AU6はこのヒーターを採用していますが、滅多に出会うことはありません。

この種のハムは交流磁界によって発生しますから、ヒーターを直流点火してしまえば根絶できます。

ヒーターから出る熱電子によるもの:
真空管の動作原理は、赤熱したカソードから飛び出した熱電子がプレートに飛び込むことでプレート電流が流れるしくみなわけですが、ヒーターも赤熱しているので、ヒーターからもわずかですが熱電子が飛び出します。ヒーターから飛び出した熱電子の主な行き先はカソードです。カソードはグリッドと同等にデリケートな電極ですから、ここにヒーターからの熱電子が飛び込むとハムの原因になります。

熱電子はマイナスの電荷を持っていますから、ヒーターからみてカソードが相対的にマイナスになるようにしてやれば熱電子がカソードに飛び込むことはなくなります。アンプの回路の都合上カソードの電位は変えられませんから、ヒーター側にプラスの電位を与えることでハムが出ない状況を作り出せばいいのです。ヒーターにプラスの電位を与えなくても、アースと同じ電位を与える(ヒーター回路のどこか1個所をアースにつなぐ)だけでもハムはかなり減らせます。最も良くないのは、ヒーターに電位を与えないでアースなどから絶縁された状態にすることです。

もうひとつの工夫としては、たとえカソードに熱電子が飛び込んだとしてもそれをアースに逃がしてしまうという方法があります。カソードをアースにつないでしまえばハムは出ません。カソード抵抗があっても、カソード抵抗に数十μF以上のコンデンサを抱かせても同じ効果があります。カソード抵抗にコンデンサを抱かせないで抵抗だけにするとばっちりとハムを拾います。

熱電子はカソードだけでなく、わずかですがすきまを縫ってグリッドにも飛び込みます。入力にCDプレーヤなどをつないだ状態で、ボリュームをminにした時にハムが消えて、12時以上でハムが大きくなり、maxでもハムが消えたのならこれが原因のハムが出ています。このハムを出なくするには、上記と同じくヒーターにプラスの電位を与えること、あるいは最低限アースと同じ電位を与える必要があります。この種のハムも、ヒーターを直流点火してしまえば根絶できます。


直熱管のフィラメントハム:

一度は使ってみたい球のなかには、直熱管がたくさんあります。2A3、45、300B、VT62(801)などがその代表でしょう。はじめて直熱管を使おうとしたとき、最大の悩みはフィラメントを直流点火にするか交流点火にするかという問題です。これがキットならば(ひとまかせにできますから)あなた自身が悩むことはないかも知れませんが、自分で設計するとなるとそう簡単には答えが出ません。

私が使った最初の直熱管は6B4Gでした。2A3のフィラメントが2.5V2.5Aなのを6.3V1Aにした球です。最初、ハム・バランサをつけて単純に交流点火にしたところ、どう調整しても我慢できないレベルのハムが残ってしまい、結果的に直流点火にしたのを覚えています。ハムバランサの効果はそれなりにありますが、ハムがきれいに消えるポイントというのはありません。ハムはきれいな正弦波ではないので高調波のどれかが残ってしまう完全に打ち消されることはないからです。

PTの6.3Vヒーター巻き線をブリッジ整流して10000μFくらいで受けて1Aを取り出すと、電圧は6.5〜6.8Vくらいになります。そこで整流回路に直列に0.22〜0.33Ωをいれたところぴったり6.3Vになってくれました。この時の残留リプルはおおよそ150-200mVくらいでした。これでしっかりハム・バランサを調整してやるときれいにハムを消すことができます。Aカーブ補正なしで0.4mVくらい、8dBの負帰還をかけ、Aカーブ補正を行なって測定したところ出力側での残留ハムは0.03mVにまで減少しました。ここまでくると、スピーカーに耳をぴったり押し付けてハムがやっと聞こえるか聞こえないかくらいになります。

300Bの場合は、6.3Vをブリッジ整流した後、π型CRフィルタで5Vまで電圧を落としてやればいいわけですから話は簡単です。厄介なのは2A3や45といった2.5V管です。交流2.5Vをブリッジ整流したのではダイオードでの電圧降下のせいで1.5Vもとれません。直流2.5Vで2.5Aを取り出したかったら、交流3.5V3.5A以上の容量が必要です。かといって6.3Vを整流してから抵抗で電圧をドロップしようとすると、ドロップ抵抗が電熱器と化します。また、2.5Aも取り出すと整流ダイオードも非常に高温になります。ただ、6B4Gと違って2.5V管の方が交流点火でもずっとハムが出にくいので、交流点火のままでほどほどの負帰還と組み合わせてハムを退治するのが一般的でしょう(しかし、この方法では完全にハムのない静かなアンプにはなりません)。

シングルアンプで苦労したフィラメントハム対策も、プッシュプルアンプでは容易に打ち消すことができます。なお、2A3や45の場合は、2.5Vを直列にして5V/2.5AでDC点火するという大技があります。この場合、2管のフィラメント(=カソード)電位には2.5Vの差異が生じるのでグリッドバイアスにも2.5Vの差異を与えてやるのがセオリーです。


固定バイアスからのハム混入:

出力段でのハムの侵入路は、B電源、フィラメントのほかにもうひとつ、固定バイアス電源があります。感度の高い5極管やビーム管の場合は特に要注意です。ここで1mVのリプルがあった場合、6L6シングルの場合ですとOPTの2次側には1mVちかくが現れます。固定バイアスの時にマイナス電源は過剰投資は必要ないですがあまり手を抜かないように。


共通

ACライン:

プリアンプなど微小信号を扱う回路では、AC電源を伝って侵入する外部雑音への対策も必要になります。家庭あるいはご近所で使用されるさまざまなデジタル機器、冷蔵庫やクーラーの電源のON/OFF、調光器が発生するきたない波形や近所の工場のプロセス電源からオーディオの微少信号を守ってやらなければなりません。

オーソドックスな手法としては、市販されているライン・ノイズ・フィルターの使用です。そのとき、ACラインのアンプ内への引き込みからフィルターまでをできる限り短く配線しなければ意味がありません。ACラインから電源スイッチを経由して、それからフィルターなんていうことをしてはいけません。また、ライン・ノイズ・フィルターには許容電流があるので、ACアウトレットで外部にも電源を供給するような場合には、最大電流値を検討しておく必要があります。ライン・ノイズ・フィルターはしっかりシャーシに密着して取り付けます。フィルターからのアースラインも最短でシャーシに落とします。相手が高周波ノイズですのでオーディオ回路の常識は通用しません。


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