私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その13 (内部容量問題)

内部容量とは

トランジスタが持っている見えないコンデンサ(容量)には、ベース〜コレクタ間に存在するCobとベース〜エミッタ間に存在するCibの2種類があります。


ベース〜コレクタ間容量(Cob)の実際

以下の表は、当サイトの記事でよく使われているトランジスタのCobのカタログ値です。コンプリで2SAと2SCが比較しやすいように揃えてあります。この表からは、同じ規模・用途であればNPN(2SC)よりもPNP(2SA)の方がCob値は大きいこと、大型で大電力のパワートランジスタの方がCob値は大きいことがわかります。

トランジスタCobVceNotes
2SA872A1.8pF-25V低雑音、2SA872A5/2SC1775Aコンプリ
2SC1775A1.6pF25V
2SA10154pF-10V小信号、2SA1015/2SC1815コンプリ
2SC18152pF10V
2SA135830pF-10V小型パワー、2SA1358/2SC3421コンプリ
2SC342115pF10V
2SA1931100pF-10V中型パワー、2SA1931/2SC4881コンプリ
2SC488145pF10V
2SC34231.8pF10V中耐圧小型パワー
2SC36193pF20V高耐圧小型パワー

下図は2SC3423と2SC3619のCobのコレクタ〜ベース間電圧特性です。Cobはコレクタ〜ベース間電圧に依存し、高い電圧かけるほど小さくなるという性質があり、Cobはかかる電圧に応じて高速にダイナミックに変化します。私が高校生の時、このCobのダイナミックな変化を利用してFM変調をかけたFMトランスミッタを作ったこともあります。

2SC3423→ ←2SC3619

このことをふまえて上表の2SC1775Aと2SC1815を比べてみましょう。2SC1775AはCobが小さいことで有名で25Vをかけた時の値が1.6pFです。2SC1815はどうであるかというと、10Vをかけた時で2pFですから一見劣っているように思えますが、25Vをかければ2SC1775A並みに低くなりそうだということがわかります。カタログ記載の値を単純に信じてはいけないわけですが、過去に2SA872Aや2SC1775Aがもてはやされたのにはこんな思い違いがあったように記憶します。


Cob・・・帰還容量

エミッタコモン増幅回路では、ベース〜コレクタ間の位相は逆になるので、ここに容量が存在するとその容量は利得倍だけ増えたように作用します(ミラー効果という)。この作用は、真空管でいうCgpと同じです。そのためCobのことを帰還容量とも言います。昨今の定電流負荷を与えたトランジスタ回路では非常に高い利得が得られてしまうので、Cobが増幅回路の動作に与えるインパクトは非常に大きいものになる可能性があります。その場合はCobがオーディオ回路における帯域特性を決定してしまう要素になりますが、利得を稼げば稼ぐほど高域側が減衰を開始する周波数が低くなってしまい、可聴帯域にまで落ちてしまうという現象が起きます。

トランジスタ式ミニワッターPart4/Part5の初期設計では、Cobのインパクトを甘くみたために2kHzよりも高い周波数で歪がどんどん増加してしまいました。この問題を解決に関するレポートがここにあります。→ http://www.op316.com/tubes/mw/mw-19v-p5-hdist.htm
ミラー効果を回避する回路技術としてカスコード回路が良く使われます。カスコード回路では増幅動作にかかわらずベース〜コレクタ間電圧を一定にできるのでCob値は利得倍されません。

ベース〜コレクタ間電圧の変化が大きくなるような大振幅を扱う回路では、オーディオ信号波形によってCob値がダイナミックに変化するために変調がかかることもあり、音へのインパクトも無視できなくなってきます。しかし、ベース〜コレクタ間に一定容量のコンデンサを入れると相対的にCobの変化を目立たなくすることができます。もっとも、ここに電圧依存性の高いセラミックコンデンサを使ってしまうと入れた意味がなくなってしまいます。オーディオ回路の設計では、Cobをどのように認識し制御しあるいは割り切るかによってアンプの音にインパクトを与えます。


Cib・・・入力容量

一方、Cibはベース〜エミッタ間の位相が同じなので、ここに容量が存在しても互いに打ち消し合うのでほとんど無視できることが多いので滅多に問題になりません。


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