私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その7 (2SA1015と2SC1815、コンプリメンタリの話)

2SA1015と2SC1815

トランジスタ回路や通販の説明によく「コンプリ」という表現が出てきます。これは「コンプリメンタリ=complimentary(相互補完)」のことで、トランジスタの世界では「互いに逆の性質を持った1対のセット」という風な意味で使われます。2SA1015と2SC1815はコンプリとして扱われています。この2つのトランジスタの最大定格を比べたのが下表です。

ご覧のとおり、2SA1015と2SC1815とでは耐圧や許容電流の絶対値はほぼ同じですが、電圧や電流の向きが逆になっています。これまで2SC1815を教材にして説明してきましたが、2SC1815では、コレクタ電流は「コレクタ→エミッタ」方向に流れ、ベース電流は「ベース〜エミッタ」方向に流れましたね。2SA1015では、コレクタ電流は「コレクタ←エミッタ」方向に流れ、ベース電流は「ベース←エミッタ」方向に流れるのです。電流の向きが逆になるため、電圧のプラス・マイナスも逆になります。

下の表は2SA1015(左)と2SC1815(右)それぞれの電気的特性です。やはり、電圧と電流の極性が逆になっています。しかし、この特性データを見ると、2SA1015と2SC1815とでは微妙に違っていて、完全には対称的な性質ではないことに気づきます。コレクタ〜エミッタ間飽和電圧をみると2SC1815の方がわずかに良いように思えますが、大電流領域では2SA1015の方が圧倒的に優れています。この表からはこの事実わかりません。

2SA1015データシート
2SC1815データシート


コンプリでhFEは同じではない

2SA1015と2SC1815では、FEの範囲が違います。2SA1015の上限はGRランクの400ですが、2SC1815の上限はBLランクで700もあります。この種のトランジスタでは、2SAタイプは高いhFEのものが作りにくいようです。

同じGRランクのものを買ってきてもhFEの実測値には顕著な違いがあります。GRランクは200〜400ということになっていますが、2SA1015は200〜250くらいに集中します。これまで4,000個以上の2SA1015を実測しましたが、300以上ものはまだ見たことがありません。2SC1815は250〜380くらいに幅広く分布し、まれに210〜230のものにも出会います。従って、2SA1015と2SC1815のGRランクを200個ずつ買ってきても、同じhFEでコンプリを組むことはほとんど不可能と言っていいでしょう。PNPとNPNでhFEが同じにならないのは2SA1358と2SC3421でも経験しています。

もし、運よく同じhFE値でコンプリペアが組めたとしても、それはhFEを測定した時のコレクタ電流値の時だけにの話であって、大出力時のコレクタ電流が多くなった時のhFEは同じではありません。もっとも、コンプリペアが要求されるSEPP回路では、現実的にはhFEが同じ値である必要はなく、一定以上の値が確保されていれば足ります。

hFEがPNPとNPNで同じ値にならないもうひとつの理由については、トランジスタ増幅回路その11 (hFE問題)で詳しく触れます。


コンプリを使った回路例

右の回路は、出力段に2SA1931と2SC4881のコンプリを使った1Wパワーアンプ(トランジスタ式ミニワッターPart2)です。

トランジスタ式のパワーアンプでは、スピーカーを駆動する出力段のところにコンプリを使った回路を見つけることができます。この回路はとても基本的な方式でSEPP回路(後述)と呼びます。

右の回路は、2組のコンプリが使われているヘッドホンアンプ(FET式差動ヘッドホンアンプ Version 3)です。

出力段(赤)には2SA1358/2SC3421が使われていて、ドライバ段(緑)には2SC1815/2SA1015が使われています。コンプリをこのように2組組み合わせた回路をダイヤモンドバッファと呼びます。出力段だけをみると上記のSEPP回路と同じです。

右の回路はSTUDER A727業務用CDプレーヤのアナログ出力部です。

OPアンプNE5532とSEPP回路(赤)を組み合わせた回路です。これを2セット使ってトランスをバランス駆動し、2次側でもバランス出力を得ています。

出力段の手前にもコンプリのセット(緑)が見えますが、このトランジスタはコレクタとベースをつないでいますので、純ダイオードとして使っています。それでも、コンプリとしての特徴は生かされており、出力段に安定したバイアスを与えることに貢献しています。


私のアンプ設計マニュアル に戻る