私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その3 (トランジスタ増幅回路の基礎)

トランジスタ増幅回路の3つの基本回路

トランジスタを使った増幅回路の基本形には3つあり、それぞれ

  • 「エミッタ共通(コモン)回路」
  • 「コレクタ共通(コモン)回路」
  • 「ベース共通(コモン)回路」
と呼びます。これらはそれぞれ「エミッタ接地回路」、「コレクタ接地回路」、「ベース接地回路」という呼び方で習った方も多いと思いますが、回路の使い方で必ずしもアース(接地)しないで使うため、混乱を避けるために徐々に「接地回路」ではなく「共通回路」と呼ぶようになりました。

まずは、オーディオ回路として最も良く使われるエミッタ共通回路を使ってその挙動や仕組みについて解説します。


エミッタ共通(コモン)回路

エミッタ共通回路は以下の2つの入出力を持ちます。

  • 入力 → ベース〜エミッタ間
  • 出力 → コレクタ〜エミッタ間
入力系、出力系ともにエミッタが共通になっているので、エミッタ共通(コモン)回路と呼びます。

さて、上図の回路では、オーディオ信号が入力されていない時のベース電流は4.2μAで、コレクタ電流はその240倍の1mAです。ベース〜エミッタ間に±0.01Vの振幅を持ったオーディオ信号が入力されると、その大きさにつれてベース電流値が増減します。その大きさは±1.6μA(=0.0016mA)だったとしましょう(何故、1.6μAであるかはこの先のページで説明します)。ベース電流の増減はやはり240倍されて±0.385mAのコレクタ電流の変化となって現れます。

信号入力がない時のコレクタ電流は1mAで、コレクタ電圧は12Vです。

ベース側がプラス0.01Vになった時のコレクタ電流は1.385mAになるので、コレクタ電圧は4.62V下がって7.38Vになります。マイナス0.01Vになった時のコレクタ電流は0.615mAになるので、コレクタ電圧は4.62V上昇して16.62Vになります。

つまり、ベースに0.01Vの変化を入力すると、コレクタ側からは4.62Vの変化が出力となって出てくるわけです。増幅率は462倍で、変化の向きが逆方向になりました。


何故、コレクタ電圧は電源電圧の1/2なのか

ところで、上記の回路では電源電圧が24Vで、コレクタ電圧はその半分の12Vになっていますが、何故12Vなのでしょうか。これらの電圧はどうやって決めるのでしょうか。

上の図で、ベースに±0.01Vの振幅の信号を入力した時、コレクタ側には±4.62Vの振幅が現れました。信号が入力されていない時のコレクタ電圧は12Vで一定ですが、±4.62Vが出力されている時のコレクタ電圧は、12Vを基点として最も低い時は7.38Vになり、最も高い時は16.42Vになります。コレクタ電圧の振幅の下限は0Vで上限は24Vです。限られた電源電圧を最も有効に使うためには、基点を電源電圧の1/2に設定するのが基本です。

しかし、実際の回路動作では必ずしも1/2がベストポイントとなるわけではありません。トランジスタは、コレクタ〜エミッタ間電圧がかなり低くなっても動作しますがそれにも限界があるため、コレクタ電圧は0Vになることはありません。このことをトランジスタのコレクタ〜エミッタ間飽和と言います。どれくらいの電圧で飽和してしまうかは、トランジスタによって異なり、動作条件によっても変化します。さらに、後続する回路の負荷の状態や他の要因によってもベストポイントは電源電圧の1/2から若干ずれたところになることがあります。

逆に、大振幅を必要としない小信号を扱う回路では、1/2からかなりずれたポジションであっても不都合が生じることはありません。むしろ、より高利得が稼げる動作や雑音が少なくなる動作など、より重要視したい別の要因によって動作条件が決定されます。


コレクタ負荷を変えてみる

コレクタ側の抵抗値(コレクタ負荷抵抗)が12kΩではなくて、別の値だったら以下のようになります。なお、コレクタ負荷抵抗の大きさに合わせて電源電圧を変えてありますが、電源電圧が変わってもトランジスタ自身の特性は変わりませんので、ここでは電源電圧の違い本題ではありません。

コレクタ負荷抵抗100Ω1kΩ10kΩ12kΩ22kΩ
電源電圧1V2V20V24V44V
コレクタ電圧(IC=1.385mAの時)0.8615V0.615V6.15V7.38V13.53V
コレクタ電圧(IC=1mAの時)0.9V1V10V12V22V
コレクタ電圧(IC=0.615mAの時)0.9385V1.385V13.85V16.62V30.47V
コレクタ電圧の振幅±0.0385V±0.385V±3.85V±4.62V±8.47V
入力信号の振幅±0.01V(±10mV)
利得3.85倍38.5倍385倍462倍847倍

この表からわかること、それは同じコレクタ電流で動作させた場合は、利得はコレクタ負荷抵抗の大きさに比例するということです。コレクタ負荷抵抗を大きくするとコレクタ負荷抵抗での電圧降下が大きくなりますから、電源電圧を高く設定してやらないと動作できません。つまり、トランジスタ回路では、電源電圧が高いほど利得を稼ぎやすいというのが基本です。

なお、電源電圧が低くてもみかけ上のコレクタ負荷抵抗を大きくさせる回路手法がありますが、これについてはもっと先の方で解説します。


私のアンプ設計マニュアル に戻る