私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その4 (利得と入力インピーダンスの計算法)

利得の計算式

先に答えを書いてしまいます。下図のようなエミッタ共通回路の利得の計算式は以下のようになります。実に簡単な式で暗算OKです。

利得 = RC ÷ { RE + ( 26Ω ÷ IC ) }
上の式中の26Ωというのは定数で、バイポーラトランジスタでは種類・型番を問わず一定です。では例題を3つほど。

左側の回路: 利得 = 12000Ω ÷ { 0Ω + ( 26Ω ÷ 1mA ) } = 462(倍)
中央の回路: 利得 = 12000Ω ÷ { 100Ω + ( 26Ω ÷ 1mA ) } = 95.2(倍)
右側の回路: 利得 = 12000Ω ÷ { 1kΩ + ( 26Ω ÷ 1mA ) } = 11.7(倍)

上記の例題では、コレクタ負荷抵抗とコレクタ電流は一定で、エミッタ抵抗値だけ変化させています。他の条件が同じであれば、エミッタ抵抗がゼロΩの時に利得は最大になります。
では続いてさらに3つほど。この3つはどこがどう違うのかよく見てください。

左側の回路: 利得 = 12000Ω ÷ { 0Ω + ( 26Ω ÷ 1mA ) } = 462(倍)
中央の回路: 利得 = 6000Ω ÷ { 0Ω + ( 26Ω ÷ 2mA ) } = 462(倍)
右側の回路: 利得 = 12000Ω ÷ { 0Ω + ( 26Ω ÷ 2mA ) } = 924(倍)

この例題では、左の2つは電源電圧は一定でコレクタ負荷抵抗とコレクタ電流を変えてあります。この場合は利得は同じになります。右の回路は左の回路と比べるとコレクタ電流だけが2倍になっており、中央の回路と比べるとコレクタ負荷抵抗だけが2倍になっていますが、どちらの回路と比べても利得は2倍になっています。

トランジスタにはhFE(直流電流増幅率)なんていうパラメータもあるのですが、回路の利得には関係がありません。この式を見る限り、利得は負荷抵抗やコレクタ電流できまってしまうわけなので、トランジスタの種類にも関係ないというがわかります。小型汎用トランジスタの2SC1815だろうが、低雑音トランジスタの2SA1775Aだろうが、パワートランジスタの2SC3421だろうが、みんな同じ利得になります。hFEを直流電流増幅率と言うのでいかにもオーディオ増幅回路の利得と関係がありそうに思えますがそうではありません。


入力インピーダンスの計算式

こちらも先に答えです。上記と同じ回路の場合です。式の右半分は利得の計算式と同じです。こちらも暗算OKレベル。

入力インピーダンス = hFE × { RE + ( 26Ω ÷ IC ) }
上記と同じ3つ例題の回路の入力インピーダンスです。

左側の回路: 入力インピーダンス = 240 × { 0Ω + ( 26Ω ÷ 1mA ) } = 6.24kΩ
中央の回路: 入力インピーダンス = 240 × { 100Ω + ( 26Ω ÷ 1mA ) } = 30.2kΩ
右側の回路: 入力インピーダンス = 240 × { 1kΩ + ( 26Ω ÷ 1mA ) } = 246kΩ

入力インピーダンスの決定要素は、hFEとコレクタ電流とエミッタ抵抗です。hFEが大きければ大きいほど入力インピーダンスは高くなります。また、コレクタ電流は少ないほど入力インピー段は高くなります。しかし、エミッタ抵抗が大きくなってくるとこちらの影響度が大きくなるのでコレクタ電流は関係なくなってきます。高い入力インピーダンスが欲しい場合は、エミッタ抵抗値を大きくする、、hFEが高いトランジスタを使う、コレクタ電流を減らす、という3つの方法があります。

なお、この計算ではベース抵抗(RB)の存在は計算から除外しています。実際の回路ではこの抵抗も計算に入れなければなりません。ベース抵抗=5.6MΩであるとすると、上記の3つの計算結果(6.24kΩ、30.2kΩ、246kΩ)はそれぞれ、6.23kΩ、30.0kΩ、236kΩになります。

もうひとつの例題についても計算してみます。

左側の回路: 入力インピーダンス = 240 × { 0Ω + ( 26Ω ÷ 1mA ) } = 6.24kΩ
中央の回路: 入力インピーダンス = 240 × { 0Ω + ( 26Ω ÷ 2mA ) } = 3.12kΩ
右側の回路: 入力インピーダンス = 240 × { 0Ω + ( 26Ω ÷ 2mA ) } = 3.12kΩ


ご覧のとおり、hFEは入力インピーダンスを決定する要素です。増幅回路の全体設計をしてゆくと、各増幅段の入力インピーダンスが総合利得に影響を与えることがあります。そういう意味ではhFE(直流電流増幅率)は利得を間接的に決定する要素のひとつであるともいえます。

これまでの説明や例題で、トランジスタ回路の癖が大体わかりましたよね。利得を稼ごうとすると入力インピーダンスはどんどん低くなり、入力インピーダンスを高くしようとすると利得が稼げなくなります。そして、hFEが高いトランジスタほどこの2つを両立させやすいのです。そして、hFEが高いトランジスタはベース電流が小さいのでDC動作が安定な回路に仕上げやすいこともわかればここまでの章は卒業です。


私のアンプ設計マニュアル に戻る