私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
ロードラインその8 (パラレル接続の考え方と設計法)

パラレル接続

真空管をパラレル接続にすると「内部抵抗が半分になる」とか「出力が2倍になる」という風に言われていますが、こういう表現が回路を理解する上で混乱を招きかえって障害になっています。

真空管1本あたりで考えると、内部抵抗は変わりませんし、出力も変わっていません。それなのに「内部抵抗が半分になる」と考えてしまうから、ロードラインをどう引いていいかわからなくなるのです。パラレル接続を設計する時は、常に真空管1本あたりで考えておき、最後にパラレルにして仕上げた時の状態を考えると混乱しないだけでなく、回路動作の真の姿を理解できるようになります。


ロードラインの解析

下図は、6G-A4シングル・アンプの回路ですが、2段目が6SN7GTのパラレル接続になっています。この回路の正味の電源電圧は(251V−22.3V)=229Vで、6SN7GTの1ユニット当たりのプレート電流は1.64mAです。プレート負荷抵抗は2本で23.5kΩですから1本あたりは2倍の47kΩです。この条件でロードラインを引くと右下図のようになります。

このロードラインが6SN7GTの1ユニットあたりの動作です。このロードラインから、利得や直線性の状態や出力可能な最大振幅などを知ることができますが、この値はパラレル動作でも変わりません。ですからロードラインはこの引き方でいいのです。


パラレル接続で何が変わるのか

パラレル接続で変化する要素は以下のとおりです。

真空管特性の変化:
(1)3定数の「μ」は変わらない。
(2)3定数の「gm」は2倍になる。
(3)3定数の「rp」は1/2になる。
回路動作の変化
(1)内部抵抗(出力インピーダンス)が1/2になる。
(2)入力容量が2倍になる。
(3)プレート電流が2倍になる。
(4)パワーアンプの出力段では、出力(W)が2倍になる。
パラレル接続は主にパワーアンプの最大出力を大きくする目的で出力段で採用されます。しかしそこには結構大きな落とし穴が開いています。それは入力容量が2倍になってしまうという問題です。パワーアンプの設計で苦労するのは出力段の入力容量による高域側のカットオフ周波数をいかに高い状態で維持するかがあります。ところがパラレル接続にしただけで高域側のカットオフ周波数が一挙に1/2に下がってしまうのです。同時に高域側の歪率特性も劣化します。たかだか2倍程度の出力を得るために払う代償は意外に大きいのです。

もうひとつの問題は、パラレル接続にすると見かけのgmが2倍になるため、6DJ8などの高gm球をパラレルにすると安定度が低下して発振しやすくなることです。それから、パラレルになった2管のプレート電流がばらつくため、最大定格一杯で動作させる出力管では、プレート電流を調整するためのバイアス回路も必要になります。


パラレル接続についての個人的な印象

以下に述べることは、私の限られた経験からの印象なので証明されたわけではありません。

私の作例でパラレル接続を採用したものが極端に少ないことに気づかれた方もいるでしょう。出力段にパラレル接続を採用したアンプで満足な音が得られたことがありません。そんなアンプもパラレル接続ではなくすると音が戻ります。HomePageを開く前にも、出力段のトランジスタをパラレル接続にしたOTLアンプ(未発表)を作りましたがほどなくパラレル構造をやめています。パラレルという構造そのものに何か問題があるように感じます。

EL34の3結をパラレルにした状態の動作を観察した時、1本の時とは異なる説明が難しい振る舞いをすることに気づきました。パラレルになった2管が素直な動作をしない瞬間があるのです。2管が互いにもう一方の球の状態を伺って躊躇しているような動きをして歪が増加するのです。普通に歪率を測定する限りそのような現象はなかなか把握できませんが、測定周波数を細かく変えて観測すると発見できます。耳にはどう聞こえるかですが、大音量では識別できませんでしたが、中間的なある音量で微妙な違和感があります。

そんなことがあったので、私はパラレル接続には手を出さないようになりました。

似たような経験はパラレル以外の回路でも経験しました。共通して言えるのは、オーディオ信号が2つの増幅系に分かれて増幅され、それが並列的に合流して出力される構造のアンプだったということです。普通の真空管式PPアンプもこれに該当します。私が自分のアンプにSEPPやCSPPいずれでもない差動PPを選んだのは、この方式がプッシュプルで唯一1つの増幅系で成り立っている純直列構造だったからです。

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