<とりあえずこれだけあればラインプリは不要>

パッシブ型ライン・コントローラ(DAC内蔵)
Passive Line Controller with Trans DAC



DACを内蔵しなかったら、ボリュームとセレクタをパネルにつけただけの空っぽの箱。
LPレコードは聞かない、FMチューナはとっくの昔におさらばした、CDプレーヤを使うこともほとんどなくなった、音楽ソースはもっぱらPC上のiTunesやPC経由のWeb音源なんていう時代になってしまいました。PC音源が再生できれば大体こと足りてしまう、予備のためにライン入力が1つくらいあれば十分という方のための超簡単パッシブ型ラインコントローラです。回路は簡単でも、ケースやパネルの穴あけ、スイッチやボリュームの使い方など自作オーディオで求められるひととおりの知識と工作は必要です。すでにパワーアンプを持っている人がはじめての自作オーディオに挑戦するにはちょうどいいかもしれません。

■何故パッシブ型か

プリアンプというと、ライン入力に対して常識的には2倍〜5倍くらいの利得を与えた設計にするのが普通でした。しかし、実際に2〜5倍の利得を持たせたプリアンプとパワーアンプを組み合わせてみると利得が過剰になって、家庭環境では非常に使いにくいオーディオシステムになります。パワーアンプは1Vくらいの入力で数W〜数十Wの出力が得られるように利得を持たせているのですが、家庭では1Wも出したら近所迷惑なくらいの大音量になります。そのため、ちょうど良い音量で聞こうとするとプリアンプのボリュームを8時〜10時くらいに絞りっぱなしになってしまいます。12時くらいでいい感じの音量にするには、プリアンプの利得は1倍(0dB)で足りるということになります。プリアンプで利得がいらないとなれば、何も増幅回路を用意する必要はないわけで、入力セレクタと音量調整ボリュームだけでも十分だといえます。

増幅回路を持たない方式・・・すなわちパッシブ型・・・のメリットは以下のとおりです。

一方でデメリットは以下のとおりです。 利得は必要ない、パワーアンプとの接続するケーブルは長くしない、という条件下であればパッシブ型で十分に機能します。
左下はFET差動バッファ式USB DAC Version2、右下はトランス式USB DAC。いずれもおなじみAKI.DACのアレンジ。


<高域減衰問題>

パッシブ型とした場合の出力インピーダンスをざっと求めてみましょう。ソース機材の出力インピーダンスはほぼ0Ωと仮定し、音量調整ボリュームに50kΩA型を採用したとします。パワーアンプの入力インピーダンス、すなわちボリュームの後ろにぶら下がる負荷インピーダンスは、50kΩと100kΩの2パターンで計算してみたのが右のグラフです。グラフが折れ曲がっているのは、ボリュームポジションを「0%(min)、25%、50%(12時)、75%、100%(max)」の5点としたからで、中間のポジションも考慮するともっとなめらかになります。

入力インピーダンス(青い線)は、25kΩ〜50kΩの範囲で十分に高い値を維持するので、いまどきのオーディオソース機材であれば特に問題はありません。

出力インピーダンス(赤い線)が最大になるのはおおよそ75%のあたり(14時〜15時)で、その時の出力インピーダンス値は11kΩくらいまで上昇します。この時にボリュームの出力側に容量がぶら下がると-6dB/octのLPFが構成させるため、高域での減衰が生じます。減衰が開始する周波数が100kHz(-3dB)となる時の負荷容量は143pF以下、50kHz(-3dB)まで許容すると286pF以下になります。

低容量オーディオケーブルの容量は50pF〜70pF/m、通常の廉価なオーディオケーブルは80pF〜150pF/mですので、低容量のケーブルなら2mまで、通常のケーブルでは1m以内であれば問題なく使えるということになります。但し、パワーアンプ内部の配線で生じる容量や回路自体で生じる入力容量も計算に入れるとなると、できるだけ短いケーブルが望ましいといえます。

右のグラフは、本機の出力側にさまざまなオーディオ・ケーブルをつないで高域側の落ち具合を測定したデータです。使用したケーブルおよび測定条件は以下のとおりです。

0.5m Victor製低容量ケーブル(-6dBポジション)
1.2m 超廉価ノーマルケーブル(-6dBポジション)
5.0m ノーブランド低容量ケーブル(-6dBポジション)
3.0m ノーブランドOFCノーマルケーブル(-6dBポジション)
5.0mノーブランド低容量ケーブル(MAX、0dBポジション)
ボリュームポジションMAX(0dB)ではいずれのケーブルの場合も200kHzまでフラットですが、高域が最も減衰しやすい-6dBポジションではかなり差が出ました。低容量タイプはなかなか優秀で、5.0mの長いものでもよく頑張っています。

なお、本機内部で使った約30cmの超廉価ノーマルケーブルの影響はすべてのケースに含まれています。


<左右チャネル間クロストーク問題問題>

左右両チャネルの信号ケーブルを平行して這わせると数pF〜数十pFのオーダーで線間容量が生じます。つまり左右チャネル間をコンデンサでつないだようになるため、高い周波数になるほど左右間での信号漏れが生じます。たとえば、10pFの容量のリアクタンスは、1kHzでは16MΩですが10kHzでは1.6MΩとなり、20kHzでは800kΩとなりますから、全く無視できない事態となります。

右のデータは、50kΩのボリュームを出力インピーダンスが最大になるポジション(14時半くらい)にセットしたステレオ回路を用意し、ボリュームの後ろで左右の信号ケーブルとアースケーブルの3本を密着させた時に左右チャネル間クロストークがどうなるかを実測したものです。ケーブルの長さは30cmと15cmの時を測定しました。

周波数が高くなるにつれて上昇する+6dB/octのきれいな直線になりました。20kHzでみると、30cmでは左右チャネル間クロストークは-45dBですから決して良好とは言えません。15cmで-50dBあるかないかというくらいです。

この現象は回路インピーダンスが低いボリュームの入力側では生じません。問題なのはボリュームの出力側でしかもボリュームポジションが10時から16時くらいの範囲だけです。

この現象を回避しようとして左右の信号ケーブルを離すと今度はループができてしまうのでノイズを誘導しやすくなってしまいます。解決法としてはシールド線を使うことになります。しかし、ここで長いシールド線を使うとさきに説明した「高域減衰問題」が生じます。ボリュームシャフトを延長して、ボリュームの本体を後面パネル付近まで後退させる方法も有効ですが、本機ではそこまではやっていません。

右のデータは本機のライン入力における実測値です。

青い線は、最も条件の良いボリュームポジションをMAXとした場合です。底を這っている-128dBは測定系で生じている残留ノイズによる物理的測定限界です。2kHzから上で徐々に漏れが生じていますが、30kHzで-110dBですから全く問題外です。

赤い線は、最も条件が悪くなる-6dB(14時半くらい)のポジションの場合です。-119dBは物理的測定限界です。200Hzから上で急に劣化が生じており、1kHzでは-83dB、10kHzでは-63dBまで劣化します。

原因としては、使用したボリュームが小型であることと、線の引き出しのために基板を使ったことでボリュームの端子周りでの飛びつきが生じやすくなったからでしょう。私たちは、アンプの左右チャネル間クロストークのでは常にボリュームはMAXポジションで行いますが、どんなアンプでも-6dBポジションでは少なからず劣化が生じるものです。この程度の左右での飛びつきは、ステレオで2連ボリュームを使用する限り不可避ではないかと思います。


■回路の説明

<回路構成>

左側の回路は最もシンプルな構成で、2系統のライン入力と音量調整ボリュームだけです。これで十分にライン・コントローラの役目を果たします。右側の回路は、1系統にDACを内蔵したものです。回路が複雑に見えますが基本的に同じ構成です。

<DAC部>

本サイトでご紹介しているDACをそのまま内蔵します。
DACの記事はこちら→ http://www.op316.com/tubes/lpcd/index.htm

<ラインセレクタ部>

きわめて単純なラインセレクタスイッチです。入力が2系統ならば6Pトグルスイッチで足りますが、ロータリースイッチを使って2系統以上をセレクトできるようにしてもかまいません。右側の回路では6回路2接点のロータリースイッチを使い、スイッチの接触時の信頼性を高めるために2回路ずつ並列につないでいます。また、左右間の飛びつきを減らすために中間の2回路はアースにつないでシールド化してあります。

<音量調整ボリューム部>

50kΩA型2連ボリュームです。100kΩでも使えますが回路インピーダンスが2倍高くなってしまうので敬遠しました。10kΩも可能といえば可能ですが、入力インピーダンスが10kΩまたはそれ以下になってしまうので使えるソース機材が限定されます。

<電源回路>

電源は不要です。電源がいらないということは、電源スイッチがないということであり、動作中であることを示すLEDなどもつかないということです。

■製作

製作は全く難しいものはありませんが、実装する上でいくつか工夫をしてあります。

セレクタスイッチは6回路2接点を使いましたが、画像のとおり2回路ずつ並列につないで接触の信頼性を高めてあります。また、左右に挟まれた2つの回路の端子はすべてアースにつないでシールド化することで左右チャネル間での信号飛びつきを防止しています。

音量調整ボリュームは、ALPSの超小型RK097タイプを使いました。このボリュームの端子は基板実装用で非常に小さいので、小型のユニバーサル基板に取り付けてから線を引き出しています。基板上に見える小さな抵抗器はギャングエラーの補正抵抗です。

アースはループさえ作らなければ、そして以下に挙げたすべてがちゃんとつながっていればOK、配線はこうでなければダメだという難しさはありません。

入出力のRCAジャックはアース側を銅線でつなぎ、絶縁なしで本体をじかに後面パネルに取り付けて4点でシャーシと接触させています。

配線材は、入力端子〜セレクタスイッチ〜音量調整ボリューム間は0.18sqのビニル線、出力側はシールド線です。このシールド線は、昔購入したCDプレーヤにオマケでついてきたケーブルの再利用です。シールド被覆は出力端子側のみでアースにつないであります。シールド線の配線をきれい仕上げるこつは、むき出し部分が長くなることを気にせずに長めにむくことです。


■コメント

特にコメントをつけるほどものではありませんが、簡単に作れてプリ代わりにもなる便利な装置です。

1台は、私のデスクトップのメインシステムとして毎日愛用しています。もう1台は、パワーアンプとともに某大学のアートマネジメント研究室に寄贈し、講座やゼミで活用されています。


プリアンプを作ろう! に戻る