hFEテスター・・・簡単版と高機能版


トランジスタの部品頒布では不良チェックを兼ねてのhFEの測定が欠かせません。現在使用しているhFE測定機能付きテスターがヘタってきたのと測定能力に不足を感じたので、その代替としてパーツアナライザ"LCR-T4を試してみたのですが、hFE測定に関しては全くダメな奴でした。hFE測定機能がついたテスターはいろいろ出てはいるのですが、多量のトランジスタを効率的に測定できるようなものがありません。仕方がないので自分で作ることにしました。


hFEの性質

直流電流増幅率(hFE)は、トランジスタのベース電流(IB)とコレクタ電流(IC)の比率ことです。hFEって何?と思った方は「私のアンプ設計&製作マニュアル」の半導体技術編「トランジスタ増幅回路その1 (エミッタコモン1段増幅回路とそのDC動作)」に初歩的な解説がありますのでそちらをお読みください。

hFEは、同一型番のトランジスタであっても個々にその値は異なったものが出来てしまいます。その違いがあまりに大きいので、半導体メーカーはある条件で測定したhFEの大きさによって分類して出荷しています。たとえば、東芝ではhFEが小さいものから順に、O、Y、GR、BLという感じです(右画像)。

※O=Orange、Y=Yellow、GR=Green、BL=Blueの略のようです。

hFEは、一般的にはコレクタ電流が少なくなるにつれて徐々に小さくなり、またコレクタ電流を増やしてゆくとあるところで最大値に達してから、その先は急激に小さくなってゆきます。2SC1815のようにコレクタ電流を少なくしていってもhFEがほとんど低下しないトランジスタも存在します。コレクタ電流値を変えてhFEを測定することで、そのトランジスタのコレクタ電流依存性が見えてきます。

hFEは、コレクタ〜エミッタ間電圧が十分に高いときに本来の性能を発揮します。コレクタ〜エミッタ間電圧が低下して余裕がなくなってくる(準飽和領域)とhFEがどんどん小さくなってきます。飽和特性はコレクタ電流が多いほど劣化の程度が顕著です。異なるコレクタ〜エミッタ間電圧を与えて測定したhFE特性を比較するとその様子がよくわかります(右画像)。トランジスタ回路を設計する上で、この様子が把握できる測定機能はどうしても欲しいと思っていました。

hFEは、温度の影響も強く受けます。hFEは温度が高くなるほど大きくなります。そのため、回路が動作してトランジスタが温まるにつれてhFEは大きくなるため、そのことを考慮した設計が求められます。トランジスタのhFEを測定するためには電流を流す必要がありますが、その電流によっても発熱が生じるため、測定を続けているとhFEが徐々に大きくなってゆく様子を観察できます。大電流での測定では短時間のパルスを使って温度上昇の影響がないような工夫をしますが、本機はそのような機能はありません。


hFE測定のしくみ

hFEの測定には2つの考え方があります。1つめは、ベース電流を固定して測定するもので、2つめは、コレクタ電流を固定して測定するというものです。

<コレクタ電流固定式>
トランジスタを使用する回路では、コレクタ電流をどれくらいにするかを決めて設計しますがらコレクタ電流を固定する方法は理にかなっています。この場合は、一定のコレクタ電流が流れるような回路を用意してその時のベース電流を測定し、コレクタ電流値をベース電流値で割ってhFEを求めます。

・・・と簡単に書いてしまいましたが、コレクタ電流を固定するための回路は少々面倒です。現実的には、マイナス電源を用意してエミッタ側に定電流回路を組み込む必要があります。もっと大きな課題として、どうやってベース電流値を正確に測定するかです。hFEが500くらいのトランジスタで、コレクタ電流が1mAの時のベース電流はたったの2μAしかありません。高内部抵抗のデジタルテスターを使ったとしても、テスターがベース電流を食ってしまうために測定精度が落ちてしまいます。

<ベース電流固定式>
hFEが測定できるテスターは基本的にこちらのベース電流固定式を採用しています。一定値に決めたベース電流を流すしくみの方が回路的に作りやすいからです。たとえば、ベース電流を10μAに固定しておき、その時のコレクタ電流値を測定すればいいのです。hFE=100の場合のコレクタ電流は1mAとなり、hFE=500の場合のコレクタ電流は5mAとなります。これくらいの大きさの電流であれば正確に測定するのは容易です。

というわけで、ベース電流固定式を採用します。


簡単版hFEテスター

とてもシンプルですが、そこそこ高精度の測定が可能でとりあえずこれさえあれば十分に足りる、という簡単版です。

電源は秋月などで売っているスイッチング電源方式のDC5VまたはDC6VのACアダプタをそのまま使います。この種のACアダプタは定電圧電源を採用しているので、正確に5Vあるいは6Vを出してくれます。これでわざわざ電源回路を作る手間が省けました。

ベース電流固定式を採用し、測定時のベース電流の値は10μAです。どうやって安定した10μAを得るかですが、電源が5Vあるいは6Vで安定化されていることと、被測定トランジスタのベース〜エミッタ間電圧が0.6Vほぼ一定であることを利用します。現実にはベース〜エミッタ間電圧は、トランジスタごとに、流すベース電流ごとに電圧は変化しますがその範囲は0.6V±0.1Vくらいに収まります。電源電圧が5Vの場合、電源〜ベース間の電圧は4.4V±0.1Vとなり、6Vでは5.4V±0.1Vとなりますから、そのばらつきは±2%程度に収まります。電源〜ベース間に入れる抵抗値は、5Vの時は440kΩ、6Vの時は540kΩですので、それぞれ220kΩを2個直列、270kΩを2個直列にすればいいわけです。被測定トランジスタのベースとアース間に入れた0.47μFのコンデンサは高抵抗下のベース回路にノイズが飛び込むのを防ぐためです。ここは絶縁性が高いコンデンサが必要なのでアルミ電解コンデンサは使えません。フィルムコンデンサか積層セラミックコンデンサが適します。

10μAのベース電流を流した時、被測定トランジスタのhFEの範囲が「50〜500」だとするとコレクタ電流は「0.5mA〜5mA」になり、「20〜1000」だとするとコレクタ電流は「0.2mA〜10mA」になります。コレクタ側に100Ωの抵抗を入れておくとその両端には「50mV〜500mV」あるいは「20mV〜1V」の電圧が生じます。この電圧を測定すればそのままhFE値として読み取ることができます。

NPNトランジスタとPNPトランジスタとでは電圧・電流の向きがプラスマイナス逆になりますから、電源のプラスマイナスを逆転させるスイッチを追加します。

トランジスタは、コレクタ〜エミッタ間電圧が低くなって飽和領域に近づくほどhFE値が下がってきます。本機では、被測定トランジスタのhFEが高いほどコレクタ電流が増えるため、100Ωによる電圧降下のためにコレクタ〜エミッタ間電圧が低下し、その最大値は1Vくらいです。しかし、ほとんどのトランジスタはコレクタ〜エミッタ間電圧を5V以上を与えておけばhFEの低下は起きないのでそこのところは割り切っています。


高機能版hFEテスター

回路の基本は簡単版と変わることなく測定範囲を広げたのが高機能版です。とは言ってもパルス測定といった凝った方式は採用せず、自作アンプビルダーが持っている基本的な部品知識や回路知識だけで構成している点が特徴です。

<簡単版との違いその1・・・コレクタ〜エミッタ間電圧>
トランジスタはコレクタ〜エミッタ間電圧が低くなって飽和領域に近づいてくるとhFEが低下してきます。オーディオアンプでは、大きな振幅を得ようとした時に飽和特性がそれを阻みます。低電圧動作で大きなコレクタ電流を流したい時も飽和特性が問題になります。半導体メーカーがhFEを表示する時のコレクタ〜エミッタ間電圧は6Vが標準的ですが、それよりも低い3Vと1VにおけるhFEの測定ができるようにしました。

簡単版では、ACアダプタが供給する電源電圧(5Vまたは6V)をそのまま使うことで回路を簡素化しています。簡単版をベースにして単純に1V、3V、6Vという異なる電源電圧を用意しただけではまずいことになります。10mAのコレクタ電流を流すとコレクタ電流検出用の100Ωの両端電圧が1Vも生じるので、6Vは5Vに低下し、3Vは2Vに低下し、1Vは0Vとなって測定条件が変化しすぎたり測定そのものができなくなります。

コレクタ電流が変化しても被測定トランジスタに印加されるコレクタ〜エミッタ間電圧が変化しないような回路でなければなりません。そこで被測定トランジスタのコレクタ側に2SA13592SC3422を乗せてカスコード回路としました。こうすれば100Ωで電圧降下が生じてもその影響が出なくなります。さらに、この回路の温度特性を打ち消しつつ少ないベース電流で制御できるように逆極性の2SC26552SA1020を追加してあります。なお、これらのトランジスタを選んだ理由ですが、組み合わせた2つのトランジスタのVBE値が近いほど設計が楽だからです。VBEが高めの2SA1015や2SC1815を使う場合は、基準電圧(1V、3V、6V)をやや低めにする必要があるので、1kΩに15kΩ〜47kΩあたりを抱かせて1Vポジションで微調整してください。

注意:本機の回路では、基準電圧(1V、3V、6V)をどんなに正確に与えても、測定モードによっては被測定トランジスタに与えられるVCEには±0.1V程度の誤差が生じます。几帳面に正確さを期したい場合は、2SA1020/2SC2655をOPアンプ置き換えて、2SC3422/2SA1359のエミッタからOPアンプにDC帰還をかけるように変更します。この場合、1VモードではOPアンプに十分な動作電圧が得られなくなるため別途電源を用意する必要があります。
カスコード回路を追加したことで測定時のコレクタ電流は80mAくらいまで可能となりました。

ところで、カスコード回路を採用すると、被測定トランジスタに流れるコレクタ電流とコレクタ電流検出抵抗(100Ω)に流れる電流は同じにはならずに電流検出抵抗側の電流はわずかに少なくなります。上側のトランジスタのベース電流が存在するからです。使用した2SA13592SC3422のhFEはおおよそ200なので、電流検出抵抗側の電流減少は0.5%くらいになります。そこで電流検出抵抗の値を100Ωではなく100.5Ωとすることでこの誤差を補償しています。

<簡単版との違いその2・・・ベース電流>
簡単版ではベース電流を10μAの一本に絞りましたが、本機では1μAと10μAと100μAの3段階でもhFEの測定を可能にしました。

簡単版では電源電圧(5Vあるいは6V)をそのまま使ってベース電流の供給源としましたが、本機では15Vの電源電圧を使用せずにわざわざツェナダイオード×2本を使った面倒な電源を用意しています。その理由は、被測定とトランジスタの保護を考慮したからです。トランジスタのベース〜エミッタ間にかけることができる逆電圧は5V程度です。15Vの電源電圧をそのまま使った場合、NPNモードの時に誤ってPNPトランジスタを測定しようとするとベース〜エミッタ間には15Vの逆電圧がかかってしまいそのトランジスタはお釈迦になります。そのため、誤って異極性のトランジスタを測定しようとしても5.3V以上の逆電圧がかからないように電圧を下げたわけです。

ところで、ツェナダイオードは逆電圧をかけた時は規定の定電圧特性をみせますが、順電圧をかけるとただのシリコンダイオードとして動作します。ですから、同じ電圧のツェナダイオードを2個逆向きに直列にしてやるとプラスマイナスどちらの電圧をかけても同じ電圧の定電圧特性が得られるわけです。こうすることで測定対象がPNP〜NPNで電源のプラスマイナスが逆転しても、スイッチによる切り替えなしでそのまま動作する回路となりました。

逆向きのツェナダイオードを2個直列にして5.3Vを得るためには、4.6Vくらいのツェナダイオードが適しますが正確に5.3Vを得るのはなかなか難しいものがあります。5V以下のツェナダイオードは定電圧特性がかなり甘く、流す電流値によってツェナ電圧が増減します。このことを利用して、実機ではR4を増減して正確に5.3Vとなるような値を探りました。

ベース電流源を5.3Vとしたため、被測定トランジスタのベース〜エミッタ間電圧が0.6Vであるとするとその差は4.7Vになります。ベース電流=100μAを得るためにはR1に47kΩ、ベース電流=10μAを得るためにはR2として470kΩ、ベース電流=1μAを得るためにはR3として4.7MΩを入れればよいことになります。しかし、一般に0.6Vとされているベース〜エミッタ間電圧は、ベース電流が10倍増加すると0.05V〜0.1Vほども上昇します。本機ではベース電流が1μAから100μAまで100倍も変化しますから、4.7Vであるはずのところが最大で0.2Vすなわち4.3%も変動することになるのでちょっと無視できません。そこで、R2=470kΩとしましたが、R1=46kΩ、R3=4.8MΩとすることで、測定中にベース電流値を切り替えた時にベース電流ができるだけ正確に10倍ずつ変化するようにしてあります。


部品

ツェナダイオード・・・私はたまたまジャンクBOXにあった4.6Vを使ったので基準電圧が5.3Vになっただけです。全く同じものを入手することは難しいでしょう。4V〜6Vのものを2個入手して使えば4.6V〜6.7Vが得られますから、あとはR1、R2、R3に適切な値を与えれば済むことです。

定電流ダイオード・・・厳密さは要求されないので、0.6mA〜1.5mAくらいであれば問題なく使えます。

トランジスタ・・・指定のものはまだ入手できると思いますが頒布もしています。これでなければならないわけではないので、同等のものなた大概使えます。

ACアダプタ・・・15Vで安定化されたスイッチング電源タイプが適します。秋月電子などで廉価に売られています。

ZIFソケットと平ピンのICソケット・・・通販で入手できます。


製作

回路は単純なのですが、PNPモードとNPNモードがごっちゃになって頭の中が混乱します。加えてロータリースイッチの構造を考えつつ配線しなければならないため、頭の中はさらに混乱します。実体配線図なしには絶対に配線できませんが、その実体配線図を描く作業で頭がプリンになりました。

被測定トランジスタの多くは小型で足が細いTO-92タイプですが、パワーデバイス用のTO-126やTO-220タイプもあります。中大型トランジスタ用に14ピンのレバー付きのZIFソケット、小型トランジスタ用には足を差し込みやすい平ピンのICソケットを流用しています。ZIFソケットにTO-92タイプを入れるとリード線が変な格好に広がってしまうのを嫌ってのことです。変形トランジスタやリード線を切ってしまったトランジスタ用に線を引き出してICクリップをつけました。ICソケットを使う頻度が高いので接点の消耗を考慮して4ヶ所分があり、中で並列につないであります。

基板上には回路図にない抵抗器(220Ω)が見えます。これは発振防止用でベース回路に入れてあります。なくても安定して測定できると思います。


使用感

なかなか良いです。測定結果は正確かつ安定しているようで、信頼できるデータを得ることができます。この点については簡単版も見劣りすることはありません。

ベース電流を固定した状態でベース〜エミッタ間電圧を6V、3V、1Vと下げてゆくと、hFEがほとんど変わらないトランジスタもあれば、1Vでガクンと低下するトランジスタもあります。その様子からトランジスタの飽和特性をつかむことができますのでこの機能はつけて正解でした。

同様に、ベース〜エミッタ間電圧を固定した状態でベース電流を1μA、10μA、100μAと変化させてゆくと、hFEがほとんど変わらないトランジスタもあれば、ベース電流の増加とともにhFEが高くなってゆくトランジスタもあり、もっと複雑な変化を見せるトランジスタもあります。これらの変化から、メーカー発表のデータシートからはわからない性質を発見できます。


(魅力的な音を出すが低電圧大電流は苦手な2SC1775A、平凡なところがあるが低電圧大電流でもhFEが低下しない2SC2240。)

そもそもはトランジスタの選別のための道具として作ったのですが、トランジスタの性質をより深く理解する道具でもあることにちょっとした驚きを感じています。


オーディオ計測器に戻る