パーツアナライザ「LCR-T4」の謎


パーツアナライザ"LCR-T4"なるものをネットでよく目にするので入手していろいろと遊んでみました。「使える」という好評価がある一方で「使い物にならない」という評価も少なくありません。さて、どの程度使えるのでしょうか。この画像では、電池を入れるスペースに外部電源回路を組み込んでいます。


LCR-T4とはどんなもの?、どんな機能がある?

その名のとおり、L=インダクタンス、C=容量、R=抵抗値、T=トランジスタに関する特性を測定する機能があります。それに加えてJFET、MOS-FET、ダイオード(LEDを含む)などの測定もできます。

L=インダクタンスおよびC=容量の測定はなかなか優秀です。インダクタはインダクタンスとDCRを同時に表示しますし、コンデンサは容量とESRと誘電正接を同時に表示します。測定値もそこそこ正確です。しかし、コンデンサの場合はESRや誘電正接は必ずしも表示されるわけではありません。少容量のコンデンサのESR測定ではより高い周波数での測定が必要なのでそれが原因のようです。

ダイオード(LEDを含む)の測定では極性と順電圧を表示します。向きがわからなくなったLEDの極性が簡単にわかるのはありがたいです。10mA近い順電流を流しての測定なので、表示される順電圧は一般的なテスターよりもかなり高い値です。シリコンダイオードの順電圧は、順電流1-decadeあたり約0.1V変化しますから、特定の順電流における順電圧が知りたい場合はそのルールから計算して推定できます。

JFETの測定はかなり問題があります。接続は判定しますがIDSSは測定してくれません。電流値とバイアス電圧の組み合わせで表示されますがあまり意味をなしていません。接続の判定も確実なものではなくトランジスタと勘違いすることが多いです。2SK30Aでは多くの個体でトランジスタと判定されましたから、ほとんど使い物にならないと言っていいように思います。


トランジスタのhFEを測定してみたら・・・

<測定方法>
1-2-3番の穴にトランジスタの足を突っ込んで、プッシュボタンを押すと解析が始まります。そして、このトランジスタはNPNなのかPNPなのか、何番がベースで、何番がエミッタで、何番がコレクタなのか、hFEはどれくらいで、VBEは何mVなのかが画面に表示されます。トランジスタの素性が全くわからなくても、とにかく調べてくれるところが秀逸です。

<謎の測定結果>
まず最初に気づいたのは、手持ちのhFE測定機能付きテスターで得た値とLCR-T4が表示した値がかなり違ケースが多いということです。次に気づいたのは、何を測定しても全く同じ測定結果が出続けたことです。たとえば、2SC2240-GRの場合はそのほとんどで「hFE=432」という値が表示されました。トランジスタのhFEは個々に違っていて全く同じ値のものがいくつも見つかることはまずありません。さらに、「hFE=432」と表示されたトランジスタを手で暖めてから測定しても相変わらず「hFE=432」と表示され続けますがこれも変です。手で暖めたら432が435とか437といった値にどんどん変化するものですがそれがありません。

どうもおかしいというわけで、いくつかのトランジスタについてhFE値を手持ちのテスターとLCR-T4の両方で測定した結果を比較してみました。同じ数字が頻繁に出てきたので、そういうものには同じ色をつけてあります。

この結果からわかるのは、LCR-T4はかなり荒っぽい測定をしていて、2SC2240-GRの場合では、hFEが347〜380のものはすべて432と表示されるということです。同様に2SC44082SC3421-Yでは、hFEが187〜206のものはすべて216と表示されます。そして同じ個体を別のタイミングで再測定すると今度はすべて223と表示され、216という値はは全く出なくなりました。かなりの気分屋です。大体の傾向はわかっても、測定器らしい精密さは全くないということのようです。

2SC1815-GRを測定した時のVBEが0.688Vとかなり高いのでこの時のコレクタ電流は10mAくらいありそうです。大電流動作が苦手な2SC1775AではhFE値がかなり低く表示されました。2SC1775AはVCEsatが高いのでコレクタ〜エミッタ間電圧が低いとhFEがどんどん低下します。LCR-T4は、測定時のベース電流は多め、コレクタ〜エミッタ間電圧は低めのようです。

これらのことから、LCR-T4のhFE測定機能は、測定精度が大雑把かつ気まぐれなところがあり、かつ小電流トランジスタの測定には不向きであるということになります。hFEに関しては、100くらいなのか200なのか300なのかくらいの識別はできますが、500と600くらい近づくと識別結果は怪しくなります。正体不明のトランジスタの足の接続やhFEの程度を知るのに向いていますが、率直なところかなりの残念感があります。


バッテリー電源からACアダプタ電源への改造

LCR-T4は006P(9V)乾電池で動作しますが、消費電流がかなり多いため電池は早く消耗します。市販のDC9VのACアダプタを使えるようにすれば話は簡単ですが、こんなものにわざわざACアダプタを買う気もしません。そこで手元にあるDC12V〜15VのACアダプタで動作するようにジャンク部品を使って改造しました。

006Pは内部抵抗は高いし電圧も7V〜10Vと大きく変動します。LCR-T4はそんな電源であっても十分に動作しますから、高性能な電源である必要はなく回路はごくシンプルです。ツェナダイオードは9V〜10Vのものがなかったので、5Vくらいのものを2個直列にしています。トランジスタはPc>500mW、hFE>100もあれば十分なので手持ちの2SC2655を使いました。コンデンサ類は耐圧16V以上で容量は47μF〜100μF程度で十分です。


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