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■■■トランス+真空管バッファ式USB DAC Type2(6DJ8)改訂版■■■
DAC with Transformer and Tube-Buffer


Version1よりもコンパクトで作りやすくなった。

ライントランス+真空管バッファ式の第二弾です。Type1が電源トランスを使ったオーソドックスな電源回路を使ったのに対して、本機はDC15VのACアダプタとDC-DCコンバータを使った電源である点が異なります。さらに、電源電圧が100V程度と真空管式にしてはかなり低めになっています。しかし、アンプ自体の基本性能はType1といい勝負をしますし、低ノイズ性能においてはトランス式DACと同等レベルに達しています。

Type1における左右チャネル間クロストーク問題の記事はもう読まれましたでしょうか。本機においても実装上に類似の弱点がありましたので改訂することにしました。変更したのは実装上のレイアウトのみであり、回路の変更はありません。旧版で製作されたものも、若干の修正を加えることで変更が可能です。


●回路方式の検討(変更なし)

D/A変換はおなじみAKI.DACをほとんどそのまま使います。AKI.DAC出力以降ですべきことは2つ、1つめはだだ漏れのデジタルノイズをいかに除去するか、2つめは低い信号レベルを3倍ほど増幅することです。この基本は当サイトの他の作例と変わることはありません。

真空管式のラインアンプとする場合、普通に設計すると200V以上の電源電圧が必要になりますが、100V程度かそれ以下の低い電源電圧での動作が可能であれば電源回路を簡素化できます。どれくらい低い電源電圧まで動作が可能なのかについていろいろ検討した結果、90Vくらいでも動作が可能であることが見えてきました。但し、YAHAヘッドホンアンプのような「とりあえず音くらいは出ます」なレベルのイレギュラーな動作条件は考えていません。あくまで真空管らしい直線性が得られるまともな動作範囲での採用です。

主電源は、DC15Vが得られるスイッチング式のACアダプタとします。15Vあれば、抵抗でドロップするだけで容易に12.6Vのヒーター電源が得られます。高圧電源はDC-DCコンバータを使います。一発で100Vくらいの中高圧が得られるDC-DCコンバータはあまり見かけません。できるだけ廉価に容易に入手できるものとして目に留まったのが、12V前後の入力で30Vの出力が得られるMCW03-12D15です。MCW03シリーズはキャラメル大の小さなユニットで、高効率かつローノイズで動作し、しかも電圧が安定化されています。これを3個直列にすれば90Vが得られますので、入力側の15Vにかさ上げしてやれば105Vになります。


●100V程度の電源電圧で使用できる球(変更なし)

プレート電圧が50V以下でプレート電流を1mA以上流すような動作でもバイアスが-1Vよりも浅くならない球を探すことになります。低い電圧でも一定のバイアスが得られる球の条件は、μが非常に低い and/or 内部抵抗が非常に低い球ということになります。

判定基準としては、Ep-Ip特性図上においてプレート電圧が50V以下の領域でプレート電流を1mA〜2mA程度流した時にバイアスが-1Vよりも浅くならない球であることです。真空管は、バイアスが-0.8V〜-0.7Vよりも浅くなるとグリッド電流の一種である初速度電流が増加して動作を狂わせます。12AU7の場合、Ep=40V、Ip=1.5mAの時のバイアスは-1.1Vくらいなので合格です。Version1で使用した6C56L56J5もそれくらいなので合格です。12AX7ですと、Ep=50V、Ip=0.5mAの時のバイアスは-0.4Vくらいなので不合格です。6DJ8では、Ep=40V、Ip=1.5mAの時のバイアスは-1.1Vくらいなのでこれも合格です。56876N6Pは、Ep=40V、Ip=2mAの時のバイアスは-1.5Vくらいなので合格です。

56876N6P6350あたりを使ったら面白いと思いましたが、ヒーター電流をバカ食いするので秋月の700円程度のACアダプタでは足りません。12AU7は直線性が悪く、6J56FQ7と比べて歪が2倍ほどもある球なので一抹の不安を持ちつつも、手頃なところで12AU7あたりでやってみようということでこのプロジェクトがスタートしました。


●注意事項(変更なし)

本機は、実際に製作するとなるとそこそこ手ごわいですが、Version1よりは作りやすいだろうと思います。

アンプの自作経験が浅い方にとって本機製作の最大の難関はケースの穴あけ加工でしょう。まず開けなければならない穴の数が多いです。作例と同じように作るには、大きな丸穴を3個と角穴を1個開けなければなりません。もっとも、ケースは薄い1mm厚のアルミ製なので楽な方です。

本機では、位置に正確性が求められる穴が多いです。3.4mm径のビス穴を開けたい場合、いきなり3.4mmのドリルで開けると大概穴の位置がずれます。こういう場合、私はまず2mmくらいの細いドリルでガイド穴を開け、次いで2.8mmのドリルで広げ、最後に3.4mmのドリルを使います。こうすると最初の穴の位置が正確になり、かつ穴を広げていっても位置がずれません。

大きなサイズの穴は、以前はシャーシパンチのお世話になりましたが最近はあまり使わなくなりました。シャーシパンチはケース全体にストレスをかけるのでケースの形がなんとなく狂うからです。シャーシパンチを使わずに小穴を多数開けてからそれをニッパで切り取り、最後に半丸やすりで地道に削って仕上げています。こうすると金属全体にかかるストレスが小さくなります。世の多くのベテラン職人達がやっているのと同じ方法です。本機もそうやって作りました。なお、9pin-mT真空管ソケットの穴の直径は18mmなので、私は18mmの精密ホールソーを使っています。

慌てず丁寧にゆっくりと製作を楽しんでください。


●全回路図および説明(変更なし)

回路図は以下のとおりです。(2017.8.6版)

DAC本体およびLCフィルタ部

AKI.DACに関する詳しい説明はこちらにあります。→ http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htm

デジタルノイズをカットするための一段目のLPF(ロー・パス・フィルタ)は、2.7mHのインダクタと0.01μFそして820Ωのダンプ抵抗です。ダンプ抵抗の値は本機で使用したタムラTDP-1/Wに合わせると820Ωくらいがベストですが、他のトランスの場合には560Ω〜1kΩくらいの範囲で最適値が異なるので、組み上がった状態で周波数特性を測定しながらのチューニングが必要です。

<推奨値>
MakeライントランスLC1次側※2次側
TAMRATD-1(W)2.7mH0.01μF820Ω1kΩ
TDP-1(W)2.7mH0.01μF820Ω1kΩ
TK-12.7mH0.01μF680Ω1kΩ
TK-102.7mH0.01μF620Ω1kΩ
TF-3(W)2.7mH0.01μF620Ω1kΩ
TpB-2022.7mH0.01μF620Ω1kΩ
TPs-3S2.7mH0.01μF820Ω1kΩ
NIHON KOHDENE-84802.7mH0.01μF750Ω1kΩ

ライントランス部
ライントランスには3つの役割を与えています。

(1)トランス自体が持つフィルタ効果を使ってデジタルノイズを除去する。
(2)後続の真空管アンプ部が反転増幅器であるため、トランスで位相を反転させて全体で非反転となるようにしている。そのため意図的にトランスの2次側の接続を逆にしてある(赤い字)。
(3)トランスそのもののトーンキャラクタを期待。

真空管アンプ部その1・・・12AU7による試作+SRPP回路のチューニング
本プロジェクトは廉価で入手容易な12AU7によるSRPP回路でスタートしました。SRPP回路は、負荷が軽い通常の電圧増幅動作の場合は、プレート抵抗負荷の普通の増幅回路とみなしてロードラインを引いて設計するのが合理的です。下側球からみると、上側球は俗に言う真空管抵抗として抵抗負荷とほとんど同じ働きをします。

電源電圧=92V、上下の各カソード抵抗=1kΩとして試験回路を組みました。この場合、上側球は、rp+Rk+(Rk×μ)の抵抗とみなせますので、11kΩ+1kΩ+(1kΩ×18)=30kΩのプレート負荷抵抗を与えた普通の増幅回路として考えることができます。電圧配分は上下球50%:50%となり、プレート電流は計算上は1.48mA、実測は1.42mAとなりました。

12AU7は、200V位の電源電圧に47kΩ負荷で動作させた場合の歪みは1V出力時で0.2%くらいになります。多くの球が0.1%程度なのに比べて歪が2倍ほど多い球です。本機の実験回路では実質30kΩ負荷ですし、プレート電圧が低い直線性が悪い領域での動作ですから歪みはもっと多くなるでしょう。実際に組んでみたところ、P-G帰還をかけているにも関わらず1V出力時の歪みは0.3%、DACとしての最大出力にあたる1.8V出力では0.5%もの歪が出ました。思っていたよりも悪いです。

ところで、SRPP回路はどの作例を見ても上側球と下側球のカソード抵抗に同じ値を入れていますが、この回路は上下のカソード抵抗は同じ値である必要性はありません。上側球のカソード抵抗の値を大きくすると、普通の増幅回路のプレート負荷抵抗の値を大きくしたのと同じ結果、すなわち歪みは減少し、利得は微増します。そこで上側球のカソード抵抗の値を1kΩから1.8kΩに増やしてみました。その結果が右のグラフです。

確かに歪みは減りましたが目指す水準にはまだまだ遠いので、12AU7の採用は断念しました。

真空管アンプ部その2・・・6DJ8に変更
何故、6DJ8が出てきたかというと、6DJ8はプレート電圧・電流を減らしていっても直線性が失われにくい球であることと、12AU7の2倍くらい高い利得が得られるので余剰利得を負帰還にまわすことでダブルで歪率の低減ができるのではないかと考えたわけです。何故、すぐに出てこなかったというと、6DJ8の入手価格の相場が12AU7の2〜3倍高いからです。

動作条件をいろいろと変えて実験を行った結果、上側球のカソード抵抗=1.2kΩ、下側球のカソード抵抗=820Ωあたりで落ち着きました。この時の下側球のプレート電圧は約40V、プレート電流は1.4mA、下側球のバイアスは-1.1Vくらいです。その結果、歪率は1V出力時で0.05%、1.75V出力時で0.08%というなかなか良い数字が得られました。(本ページの下の方に実測データのグラフがあります)

12AU7から6DJ8に変更するにあたって、ヒーター回路の配線を変更し、6DJ8のグリッドの直近に発振止めの抵抗(2.2kΩ)を追加をしています。

なお、P-G帰還回路の特徴として、電源OFFの状態でも完全に無音にはならずにわずかに音が漏れます。その時のオーディオ信号の経路は、「DAC出力→ライントランス→20kΩ→75kΩ→出力端子」です。

高圧電源部
高圧電源は、ACアダプタから送られてきた15VにDC-DCコンバータで得た30V×3をすべて重ねて105Vを得ています。4階建て電源の1階はACアダプタからの15Vですが、これが案外ノイジーで残留ノイズが46mVほどあるため2.7mHと1000μFによるフィルタを置いています。46mVあったノイズは1mVまで減っています。

MCW03-12D15は、9V〜18Vの入力で±15Vすなわち30Vを得ることができます。入力側のアイドリング電流は約25mAなので30V、3.5mAの出力を得た時の入力電流は33mAくらいになります。これを3個使いますから、DC15V側の入力電流は100mA程度です。使用したDC-DCコンバータ、MCW03-12D15の実測データとレポートはこちら→http://www.op316.com//tubes/datalib/dcdc-mcw03.htm

DC-DCコンバータは高周波でスイッチングするので、低ESRのコンデンサによる電流供給能力の確保が要求されます。DC-DCコンバータの各ユニットの入力側の至近距離に22μFのOSコンを配しています。また、DC-DCコンバータが出すノイズ(実測で4.6mV)の逆流を防ぐために15V電源側に47μHのインダクタと10μFの積層セラミックコンデンサを置いています。

DC-DCコンバータの各ユニットの出力側にはリプルフィルタとして22μFのOSコンを配し、その先に2.7mHのインダクタとコンデンサ(10μF+0.33μF)、さらに2SC3423によるリプルフィルタがあります。2SC3423のエミッタ側に入れてある220kΩは、電源OFF後の各コンデンサ放電ペースの具合で2SC3423に逆電圧がかからないようにするためのものです。

ヒーター電源部
ACアダプタから来ているDC15Vを使い、抵抗で電圧を落としておおよそ12.6Vを得ています。6DJ8一族のヒーター電流はちょっと複雑で、6DJ8/ECC88が0.365A、6922/E88CCが0.3A、7308/E188CCが0.335Aとまちまちです。何を挿してもそれなりの許容範囲に収まることを考えて7.5Ωという値を選びました。7V/0.3Aの7DJ8/PCC88を挿しても6.5Vくらいになるので実用性が得られます。7DJ8/PCC88に限定するのでしたら、ドロップ抵抗は4.7Ω/2Wくらいに変更してください。

DC12VのACアダプタでも12.6Vのヒーターを点火することは可能ですが、ACアダプタにヒーターを直接つなぐと、電源ON時のラッシュカレントでACアダプタの保護回路が働いてしまいます。ヒーターは常温では抵抗値が非常に低いため、定格の数倍の電流が流れるからです。DC15Vから12.6Vにドロップする使い方の場合、電圧を落とすための抵抗器がヒーターと直列に入るため、ラッシュカレントが抑制されてACアダプタの保護回路が誤動作しなくなります。それが15Vを選んだ理由です。ヒータ電流が0.3Aくらいだとすると、15Vから12.6Vに落とすための抵抗値は、2.4V÷0.3A=8Ωとなり、0.35Aだと2.4V÷0.35A=7.1Ωとなります。

ACアダプタは数十mV程度のノイズを出すので、これがヒーターに混入するのを嫌ってヒーターと直列に1000μFを入れてあります。使用したACアダプタのノイズは46mVありましたが、この1000μFのところでは1.25mVまで下がっています。

DCプロテクタ部(過渡電圧防止回路)はつけていません
本機の回路ではDCプロテクタ(過渡電圧防止回路)を採用する意味があまりありません。DCプロテクタは電源ON直後とOFF直後に生じる過渡電圧の抑圧に効果を発揮しますが、本機は電源ON直後には過渡電圧は全く発生しないからです。SRPP回路は、上下2つの球のヒーターが暖まるまで回路には電流が全く流れません。ヒーターが暖まるには10秒近くかかりますが、その頃にはDCプロテクタに機能は無効になっていますので出番がないのです。

但し、電源OFF直後についてはある程度の効果はありますから全く無意味というわけではありませんが、もしそのような機能をつけたいのであれば本機に合った別の方式を検討するのが正解だと思います。


●部品のことなど

真空管・・・本機の回路に適するのは6DJ8とそのファミリーです。6DJ8ECC886922E88CC7308E188CC7DJ8PCC88いずれも調整なしで差し替えが可能です。7308などバカ高い値で取引されていますが、音が良くなるわけではありません。6DJ8類似のロシア球である6N23Pも差し替えができます。6N1P6DJ8の互換として売っている店やオークションの出品者がいますが、互換性はありませんのでご注意ください。

ライントランス・・・タムラのTDP-1(W)600Ω:600Ωを使いましたが、タムラや日本光電のこの種の業務用の高性能な600Ω:600Ωタイプのトランスならば大概のものが使えます。サイズは小さいですがTpAsタイプも優秀です。10kΩ:7kΩのものをオークションでよく見かけますがこれもチューニング次第で使えます。

ACアダプタ・・・秋葉原の秋月電子で扱っているDC15V/0.8A〜1.2Aのものが適します。超小型のものはノイズが多いので、同じ電流容量ならば大きいサイズのものを推奨します。

mT9ピン真空管ソケット・・・ピンの締まり具合と接触性の良い樹脂モールドの汎用品を使いました。

ケース・・・LEAD製の廉価な汎用アルミボックスP-302(200W×50H×100D)とP502(120W×50H×100D)です。シルバー塗装で底板のネジ穴も切ってあります。ライントランスが大きくて奥行きに余裕が欲しい場合はP-202(230W×50H×100D)がいいでしょう。

トランジスタ・・・高圧電源で使用したのは150V耐圧の2SC3423です。hFEが150以上のものが適します。当サイトのFET差動ヘッドホンアンプで使用している2SC3421は耐圧が120Vなのでぎりぎりで使用可能です。

DC-DCコンバータ・・・MCW03-12D15を3個使用しました。9V〜18Vの入力電圧で安定化された±15V(すなわち30V)最大100mAを出力するユニットです。

LED・・・つけるかどうか、何をつけるかはお好みで決めてください。6DJ8はヒーターが灯るのでLEDは省略しました。

インダクタ・・・47μHは、DCR<0.5Ω、定格電流<0.5A。電源部の2.7mHは、DCR<50Ω、定格電流>0.05A。LPF用の2.7mHは、DCR<7〜11Ω、定格電流>0.05A。

抵抗器・コンデンサ・・・ヒーター電源の7.5Ωに3W型、それ以外は1/4W型で足ります。LCフィルタ部の0.01μFはフィルムコンデンサ、P-G帰還素子の47pFは積層セラミックコンデンサ(印加する電圧で容量が変化しないタイプ)、15V電源の10μFは通常タイプの積層セラミックコンデンサ、アンプ部の出力側の1.5μF/250Vはメタライズド・フィルムコンデンサを使いました。それ以外のコンデンサは通常タイプのアルミ電解コンデンサです。

ビス、ナット、スペーサ・・・作業性を考えてスペーサはすべてメス-メスタイプとしました。部品の状態や実装のやり方で何をどう使ったらいいか変化しますのでそれぞれに工夫してください。

旧版からの変更点
・平ラグの構成・・・(変更前)10P×1、6P×1→(変更後)6P×3 または 8P×1、6P×2
・スペーサ・・・貼付け式ボス T-600×2を追加。

* * *

★部品の頒布は可能です。
http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm


●製作(平ラグ構成とレイアウトが変更になりました)

AKI.DACキットの組み立て
詳しい説明はこちらにあります。→ http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htm
AKI.DACの基板に実装するCR類でキット付属のものと異なる定数は以下の通りです。(表中のC5〜C17はAKI.DACの取説の回路図中の記号)

回路図部品名キット付属変更後
C547μF/25V470μF/10〜16V(直径8mm以下のもの)
C647μF/25V470μF/10〜16V(直径8mm以下のもの)
C1147μF/35V1000μF〜1500μF/10〜16V
C14470μF/25V1000μF/10〜16V
C16100μF/35V220μF/10〜16V
C17100μF/35V220μF/10〜16V

電源部の基板パターンと配線
電源部の基板パターンは下図のとおりです。

MCW03-12D15のピン接続は以下のとおりです。テクニカルドキュメントはこちら→ MCW03.pdf

マーカー向きを決める目印
1-pin入力(-)-
2-pin入力(+)-
3-pinリモート使わないので基板にハンダで固定するだけです
5-pinNC(内部無接続)無接続なので中継に使っています
6-pin出力(+15V)-
7-pin出力(COMMON、センター)-
8-pin出力(-15V)-

基板の画像で、「赤〜白」はACアダプタからの15Vの線、「青〜白」はヒーター電源です。「赤2本〜黒」はアンプ部に供給される左右の高圧電源とアースです。

注意:画像の基板の固定では手持ちのメス〜メス・スペーサを流用したため、ビスの頭が見えています。頒布はオス〜メス・スペーサなのでナット留めになります。

平ラグパターンと平ラグ上の配線
アンプ部の平ラグパターンは下図のとおりです。

Part1で実装したのは右下の8P平ラグですが、6Pではどうなるのか知りたくて本機では左下の6P平ラグを実装しました。結果として、6Pの場合はインダクタを外側に斜めに傾ける必要があることがわかりました。

作例どおり→ ←より効果的(Part1と同じ)

アースの引き回しは以下のように考えたらいいでしょう。

<信号経路のアース>
「AKI-DAC」→「LCフィルタ」→「ライントランス周辺のアース母線」→「アンプ部の2つの平ラグのアース」→「出力端子(ここでシャーシと接触)」

<電源のアース>
「高圧電源基板のアース」→「アンプ部の2つの平ラグのアース」

なお、アンプ部の平ラグは左右2つに分かれていますが、これは1本のアース線で互いにつなぐことが重要で、左右対称にしようとして2本のアースを引くとアースループができてしまいます。本機の電源のリプルは電源ユニットを出る段階で必要十分に除去されていますので、アースループを作らない限り、ケース内でのアースの引き方でノイズが出ることはありません。

ケースの加工
私が製作したケースの上面の加工図は以下の通りです。後面パネルは現物合わせで決めたので図面はありません。自力で工夫してください。USB端子の穴の位置決めはかなり頭を使います。

ビス・ナットとスペーサの使い方
頒布しているビス、ナット、スペーサ類は以下の使い方をした場合に合わせて内訳を考えてありますので参考にしてください。

LCフィルタの平ラグユニット・・・2点セムス8mmビス(注1)を使って貼り付けボスに取り付けます。6mmビスでは長さが足りません。
アンプ部の平ラグユニット・・・10mmプラ・スペーサを2点セムス6mmビスでケースに取り付けます。
電源基板ユニット・・・10mmプラ・スペーサを2点セムス6mmビスでケースに取り付けます。
AKI.DAC基板・・・10mmプラ・スペーサを使い、AKI.DAC基板側は2点セムス6mmビスでケースに取り付けます(画像ではスペーサが上下逆になっていますが、AKI.DAC側にビスを使った方が近くのコンデンサに当たらなくて具合がいいです)。
真空管ソケット・・・2点セムス6mmビスおよび2点セムス8mmビスとナットを使います。2P立てラグがある側は6mmビスでは長さが足りないので8mmビスを使います。
ライントランス・・・トランス付属の2.6mmビスで取り付けます。
ケースの底板・・・底板はアルマイト塗装のため、ケース付属の3点セムスではケース本体と電気的に導通しにくいので4mm丸皿ビス(注3)を使います。丸皿ビスは円錐形になっているため、底板の穴とこすれて塗装がはがれて導通しやすくなります。(右の画像)
上側ケースと下側ケースの結合・・・ケース付属の3点セムスで取り付けます。
ゴム足・・・貼り付けタイプの場合はビス・ナットは不要。ビス留めタイプの場合は3点セムス10mmビスとナットを使います。底板が薄ければ8mmビスでも足りますが、厚い場合は10mmでないと届かないことがあるので頒布では10mmを入れてあります。
ナットの使い方・・・ナットを使う時はスプリングワッシャをかませます。

注1:2点セムス=ビスとスプリングワッシャが一体
注2:3点セムス=ビスとスプリングワッシャとワッシャが一体
注3:丸皿=皿ビスの頭が浅く丸くなったビス

全体の組み立てと配線
ケースは2つ重ねて使います。上側のケースの底板は使わず、単純に上にかぶせて下からビス留めします。後面には、DCジャック、電源スイッチがつきます。下側ケース内の全体の様子は右のとおりです。(試作&テストを繰り返したので端子やハンダ面が荒れ気味)

アンプ部の10P平ラグは初作のものをそのまま使っているので、LPFが撤去された跡が残っています。新規に製作される場合は、アンプ部は左右ともに6Pの平ラグを使ってください。 信号の流れは以下の通りです。

(1)AKI.DACの出力の3本の線(L-ch、R-ch、アース)はすぐ隣のLCフィルタに入ります。アースは左右いずれかから1本出せば足りますので3本です。4本出すとアースループができるので具合が悪いです。
(2)LCフィルタの出力の3本の線(L-ch、R-ch、アース)はライントランスの1番およびアース母線(後述)につなぎます。
(3)ライントランスの8番を出た信号はアンプ部の平ラグに入ります。
(4)アンプ部の出力(1.5μFのところ)は出力のRCAジャックにつなぎます。

組み立てでの注意事項としては、平ラグや基板とスペーサの取り付け手順の競合問題があります。ケース上面の基板を先に取り付けてしまうとケース内部の平ラグを取り付けるビスを回せなくなる、加えてAKI.DACも取り付けできなくなる、という問題です。これを回避するためには、以下の手順がおすすめです。

(手順1)平ラグや基板を取り付けるスペーサだけを先にケースに固定しておく。
(手順2)あらかじめ線出ししたAKI.DACをケースに取り付ける。
(手順3)あらかじめ線出しした電源部の基板を取り付ける。
(手順4)ヒーターを配線し、電源部の通電テストを行う。
(手順5)ケース内部の平ラグの取り付けと配線に着手する。

注意:画像の平ラグの固定では手持ちのメス〜メス・スペーサを流用したため、ビスの頭が見えています。頒布はオス〜メス・スペーサなのでナット留めになります。

LPF、真空管ソケットおよびライントランス周辺の配線の様子です。

スペースの都合で、PF用の平ラグの端子はすべて直角近くまで折り曲げてあります。パネル前面にビスの頭が出ると見苦しいので、平ラグは貼り付け式ボスを使って固定しています。

SRPP上側の上側ユニットのグリッド〜カソードをつなぐ抵抗(1.2kΩ)は真空管ソケットに取り付けます。下側ユニットの発振止めのグリッド抵抗(2.2kΩ)は真空管ソケットの近くに配置したいので、ソケットのそばに3Pラグを立てて中継にしています。真空管ソケットのセンターピンはアースにつないでおいた方が安全なので、適当な銅線で3Pラグのセンターにつないでシャーシに落としていますが、アース母線につないでもかまいません。

ライントランスの1次側、左右の4番同士を0.9mmの銅線でつないでこれをアース母線としています。ライントランスの2次側、左右の5番は細めの0.45mmくらいの銅線を使ってアース母線につないでいます。方法は問いませんので、ライントランスの4つのアースをつないでアース母線にしたらいいでしょう。

後方を見た画像です。

Version1では、USBリバーシブルコネクタを使って見栄えを良くしていましたが、本機ではUSBまわりの実装を簡素化するために、AKI.DACの基板についているmini-B端子を後面からじかに出しています。

出力のRCAジャックのアース端子は、左右をハンダでつなげてナットを締め付ける時にむやみに回転しないようにしてあります。


調整と動作確認
電源部のみのテスト・・・全体を組み上げる前に、電源部+ヒーター回路の通電テストを行ってください。高圧電源側は、DC-DCコンバータの出口のところで105V±1Vで正確に出ているのが正解です。ヒーター側は、球を挿した状態で12.6V±0.5Vくらいの範囲であればOKです。6DJ8の仲間のヒーター定格は0.3A〜0.365Aとさまざまなので球によって電圧が変化しますが、それなりの範囲内であればよしということで割り切っています。手持ちの球を挿して実測したヒーター2本分の電圧は以下の通りです。

東芝 6DJ8: 12.25V
Westinghouse 6DJ8: 12.34V
Sylvania JAN 6922: 12.81V
TESLA PCC88: 12.91V

アンプ部のテスト・・・概ね回路図記載の電圧になればOKです。ポイントとしては、上側ユニットのカソード電圧が40V±5Vくらい、下側ユニットのカソード電圧が1.0V〜1.3Vくらいであれば正常です。アンプ部のところで説明しましたが、本機は負帰還抵抗が入力と出力をつないでいるため電源OFFの状態でも完全に無音にはならず、わずかに音が漏れますがトラブルではありません。

ライントランスと周波数特性の調整・・・TD-1以外の600Ω:600Ωトランスを使用した場合は、LCフィルタ部の0.01μFと並列に入れてある820Ωを増減することでほとんど調整できます。PC側で発生させた1kHzを基準として、5kHz、10kHz、15kHzくらいでのレスポンスを見て調整したらいいでしょう。ポイントは、5kHzではフラットかわずかに持ち上がるくらい、10kHzではほぼフラット、15kHzでは若干減衰してもかまわない、あたりがちょうどいいです。


●特性

本機の特性は以下のとおりです。

流石に6DJ8をSRPPにすると出力インピーダンスは低いです。周波数特性は以下のとおりです。厳密には完璧なフラットではなく、1kHzを基準にすると400Hz以下と5kHz〜10kHzでかすかに持ち上がり、10kHz以上ですこしずつ減衰しています。しかし、その変化はわずかなのでグラフにすると1本の直線になります。

歪率特性はご覧のとおりです。上は6DJ8の同等の高信頼管のPhilips-ECG JAN-6922、下はヒーターが7VのTESLA PCC88(=7DJ8)をそのまま挿してみたものです。1本あたりのヒーター電圧は6.5Vで定格の7Vに届きませんが特性的には申し分ないです。ノイズレベルは製作直後でも十分低いですが、通電しているうちにさらに下がってきました。データを見る限りスイッチング電源やDC-DCコンバータを使ったことによりるノイズの懸念はありません。

Philips-ECG JAN-6922
完成直後 → 100H通電後

TESLA PCC88
完成直後 → 100H通電後

左右チャネル間クロストークは、ご覧のとおり段階を経て改善されてきました。AKI.DACのC11は220μFのままなので、これを増量してやれば200Hz以下の特性はもっと良くなります。


●とりあえずのコメントなど

Version1と共通する腰が据わったスケール感のある心地よい音が出ています。トランス式のDACが控えめでややあっさりしたところがあるのに対し、トランス+真空管の構成はダシがしっかり出ているという印象です。

どうでもいいことかもしれませんが、電源トランスを持たない本機はVersion1と比べて軽いので、手で持った時の重量感といいますかありがたみがいまひとつありません。Version1は1,490gでVersion2は640g。底板に板切れでも当ててもう少し重くしてやろうかと思っています。



●ユーザーレポート

某放送局の技術部からレポートが送られてきましたのでご紹介します。

* * *

トランス+真空管バッファ式USB-DAC TYPE2が完成しました。とても艶っぽく、ここちよい音を奏でてくれています。「本機はダシがしっかり出ているという印象」という感じがわかります。

トランスはTK-10、真空管はSOVTEKの6922です。LPF部の0.01μFにパラに入れるダンプ抵抗は620Ωで決定しました。680Ωだと10KHz〜16KHzで0.1〜0.2dB程度持ち上がってしまいました。

以前製作した私のトランス式USB DACのインダクタも傾きをつけました。木村さんと同じように高域において10dB程度の改善が見られます。「アマガエル」ほうが若干影響が少ない感じもしますが、同様の効果がありましたので傾きをつけました。こちらも10数dB改善しています。



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