<簡単なのにハイエンド>

FET式差動ヘッドホン・アンプ
(1Uサイズ、AC100V版)

Simple FET Differential Headphone Amplifier


DC12V版ヘッドホン・アンプの音が期待以上であったことに気を良くして、AC100V版を製作しました。DC12V版との違いは、電源電圧を9.3Vから13.8Vに引き上げたことくらいでしょうか。加えて出力段のコレクタ電流を21mAから31mAに増やしています。上の画像は、右上が遊び気分で作った006P充電式ヘッドホン・アンプ、左上がDC12V版、下の積んである2台がAC100V版です。

■業務利用の方へ

レコーディング・スタジオ、放送局、コンテンツ制作など業務目的でヘッドホンアンプを調査・検討していてここにたどり着いた場合はここにメールください→teddy@op316.com。評価機が空いていればそれをお送りします。これをモニター用に使っているスタジオや放送局はいくつかありますが、気に入るも入らないも実際に音を聞いてみた方がいいと思います。

●AC100V版全回路

<アンプ部>

回路のベースは12V版ですので詳細はそちらおよぼ解説ページを参照してください。

シンプルな差動1段回路に、一般にダイヤモンド・バッファと呼ばれている2段エミッタ・フォロワをつけたものです。この種の回路構造は、「OPアンプ+ダイヤモンド・バッファ」のものが広く知られています。違いは、OPアンプを使うか、OPアンプではなく単段差動回路を使うか、というだけのことですが出てくる音は根本的に違います。物理スペック(歪み率など)はOPアンプを使った方がいい数字を出しますが、一方で「OPアンプを使った」ことそのものが足かせになります。OPアンプを使った場合は作りっぱなしというわけにはゆかず、かといってMHz帯での測定環境なしのチューニングは容易ではないと思います・・・ほとんどのOPアンプは低利得でそのまま使うと1MHz〜2MHzくらいの帯域でかなり高い確率で顕著なピークが生じます。

2SK170をドレイン電流=2mAで動作させた時のgmは17くらいありますから、2.7kΩ負荷を与えた時の利得は42倍程度が得られます(ロスがあるのでgm×RLよりも少し小さくなる)。差動入力で出力を片側だけから取り出しますので、実質的な利得はその半分の21倍くらいになります。負帰還をかけて適度な利得まで落とすと、最終利得は3倍前後になり、負帰還量は14〜18dBくらいになります。半導体回路にしては負帰還量が少ないですが、そもそも差動回路が低歪みであるおかげで1V出力における歪み率は楽に0.05%を割ります。

定電流回路は、定電流ダイオードは使わずに、2つのトランジスタ(2SC1815)を使った低い動作電圧でも高い定電流特性が得られる方式を採用しました。この回路は、2SC1815のベース〜エミッタ間電圧(0.625V)と抵抗(150Ω)を使って定電流特性を得ています。

定電流特性=0.625V÷150Ω=4.2mA
但し、トランジスタのベース〜エミッタ間電圧は、温度が1℃上がるごとに0.002V低下する性質があるため、周囲温度が25℃の時に0.625Vであるならば、10℃上昇した35℃では、
0.625V+(−0.002V/℃×10℃)=0.605V
になり、定電流特性は約4.03mAになることは考えに入れておいてください。本機では、この程度の温度依存性は問題にはなりません。

2個の2SK170のドレイン電流がきれいに揃うためには選別が必要です。選別は簡単な測定回路を組む必要があるのと、10本〜20本程度を買い込んでも揃ったペアはまず得られませんので希望者には高精度で揃ったペアを頒布いたします。電源電圧13.8Vに対して、差動回路のドレイン電圧が7.8Vとなっており、電源電圧の1/2よりもやや高めなのは、2SK170の動作特性の偏りをカバーするためです。その結果、ダイヤモンド・バッファを構成する2SA1015と2SC1815それぞれのコレクタ電流が同じになっていませんが、このことが本回路の動作を損ねたりしないのがダイヤモンド・バッファの偉いところです。

2SA1015と2SC1815で構成されるエミッタ・フォロワ段によって2SA1358/2SC3421の出力段を駆動しています。2SA1015および2SC1815のエミッタ側に挿入されている2個の抵抗56Ωは非常に重要な役割を持っています。これによって出力段トランジスタに必要なバイアスを与えるだけでなく、前段エミッタと出力段ベースとの間に適切な抵抗(56Ωのこと)を挿入して回路の安定性を確保する、という重要な働きがあります。

出力側には、220μFと470μFの2個のコンデンサを並列に入れ、合わせて690μFにしてありますがこれは後に220μFと1000μFに変更されています。B電源とアース間に入れてあるコンデンサ(470μF+1000μF)も同様でこれも後に470μFと3300μFに変更されています。この変更による低域の出方の変化は顕著です。

本機の最終利得および負帰還量は、180Ωと100Ωの半固定抵抗の比で決定されます。利得を測定する機材をお持ちでない場合は、180Ωと100Ω側の比率が左右チャネルで一定となるように調整すれば、十分な精度で左右利得を揃えることができます。100Ω半固定抵抗を、好みの利得になるように47Ω〜100Ωくらいの抵抗器に置き換えてもかまいません。

<電源部>

電源部は、AC18V×2、AC0.2Aの小型トランスを使いました。これをブリッジ整流して正負(±)の電源を得ています。本機における整流出力電圧(2200μFのところ)は動作時で約23Vです。無負荷だと30Vくらいになると思います。

プラス側の電源(B+)は、整流直後を2200μFで受け、続いてNPNトランジスタ(2SCまたは2SD)による簡易型の定電圧電源回路が続きます。約17Vの定電圧ダイオードを使ったのでトランジスタのエミッタ(出力)側は16.3Vとなりました。コレクタ電圧が23Vですから、コレクタ〜エミッタ間電圧は6.7Vです。整流出力電圧が少々変動してもB+電圧は一定値が確保されます。なお、コレクタ〜エミッタ間電圧が3V以下になるとトランジスタの動作の余裕がなくなってくるので、電源トランスを変更するか、定電圧ダイオードをもう少し低い電圧のものに変えなければなりません。その場合はB+電圧も下がります。

本製作使ったパワートランジスタ2SD1763のhFE(直流電流増幅率)に実測値は150くらいでした。本機のB+電源の全消費電流は90〜100mAですので、トランジスタのベース電流は0.6〜0.7mAということになります。17Vの定電圧ダイオードにも適切な動作電流(1mA以上、5mA以下)が必要です。本機では約6Vのところに3.3kΩの抵抗を入れてあるので1.8mA流しています。整流出力電圧が変動しても一定の電流が確保されるような抵抗値にするのがポイントです。本機の場合は、3.3kΩが上限でこれ以上大きな値にすると必要な電流が得られなくなります。

マイナス側の電源(C-)は、直列にした2本のシリコン・ダイオードの順方向電圧が約0.6〜0.7Vでほぼ一定である性質を使った定電圧電源です。C-電源に必要な片チャネルあたりの電流は5.3mAですが、2本のシリコン・ダイオードにもこれを同等かやや多目の電流を流すことでマイナス電源を一定に保つしかけになっています。2.2kΩの抵抗には11mAくらいを流しています。このようなしくみの定電圧電源のことを「シャント型」といいます。

本機の残留ノイズは非常に低い上に(後述)、残留ノイズ中にハム成分は検出されませんでしたのでこんな簡易型の電源でもリプル除去は充分です。電源トランスも電磁シールドなど一切ついていない廉価なものを使っていますが誘導ハムも生じていません。

注: 整流直後の「2200μF/25V」および「470μF/25V」が耐圧不足であるという指摘がありました。全くそのとおり、耐圧には余裕があることが望ましいです。35Vまたはそれ以上の耐圧のものを使ってください。


■部品と製作

アンプ部の部品はDC12V版とほぼ同じです。シャーシは、300mm×200mm×40mmのアルミ弁当箱シャーシと、1Uサイズのパネル板、底板として300mm×200mm×1tのアルミ板を組み合わせて自作しました。1Uサイズに収めるとなると、部品類の高さ制限が厳しくなります。電源トランスは東栄変成器の18V×2、AC0.2Aタイプのもので、これだと高さ40mmに収まります。電解コンデンサは高さにひっかからないように、2個に分けているところがあります。

ご覧のとおり、内部は非常に余裕があります(下画像)。というか、すかすかですね。奥行きは150mmもあればよかったのですが、たまたま手に入ったのが200mmだったのでこのようになりました。電源トランスの右横に意味不明なナットがありますが、これは間違えて開けてしまった穴ふさぎです。信号経路にはシールド線は使っていません。電解コンデンサは3種類あって、黒いのがニチコンMUSEの黒タイプ、金色がニチコンMUSEの金色タイプで、1個ずつ並列になっています。これらは、信号が通る経路に使われています。このヘッドホン・アンプは2台作ったのですが、当初1台がすべて金色タイプ、もう1台が黒タイプとなるように構成したら、どちらもそれぞれに音に色がついてしまったので最終的に混ぜてしまいました。黒MUSEは深々と大人しく、金MUSEはややでしゃばりな音です。そして最後には通常品に変更されています(電源C・出力Cの増量記事)。茶色っぽいのが一般品の低ESRタイプで電源部で使っています(秋葉原なら千石電商のB1が廉価)。へたにオーディオ用と謳ったものを使うよりも、すべて一般品の低ESPタイプで構成した方が素直な音になっていいかもしれません。

上図右はアース配線の構造です。入力端子のところで1本にまとめてからボリューム端子に行き、そこからアンプ部の片チャネル側につなぎます。ステレオ構成なので両チャネルそれぞれのアースにつなぎたくなるのを我慢します。何故なら、電源側も左右をアースでつながなければならないわけですが、アースループをつくらないためには2箇所で左右をつなぐわけにはゆかないからです。本機のように、入力から出力まで1つのアンプで構成されている場合は、「入力〜アンプ〜出力」×2という流れでとらえないで、「左右ひっくるめて1つの系」としてとらえます。そういう意味では左右両アンプユニットをつなぐアースのポイントはどこでもかまいません。本製作では絶縁タイプでない(Cold側がパネルに接触する)ヘッドホン・ジャックを使用したため、シャーシへのアース・ポイントはヘッドホンジャックのところです。絶縁タイプのヘッドホン・ジャックを使う場合は「ボリューム〜アンプ部」の区間の範囲からラグの取り付け穴とかを使って最寄のシャーシに落としてください。シャーシへのアースは、決して電源部から落としてはいけません。

右上の画像は電源部です。電源トランスの1次側についている緑色のものはスパークキラーです。整流用のダイオードには100V/1A定格の一般品(10E1または10DDA10)を使っていますが、4本まとまったダイオード・スタックでもかまいません。耐圧は100V以上あればOKです。電源回路で使用しているリプル・フィルタ兼簡易定電圧電源用トランジスタの2SD1763はたまたま手持ちにあったものを使いました。2SD1763は製造中止で入手できませんが、ごく一般的な耐圧(VCEO)>40VでhFEが100以上あるパワートランジスタであればどれでもOKで、当サイトで頒布している2SC3421や2SD2531が適します。消費電力は0.7W程度なので放熱は不要です。定電圧電源のツェナ・ダイオードは17V±0.5Vのものを使います。"HZ18-1"が該当します(これも頒布しています)。マイナス電源で使用している4個のダイオードは、いわゆる小信号用シリコン・ダイオードと言われる通常品で、1S1588や1S2076Aなどが使えます。1Aタイプの10E1やIN4001〜4007などでもかまいません。回路中のLED(発光ダイオード)は、電源スイッチに内蔵のものです。LEDは約3mAで点灯させています。

右上の画像はボリューム端子の配線です。パネルを裏側から見ていますから、時計回りに回しきると音量は最小になり、時計と反対回りに回しきると音量は最大になります。縦に並んでいる3つの端子のうちいちばん下がアースで、中央をアンプ入力につなぎ、いちばん上を入力端子につなぎます。

下図は平ラグの推奨配線パターンです。実機の配線パターンは数ヶ所不具合が出たのでその部分を修正しています。そのため、このパターンと画像とは一致しません。実装で注意するのは、トランジスタは型番によってBCEの接続順序が逆になったりするということです。ここで使用したやや小型のパワートランジスタ2SA1358/2SC3421と電源で使用するひとまわり大きなパワートランジスタ2SD1763や2SD2531とでは接続は反対になっています。電源部の整流回路の直後に実装されていない抵抗器のマークが括弧つきで記入されています。これは、整流出力電圧が高すぎるときに調整のために用意したものですが、実機では不要でした。

初段入力のところ(IN〜Eの間)に、配線図にはない470kΩの抵抗が追加されています。これは、初段2SK170のゲート(G)がボリュームをつながないとアース電位が与えられないのを回避するためのもので、これがあるおかげでボリュームをつなぐ前に単体で動作テストを行っても正常に動作するようになります。本来、回路図側にも記載すべきものですが、修正するのをさぼっております。

半固定ボリュームは比較的入手しやすいBOURNSの25回転タイプの足を右画像のように加工してから取り付けました。センターの足を一方の足にからませて半田づけしています。利得(=負帰還)調整の時の回転方向が入れ替わるだけのことなので、どっち向きでもかまいません。半固定ボリュームを使わずに抵抗1本で置き換えてもかまいません(後述)。

下図は、FETおよびトランジスタの接続です。足の順序はいずれも下から見た図です。2SK170は、回路図でいうと、上からドレイン(D)、ゲート(G)、ソース(S)の順です。2SK170はおなじみ2SK30とは配列が逆ですので注意してください。トランジスタは、回路図でいうと矢印がついているのがエミッタ(E)、横に出ているのがベース(B)、斜めに出ているのがコレクタ(C)です。

2SA1015と2SC1815はどこでも廉価でザクザク売られている東芝の小型汎用トランジスタですが、なかなか優れた特性を持っているので躊躇なく採用しました。NECでいうと2SA733/2SC945(これも有名な汎用トランジスタ)が該当します。出力段で使用した2SA1358/2SC3421は、非常に使いやすい規格の小型パワートランジスタで特性的にもバランスが良いのでよく使います。


2SK170 2SA733 / 2SC945
2SA1015 / 2SC1815
2SA1358 / 2SC3421 ヘッドホン・プラグ/ジャックの結線

当サイトでは半導体の頒布をしていますので、入手が難しい方や半導体の扱いに慣れていない方、選別の道具がない方はご利用ください。トランジスタで悩ましいのは、ランク分けされたhFEも同一ランク内でも極端なばらつきがあることです。たとえば、2SC1815のGRランクを買ってくると、hFEは210〜380くらいの幅でいろんなのが混ざってきます。定格上は200〜400の間にはいっていればGRと呼んでいいことになってるので文句は言えません。頒布している半導体は私の判断ではありますが、hFEがあまり低いものは排除し、かつ可能な限り一定の範囲で揃ったものを選んでいます。FETに関しては1つのランクをさらに25分割して精密にペア取りしたものを頒布しています。

トランジスタ頒布サイト:http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm

ヘッドホン・プラグ/ジャックの結線は右上のとおりです。先端をTipと呼んで「左チャネル」、真ん中をRingと呼び「右チャネル」、根元がSleeveで「アース(共通)」です。Top-Ring-Sleeve構造のプラグ/ジャックのことを略して「TRS」とも呼びます(画像出典:Behringer社)。ジャックの端子の配線は部品によってまちまちなので、実物を見て、テスターで導通をみて判断してください。案外面倒な作業ですが簡単に手に入る答えはありません。


■調整

本機の電源回路は、アンプ部をつながなくてもほぼ設計どおりの電圧が出ますので、まずは電源部だけで通電テストをしてください。B+に16〜16.5V、C-に-1.2〜-1.4Vが出ていればOKです。続いてアンプ部をつないで各部の電圧をチェックします。B+側の51Ωの抵抗の両端電圧を測定して計算すればそこに流れている電流がわかります。90〜100mAから極端にかけ離れていないか確認します。同時に2SK170の2つのドレイン電圧が7.8V±1Vくらいであることも確認します。2SC3421と2SA1358のエミッタ電圧も同じ値のはずです。次に、2SK170の共通ソース側電圧が0.16〜0.31Vであることを確認します。これらがOKであればアンプ部はDC的には正常であるとみていいでしょう。しかし、ここまでで電圧が異常であれば音を出す以前の段階です。

特に調整すべき箇所はありませんが、本機では、負帰還抵抗の受け側を100Ωの半固定抵抗にして、利得が可変になっています。通常、ヘッドホン・アンプの利得は2倍〜4倍くらいが使いやすいです。調整機材をお持ちでない方は、とりあえず68Ωを入れてみて、利得が多いようであれば100Ωくらいに増やし、足りないようであれば47Ωくらいに減らしてください。本回路を守る限り、かなりの範囲で自由に設定しても動作は安定します。

周波数特性、方形波応答はこちらの結果(ページの一番下)とほとんど同じです。


■おっちょこちょいさんはご注意

このアンプのシャーシ上面です。トランスやラグの取り付けネジは全部で11個あれば足りる計算なんですが・・・16個もついています。しかも位置関係がきれいに左右対象。何故?

裏と表、上と下、右と左、これらが入り混じると人間は時々錯覚といいますか、勘違いといいますか、やってしまうんですね。パネル側は電源スイッチが左なのに、トランスの取り付け穴が右にあったりして。こうなる原因はシャーシの穴あけ図面を描いた時に、裏側から描いているからでしょう。穴あけが表からの方がやりやすいから頭の中がおかしくなる。

これはもう、何度も失敗して学習するしかないと思います。しかし、たまにしか作らないわけで次回同じことをまたやってしまう可能性は非常に高いですね。もう、おおらかにいくしかないと思っています。


■特性

本機の利得は9dB(2.83倍)としました。周波数特性および歪み率特性は以下のとおりです。周波数特性は無負荷で、歪も率特性は60Ω負荷で測定しています。周波数特性では-3dBとなるポイントは600kHzです。Ayumiさんのレポートで、12V版の無負荷状態で8〜9MHzあたりにピークが出現しているので、本機ではどうなのか検証する意味で帯域を10MHzまで広げて再測定しています。よく見ると、5MHzのところにかすかに「肩」が現れていますので、実装の状態によってはこれが成長する可能性があります。

歪み率は80kHzのLPFをかけた状態でなんとか0.01%を割っていますので、低NFBの単段差動にしてはかなりいい数字です。特徴的なのは異なる周波数においても特性が揃っている点で、ここがディスクリートの強みでありOPアンプにはできない芸です。S/N比は、1V出力に対して96dB(残留ノイズ=15μV、帯域=80kHz)を得ていますので相当なローノイズです。なお、残留ノイズ中にハム成分はありませんので簡易型の定電圧電源が有効に機能していることがわかります。


■いろいろなヒント

(0)2SK170の選別は自力でした方がいいのか:

「本来は自力で選別すべきで、頒布を受けるのはよくないことだ」と思っていらっしゃる方が多いようなので、そうではないことをここではっきり申し上げます。結論から申し上げると、しない方がいいと思います。その理由は以下のとおりです。
JFETのばらつきは正規分布せず、やや偏りを持ちつつまんべんなくばらつきます。100個買ってきて30分類すると、極端なはなし3.3個ずつに分かれてしまいます。実際、50個買ってきて4個のセットができなかった、という方もいらっしゃいますが取れなくて当然なわけです。100個からあるグループで8個もとれるようなことはまずありません。運よく100個から5グループの4個セットが得られたとして、残った80個はばらばらなのでどうしようもありません。結局使えないことになります。そういうのを引き取ったことがありますが、リード線がフォーミングされたものだったで手持ちのものと混ぜるわけにもゆかず、一部を他の用途に使ったのみで残りの大半はバラバラのまままだ持っています。というわけで、1回のための選別はあまりおすすめしていません。
但し、将来、何台もお作りになったり、別の用途での利用のあてがある方、そもそも選別冶具を作ることが学習の目的である方はこの限りではありません。

(1)2SK170以外のFETは使えるか(12V版と同一内容):

使えます。完全に代替可能なのは2SK370です。2SK117は2SK170の時よりも若干利得が減る程度なので実用範囲です。BLランクを使ってください。Dual FETの2SK389も使えます。2SK30は利得がほとんど得られないため使えません。2SK246も使えません。

(2)何故2SK170をかくも精密に選別するのか(12V版と同一内容):

本機の差動回路は増幅素子(2SK170)のばらつきを自己修正する機能を持っていません。精密なペアを使うことで最適化された動作条件になるように割り切った考えで設計されています。選別しなかった場合、運がよければそのまま問題なく動作しますが、ばらつきがあると最大出力が目減りする、全体に歪率特性がレベルダウンする、といったことが起きます。なお、差動回路の共通ソース側に100Ω程度の半固定抵抗を入れてバイアス特性を修正する方法も考えられますが、欠点としては15Pの平ラグにおさまりきれない、オープンループゲインが3/5くらいに下がってしまう、などが挙げられます。しかし、方法としては悪くないと思います。その場合、50Ωではすべてのばらつきを吸収しきれませんので100Ωのものが適します。200Ωですとオープンループゲインが下がってしまう、(理由を書くと長くなるのですが)最大出力が低下するなどいろいろとスペックダウンが生じます。

(3)定電流回路トランジスタは選別する必要はあるのか(12V版と同一内容):

2SC1815のYランクの指定がありますが、この回路は個々のトランジスタ特性の精密さは要求されません。気持ちの問題として頒布しているものについては半端な値のものは排除し、hFEも一応は揃えています。ここで使う2SC1815のhFE値はあまり高くない方が安全ですのでhFE値が高いグループであるGRランクはできるだけ避けてください。

(4)ダイヤモンドバッファ回路トランジスタはペアである必要はあるのか(12V版と同一内容):

トランジスタのhFE(電流増幅率)はばらつきが甚だしいので一定の範囲ごとにランク分けをして出荷されていますが、同一ランクであっても幅が広く、たまに極端にかけ離れた個体が混ざっているといういやらしい現実があります。本回路では、全く選別しなくてもちゃんと音は出ますし、それなりのスペックのアンプに仕上がります。しかし、hFE値が低いと出力インピーダンスは高くなり、最大出力付近の直線性も悪くなります。いろいろな意味で左右の特性の同一性が失われます。耳で聞いてわかるかというと、実はわからなかったりしますが。しかし、部品を頒布する側としては、できるだけかけ離れたものや値が低いものは排除したいですし、お送りするセットごとに揃ったものを入れたいというのが人情ではないでしょうか。ご自身で選別されるのであれば、hFE測定機能がついたテスターを使い、購入した数十本くらいの中から、hFE値が高くかつよく揃ったものを選んだらいいでしょう。

(5)部品に投資したらもっといい音になるか(12V版と同一内容):

いろいろと試すことはいいと思いますが、そういうことに期待しすぎない方がいいでしょう。コンデンサ類の種類(メーカーや商品ライン)によって音が変化することは本機でも起こりますが、音に対する評価と金額とは相関がないようです。私は秋葉原の千石電商B1の棚にある廉価な低ESRタイプを使っていますが、これで不満はありません。抵抗器は通常の5%級のカーボン型で十分ですが、頒布では1%級の金属皮膜抵抗を採用しています。なお、こういうものをはじめて作る方は、部品をどうこうするよりも、半田づけがきれいに確実にできるようになることを最優先されたらいいでしょう。その方がいいアンプが作れるようになります。

(6)電源回路は分圧型では駄目なのか:

そんなことはありません。アースの基本や増幅回路の動作のしくみについて正しい理解ができている人にとっては、そのことが問題にならないことは十分にご理解いただけていると思います。気分的には分圧というとなんだか誤魔化したように思えてきますが、電子は気分で動くことはありません。そこで参考のために、AC100V電源を使いながら12V版と同等の構成の電源回路をご紹介します。本HPの記事どおりでもいいですが、こちらの回路でも全く差し支えありません。

本回路のプラス電源電圧は元の回路の16.3Vに対して14.8Vと低くなっています。それを修正するためにアンプ側の電源回路に入れてある51Ωを33Ωに変更してください。アンプ部の電源電圧が13.8Vから13.2Vくらいに低下しますが問題ではありません。

(7)スイッチング電源アダプタを使うのと電源トランスを使って電源回路を組むのとで違いはあるのか:

明確な差異は認められない、あったとしてのその因果関係は説明できない、というところでしょうか。「スイッチング電源なんかダメ」ということはないですね。それを言ったら私が信頼して使っているDigidesign製のレコーディング機材は全滅してしまいます。気にする人は気にするし、騒ぐ人は騒ぐけれど、私はどっちでもいいという態度でいきます。

(8)回路定数はオリジナルに忠実であるべきか:

抵抗値などが「何故、その値であるのか」がわかるようになると自作の面白さが増します。回路定数の変更は自由です。しかし、回路定数を変更しても出てくる音はほとんど変化しないでしょう。オーディオアンプは、回路定数を少々いじってもそういうことで音が良くなったり悪くなったりするようなものではありません。本機の回路および回路定数は、私の手が届かない遠にいる誰であっても確実に動作し、確実にこの音が得られることを考えて設計してあります。そういう目的としては最適解に近いものだといえるでしょう。しかし、回路設計の可能性はほとんど無限ですから、本機の回路をベースにしていろいろな工夫、実験、失敗を経てよりよいものをめざしてチャレンジしてください。(この回路が最高である、部品も同じでなければならぬ、などということを言い出すほど私はまだ出来上がっていません)

(9)もっぱら16Ωの低インピーダンスのヘッドホンを使うのだが回路はこのままでいいか:

このままで16Ωのヘッドホンを十分にドライブできます。本回路は12V版よりもオープンループゲインが大きく、負帰還量も余裕があり、かつアイドリング電流が大きいのでより低いインピーダンスのヘッドホンの駆動に適した条件になっています。しかし、不思議なものでその差を耳で検知することは困難なようです。

(10)このヘッドホンアンプをプリアンプとして流用あるいは共用できるか:

できます。このヘッドホンアンプの出力をそのままパワーアンプにつなげば、ラインプリアンプになります。アンプ部側の回路変更は不要です。ヘッドホンジャックには、ジャックの抜き差しと連動するスイッチがついたものがあります。これを使って出力信号がヘッドホンに行くか、プリOUTに行くか切り替えればいいのです。注意点は、ヘッドホン側に切り替わった時、プリOUTがどこにもつながっていない状態になると、パワーアンプからみて入力がオープンになってしまうことです。そこで・・・(工事中)

(12)出力段のトランジスタは放熱板に取り付けた方がいいか:

16V以下の電源電圧で使用する限りその必要はありません。本機の回路定数では、出力段トランジスタが熱暴走することはありません。むしろ、若干温度が上昇してVBEが低下することで必要なA級動作としてのアイドリング電流を得ています。また、若干温度が上昇することでhFE値が高くなるため出力段の動作がより有利になっています。冷却してしまうとA級の動作領域が狭くなってしまうだけでなく、hFEが低下して不利な条件になってしまいます。


■音

このヘッドホンアンプの製作目的はスタジオ・モニター用だったのですが、あら捜し用途だけというのはモニターアンプとしては失格です。モニターアンプは、音楽そのものに加えて音楽ソースに含まれるさまざま息遣いや楽器が発するノイズ、録音場所で発生しているノイズまで克明に表現するだけでなく、やはり音楽として、音として気持ちの良いものでなければなりません。エンジニアだってツマラナイ音は聞きたくないし、そんなアンプでは仕事にならないからです。本機は、そのような目的はある程度達成できたと思います。

ちなみに、2台製作したうちの1台は、今、音の良い作品を次々と世に送り出している都内某スタジオで修行中です(ラックに収められている→)。ここには30W全段差動PPモニターアンプ×2台や全段差動マイクプリ×2台もあり、制作の主力機材のひとつになっています。

なお、先に製作した12V版と本機とでは音の違いは若干ありますが、その原因は電源および出力段で使用した電解コンデンサによるものだと思います。しかし、どうやらオーディオ用電解コンデンサの採用が裏目に出たようで、エンジニア氏にOPアンプを使った他の2台のスタジオ機材と比較しつつ聞き込んでもらったところ、以下のようなコメントが返ってきました。

良い点・・・OPアンプを使った機材特有の「いらいら感」がなく、中高域が気持ちよくかつ存在感も出ていてよろしい。帯域も申し分ない。
悪い点・・・150Hzあたりにピークっぽい音を感じてこれがよくない。(この問題は電源および出力コンデンサ容量を増やすことで解決しました→こちら

なお、電源方式による有意な違いは認識できませんでした。

画像出典:STRIP


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