青春の日々1・・・洗礼

木村 功


入学(入隊)して一週間が経った頃、何やら隊内の空気が急変する。付き添いの生徒が明日は頑張れよよ云ふ。「宣言」があると云うが何の事か精しい説明は無い。兎に角大変なことらしい。

翌日、朝礼、体操が終ったあと新入生は全員講堂に集合の号令がかかる。上級生はみんないつにない緊張した面持ちで私達を送り出した。講堂に集ると全員二米間隔に開いて立たされた。最上級生徒がいかめしい顔付きで廻りを取りまく。やがて例の斉藤さんが壇上にあがり横から大声で「気をつけ!」の号令がかかり、開口一番「只今より宣言を行う。新入生は宣言が終る迄眼を見張り直立不動の姿勢を以って謹聴すべし」斉藤さんはおもむろに部厚い巻き紙をひらき「宣言」と一声あってゆっくりゆっくり朗読が始まった。新入生達は眼を見張り身じろぎもせず朗読に聴き入った。中身は何であったか緊張の余り全く覚えていない。

数分も経たないうちに見開いた眼が痛くなり、涙が滲んで眼がかすんで見えなくなって来た。眼をしばたけば忽ち鉄拳が飛んだ。何が何でも頑張るしかない。覚悟は決めたが斉藤さんの朗読は相変わらずのろのろとしていて何時終るか判らない。あちこちで倒れる生徒が出始めた。無我夢中で頑張り終えた時、斉藤さんは一段と声を高め「みんなよく頑張った。貴様達は今日から本校生徒である。 り頑張ろう」と一同をねぎらい励まして「宣言」は終った。洗礼を終った新入生に対して昨日迄何かと世話をしてみてくれた付き添いの上級生は弟達を一人前に扱うようになった。



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