私のアンプ設計マニュアル / トラブル・シューティング編
5.ヒューズが飛ぶ、煙が出る、焦げ臭い

工事中

とりあえず、どうしたらいいか

「ヒューズが飛ぶ」、「煙が出る」、「焦げ臭い」・・・このような症状が出た時は、例外なく『どこかに異常な過電流が流れ』ています。「もういちどやってみよう。」という試みはやめておいた方が賢明だと思います。何故なら、もう一度同じことがおこるだけならまだいいのですが、1回目の障害の際に回路のどこかがダメージを受けていて、2回目にはさらに異なる障害を引き起こすかもしれないからです。このどちらにころんだとしても、何の解決にもならないどころか、却って問題解決を複雑なものにしてしまいます。

とりあえず、どうしたらいいか。障害が起きたアンプから手を離して、じっくりと観察し、考えることからはじめましょう。無闇に電源を入れたり、いじっても問題を解決してはくれません。


ヒューズの性質

ヒューズの性質について考えてみましょう。ヒューズは、もっともシンプルかつ安価な過電流制御素子で、その性能もなかなかすぐれています。ヒューズは、いいかえると一定の抵抗値を持った低温でも融解する導線です。1Aの定格のヒューズは、1Aでは溶断しませんが、2Aでは(瞬時ではありませんが)必ず溶断します。つまり、1Aの定格のヒューズに2Aの電流が流れた時には、ヒューズが溶断するほどの高温になるわけです。

では、1.5Aではどうなのでしょうか。あるいは、1.1Aではどうなのでしょうか。きわめて短時間の2Aではどうなのでしょうか。おそらく、いずれの場合も溶断しないことの方が多いと思います。しかし、溶断しなくても、ヒューズは相当の高温にはなるのです。こんなことがありました。消費電力約80Wの真空管アンプに1.5Aのヒューズを取り付けていたのですが、電源ON電源の瞬間のヒューズを観察してみると、ほんの一瞬、ヒューズの中央部分が赤熱したのです。この現象は、電源スイッチをONにする時は必ずみられましたが、そのヒューズが切れることはありませんでした。そして1年が経過した時、そのヒューズを取り出してみたらみごとにたわんでいたのです。

ヒューズに定格の2倍程度の電流を流すと、ヒューズは高温のためにびょ〜んと伸びて、やがて中央部分がぷっつりと溶断します。また、ヒューズに定格の5倍程度の電流を流すと、あっという間に溶断します。さらに、ヒューズに定格の10倍程度の電流を流すと、飛び散るように溶断します。このように、切れたヒューズは、その切れ方を見ることで一体どのような状況で切れたのかを知ることができます。

ヒューズの規格は国ごとにさまざまですが、一般的には「定格の2倍の電流を流した時に、2分以内に溶断する。」と決められています。実際には、定格の2倍で0.1秒〜なかなか切れない、定格の3倍で0.01秒〜1秒、定格の8倍で0.001秒〜0.1秒というところでしょうか。ということは、3A以上が流れた時には必ず切れて欲しい場合は、1.5Aではこころもとなくて、1.2A以下の定格のヒューズでなければならないということになります。


何故、過電流が流れるのか

アンプのヒューズが切れる、ということは、『どこかに異常な過電流が流れ』たことを意味すると述べました。どういう時に『異常な過電流が流れるのか』について考えてみたいと思います。

AC100V回路:
AC100Vの商用電源から、アンプの電源トランスの1次巻き線までの間での可能性を考えてみます。通常は、AC100V回路では劣化するような部品はありませんし、考えられるのは、配線ミスくらいしかありません。電源トランスの1次巻き線がトランス内部でショートするなどということは、ちょっと考えにくいでしょう。いずれにしても、ここで問題が生じた場合は、ショート事故になりますので、ヒューズは派手に飛び散っていることでしょう。

整流回路とその周辺:
整流回路でかなりの頻度で発生する障害のひとつに、整流ダイオードのショート・モード破壊があります。滅多にあることではありませんが、私は過去に2度経験しています。両波整流回路の2個あるシリコン・ダイオードのうちの1個がショート・モード破壊を起こすと、交流波形の半サイクルがショートしたことになります。このときの電源トランスを比較してみます。

1次電圧(直流抵抗)2次電圧(直流抵抗)1次換算等価直列抵抗2次片側ショート時の1次最大電流
メインアンプ用電源トランス100V(2Ω)280V×2(35Ω)14.5Ω at 100V6.9A(100V)
プリアンプ用電源トランス100V(10Ω)260V×2(500Ω)202Ω at 100V0.5A(100V)

メインアンプ用電源トランスの1次側巻き線の直流抵抗は2Ω、2次側は35Ωです。これを100V側の巻き線に換算すると、2Ω+(35Ω÷2.8)=14.5Ωになります。便宜上、鉄心で生じる損失の計算は省略しました。このトランスの2次巻き線の1つがショートした場合、1次側に流れる最大電流は6.9Aになります。従って、1次側に2Aのヒューズがはいっていれば、このヒューズは瞬時に溶断して、回路全体を保護してくれます。(私の経験では、事実、そのようになりました。)

では、プリアンプ用電源トランスではどうでしょうか。このトランスで同じショート事故が起こった場合、1次側に流れる最大電流は0.5Aになります。1次側に0.5Aのヒューズがはいっていても、このヒューズは溶断しません。従って、このトランスからはやがて焦げ臭いにおいとともに煙が立ち昇ることになるでしょう。(私の経験では、事実、そのようになりました。)

このように、B電源のショートという怖い事故が発生したとしても、必ずしもヒューズが飛ぶわけではないことを知ってください。

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