私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
アルミ電解コンデンサの逆電圧と無(両)極性化

アルミ電解コンデンサに逆電圧をかけたら・・・

アルミ電解コンデンサの向きを逆につけてしまったアンプの電源を入れてしばらくしたら・・・・ポン!プシュウ、なんていう音がして臭いニオイがした、といった経験はベテランなら誰でもやっていると思います。

FET差動バランス型ヘッドホンアンプを作って電源を入れ数秒ほどしたら、「ジュッ」と音がして電源回路の抵抗器から煙が上がったことがありました。4700μF/16Vを逆向きに取り付けてしまい、11Vの逆電圧がかかったのが原因でした。4700μF/16Vのアルミ電解コンデンサに11Vの逆電圧をかけると、数秒ほどでほとんどショート状態になり1A以上の異常電流が流れたのです。この時は、抵抗器が先に破壊してくれたおかげで4700μF/16Vは破壊を逃れ、改修後に正常動作を続けているうちに増えた漏れ電流も徐々に減少して復帰しました。

アルミ電解コンデンサに逆電圧をかけると、漏れ電流が増加して回路動作に異常をきたすとともに、その増加した漏れ電流のせいでコンデンサが過熱し、やがて内圧が上昇して破裂に至ります。耐圧以上の高い電圧をかけても同じことが起こりますし、耐圧以内であっても非常に古いアンプの中を開けてみると、アルミ電解コンデンサがパンパンに膨らんでいるのに出会ったりします。アルミ電解コンデンサは破裂事故が非常に多いので、アルミケースの上面にあらかじめ切れ目を入れて、内圧が一定値以上に上昇した時には積極的に破裂させるように配慮されているくらいです。


無(両)極性化の方法とメカニズム

普通のアルミ電解コンデンサを無(両)極性化するには、容量が等しい2個のコンデンサを互いに逆向きに直列につなぐ方法が推奨されています。この場合、耐圧は1個分となり、容量は半分になります。つまり、かさが4倍になるわけです。

何故、このような方法でいいのかというと、アルミ電解コンデンサに存在する漏れ電流のメカニズムがうまく働くからだと考えられます。アルミ電解コンデンサの漏れ電流の大きさは数十μAオーダーで、その値には規則性がありません。印加する電圧の正逆で著しい違いがあり、逆電圧では非常に低い電圧でもかなり多くの電流が流れます(右図、出展:ニチコン、アルミニウム電解コンデンサの概要)。

そして、アルミ電解コンデンサに正しい極性で直流電圧を印加すると、最初は漏れ電流が多いのですが時間とともに自己補修作用が働いて徐々に減少する(抵抗が大きくなるような変化)という性質があります。しかし決してゼロになることはなく、数μAから数十μAくらいの範囲で不規則に変動を続けます。アルミ電解コンデンサに逆電圧を印加すると、逆に漏れ電流はどんどん増加してゆきます(抵抗が小さくなるような変化)。

2個のアルミ電解コンデンサを互いに逆向きに直列につないだ状態で電圧を印加すると、正しい極性で接続した側のコンデンサの漏れ電流は徐々に減少しますが、逆接続側のコンデンサの漏れ電流は増加します。そのため、正しい極性で接続されているコンデンサにかかる電圧が徐々に高くなり、逆接続側のコンデンサにかかる電圧は徐々に低くなるわけです。この変化が継続的に生じてやがてほとんどの電圧は正しい接続のコンデンサにかかるようになり、逆接続側のコンデンサにかかる電圧は限りなく低くなって釣り合ったところで安定するというわけです。


実験によるメカニズムの検証

2個のアルミ電解コンデンサを使って無極性化した時に、何が起きているかを調べてみました。実験回路は下図のものを使いました。DC12Vを電源とし、3kΩの抵抗器と6Vのツェナダイオードを使った簡単なシャント型の6Vの定電圧電源を用意します。こうしておけば、万が一コンデンサ側でトラブルが起きても、3kΩがあるために過大電流が流れことが回避できるからです。この回路にC1とC2の2個のアルミ電解コンデンサを取り付けて、逆向きになった側のコンデンサ(C2)にかかる逆電圧の状態を測定・監視しました。

C1、C2として1000μF/10Vのアルミ電解コンデンサを使った結果は以下のとおりとなりました。

初期状態 ・・・ 容量が同じで直列になった2つのコンデンサに6Vを印加した直後は、2つのコンデンサには同じ電圧すなわち3Vずつが生じます。実測結果もそのようになりました。
10分後 ・・・C2側にかかる電圧はじわじわと低下しはじめ、10分後には2Vくらいまで下がりました。C1側にかかる電圧は4Vです。
1時間後 ・・・1時間ほどするとC2側にかかる電圧は0.6Vくらいまで下がり、電圧の下がり方がペースダウンしてきました。どうやらこれくらいのところで落ち着きそうです。C1側にかかる電圧は5.4Vとなっています。
条件を変えると ・・・ 条件を変えるとC2にかかる電圧は0.9Vくらいで一時的に均衡することもありましたが、時間が経つと0.6V〜0.7Vあたりのどこかに収束するようです。容量や耐圧が異なるアルミ電解コンデンサでも実験しましたが、C2にかかる収束電圧が1Vを超えることはないようです。


逆電圧は1V以下にする

アルミ電解コンデンサは、たしかに極性に合わせて正しい方向に電圧をかけて使うことになっていますが、1V以下の逆電圧であれば長期にわたって正常に機能するというのを何かで読んだことがあります。本ページの冒頭のグラフを見ても、1V以下の逆電圧では漏れ電流が激減しています。この実験では、C2にかかる逆電圧は1V以下のどこかに落ち着きそうだということがわかりましたが、これくらいの逆電圧であれば回路に組み込んでもかまわないということなのでしょうか。

これはニチコンのテクニカルドキュメントからの引用ですが、「逆接続でも1Vほどの耐圧がある」というニュアンスの書き方が見られます。

電気技師向けのトラブルシューティングの本を読んでいたら「製造時に生じたアルミ電解コンデンサの逆取り付けが後日発覚した場合、印加される逆電圧が1V以下であるならば、無闇にいじってトラブルの原因を作るよりもそのまま放置した方が機材の信頼性は維持できる」と書いてありました。

但し、これが言えるのはアルミ電解コンデンサとOSコンだけで、タンタル電解コンデンサは該当しません。タンタル電解コンデンサはたとえ低圧・短時間であっても逆電圧がかかるような使い方をしてはいけません。何故かというと、逆電圧がかかると内部ショートのリスクが激増するからです。


無(両)極性化のポイント

アルミ電解コンデンサは、無(両)極性化したからといって比較的大きな電圧や電流を扱う交流回路に使うことはできません。何故なら、逆接続になった側が耐えてくれるのは緩慢に生じた直流電圧の均衡のおかげであって、オーディオ信号のような短いサイクルで逆電圧をかけていいというわけではないからです。そういう意味では、交流ほどでなくても頻繁に±が入れ替わるような回路もダメです。無(両)極性化に過剰期待をしてはいけません。

逆に、印加される逆電圧が1V以下の場合は、わざわざ無極性化しないで1個のアルミ電解コンデンサのまま実装しても問題ないということです。たとえば、このトランジスタ式ミニワッターPart5では、負帰還回路に入れた220μF/10V(赤丸)にはDCオフセット電圧がかかりますが、DCオフセットはプラスの場合もあればマイナスの場合もあり、その範囲は±3mV程度です。1Vよりもずっと小さい値であるため両極性化していません。但し、電源OFF時にスピーカー端子に過渡的に若干のマイナス電圧が現れるため、どちらかというとコンデンサのプラス側をアースに向けた方が良さそうだという判断をしています。


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