私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
線材

アンプ内部の配線材:

以前、ここで「私は、ヒゲが嫌いなのと作業のしやすさ、枝振りの整えやすさの点でメッキなしのビニル被覆の銅単線を愛用しています。用途によって単線の太さを使い分けています」と書きましたが、今は宗旨替えして多芯線を使っています。単線は単線でいい面もあるんですが、しなやかさに欠けるのでやめてしまいました。

みなさんの製作例の画像を拝見するとかなり太い線材が目立ちます。私が使っている線材は頒布もしていますが、これを受け取った方の多くが思っていたよりも細いことに驚かれます。通常は0.18sq(AWG24〜25相当)、電流が多くなると0.3sq(AWG22〜23相当)を使います。回路に流れる電流の大きさや、回路インピーダンスの状態をよく考えると、そんなに太い線材である必要がないことに気づきます。むしろ、太すぎると心線がラグ穴に通らなかったり、隣の端子に接触しそうになったり、ハンダづけがきたなくなってかえって接触不良の原因を作ってしまいます。私があまり太い線材を使わないのは、回路の信頼性を高めるためです。

シールド線はできるだけ使用しないでもすむような工夫をします。静電誘導ノイズは、金属ケースが守ってくれますからシールド線は必要ありません。電磁誘導ノイズは、アルミケースは素通しですしシールド線も無力ですから、ノイズを防ぐ目的では、金属ケースを使う限りシールド線の出番はありません。使う必要のある場合というと、静電容量によるチャネル間の飛びつき防止があります。普及タイプの低容量型のものを使います。太いものは使いません。しかし、これもシールド線を使わずに済ませる方法があります。回路インピーダンスを下げてしまえばいいのです。

簡単な計算をしてみましょう。近接する2つのチャネルの線間容量が5pFほどあるとします。5pFの20kHzにおけるリアクタンスは1.6MΩです。回路インピーダンスが800Ωであれば、1/2000すなわち-66dB、100Ωならば-84dBの飛びつきになります。入力回路の場合はCDプレーヤなどのソース機材の出力インピーダンスがそのまま回路インピーダンスになるのでかなり低い値なります。また、最近手を出した平衡伝送アンプではシールド線の必要はほとんど皆無なので、これはなかなかいいですね。


機器の接続ケーブル:

機器をつなぐケーブルは、扱いやすさ、コネクタ部分の接触性、価格、見た目で選んでいます。扱いやすさとは、硬すぎず太すぎずに適度なしなやさかや手触りなどをさします。コネクタ部分の接触性はとても重要で、接触抵抗が大きかったり不安定だと音が歪みます。RCAプラグの場合、高価なものほど先のアース部分がかちかちでバネがきかないですね。そんなものよりも百均のケーブルの方がずっとましかもしれません。ちなみに、ビデオデッキなどについてくいる細めの安っぽいRCAケーブルは扱いやすいので重宝しています。価格は、高い方がいいと思う人と、安い方がいいと思う人の二種類に分かれるようです。私は後者です。やたらと太いケーブルやど派手なケーブルは好みません。


高級ケーブル:

オーディオ専門の売り場に行くと、ライン・ケーブルやスピーカー・ケーブルとして1mあたり数千円(いや数万円かもっとお高い)もする霊験あらたかなケーブルが販売されています。私は、そういうたぐいのケーブルは、詐欺まがいのおまじないの壷に近いものだと思っています。あんなものを使ったっていい音になんかなるもんか、そんなことをするくらいなら、風呂にはいってついでに耳の穴の掃除でもした方がはるかにいい音になる、と思っています。(ほうら、アタマにきはじめたでしょう)

たとえば、録音現場で使用されるマイクロフォン・ケーブルは一体どれくらい長いのでしょうか。ホールの3点吊りマイクのケーブルに至っては100m超なんていうのはざらです。CDプレーヤやアンプの内部配線はどうなのでしょうか。トランスには、あきれるくらい長い線材がぐるぐると巻かれていますし、スピーカの内部にだってネットワークやボイスコイルも含めると実に長い線材が使われています。それなのに、CDプレーヤとアンプを繋ぐ1mかそこいらの線材を取り替えて「やれ、音がやわらかくなったの、帯域が広くなったの」と騒ぐのには少々食傷気味な私です。

博多から東京まで行くのに、名古屋-三河安城間だけグリーン席に乗って喜んで、残りの全行程は立ち席だったことを忘れているような気がします(ちょっと違うか)。電線屋さんのWebサイトを見ると、線材によっていかに音が激変するかひたすら語っていますが、痛々しいなあと思う私です。

問題は、バランス感覚にあるような気がします。また、お金や物量の投下とその効果とは、必ずしも右上りの相関関係ではないという点も重要です。「風邪薬を買って来い。」「どれにしますか。」「馬鹿、いちばん高いのに決まっているではないか。」というのは、私が15年前に経験した実話ですが、人間それぞれに価値観が異なり、いちばん高い風邪薬だとやっぱり治りが早い人もいるのかもしれません。ですから、人それぞれに好きずきで一向に構わないのですが、私にも私なりの好きずきというものがありますので、私の流儀にまるで合わない方のアンプの製作のお手伝いだけは御免蒙りたいものです。


配線材による音の変化:

変化は、時として明確に現われ、時としてさっぱり現われません。また、音が変化したからといって、それがいいことなのかどうかは別問題ではないでしょうか。実に、オーディオの世界では何をやっても音が変わります。カートリッジの端子とヘッドシェルをつなぐたかだか2〜3cmのリード線(カートリッジ〜プリアンプ間の全体の長さからみたらわずかな距離)を替えただけでも音が変わってしまうのですから、話は厄介です・・・オイコラ、さっきまで音なんか変わるものか、なんて書いてたじゃないか。はっはっは。

高価なケーブルが音が良いかというとそうではありません。私が製作したオーディオ機材の多くがプロの現場で評価されて使われていますが、いずれもAISAN製の廉価な標準品であるHKVおよびKVケーブルを使っています。そういうケーブルを通ってレコーディングされた音楽ソースが、数万円のモンスターケーブルで再生されているというアンバランスがなんともいえないです。

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