私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その20(カレントミラー)

カレントミラーの動作の仕組み

カレント・ミラー回路とは、その名のとおり回路上の2つの電流(カレント)が鏡(ミラー)に映したように同じ振る舞いをする回路です。基本回路は同特性の2つのトランジスタを向き合わせるように配置します(下図(A))。この回路では向かい合った2つのトランジスタのコレクタ電流は常に等しくなります。主導権を握っているのは左側に流れる電流です。左右2つのトランジスタが同じ特性の場合、右側のトランジスタのコレクタ電流は左側と(ほとんど)同じになります。

ベース〜エミッタ間電圧・・・大雑把には0.6Vということになっていますが、そうではありませんね。常に0.6Vだったらカレント・ミラー回路は動作しません。ベース〜エミッタ間電圧がベース電流に対して指数関数的に変化する性質(右下図)を利用した回路だからです。この性質が機能しなくなるとカレント・ミラー回路の正確さは失われます。<ベース〜エミッタ間電圧はベース電流に依存します。同じベース電流でも、hFEが異なればコレクタ電流は同じにはなりません。2SC2547でグラフの線が2つに分かれているのは、hFEが異なる2グループがあったからです。

上の図(B)のように抵抗器と組み合わせることで値が異なる2つの電流が比例して変化するようにできます。この場合、左右のトランジスタのコレクタ電流は抵抗値の比率に応じて変化するようになります。また左右の抵抗値が同じであればコレクタ電流は(A)の回路よりも正確に同じになります。

<定電流効果>
電流をコピーする働きがあるということは、左側のトランジスタのコレクタ電流が変化しなかったら右側トランジスタのコレクタ電流も一定値を保つということになります。つまり定電流回路だということです。

右側のトランジスタのコレクタ電圧は何Vにもなりえるので電圧の制約はありません。電圧が自由だということは、回路インピーダンスは(理論的には)無限大だということです。カレントミラーをエミッタ共通回路の負荷にすると無限大の利得が得られます。

<コレクタ〜エミッタ間飽和>
カレント・ミラー回路の左右2つのトランジスタのコレクタ〜エミッタ間電圧は同じではありません。左側は0.5〜0.7Vしかないのです。コレクタ〜エミッタ間電圧が十分に高くない状態で、コレクタ電流が大きくなるとトランジスタは飽和し始め、hFEが著しく低下します。hFEが低下すればカレント・ミラーの正確さは失われます。カレントミラーで使用するトランジスタは、VCE-satが良好なものを選ぶ必要があります。

2つのトランジスタの特性図のコレクタ〜エミッタ間電圧が0.6Vのところに線を引きました。2SC2240はクリアしていますが、VCE‐satが高い2SC1775Aは何mAも流さないのに見る見るうちに飽和してゆきます。

2SC1775A→ ←2SC2240

<アーリー効果>
左右のトランジスタのコレクタ〜エミッタ間電圧が同じでないということは、2SC1775Aのようなアーリー効果が強いトランジスタはカレントミラーには向かないということです。下の2つのデータの10mAあたりの傾きを比較してください。2SC1775Aはかなり斜めですが、2SC2240は水平を保っています。

2SC1775A→ ←2SC2240

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