私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その6 (コレクタ電流特性とロードライン)

2SC1815を使った実験回路のロードライン

さて、増幅回路につきもののロードラインのお話です。

下図は東芝発表のデータシートに掲載された特性図に赤い線でロードラインを書き込んでみたものです。電源電圧が24Vでコレクタ負荷抵抗が12kΩですから、VCE=0V、IC=2mAのポイントと、VCE=24V、IC=0mAのポイントの結んだ直線がこの回路のロードラインになるわけですが、Y軸(IC)側のスケールが百mAのスケールなので2mAなどという少ないコレクタ電流ではロードラインがほとんど水平になってしまい、わけがわからなくなっています。またX軸側は電圧が足りないので継ぎ足してようやく収まりました。

下図は同じロードラインですが、スケールを変えたものです。但し、2SC1815は適当なデータが出ていないので、似た特性の2SC945のものを拝借しています。これくらいのスケールですとロードラインらしい角度になってくれます。トランジスタは、コレクタ電流が少ない領域では、特性曲線はこのようにかなりきれいに揃った直線になります。但し、だからといって増幅回路として使った場合の直線性がいいわけではありません。この図は、ベース電流とコレクタ電流の関係を表しているのであって、ベースに入力されたオーディオ信号とコレクタ電流の関係を表しているものではないからです。

真空管の場合は、ロードラインを引くことによって動作の最適な領域を見つけることができ、利得もロードラインから求めることができるなど、設計上きわめて重要なデータが得られました。一方で、トランジスタの場合はだいぶ様子が違っていて、ロードラインから利得を知ることはできません。動作の最適さ具合は、コレクタ電流が数十mA以上にならないと意味がなさそうです。

真空管とトランジスタの決定的な違いは、トランジスタは非常に低い電圧でもちゃんと動作する素子であるという点です。真空管は10Vや20Vくらいの電圧ではまともな特性は得られませんが、トランジスタは数V以下の領域でもまともな特性が得られます。2SC1815の場合は1V以下でも立派に動作しそうなことがわかると思います。


負荷が60Ωと200Ωの場合のロードライン

2SC1815のコレクタ電流の最大定格は150mAです。このトランジスタを能力一杯に使った場合はどうなるのか検証してみましょう。ヘッドホンアンプの出力段に使うと仮定して電源電圧を12Vとし、60Ωのロードラインを引いてみることにします(下図)。200Ωのロードラインも追加で書き込んであります。

<60Ωのロードライン>

この特性データの2SC1815は、無理なく動作させた時のhFEは150くらいの個体ようです。コレクタ電流が126mAくらいのところでベース電流=1mAの特性曲線と交叉しています。ということは、このポイントでのhFEは126なわけですから、150よりも若干低下しています。ベース電流=2mAの線と交叉しているポイントのhFEは78となり、。ベース電流=3mAのポイントではhFEは55とどんどん低下してゆきます。トランジスタは、コレクタ電流が増加して最大定格に近づくにつれてhFEは小さくなるという性質があります(※)。hFEは小さくなると、そのトランジスタを駆動するために必要なベース電流がどんどん大きくなってゆき、回路が設計どおりの動作をしなくなってきます。

※トランジスタの場合、コレクタ電流の最大定格近くでhFEが低下する、という言い方は正しくなくて、hFEが低下して使い物にならなくなるコレクタ電流値をもって最大定格としたた、という風な事情があります。
左下図は、2SC1815のhFE特性図です。参考のため右下に東芝の2SC1815とほぼ同等でNEC製の2SC945(製造中止)のデータも掲載しました。2SC945のhFE特性はとても標準的です。hFEはコレクタ電流が増えるにつれて徐々に大きくなり(ゆるい右上がり)、あるところから上は急激に低下するという性質があります。2SC1815はちょっと変わったトランジスタで、コレクタ電流が少ない領域でもhFEが低下しないという特徴がありますが、こういう特性のトランジスタはとても珍しいです。

2SC1815のデータの実線は、コレクタ〜エミッタ間電圧が6V(以上)の場合の特性で、この条件であればコレクタ電流が100mAくらいまではhFEの低下はありません。もっとも、コレクタ〜エミッタ間電圧が6Vの状態で100mAのコレクタ電流を流し続けたら、コレクタ損失が600mWになって定格オーバーです。破線はコレクタ〜エミッタ間電圧が1Vの場合の特性で、これですとコレクタ電流が30mAを超えるとhFEはどんどん低下してしまいます。これらのことから、2SC1815を出力段に使ったヘッドホンアンプでは、60Ω以下のインピーダンスのヘッドホンを低い電源電圧で無理なく駆動するのはかなり厳しそうだということが予想できます(もっとも、これくらいの無理であれば耳で聴いてもわからないです)。

←2SC1815 2SC945→


<200Ωのロードライン>

200Ωのロードラインでは60Ωの時とはうって変わって、動作条件が非常に楽になっている様子がわかります。それでもコレクタ〜エミッタ間電圧が2V以下になるとhFEの低下の影響が出はじめます。600Ω負荷を想定したライン出力ならば無理なく設計できそうです。もちろん、今説明に使っている回路ならば何の問題もありません。


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