私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その2 (DC動作を安定させる)

改良パターンその1

下の回路は前ページの回路をすこしだけ変更してDC動作の安定度を高めたものです。どこがどう違うかというと、ベース電流を決めるための抵抗をつなぐ先が電源の24V側ではなく、コレクタになっています。

この回路のDC動作条件を計算で求めるのはちょっと面倒です。最初の回路では、簡単な式でベース電流値が求められましたが、この回路ではどうでしょうか。ベース電圧が0.63Vであることは確定できますが、コレクタ電圧が何Vになるかはすぐにはわかりません。コレクタ電圧がわかるためにはコレクタ電流値がわからなけれなりませんが、コレクタ電流がわかるためにはベース電流を求める必要があり、ベース電流を求めるにはコレクタ電圧がわかる必要があるからです。これではぐるぐるまわるばかりでいつまで経っても何も決まりません。

この回路のDC動作条件を求めるためには中学生レベルの方程式を立ててそれを解く必要があります。どんな方程式になるかはあとまわしにするとして、この回路でhFEが200と240と300の3パターンでDC動作がどうなるかをまとめました。

hFE200240300
ベース電流(IB4.6μA4.2μA3.7μA
コレクタ電流(IC0.92mA1mA1.11mA
コレクタ電圧13V11.9V10.6V
コレクタ電圧変化率109%100%89%
利得425倍462倍512倍

下の表は前ページの回路の場合です。コレクタ電流に着目してください。前ページの回路では「0.84mA〜1mA〜1.26mA」の範囲で変化したのに対して、この回路では「0.92mA〜1mA〜1.11mA」の範囲となって、hFEの違いによるこコレクタ電流の変化が小さくなっていますね。改良パターンその1の回路の方がトランジスタの特性のばらつきが出にくい回路であるわけです。回路として優れているというほどではありませんが、すこしまともなので結構メーカー製のアンプで使われています。

hFE200240300
ベース電流(IB4.2μA4.2μA4.2μA
コレクタ電流(IC0.84mA1mA1.26mA
コレクタ電圧13.92V12V9V
コレクタ電圧変化率116%100%75%
利得388倍462倍582倍

実はこの回路は、コレクタからベースにDC領域で負帰還がかかっています。以下に、DC帰還がどんな作用をしているのかを説明します。

hFE値が変化して大きくなったとします。hFEが大きくなるとコレクタ電流が増えますね。コレクタ電流が増えると、12kΩでの電圧降下が大きくなりますから、コレクタ電圧は下がってきます。コレクタ電圧が下がると2.7MΩに流れる電流、すなわちベース電流が減りますからコレクタ電流が減ろうとします。つまり、hFEが大きくなってコレクタ電流が増加しようとすると、回路の中をぐるりとまわってコレクタ電流を減らすような力が働くのです。これすなわち負帰還の作用にほかなりません。このDC帰還の性質があるおかげで、改良パターンその1では安定度が若干ですが向上したのです。


改良パターンその2

この回路は、改良パターンその1にもうすこし工夫を加えてDC動作の安定度をさらに高めたものです。

これまでのいずれの回路パターンに比べると、hFE値の影響が非常に小さくなっています。コレクタ電流、コレクタ電圧ともに変動率は±4%程度まで抑えられています。ベース電流に比べて51kΩに流す電流が大きいため、hFE値が変動しても680kΩに流れる電流が変化しにくいためです。トランジスタ回路の設計では、hFE値が変動しても回路動作に変化が生じにくいようにするには、ベース電流が変化しても回路全体の電流バランスが変化しにくいようにすればいいわけです。

hFE200240300
ベース電流(IB4.8μA4.15μA3.45μA
コレクタ電流(IC0.96mA1mA1.04mA
コレクタ電圧12.3V11.8V11.4V
コレクタ電圧変化率104%100%97%
利得443倍462倍480倍

この回路にはひとつ弱点があります。詳しくは後述しますが、トランジスタのベース〜エミッタ間電圧(ここでは0.63V)は一定ではないこと、特に温度によって変化するという性質の影響が出てしまうことです。ベース〜エミッタ間電圧は、温度が1℃高くなるごとに約0.002V減るのです。ですから30℃上昇すると0.06Vも減ってしまうため、0.63Vではなく0.57Vになってしまうのです。この回路の動作条件はベース〜エミッタ間電圧が一定であることがとても重要なので、hFE値が変動に対しては安定していますが、温度変化には弱いということになります。


改良パターンその3

この回路は、トランジスタ増幅回路の基本ともいえるものです。この回路は、改良パターンその2とほぼ同等の安定度が得られている上に、温度によるベース〜エミッタ間電圧の変化の影響を受けにくくしてあります。

hFE値の影響度合いは改良パターンその2と同等です。91kΩの値を小さくしてここに流す電流を増やせば増やすほど、ベース電流が相対的に小さくなるのでDC動作の安定度は高くなります。しかし、ベース側の2個の抵抗値は入力インピーダンスを支配していますから、この2個の抵抗値を小さくするにも限界があります。

hFE200240300
ベース電流(IB4.8μA4.2μA3.6μA
コレクタ電流(IC0.96mA1.01mA1.07mA
コレクタ電圧12.4V11.8V11.25V
コレクタ電圧変化率105%100%95%
利得443倍462倍494倍

エミッタ側に抵抗を入れることで回路の動作条件の選択に自由度と高めることができますが、エミッタ抵抗と並列にコンデンサを入れないと所定の利得が得られません。このコンデンサをはずすと強い電流帰還がかかるため利得が著しく減少する上に、低域側に時定数がでますので、コンデンサを嫌う設計者が増えるとともに徐々にこういう形式の経路は使われなくなりました。


プチまとめ

以上にみてきたように、トランジスタ回路では、利得とか周波数特性とか歪み率といったオーディオ的な特性を云々する以前に、hFEのばらつきや温度変化などの条件に対してスタティックなDC動作の安定をどう確保するかということが重要な設計ポイントになります。このことを考慮していないトランジスタ回路はありません。


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