私のアンプ設計マニュアル / 部品購入・調達ガイド
1.「真空管」の買い方

はじめに

このページに書かれたことは私の個人的意見であり、かつ本心を率直に語ったものですので、反論・ご意見は受け付けませんのであしからず。

まず、思い込みや迷信を祓って、歴史的事実をよく見ましょう。真空管は軍事や通信や放送、コンピュータ、家電といった実用のための産業資材でした。十分な性能と信頼性を確保しつつ、廉価に確実に供給されることが最も重要でした。それは現在の他の産業資材と変わることはありません。高信頼管というのが多数作られましたが、それは偵察機や爆撃機や戦車や軍艦に積んで軍事行動をしても壊れないためであり、あるいは電話局で確実に交換機を動作させるためであり、映画館での上映が中断しないためであります。音のよしあしとは無関係な世界です。そこのところをよく理解しておかないと、今に至ってくだらない商売にひっかかります。


真空管の製造・供給事情

真空管には、1988年以前(ドイツでは1984年)の本当の真空管時代に製造されたものの生き残りが今も供給されているものと、それ以降になっても衰えないオーディオ需要・ギターアンプなどの音楽需要をあてこんで再生産されたものとに大別できます。

前者の最大のものは米国で製造されたもので、1930年代から戦中・戦後の冷戦時代を経て1980代までの長期にわたって膨大な量がつ作られました。この時代のものは真の真空管時代ともいえるもので、良きアメリカを代表する産業資材であり、品質は安定していてつくりもしっかりとしています。次いで欧州系のものがありますが、それぞれにお国の特徴をよく表しています。すなわち、英国製はその労働品質の悪さからか国民性からなのかおしなべて品質が劣りますが、仏蘭西製よりは相当にましです。独逸製はさすがに高信頼を誇ります。独逸で製造が中止された時、工場がソックリそのままユーゴスラヴィアに売却・移転されたのでかなり遅くまで良いものが作られました。日本では東芝、NEC、松下の3社が特に多く製造し、品質もかなり高いです。面白いのはロシアで、冷戦時代のソ連で西側諸国の類似球・互換球だけでなく、独自の規格のものが多量に設計・開発され多量に出回っていたのが今頃になって私達の手にはいるようになってきました。東側諸国では西側よりも工業が立ち遅れたおかげでかなり最近まで真空管が製造されていたため在庫が多いのだそうです。

後者としては若干の東欧製のものと多くの中国製があります。中国という国を知っている人ならわかると思いますが、少数の比較的真面目にやっている人と、ズルいボロい商売としてやっているかなり多くの人々とがいます。ウソの多い国ですので、手を出す場合はそれなりの割り切りがいります。こういうことを書くと必ず「ちゃんとした人もいる」という反駁をいただきますが、突出して問題多き国であることは否定できないと思います。従って、当サイトでは中国製の真空管は扱いません。扱って欲しかったら顔を洗って出直してこいということです。

真空管はすでに時代を終えたものであり、今や過去の遺産を食い潰しているという現実があります。従って、新品とか保証とか交換といった概念はもうありません。未使用の準新品であっても製造工程の制約からそれなりにばらつきがあり、品質も安定していないので、購入してきた2本のうち1本が不良だったり、ステレオで使ったら左右で音量が違ったりということが起ります。購入される時は2本ではなくできるだけ3本以上で入手してください。私は、新品未使用品で購入したもので不良があっても店には文句は言いません。リスクは自分で持ちます。


音の良いブランドはあるか

ありません(キッパリ)。ブランドによる音の違いを中心に論じたい方はどこか別のところでお願いします。

しかし、製造者(ブランドではない)によって特性の傾向や品質などに違いがあることは事実です。製造者が違えば電極の素材や構造は同じではありません。ただ、それにこだわって特定の製造者ものや特定の形状のものを血眼になって追いかけてもあまり得るものがないと思います。また、そういう方向で頑張ってみても(あなたの個人的満足の世界を超えた)誰もが認めるいい音のアンプは作れません。たとえば、米国でいうとRCAやSylvaniaやGEのブランドが印字されていても、どこで作られたかは別物であり、この3社は相互に供給し合った時期もあるので本当のところはなかなかわかりません。またこれを区別する意味もありません。

日本人は何故か英国ブランドに弱いという奇癖があります。確かに、英国製のスピーカーの製品力には目をみはるものがありますが、工業製品全般にいえる英国製品の品質の危うさをご存知ないのでしょう。

Telefunkenに代表される独逸ブランドの真空管の多くはとんでもない価格がついて流通しているようで、さらには本物か偽物かの話題でネットが賑わっています。欲しがる人がたくさんいるから法外な値がつき偽物を作る奴が出てくる。そして偽物かもしれないことを知りつつお金を積んで手に入れようとする。人間とは面白い生き物だなあと思いつつ私は完全に傍観者でいます。


高信頼管信奉

いわゆる4桁球信奉というやつです。12AX7の高信頼管というと7025Aや6681があります。12AU7では6680や6189、6DJ8では6922や7308がこれにあたります。また同名であっても「通測用」と印字された球もあります。こういう特別な名称や表記があるといかにも音がよさげに思えてしまうのが人の愚かさというのでしょうか。しかし、真空管の歴史の中で音がいいということを意識して特別扱いするという考え方は存在しませんでした。音がいいのではなく、振動に強いとか、一定時間の寿命を規定している(長いとは限らない)とか、そういうことです。こうした球が音がいいと考えるのは、「妄想」以外のなにものでもありませんし、これらの球に大金を払うのは私からみるとじつにお目出度い行動だということになります。


真空管の価格

今日の市場価格は完全に需給バランスで決定されています。供給が多ければ廉価であり、不人気な球も廉価であり、数が少なかったり欲しがる人が多ければ高価です。皆が欲しがる真空管を買いたければ多くのお金を払う必要があります。そして、そういうお金の使い方で大きな満足を得る人々もかなりいるという事実があります。それだけのことです。当サイトには無縁な世界です。

当サイトでは、多くの方が記事を参考にして製作される可能性が高いので、基本的に供給が豊富な真空管しか使いません。それで何の問題もないだけでなく、申し分のない音を得ることができています。オーディオの煩悩に悩まされている方は、はやく大人になりましょう。


マッチドペアのことなど

ことさらにマッチドペアと称して特別扱いの価格設定をしたものや、いかにも特殊な選別をしているかの宣伝文句を連ねて売っている店がありますが、私はそういった誇張された商業ベースのビジネスについては全く否定的です。ごちゃごちゃと能書きを書き連ね、多くを語る店ほど見苦しく無知をさらけ出しているように思えます。

マッチドペアは、プレート特性上のある1ポイントにおけるプレート電圧とプレート電流とバイアスの組み合わせが揃っているにすぎないので、ペア球と称するものでも特性の傾向が揃うわけでもなく、利得が揃うことを意味するものでもないことは本マニュアルを通読された方ならよく理解されていると思います。まして、双3極管で2ユニットのばらつき具合の組み合わせまで揃えることの非現実性を考えるといかにナンセンスであるかがわかります。真空管の性質をよく理解した良心的な店ほど多くを語らず、マッチドペアの扱いもやっていません。


その他

オークションで「○○互換」と称しているものには確かに互換といえるものと、とても互換があるとは言えないものが多く見つかります。6N6Pを6DJ8互換と称するデタラメぶりには参りました。6N1Pを6DJ8互換とするのも私には疑問です。本書中の記述で互換かどうかの確認ができない場合は、ご自身で真空管データをダウンロードして比較するか、当サイトの掲示板にて問い合わせるなどしてください。
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