私のアンプ設計マニュアル / 工具と製作編
配線材の選択と使い方

線径とAWG

電気ケーブルは基本的に銅を導体としていますが、その太さは断面積で表します。面積のことを英語でスクエア・メートルと言いますが、線材の場合はスクエア・ミリメートルで表記し、一般に「何スケア(Sq)」という風に言います。電線屋さんに行って「0.3スケアの撚り線をください」と言えば大体話が通じます。秋葉原の線材屋さんの店頭には、0.15スケア、0.18スケア、0.3スケア、0.5スケアあたりが並んでいます。私が最もよく使うのは0.18スケアで、場面によって0.1スケア、0.3スケア、0.5スケアあたりを使い分けています。

Wikipediaによると、AWG(米国ワイヤゲージ規格、American wire gauge)は断面が円形で、固体、非鉄金属、電気伝導体の)ワイヤのUL規格であると書いてあります。日本では上記のスケアで表記された線材とAGW表記の線材の両方を売っています。

ご注意:表のデータは一般的な概略値で、実際の値は各メーカーごとに微妙に異なります。記事中の計算値も同様です。

AWGスケア(Sq)断面積線径(mm)抵抗値(Ω/m)抵抗値(mΩ/cm)最大電流(A)Note
--0.035-0.4874.870.635μ厚×1mm幅の基板ストリップ。
--0.0620.280.2752.7510.28mm径のジャンパー線。
28-0.0810.320.2132.131.4-
27-0.10210.36070.1691.691.7-
--0.1240.28×2本0.1381.3820.28mm径のジャンパー線×2本。
26-0.12880.40940.1341.342.2-
25-0.16230.45470.1061.062.7-
-0.180.180.47890.1011.012.8HKV、頒布しているもの。
24-0.20470.51050.0840.843.5-
23-0.25810.57330.0670.674.7-
-0.30.30.61820.0620.675KV、頒布しているもの。
22-0.32560.64380.0530.537-
21-0.41050.72290.0420.429-
-0.50.50.7980.0380.4210-
20-0.51740.81180.0330.3311-
19-0.65290.91160.0260.2614-
18-0.82261.0240.0210.2116-


撚り線と単線

単線は単純に太さと断面積(スケア)で表記できますが、撚り線はどれくらいの太さの線(素線)を何本集めたのか(素線数)という表示をします。たとえば、頒布しているAISAN HKVおよびKVは、以下の通りです。

HKV: 0.18スケア、0.18mm径×7本
KV: 0.3スケア、0.18mm径×12本
実際に計算してみましょう。

HKV: (0.18mm÷2)×(0.18mm÷2)×3.14×7=0.178
KV: (0.18mm÷2)×(0.18mm÷2)×3.14×12=0.305
撚り線には、素線にスズメッキを施したものとメッキなしのものがあります。同じ太さであればスズメッキありの方が銅の量が少なくなるので抵抗値は数%程度高くなりますが一般的な数字はありませんので、気になる方は各メーカーのデータを自力で調べてください。

たとえば、線材屋さんで0.18スケアのHKV注文する時は、0.18スケアのつもりで「コンマ18のケーブルをください」と言うとお店の人は混乱し苛立ちます。0.18mm径を使った撚り線なのか、それを何本撚ったものなのか、はたまた0.18スケアのことなのか、撚り線なのか単線なのかわからないからです。「コンマ18の7のビニル線をください」という風に言えば、欲しいのは単線ではなく撚り線であり、0.18mm径を7本束ねた0.18スケアであることが一発で特定できます。なお、0.18/7という風に表記しているメーカーと、7/0.18という風な表記のメーカーがあります。

私は1998年頃までは、アンプ内に配線は単線をよく使っていましたが、しなやかさながない、からげる時の作業性が悪い、ハンダごてで熱した時に熱が伝わりすぎてビニル被覆がめくれやすい・・・といった理由で撚り線に変更しました。撚り線を使う場合は、ヒゲが出ないようにするためにビニル被覆をむいてから心線をねじった上で薄くハンダメッキの下処理をしています。


電流を考慮する・・・消費電力と熱

線材は太いものほど抵抗値が小さくなり、流せる電流も大きくなります。たとえば、0.18スケアでは1mあたり0.101Ωですが、この線材に1Aを流した時と、3Aを流した時にどうなるか計算してみましょう。消費電力(P)は、

P=1A×1A×0.101Ω=0.101W
P=3A×3A×0.101Ω=0.909W
となります。0.1W程度であれば線材がほんのり暖かくなる程度ですが、0.9Wほどの電力消費になると過熱して芯線は触れないくらいの高温になります。いまどきの抵抗器は100℃の温度に耐えますし、アルミ電解コンデンサも通常品でも85℃です。線材のビニル被覆の耐温度は60℃(KV)〜75℃(HKV)というのが標準的ですから案外熱に弱いのです。0.18スケアの線材の最大電流の2.8Aが温度で決められたということがよくわかります。

線材は熱を出すのだということはよーく考えておく必要があります。線材の最大電流値は発熱量を根拠に決められていますが、その値は通風が良いことが条件です。周囲の温度が高かったり通風が悪い場合は、最大電流を流すことができません。若い頃のことですが、0.5スケアの線材に許容電流の70%である7Aを流しておき、これを束ねてゴムで縛っておいたところ数分もしないうちにジリジリと音がして煙が出てきて真っ青になった経験があります。


電流を考慮する・・・電圧降下

次に、線材における電圧降下(E)ですが、0.18スケアの1mの線材に1Aを流した時と、10Aを流した時にどうなるか計算してみましょう。電圧降下(E)は、

E=1A×0.101Ω=0.101V
E=10A×0.101Ω=1.01V
となります。この電圧が問題になるかどうかは回路条件によって変化し一律ではありません。250Vの電源電圧が0.1Vくらい下がったところで別に問題ない、というケースもあると思います。6.3Vのヒーター電源であれば、6.2Vに下がってしまうのでちょっと困りますね。AC100Vのケーブルを何十メートルも延長して使うと、最大電流以内であっても電圧が異常に下がってしまうようなことが起こります。流す電流が十分に線材の許容電流以下であっても、回路条件によってはダメだというわけです。

スピーカーケーブルとして5mの長さになったら抵抗値は0.505Ωにもなりますから流石にまずいでしょう。8Ωのスピーカーに対してダンピングファクタが100あるアンプであっても、スピーカーケーブルの抵抗成分のせいでダンピングファクタは13.7まで落ちます。この場合の電力ロスは11.5%です。もし片道が5mなのでしたら、線の長さは「往復」で10mになりますから、総抵抗値は1.01Ωということになり、電力ロスはなんと21%にもなり、ダンピングファクタは7.3まで落ち込みます。

アースラインだったらどうでしょうか。アースラインに1Aが流れていて10cm先でアース電位が0.01V変わってしまったらノイズや機器の誤動作の原因になります。真空管式のミニワッターの整流回路のリプル電流は100mAくらいですが、これがアースラインの中を流れると容易に1mVくらいのリプル電圧が生じます。アースの引き回しが悪くてその1mVのリプル電圧がアンプの増幅回路のアースを横切ったらどうなるでしょう。このような状態を「共通インピーダンス」といいます。増幅されてスピーカー端子から数mVのハムが出てきたらアンプとしては使い物になりません。1mVであったとしても、ハムが気になってNGだと思います。


共通インピーダンス

共通インピーダンスは線材の抵抗成分があることによって生じる現象です。共通インピーダンスの典型的な例は、ヘッドホンのケーブルにみることができます。ヘッドホンケーブルの多くは、Hot側が左右別の線ですがCold側は1本の線を左右共通にして使っています。このCold側の線には左右両方の信号電流が流れますが、この線材に存在する成功成分が共通インピーダンスです。これがあることで左右チャネル間でクロストークが生じますね。共通インピーダンスはアンプ内の配線でも生じます。アースの引き回しが悪くてハムが出たり左右チャネル間クロストークが悪化するのは共通インピーダンスが犯人です。

共通インピーダンスで特に注意しなければならないのはプリント基板です。プリント基板のパターンの銅箔の厚さは標準で35μと非常に薄いものです(特注で70μというのもあります)。35μの厚さで1mm幅のストリップの断面積はたったの0.035スケアです。1cmあたりの抵抗値は5mΩほどもありますから、普通に使っている線材と比べて一桁大きく、基板パターンのそこいらじゅうに低抵抗の抵抗器が分散していると考えていいくらいです。そのため、普通に配線した時は問題がなかったのに、プリント基板に置き換えたらたちまちトラブル続出で性能が出ない、ということが起こります。大奮発して5mm幅にしたとしても、それでようやく0.19スケア並みにしかなりません。


実装の作業性を考慮する

オーディオの世界ではいろいろな人がいるようで、細い線材だと音が細くなると思い込んでいて、線材が太いことに執着する人が結構多いようです。しかし、線材の太さで音質が変わるようなことはありません。そもそも配線材は太ければいいというものではありません。太い線材は、スイッチなどの端子の穴に入らない、かさばる、ハンダづけがきれいに仕上がらない、ハンダが太って誤接触の原因になるなどのデメリットもあります。私が何故配線のほとんどに0.18スケアを使うのかには理由があります。これくらいが、太過ぎず細すぎずで最も作業性が良く、電気的にもほとんどの場面で十分であるからです。

ものごとを感覚的にとらえるのではなく、線材の抵抗値をちゃんと理解&把握し、そこに流れる電流値を考え、さらにどのように実装し配線するのかを考えてください。そうすれば、無闇に太い線材を使ってベテランから冷やかな目で見られることもなくなります。


私のアンプ設計マニュアル に戻る