私のアンプ設計マニュアル / 周辺技術編
4.トランジスタの基礎知識その2 (増幅回路の設計)

3つの接地方式

トランジスタに増幅という仕事をさせようとした場合、3つの基本回路があります。「エミッタ接地増幅回路」と「コレクタ接地増幅回路」そして「ベース接地増幅回路」です。3つある端子のうち、どれが1つが交流的に接地されているかで、この名前がつきました。下図は、電圧増幅回路の例ですが、「エミッタ接地増幅回路」では、エミッタが接地されていて、入出力の基準になっています。「コレクタ接地増幅回路」では、コレクタはB電源に接続されていますが、B電源は交流的にはアースと同じですから、コレクタが接地されていると考えることができるわけです。従って、コレクタが入出力の基準であり、入力信号は「ベース〜コレクタ間」に与えられます。

しかし、実際の回路では、教科書や検定の試験問題と違って必ずしも3つある端子のうち1つが接地されていない場合が多く、そのような時は、いずれか1つの端子接地されていなくても、入出力の共通端子(コモン端子という)になっていれば同様に解釈します。下の「エミッタ接地増幅回路」では、入力は「ベース〜エミッタ間」に与えられ、出力は「コレクタ〜エミッタ間」から得ていますから、エミッタがコモン(共通)になっています。「コレクタ接地増幅回路」ではコレクタがコモンです。

「ベース接地増幅回路」だけは他と異なる特殊事情があります。それは、負荷(RL)を駆動する出力信号電流は、コレクタ〜ベース間からは得られないということです。なぜならは、トランジスタの性質としてコレクタ〜ベース間には電流は流れないことになっているためです。従って、下図のように、エミッタ〜ベース間に与えられた入力信号が増幅されてコレクタ〜ベース間から得られる、というわけにはゆきません。出力信号電流はあくまでコレクタ〜エミッタ間からしか得られません。そこで、ベース接地増幅回路では、出力信号ループは「in〜エミッタ〜コレクタ〜RL〜アース〜in」というルートになります。

なお、真空管の増幅回路では「○○接地」という言い方はしませんが、ここであげた3つのタイプそれぞれに対応する増幅回路がやはり存在します。


エミッタ接地増幅回路

真空管の増幅回路は普通、カソードを交流的に接地して、グリッドが入力、プレートから出力を取り出します。これを「カソード接地増幅回路」とはいいませんが、実質的には「エミッタ接地増幅回路」と非常に良く似た動作をします。

トランジスタFET真空管(3極管)真空管(5極管)
エミッタ接地増幅回路ソース接地増幅回路------
接続入力ベースゲート(第1)グリッド第1グリッド
接地(コモン)エミッタソースカソードカソード
出力コレクタドレインプレートプレート
特性増幅率大きい
(数十〜数百倍)
大きい
(十数〜百数十倍)
大きい
(十〜数十倍)
大きい
(数十〜百数十倍)
入力インピーダンス中くらい
(数百Ω〜数十kΩ)
高い
(数百kΩ〜数MΩ)
高い
(数百kΩ〜1MΩ)
高い
(数百kΩ〜1MΩ)
出力インピーダンス中くらい
(負荷抵抗とほぼ同じ値)
中くらい
(負荷抵抗とほぼ同じ値)
中くらい
(数kΩ〜数十kΩ)
高い
(数十kΩ〜数百kΩ)
歪みまあまあまあまあまあまあ
(トランジスタよりはかなり良い)
まあまあ
(トランジスタよりはかなり良い)
入力容量中くらい中くらい大きい小さい
高周波特性まあまあまあまあまあまあまあまあ


コレクタ接地増幅回路

トランジスタ真空管(3極管)
コレクタ接地増幅回路カソード・フォロワ
接続入力ベース(第1)グリッド
接地コレクタプレート
出力エミッタカソード
特性増幅率0.9〜1.00.7〜1.0
入力インピーダンス高い(数十kΩ〜数MΩ)高い(数百kΩ〜数十MΩ)
出力インピーダンス低い(1Ω以下〜数百Ω)低い(数十Ω〜数百Ω)
歪み非常に低い非常に低い
入力容量中くらい中くらい大きい小さい
高周波特性良い良い


ベース接地増幅回路

トランジスタ真空管(3極管)
ベース接地増幅回路---
接続入力エミッタカソード
接地ベース(第1)グリッド
出力コレクタプレート
特性増幅率大きい(数十〜数百)大きい(十〜数十)
入力インピーダンス低い(数十Ω〜数kΩ)低い(数百Ω〜数kΩ)
出力インピーダンス中くらい(負荷抵抗と同じ値)中くらい(数kΩ〜数十kΩ)
歪みやや劣るやや劣る(トランジスタよりはかなり良い)
入力容量中くらい中くらい大きい小さい
高周波特性良い良い

工事中

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