私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
電圧増幅回路の設計と計算その7 (入力回路)

入力回路とは

メインアンプでも、プリアンプでも、かならずあるのが入力回路です。入力回路は、アンプにとって、外部とのインターフェースという重要な位置付けにあります。そこで、わざわざ「入力回路」と題して、独立した章を設けることにしました。

入力回路を決定する要素には、

等があります。そして、入力回路の特性には、世間の常識というものがあり、しかもそれは時代とともに変化してきています。30年前の常識は、1990年代の後半には通用しないことも起こってきていますので、なおさら注意がいります。


入力インピーダンスと信号レベル

一般に、前段に接続されるアンプ等は、後続となるアンプの入

力インピーダンスがある一定以上の値であって、しかも、ある一定の入力感度であることを期待して設計されています。

ソース入力インピーダンス入力信号レベル
ロー・インピーダンス・マイクロフォン200Ω〜1kΩ(トランス受け)
数kΩ(抵抗受け)
ダイナミック型:0.5mV〜3mV(最大100mV)
エレクトレット・コンデンサ型:1mV〜10mV(最大300mV)
コンデンサ型:5mV〜20mV(最大1V)
ハイ・インピーダンス・マイクロフォン10kΩ〜50kΩ1mV〜10mV
MCカートリッジ数十Ω(トランス受け)
数百Ω(抵抗受け)
低出力型:0.05mV〜0.5mV
高出力型:1mV〜3mV
MMカートリッジ47kΩ(50kΩ)2mV〜15mV
FM/AMチューナ100kΩ以上(昔)、50kΩ以下(今)100mV前後(昔)、0.5V前後(今)
テープデッキ再生100kΩ以上(昔)、50kΩ以下(今)100mV前後(昔)、0.5V前後(今)
TV音声、ビデオ音声100kΩ以上(昔)、50kΩ以下(今)100mV前後(昔)、0.5V前後(今)
CD等100kΩ以上(昔)、50kΩ前後(今)100mV前後(昔)、0.5V前後(今)/TD>
プリ録音出力-100mV前後(昔)、0.5V前後(今)
プリ出力-0.5V〜2V
メイン入力100kΩ以上(真空管)、50kΩ以下(半導体)0.5V〜2V


マイクロフォン

マイクロフォンは、その構造上、マイクロフォン本体の中にインピーダンス変換用のトランスが組み込まれていることが多く、そのトランスの2次側インピーダンスによって、アンプ側の入力インピーダンスがハイとローに変化します。しかし、ハイ・インピーダンス・マイクロフォンは、そのインピーダンスの高さゆえに非常にノイズを拾いやすいため、ここ十数年の間に、すっかり姿を消しました。

従来、マイクロフォン出力は、入力トランスで受けて、その際、インピーダンス・マッチングを取るのがセオリーでした。600Ωのマイクロフォンは、600Ωのトランスで受けるわけです。トランスを使わないで、アンプで受ける場合は、マイクロフォンのインピーダンスよりも数倍高い抵抗負荷で受けるようにします。もし、600Ωのマイクロフォン出力を、600Ωの抵抗負荷で受けてしまうと、-6dBの利得のロスが生じてしまうからです。ですから、ロー・インピーダンスのマイクロフォン入力では、入力に3kΩ〜5kΩくらいの抵抗を入れるようにしたマイクロフォン・アンプが一般的です。これは、平衡・不平衡にかかわらずいえることです。

従来、家庭用テープデッキのマイクロフォン入力は1mV程度の高感度のものが主流で、-10dB〜-20程度の減衰パッドがつく程度でしたが、業務用のマイクロフォン・アンプでは、入力感度は0.3mVくらいから最大1V以上まで60dB以上のレンジを持つのが一般的です。それは、1mV以下の低出力おリボン・マイクロフォンから非常に高出力(15mVくらい)のプロ仕様のコンデンサ・マイクロフォンまでカバーしなければならないのと、数cmくらいのオンマイクでボーカルや金管楽器、打楽器の録音をすることが珍しくないからです。


Phonoカートリッジ

Phonoカートリッジは、大きく分けてローインピーダンスのMC型とハイインピーダンスのMM型に分類されます。MC型カートリッジは、出力電圧があまりに微少であるため、旧来、この信号をアンプで受けて増幅することは不可能であるといわれていました。そのため、どうしてもトランスによる昇圧に頼らざるを得ませんでした。やがて、すぐれた低雑音性能を持った半導体が登場するようになって、ようやく、MC出力をアンプで受けて増幅できるようになりました。

一方、MM型カートリッジは、構造上、発電のためのコイルをたくさん巻くことができるため、数mV程度の出力信号を得ることができます。そのため、真空管による増幅回路を使っても、実用的な雑音性能が得られます。その時、負荷インピーダンスを47kΩ(50kΩ)を標準として定めたため、どのMM型カートリッジも、47kΩの負荷抵抗を与えたときに、フラットな周波数特性が得られるように設計されるようになりました。

負荷抵抗を大きい方に変化させると、高域の10kHz〜20kHzあたりにピークができはじめます。反対に、負荷抵抗を小さい方に変化させると、周波数特性はおとなしくなりつつ、高域特性が劣化します。MM型カートリッジは、負荷抵抗の値によって周波数特性が劇的に変化します。特に、レコードプレーヤからプリアンプのPhono入力までのシールドケーブルが長いと、負荷抵抗に平行に容量が加わります。MM型カートリッジは容量負荷に非常にクリティカルで、10kHz〜20kHzあたりで鋭いピークを生じやすくなりますので注意が必要です。

MC型カートリッジの代表選手、DENON DL103の出力電圧は公称0.3mV、実測0.4mVくらいですから、この出力をトランスで昇圧する場合、昇圧比は1:10くらいが必要になります。巻線比1:10のトランスのインピーダンス比は1:100ですから、このトランスを入力インピーダンス50kΩのMM入力に接続すると、トランスの1次側のインピーダンスは、500Ωということになります。ちなみに、DL103のコイルの直流抵抗は約40Ωですから、信号の減衰は、500/(500+40)=0.926倍になります。

ortofon SPUシリーズですと、出力電圧は公称0.05mVですから、昇圧比はすくなくとも1:50くらいが必要になります。巻線比1:50のトランスのインピーダンス比は1:2500ですから、このトランスを入力インピーダンス50kΩのMM入力に接続すると、トランスの1次側のインピーダンスは、20Ωということになります。ちなみに、SPUシリーズのコイルの直流抵抗は約2Ωですから、信号の減衰は、20/(20+2)=0.91倍になります。

MC型カートリッジ用のヘッドアンプを製作する場合は、入力インピーダンスは、100Ω〜1kΩくらいで設計するといいでしょう。MC型カートリッジは、MM型を違って、負荷インピーダンスによってほとんど周波数は変化せず、かなり優れたフラットさを保ってくれます。

ところで、このホームページには、真空管(ECC83)を初段としたMC型カートリッジ入力を持ったプリアンプをご紹介しています。真空管固有の雑音の理論値で考えると、0.3mV程の微少入力では実用にならないことになっていますが、あえて実験してみたところ、我慢ぎりぎりのところで実用レベルのアンプに仕上げることができています。


ラインレベル

上の表の、「FM/AMチューナ」から下は、ラインレベルとも呼ばれていて、0.1V〜1Vくらいの範囲の信号レベルを持っています。ラインレベルの信号の大きさも、時代と共に変化してきています。今から30年以上前のプリアンプでは、100mV前後があたりまえでした。市販のプリアンプのライン入力レベルは、50mV〜200mVくらいの範囲に収まっていたように記憶します。

Marantzに代表される当時のプリアンプは、ライン入力からプリ出力の間で10倍程度の利得を持っているのが普通でした。しかし、昨今のFMチューナも、CDプレーやも、出力の基準レベルがどんどん高く設定されるようになったため、現在では、ライン入力からプリ出力の間にほとんど利得がなくても十分実用になるようになってきました。

そのため、市販のプリアンプのライン入力レベルも時代とともに上昇傾向にあり、最近では200mV〜400mVくらいというのがあたりまえになってきています。実際、このホームページでご紹介しているプリアンプでは、ライン入力からプリ出力の間の利得は1.0倍にすぎません。中には、プリアンプを省略して、CD出力をじかにメインアンプに入力するような構成も、何年も前からひろく行われるようになってきています。ちなみに、プロ仕様でのラインレベルの標準は+4dBu(=1.228V)ですが、プロ仕様の機材が設定している民生機対応のラインレベルは-10dBu(=約250mV)となっているのが普通です。

さて、ラインレベルの入力インピーダンスですが、真空管時代では、100kΩ以上があたりまえでした。その理由のひとつが、Phonoイコライザ・アンプの多くが12AX7/ECC83の2段構成であったことに起因します。12AX7/ECC83による電圧増幅回路では、後続の入力インピーダンスが100kΩ以下だと、裸利得が著しく低下してしまうからです。ですから、真空管全盛期のプリアンプのラインレベルの入力インピーダンスは、200kΩ以上というのがひとつの常識となっていました。この問題は、LUX製SQ38FDでも同様に存在します。

しかし、トランジスタアンプが普及しはじめると、レインレベルの入力インピーダンスは一気に低下しはじめます。その理由は2つあります。ひとつは、トランジスタアンプでは、真空管アンプに比べて出力インピーダンスが非常に低くなっているため、高い入力インピーダンスで受ける必要がなくなったこと。もうひとつは、トランジスタ回路では、そもそも入力インピーダンスが低いことが多く、高い入力インピーダンスを得ようとすると却って回路が複雑になってしまうからです。

この変遷は、プリアンプで使われるボリューム・コントロールの抵抗値にみることができます。真空管アンプ時代では、500kΩ〜1MΩが普通でした。トランジスタ化されたMarantz 7Tでは、まだ真空管時代の常識を引きずっていて、あいかわらず・・・が使われています。初期の普及型トランジスタアンプであるPioneer SA50(1970年頃)では250kΩに減り、やがて100kΩや50kΩがあたりまえになってきます。

同様の傾向は、テープデッキの録音入力にも現われています。そこで、もし、LUX SQ38FDを使っている人が、SQ38FDの録音出力に最近のテープデッキをつないだらどうなるでしょうか。SQ38FDのPhonoイコライザは12AX7の2段増幅ですから、出力インピーダンスはかなり高くなっています。そこに、入力インピーダンスが50kΩ程度のテープデッキが接続された場合、まず、Phonoイコライザ回路の2段目の利得が著しく減少し、これによって、低域のイコライジング特性に支障が出ます。また、出力側のコンデンサが0.1μFであるため、後続回路の入力インピーダンスとの間でローカットフィルターが形成されてしまいます。0.1μFと50kΩの組み合わせでは32Hz(-6dB/oct)になります。この2つに理由により、明らかな低域特性の低下を招くことになります。

このように、真空管アンプと半導体機器との混用には、かなり大きなリスクが生じるのです。


プリ出力・メイン入力

1Vの入力信号において最大出力が得られるようなメインアンプというのが一般的といっていいと思います。0.5Vの入力信号で最大出力が得られるメインアンプは感度が高いと言われますし、逆に、2Vの入力信号が必要なメインアンプは感度が低い部類にはいります。

しかし、同じ1Vの入力信号で最大出力が得られる2台のメインアンプがあって、それぞれ最大出力が3Wと50Wだとしたら、どう考えたらいいのでしょうか。3Wの出力と50Wの出力では、8Ωにおける信号電圧はそれぞれ4.9Vと20Vです。ということは、3Wのアンプの利得は4.9倍、50Wのアンプの利得は20倍で4倍もの開きがあります。同じ条件でこの2台のメインアンプを使った場合、同じ音量で聞こうとしたら、50Wのアンプの時のボリュームはかなり絞らなければなりません。

同じ人が、同じ環境で異なる2台のメインアンプを使おうとした場合、入力感度で揃えるよりも、利得で揃えた方がより使いやすいのではないでしょうか。そこで重要になってくるのは、人それぞれのシステムにおいて、メインアンプの利得どれくらいであれば、使い勝手がいいかということです。

メーカー製のプリメインアンプを持っている人の多くが、ボリューム角度が9時〜10時あたりで使っている光景によく出くわします。これは、アンプの利得が大きすぎるのです。日常もっとも良く聞く時のボリューム角度が11時〜1時くらいになるような利得バランスというのが望ましいと思います。

一般家庭で、近所迷惑にならない程度の聞き方であれば、ライン入力からスピーカまでの利得は10倍〜20倍くらいになります。かなり小音量で聞く人の場合は5倍〜10倍くらい、かなり大音量で聞く人の場合は20倍〜40倍くらいとみていいでしょう。これはメインアンプの最大出力には関係のない話です。

これを、さきの3Wと50Wのアンプにあてはめて考えてみると、3Wのアンプでは、0.25V〜0.5V入力で最大出力(すなわち3W)、50Wのアンプでは、1V〜2V入力で最大出力(すなわち50W)が得られるように設計したらいいことになります。この場合、プリアンプの利得は1倍(0dB)でよいということになるのです。(もちろん、スピーカの能率や、部屋の音響条件によってこの値の基準はかなり変化します。)

メインアンプの入力インピーダンスは、トランジスタによるSEPP-OTL回路が出現した時に一大転機を迎えました。それは、初期のSEPP-OTL回路では、その回路特性上、どうしても入力インピーダンスが20kΩほどに低くなってしまったからです。真空管回路では、入力インピーダンスは設計上の制約はありませんでしたから、500kΩでも、100kΩでも、10kΩでもどうにでもなるのと対照的です。

問題は、100kΩ以下の低い入力インピーダンスのメインアンプを使いたい場合で、プリアンプが真空管式のケースです。真空管式のプリアンプの多くは、100kΩ以下の低めの入力インピーダンスでも問題なく性能が発揮できるようには作られていないものが多いからです。回路図集などで検討して、大丈夫かどうか調べる必要があります。


最大許容入力

Phonoイコライザアンプで特に問題になるのが、最大許容入力です。プリアンプのボリュームコントロールは、普通、Phonoイコライザアンプより後ろ、プリ出力のためのラインアンプまたはバッファアンプの前に位置しています。大きな信号が入力された時、ボリュームコントロールより前にあるアンプ群は、過大入力に対して無防備ということになります。

最大許容入力の余裕(マージン)をどれくらいにみるかは、様々な見解があります。10倍(+20dB)あれば良いという意見もあれば、100倍(+40dB)なければ駄目だ、という意見まであります。Phonoカートリッジからは、信じられないほど大きな信号が来る、といった脅しともとれるような過剰表現が横行した時代もありました。

ここで重要なのは、Phonoイコライザアンプの感度ではなく、実際に使うカートリッジの出力電圧です。DENONのDL103しか使わない、という人は0.3mVを基準に考えればいいわけですし、手持ちのMMカートリッジの出力電圧が3mV〜8mVの範囲にあるのであれば、最大の8mVを基準に考えたらいいのです。ただし、カートリッジの実際に出力電圧は、カタログスペックよりも1〜3割ほど高めであることがほとんどなので、それも考慮に入れます。

そうすると、DENON DL103では0.42mV、後者の例では12mVが基準になります。経験則ですが、この値の10倍(+20dB)の信号が許容できれば問題はない、といっていいと思います。

工事中

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