私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
バイアス方式とグリッド抵抗

固定バイアスかカソードバイアスか

出力管の動作例のデータをみると、右表の例のように、カソードバイアス(自己バイアス)と固定バイアスのそれぞれのデータが区別して掲載されています。表中の「F」とか「C」というのがその区別で、それぞれ「Fixed bias」「Cathode bias」の頭文字です。

2A3の場合は「F」とありますからデータは固定バイアスのものですが、カソード抵抗値(Rk)も併せて掲載されています。こういう場合は「カソードバイアスにするならばカソード抵抗には750Ωを用いよ、ただし、最大出力や歪み率については保証しない」と解釈します。6L6-Gの場合はもっと明確で、カソードバイアス、固定バイアスそれぞれについて詳細な動作データが紹介されています。

ロードラインに関する各章ですでに気が付かれたと思いますが、真空管のEp-Ip特性曲線は、右下にゆくにつれて間隔が詰まってきます。つまり、多かれ少なかれ理想的な直線性ではありません。グリッドに信号がはいってくると、プレートの電位は、動作点を中心にロードライン上を行ったり来たりするわけですが、プラス・マイナスの振幅が同じ信号を増幅した場合でも、左上方向と右下方向とでは行ったり来たりの距離に差が生じます・・右下図参照。

そうすると、真空管は動作ポイントを、行ったり来たりの中点に移動しようとします。行ったり来たりの中点とは、そもそもの動作ポイントよりもやや左上(右下図の緑の矢印)に位置しますから、その結果としてプレート電流が増加しようとするのです。直線性の悪い球ほどプレート電流の増加も大きくなります。

その結果、小信号時よりも、最大出力時の方がプレート電流(だけでなくスクリーングリッド電流も)が多くなろうとします。

カソードバイアスでは、プレート電流が多くなろうとすると、カソード抵抗による電圧降下がより大きくなってバイアスが深くなり、無信号時に定めた動作点がより右下方向に移動してしまうため、プレート電流全体について増加を抑止する作用が働きます。

固定バイアスでは、そのような作用が働きません。表中の6L6-Gのデータで、Ib0の値が、固定バイアスよりもカソードバイアスの時の方が大きい(75mA>72mA)のは、そういう事情があるからです。ちなみに、カソードバイアス時のバイアス電圧は、-(75mA+5.4mA)×167Ω=-13.4Vとなって、固定バイアスの時の-14.5Vよりも浅くなっています。

そういった事情を考えながら、冒頭の表を見ると、6L6-Gにおける「F」と「C」の無信号時プレート電流(Ib0)と最大出力時のプレート電流(Ibsig)の変化の違いが理解できると思います。

一般に、無信号時のプレート電流が同じならば、固定バイアスの方がより大きな出力を取り出せますが、シングル動作の場合は顕著な差は出ません。しかし、ロードライン上のプレート電流値が0mAのところまで使い切るプッシュプル動作、特にAB級動作では、最大出力に大きな差が出ます。


カソードバイアス回路

左下図は、2A3におけるカソード・バイアス回路の例です。プレート〜カソード(フィラメント)間に250Vがかかっており、59mAのプレート電流が流れた時に、カソード抵抗(750Ω)の両端に44Vの電圧が生じています。すなわち、カソード(フィラメント)に対してグリッドが相対的に-44Vの電位になっています。この回路は、この動作条件で安定します。

カソード・バイアス回路の動作条件は、Ep-Ip特性データとカソード抵抗値によって一意に決定されます。その様子を表したのが右上図です。カソード抵抗値が1kΩの場合について考えてみましょう。バイアスが-10Vとなるようなプレート電流値は10mAですね。そこで、Ep-Ip特性上からバイアス=-10Vでプレート電流が10mAのポイントを見つけます。同様にしてバイアス=-20Vでプレート電流が20mAのポイントを見つけます。これを繰り返して求めたポイントをつないだのが右上図中の「Rk=1kΩ」のラインです。同様の手順で「Rk=750Ω」のラインも引いてみました。どちらのラインもほぼ直線になり、カソード・バイアス回路の動作点は必ずこのライン上に存在します。プレート電圧が変化(赤線が左右に移動)した時、プレート電流値の変化はあまり大きくなく緩慢です。

カソードバイアス回路が成り立つ前提条件は、(a)カソード電流がだいたい一定でもかまわない回路である、(b)グリッド電位はアースと同じである、この2点です。そしてカソード電位が、アースと同じ電位であるグリッドに対して相対的にプラスとなることを利用して、結果的にグリッドにマイナスのバイアスがかかった効果を得る、という方式であるわけです。

カソードバイアスのメリットといえば、

  1. 出力管の暴走を防ぎ、安定した動作が保証できる、
  2. 一種の局部直流帰還回路であるため、球のバラツキがあっても動作条件が一定の範囲内に自動的に揃ってくれる、
  3. グリッド抵抗値を大きくできる、
この3点でしょう。デメリットとしては、
  1. 電源電圧を、バイアス電圧分だけ嵩上げしなければならない、
  2. 特にプッシュプル回路において最大出力が低くなる、
  3. カソード抵抗での発熱が問題となることがある、
  4. カソード抵抗をバイパスするためのコンデンサが必要となり、超低域特性の劣化の一因になる、
の4点でしょうか。

カソードバイアスは、出力段よりもむしろ電圧増幅回路によく利用されますが、その理由は、上記メリットの(2)の効果が大きく、しかもデメリットの(1)、(2)、(3)のいずれもほとんど問題にならないからです。

出力段におけるカソードバイアス回路でしばしば問題となるのは、カソード抵抗での発熱の大きさです。特に、バイアスが深い3極出力管においては、カソード抵抗が発する熱はかなり大きなものになります。いくつかのシングル動作例について検証してみましょう。

とこんな具合になります。45から下の直熱3極管の場合のカソード抵抗がいかに大量の熱を発生させるかがおわかりいただけたかと思います。


固定バイアス回路

左下図は、2A3における固定バイアス回路の例です。プレート〜カソード(フィラメント)間に250Vがかかっており、カソード(フィラメント)に対してグリッドが相対的に-44Vの電位になった時に59mAのプレート電流が流れます。この回路は、この動作条件で安定します。

固定バイアス回路の動作条件は、Ep-Ip特性データと与えられたバイアス電圧よって一意に決定されます。その様子を表したのが右上図です。バイアス=-44Vのラインと、バイアス=-51Vのラインを引いてみました。固定バイアス回路の動作点は必ずこのライン上に存在します。プレート電圧が変化(赤線が左右に移動)した時、プレート電流値はクリティカルに変化します。固定バイアスは、電源電圧の変化に敏感であるということを覚えておいてください。

固定バイアス回路の構成には、実にさまざまなヴァリエーションがあります。基本的には、出力管のカソードが(ほとんど)接地されていて、アースと(ほとんど)同電位である場合のことをいいます。あるいは、カソード電流値が変化しても、カソードバイアスのように、バイアスが変化しない回路のことをさす場合もあります。

固定バイアスのメリットといえば、

  1. カソード回路からコンデンサが1個さよならできる、
  2. 特にプッシュプル回路において、より大きな出力が得られる、
  3. カソードバイアスよりも低い電源電圧ですむ、
  4. (バイアスを可変にした場合)球のバラツキを丁寧に補正できる、
この4点でしょう。デメリットは、
  1. マイナス電源等バイアス回路が複雑になる、
  2. 球のバラツキによるプレート電流の不揃いを補正するために、バイアスの微調整が必ず必要になる、
  3. 万一の出力管の暴走を抑止することが難しい、
  4. グリッド抵抗の値を高くできない、
の4点です。

バイアスのかけかたにもいろいろあって、最も一般的な方法は、マイナス電源を作成し、そこからグリッド抵抗を経て出力管のグリッドにバイアスをかけるというものです。この場合は、グリッド抵抗値の最大定格はしっかりと守らなければなりません。

前段が、マイナス電源を持ったカソードフォロワ等になっていて、前段のカソードと出力段のグリッドが直結になっているような固定バイアスもよくみられます。この場合は、万一グリッド電流が流れても、前段のカソードフォロワがグリッド電流を吸収してしまって、バイアスにはほとんど変化を与えないことが多く、こういうタイプの固定バイアス回路は非常に安全度が高くなっています。

固定バイアス回路であっても、カソード側に数Ω〜10Ωといった非常にちいさな値の抵抗を挿入することがあります。それは、この抵抗の両端に生じた電圧を測定することによって、カソード電流値を簡単に知ることができるからです。ただし、ここで挿入したカソード抵抗は、μ倍となって出力管の内部抵抗値に加算されてしまいますので、10Ωが上限値だと思った方がいいでしょう。固定バイアス回路では、バイアス調整を行なわないでいると、ほとんどの場合カソード電流を設計値どおりに合わせることができません。通電中のアンプのカソード電流をにらみながらバイアスの調整作業がやりやすいように設計されている必要があるのです。ペアチューブであるからといって無調整のままでOKかというと、実はそうではありません。

メーカー製のアンプでは、固定バイアスはほとんど出力段でしかみかけませんが、私は、固定バイアスを電圧増幅段にもよく使います。それは、カソード抵抗がいらなくなると同時に、カソード抵抗を抱き合わせで使われるコンデンサもいらなくなるなど、いろいろな点でメリットが得られることがあるからです。


定電流バイアス回路

左下図は、2A3における定電流バイアス回路の例です。定電流バイアス、聞き慣れない名称なのは当然でこういう名称のバイアス回路は存在しないようです。仕方がないので勝手につけた名称です。カソード抵抗のかわりに59mAの定電流特性を持った定電流回路がはいっています。この場合、2A3の動作条件に関係なく、この回路には59mAが流れようとします。いいかえると、2A3は、強制的にプレート電流が59mAきっかりになるようなバイアスにさせられてしまう、ともいえます。この回路では、プレート電流に関しては選択の余地がありません。

定電流バイアス回路の動作の様子を表したのが右上図です。定電流特性が「50mA」の時と「45mA」の時の動作範囲を青線で引いてあります。定電流バイアス回路の動作点は必ずこのライン上に存在します。かりに、プレート電圧が250Vとなるような電源電圧が与えられたとすると、カソード電位が自動的に44Vに落ち付きます。従来、真空管の動作条件は、「バイアスを決める→プレート電流が決まる」という順序で考える癖がついていますが、定電流バイアス回路では考え方がその逆にになり、「プレート電流を決める→バイアスが決まる」となるのです。

定電流バイアスのメリットは、

  1. カソード・バイアス回路以上に出力管の暴走を防ぎ、安定した動作が保証できる、
  2. プレート電流値が球のばらつきの影響をうけなくなるので、無調整で球の差し換えができる、
  3. 電源のレギュレーションに関係なく動作する、
  4. グリッド抵抗値を大きくできる、
  5. 音質的に他のバイアス方式よりも好結果が得られやすい、
この3点でしょう。デメリットとしては、
  1. 電源電圧を、バイアス電圧分だけ嵩上げしなければならない・・・カソード・バイアス回路と同じ、
  2. 定電流回路と並列のコンデンサは省略できない・・・省略すると音が出ない。
  3. 特にプッシュプル回路において最大出力が低くなる、
  4. B電源の残留リプルの影響を受け易くなる、
  5. 定電流回路が正常に動作できるだけの電圧の余裕が必要である・・・バイアスが浅い球では定電流回路が動作できない。
  6. 定電流回路での発熱が問題となることがある、
  7. 定電流回路をバイパスするためのコンデンサが必要となり、超低域特性の劣化の一因になる、
の6点です。

この方式は、シングル出力回路におけるひとつの進化した形ともいうことができます。音質的には、特に超低域においてかなりの好結果が得られます。


カソードバイアスと固定バイアスの併用

これを、半固定バイアスと呼ぶ人がいるように、カソードバイアスと固定バイアスの併用という方法も立派に通用します。たとえば2A3で考えてみると、回路の都合上-11Vが得られたので、これを2A3のバイアスに使ったとします。そうしますと、2A3が必要とする-44Vにあと33V足りません。この時、カソード抵抗として560Ωを挿入すれば辻褄を合わせることができます。

カソードバイアスを採用した場合であっても、球のバラツキを丁寧に調整したい場合もあります。そんな時、バイアスの一部を可変できる固定バイアスとしておけば、出力段の動作条件を自在に管理できることになります。カソードバイアスでは、一旦カソード抵抗を回路に組み込んでしまうと、動作条件や出力管を無闇に変更できない、という欠点もあるので、半固定バイアス化は回路のフレキシビリティを向上させるという点で有効です。自作したアンプに、いろいろな出力管をとっかえひっかえ挿して楽しみたい、という向きには固定バイアスや半固定バイアスは実に重宝するのです。

実際、電源電圧300V、出力トランスの1次インピーダンス5kΩ、という条件で6L6(3結)シングルアンプを製作したとします。このアンプが固定バイアス方式で、バイアス電圧を-25V〜-45Vの範囲で可変できるのであれば、6L6のかわりに、6F6、6V6、EL34/6CA7、6G-B8、KT66、KT77、KT88、6550A、WE350Bこれだけの球を差し替えて違いを楽しむことすらできるのです・・・但し、後述するグリッド抵抗値の最大定格にはくれぐれもご注意ください。カソードバイアス方式ではそうはゆきません。


グリッド抵抗

さて、固定バイアスの項で話題になったグリッド抵抗のおはなしです。出力管の最大定格の項に「Rg(C)」とか「Rg(F)」といった記述があります(冒頭の表にも書き加えておきました)。2A3の場合ですと、固定バイアス時は50kΩ、カソードバイアス時は500kΩとなっています。これは「最大定格」と呼ばれる規格ですから、回路の動作の安全のためには、出力管のグリッド抵抗の値がこれよりも大きな値になってはならない、という限界値を示しています。

何故そのようなことを守らなければならないかというと、通常の動作では、もっぱら熱せられたカソード(あるいはフィラメント)だけから電子が飛び出してプレートに衝突するのですが、カソード(あるいはフィラメント)にあぶられて高温になったグリッドからも電子が飛び出すことがありうるからです。こういう現象を、グリッドからもエミッションが出る、といいます。

グリッドから電子が飛び出してプレートに飛び込むということは、いいかえると、プレートからグリッドに向かって電流が流れるということを意味します。その電流は、グリッドからアースに向かってグリッド抵抗を流れます。するとどうなるでしょう。グリッド側にプラスの電圧が生じてしまいます。つまり、バイアスが浅くなってしまうのです。バイアスが浅くなれば、プレート電流はさらに増加し、球の温度はさらに上昇します。グリッドの温度もさらに上昇するためにバイアスはもっと浅くなり、その結果プレート電流はさらに増加し・・・この悪循環を繰り返しながらやがて出力管は「暴走」に至るのです。また、暴走こそ起こさなくても、気が付かないうちにプレート電流が思わぬ値になっていることが多いのです。プレートが赤熱してはじめて気が付いた、ということが良くあります。

カソードバイアスでは、カソード抵抗によるプレート電流増加の抑止効果が期待できるため、グリッド抵抗値は少々大きくても大丈夫ですが、固定バイアスではプレート電流増加を誰も止めてくれませんのでグリッド抵抗値がきびしく規定されているのです。

グリッドからもエミッションが出てしまう、という問題に対して別のアプローチも行われています。それは、グリッドの温度が上昇しないように、いろいろと工夫されている球があるのです。グリッドの温度上昇を防ぐには、グリッドが巻かれている支柱からの伝導熱による冷却くらいしか方法がありません。そこで、上部に突き出させた支柱に放射冷却のための放熱フィンを取り付けたり、グリッドを2個所以上のベースピンにワイヤーを繋いでそれを伝っての放熱を試みたりしている球が多数存在します・・・6G-A4、6R-A8、50C-A10など。逆に考えて、このような球はグリッドの加熱が問題になるほど球全体が高温になるのだ、と判断するのが賢明だと思います。

さて、出力管のなかにも、構造や材質上グリッド電流の流れ易い球とそうでない球とがあります。それは、グリッド抵抗値の最大定格をみれば見当をつけることができます。下表は、代表的な出力管の固定バイアス時のグリッド抵抗の最大定格です。

ごらんのとおりで、50がグリッド電流が非常に流れやすい球の筆頭であることは有名な話ですね。50では、グリッド抵抗値がたった10kΩでもプレート電流はかなりふらつきます。ここに書かれた値は安全上許容された上限値ですから、実際の設計時にはできることならこの値を下回るようにしなければなりません。

しかし、あまり小さな値にしてしまうと、今度はドライバ段の負荷がどんどん重くなってしまい、ドライバが余裕を持って出力管をドライブできなくなってしまいます。こういったあたりが、出力段をカソードバイアスにするか、固定バイアスのするかの思案のしどころになるのです。

アンプの設計では、このような「あちらを立てればこちらが立たず・・・」といった難題が至る所に存在します。それをどう解決してまとまった1台のアンプに仕上げられるか、を考え工夫するのがアンプ設計の醍醐味であり、さまざまな個性的なアンプが生まれる理由でもあるのです。人が設計したアンプの回路図を見て、このアンプはどこで苦労し、結局どちらを立てたのかがわかるようになれば、一人前のアンプビルダーの仲間入りです。


ゼロ・バイアス(グリッドリーク・バイアス)

右のようなバイアス回路を見掛けたことはないでしょうか。真空管式5球スーパーラジオの電圧増幅段には、6ZDH3A、12AV6、6AV6等が良く使われていましたが、こういった球のカソードは右の回路のようにじかに接地されていて、グリッドには5MΩ〜10MΩといった高抵抗が挿入されており、決まってコンデンサ(C)で直流が遮断されています。

私がはじめてこの回路に出会った時、この回路の意味がさっぱりわかりませんでした。グリッドの電位は0Vになるのだから、この回路ではバイアスを与えることができない、と思ったのです。

さて、種明かしです。ゼロ・バイアスの原理を理解するためには、カソードから飛び出す電子のことを理解しなければなりません。カソードが熱せられるとそこから電子が飛び出しやすくなります。その時、カソードに対向するプレートに高い電圧を与えてやると、飛び出した電子はプレートに飛び込みます。これがプレート電流です。

ところが、カソードを飛び出した電子は、ほんのわずかですがグリッドにも飛び込んでしまいます。もし、グリッドに十分深いバイアスが与えられていれば、グリッドには電子が飛び込みにくくなりますが、バイアスが浅い0V近辺ではかなりの電子が飛び込んでしまうのです。ということは、グリッドからカソードに向かっても、わずかながら電流が流れることになります。この電流のことを、初速度電流といいます。初速度電流は、さきに述べた熱暴走を引き起こすグリッド電流とは流れる向きが逆です。

右のグラフは、初速度電流を実測して、初速度電流値とバイアスの関係をまとめたものです。12AX7に着目してみます。バイアスが-0.1Vのときの初速度電流値は29μA、すなわち0.029mAです。バイアスが-0.45Vになると1μAにまで減少します。バイアスが-0.7Vになれば0.1μA以下にまで減少しそうです。

グリッドとアースの間に高抵抗が挿入された場合、初速度電流が流れることによって、高抵抗に電圧降下が生じ、グリッド(右上の回路図上のX点)はマイナスの電位になります。つまり、バイアスが生じます。バイアスが生じると、初速度電流は減少しようとし、初速度電流が減少すればバイアスは浅くなろうとする関係にあります。このいう回路では、初速度電流とバイアスがバランスしたポイントで動作が安定します。以下に、バランスするポイントの組み合わせをまとめてみました。

X点の電位初速度電流グリッド抵抗値
-0.1V29μA3.4kΩ
-0.2V12μA16.7kΩ
-0.3V4.5μA66.7kΩ
-0.4V1.7μA235kΩ
-0.5V0.6μA833kΩ
-0.6V0.2μA3MΩ
-0.7V0.09μA7.8MΩ

ごらんのとおりです。グリッドに5MΩを挿入した12AX7のゼロ・バイアス回路では、バイアスが-0.6V〜-0.7Vあたりのどこかでバランスした動作になりそうだ、ということになるのです。

初速度電流は、真空管によってかなりのバラツキがあります。また、プレート電圧によってかなり影響を受けます。何故なら、プレート電圧が高ければ、プレートがより強く電子を引き付けるために、初速度電流は減少するからです。

以上のことから、ゼロ・バイアスは、グリッド抵抗の値が同じならば、初速度電流によって与えられるバイアスの深さはほぼ一定である、と考えることができそうです。

発表されているゼロ・バイアスの動作例では、バイアス電圧の表示はなく、もっぱらプレート電流とプレート電圧しかわかりませんが、そのプレート電流とプレート電圧を12AX7のEp-Ip特性上にプロットしてみると右図のようになります。これは、グリッド抵抗の値が10MΩの時のもので、バイアスが-0.8V近辺上にきれいに並んでいます。(但し、データの一部に明らかに誤植と思われるものがありましたので、類似管である6AV6のデータで代用して補っています。)

ゼロ・バイアスでは、グリッド抵抗の値をこれ以上大きくしても、バイアスをさらに深くすることはできません。バイアスが-0.9V以下では、初速度電流がほとんど流れないからです。従って、バイアスを-2Vよりも深い領域で動作させるような球(12AU7や6SN7GTや出力管)では、ゼロ・バイアスを使うことはできません。

また、初速度電流が流れる領域では、初速度電流のせいで入力インピーダンスが低下しています。グリッド抵抗値が10MΩであるからといって、入力インピーダンスも10MΩであるというわけではなく、実際はもっと低い値になっています。さらに、低歪みの特性が得られるのは、入力信号が100mV以下の微少信号の領域に限られます。大きな信号を入力すると、初速度電流が多く流れる領域にひっかかってしまうからです。

ゼロ・バイアス回路は、12AX7や6SQ7GTといったμの高い電圧増幅管に向いており、比較的小さい入力信号レベルでの増幅に適しています。また、高いグリッド抵抗値を維持するために、前段との間に挿入するコンデンサは絶縁性能の良いものを選ぶ必要があります。

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