私のアンプ設計&製作マニュアル / 基礎・応用編
2.オームの法則その1・・・衝撃の出会い、基本編
私が中学2年のことです。真空管ラジオを作ろうとして学校の図書室から借りた本を見ていたら、電源電圧が250Vで2kΩの抵抗がありその先の電圧は230Vでした。そうか、2kΩを入れたら電圧は20V下げられるのか、ということは1kΩなら10Vだなと納得していました。ところが、別のラジオの回路図を見ると電源電圧が250Vで3kΩの抵抗がありその先の電圧は240Vでした。私はわけがわからなくなりました。

3年生になっていよいよスーパーラジオを作ることにしたものの抵抗値と電圧の関係の謎は解決していませんでした。そこで放課後に理科の先生に相談に行き、自分の疑問について聞いてもらいました。先生は「君には知ってもらいたいことがある。答えはこの本に書いてあるから全部読みなさい」とおっしゃって一冊の本を貸してくれました。帰宅してその本をむさぼるように読み切りました。そこには衝撃的な事実が書かれていました。電流と抵抗と電圧の関係、すなわちオームの法則でした。この時、私がこれまでわけもわからずに抱えていた問題が解決しただけでなく、当時読みふけっていた初歩のラジオの記事や回路図を自分なりに解析することの面白さを知ったのでした。この先生のおかげで、後にデシベル算で必要となる対数と出会うことになります。

以下に挙げる3つの式は、電子回路を理解する上で絶対的に必要ですから必ず暗記して、いつでも自由に使いこなせるようになってください。もし、それがお嫌ならばオーディオの自作はおやめください。


まず、これだけはまる暗記してください。

E=IR・・・(電圧=電流×抵抗)・・・(a)
イー・イコール・アイ・アール、イー・イコール・アイ・アール、イー・イコール・アイ・アール、イー・イコール・アイ・アール、イー・イコール・アイ・アール、イー・イコール・アイ・アール、イー・イコール・アイ・アール、イー・イコール・アイ・アール、イー・イコール・アイ・アール、・・・・・。

「E」というのは電圧のこと、「I」は電流、「R」は抵抗です。ここに数字をいれてみると、

8V=1A×8Ω・・・(1)
となったり、
8V=1mA×8KΩ・・・(2)
となったりします。(1)の数値はヒーター回路等のレンジ(V、A、Ω)ですし、(2)の数値は真空管増幅回路のレンジ(V、mA、kΩ)です。どちらも場合のうまい具合に桁が合ってくれます。
V・・・ボルト、A・・・アンペア、Ω・・・オーム、mA・・・ミリアンペア、kΩ・・・キロオーム。
1Aは1000mA、1kΩは1000Ωと同じ。
さて、下の回路は、真空管アンプでおなじみの電圧増幅管12AU7を使った1段増幅回路の部分を抜き出したものです。電源供給電圧が310V、そこから値が不明な抵抗R?と47μF/350Vのコンデンサによるデカップリング回路を経て、300Vまで電圧が下げられて本電圧増幅回路の電源になっています。電圧増幅回路は、12AU7の1段構成でどうやら2mAのプレート電流が流れるように設計したようです。電圧増幅回路の中身がどうなっているかは、ここではあまり考えないことにします。ここでのテーマは、310Vの電圧の供給電源があって、300Vの電源電圧で2mAのプレート電流が流れるような増幅回路の電源を設計する時、どう設計したらいいかを考えるということからはじまります。

増幅回路に流れる電流は2mA、増幅回路の電源電圧を300Vとして設計しているのですが、電源からの供給電圧が310Vなので抵抗「R?」で電圧を10Vほどドロップさせたいとします。なんで10Vなのかはここでは考えないことにします。とにかく、元の電源電圧が高いので少し下げたいのだ、くらいに思っていてください。抵抗「R?」の値は何kΩとすればいいでしょうか。

この場合、冒頭の(a)式を変形させて、電圧と電流から抵抗を求める式、

R=E/I・・・(抵抗=電圧÷電流)・・・(b)
を使います。すなわち、
10V÷2mA=5KΩ・・・(3)
となるわけです。5KΩに近い抵抗器の値というと4.7kΩと5.1KΩがありますが、5.1kΩの方が近いのでこれをR?の値とすればいいわけです。では、次のような回路にしたかったらどうしたらいいでしょうか。

ここでは、300Vのところからアースとの間に470KΩの抵抗があって、そこに余分な電流?mAを流そうとしています。こういう場合には、まず、470KΩに流れる電流(?mA)を先に計算します。(a)式を変形させて、電圧と抵抗から電流を求める式、

I=E/R・・・(電流=電圧÷抵抗)・・・(c)
を使います。すなわち、
300V÷470KΩ=0.64mA
となり、470kΩに流れる電流?mAは0.64mA、R?に流れる電流は2mAと合わせて2.64mAということになります。そこで、さきの(3)の計算をやり直すと、
10V÷2.64mA=3.75KΩ
となるわけです。3.75KΩに近い抵抗値は3.6KΩと3.9KΩの2種類がありますから、どちらか都合のいい方をR?の値とすればいいわけです。このように、回路があって、その回路の各部の電圧や電流値がわかっているような場合は、オームの法則を使って抵抗の値を計算することができます。

ここで出てきた3つの式、

E=IR・・・(電圧=電流×抵抗)・・・(a)
R=E/I・・・(抵抗=電圧÷電流)・・・(b)
I=E/R・・・(電流=電圧÷抵抗)・・・(c)
は必ず暗記してください。

メーカー製のアンプや、記事に掲載されてるアンプの回路図では、主な部位の「電圧」とすべて抵抗器の「抵抗値」が記載されているのが普通です。そんな時、(c)式を使えば回路上に流れる電流値をことごとく知ることができます。「電流値」と「抵抗値」がわかっていれば、(a)式を使って電圧が記載されていない部位の電圧もすべて知ることができます。こうやって、未知のアンプを解析してゆくための手がかりが得られるわけです。

アンプの設計ができるようになるためのいちばんの近道は、人の作ったアンプを解析することです。この作業を繰り返すうちに、「イー・イコール・アイ・アール」と「アール・イコール・アイ・ブンノ・イー」と「アイ・イコール・アール・ブンノ・イー」がアタマにしっかり染み付いてくれます。回路の設計はすべてここからはじまります。


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