私のアンプ設計&製作マニュアル / オーディオの基礎編
入出力インピーダンス (考え方と設計)

入力インピーダンスとは

アンプの入り口ですから、たとえて言うなら玄関のようなものです。玄関はいろいろな人を迎える場所ですから、誰がたずねて来ても困らないように、失礼のないように受け入れの準備がいりますね。やってきた人も、いきなり散らかった居間やバスルームに通されても困ってしまうでしょう。誰がやってきても困らない無難なつくりの玄関が入力インピーダンスです。

インピーダンスは交流信号を扱う時の抵抗値にあたるもので、ソース側の機材からみたアンプの入力抵抗のことです。当サイトの作例のアンプの入力インピーダンスはそのほとんどが30kΩ〜50kΩに設定してあります。これくらいの値であればまずどんなソース機材をつないでも困ることはないという値です。

入力インピーダンスはもっと高い値(100kΩとか500kΩとか)であってもソース機材からみると困ることはありません。しかし、入力インピーダンスを500kΩにするためにはアンプの入力のところに500kΩの高抵抗のボリュームを使う必要があります。しかし高抵抗のボリュームはノイズ的に不利なので、できるだけ低い抵抗値のボリュームを使いたい。そこで両者の都合を考えつつ見出した妥協点が50kΩとなったわけです。

50kΩ以上の入力インピーダンスを用意しておけば、まず大概の来客で失礼になることはありません。しかし、世の中には変わり者がいて100kΩあるいは200kΩ以上の入力インピーダンスで迎えてやらないと機嫌を損ねる来客もいます。特に注意を要するのは1980年以前の真空管式のソース機材です。真空管全盛期のアンプの入力インピーダンスは200kΩ以上が普通でした。200kΩくらいの入力インピーダンスで受けることを前提として設計されたオーディオ機器を50kΩあるいはそれ以下の入力インピーダンスで受けると、(1)低域がカットされる、(2)歪が増加する、(3)信号レベルが低下する、(4)周波数特性がフラットにならない、といった問題が生じます。


出力インピーダンスとは

入力インピーダンスが訪問先の玄関なら、出力インピーダンスは訪問客側のエチケットのようなものです。どんなお宅を訪れても失礼のないような身だしなみで手土産のひとつも携えてゆくようなものが出力インピーダンスです。

訪問先で失礼がないためには、出力インピーダンスは入力インピーダンスよりも十分に低いことがエチケットです。「十分に低い」とは、入力インピーダンスよりもすくなくとも1/10、できれば1/20以下が望ましいです。オーディオアンプの標準的な入力インピーダンスが30kΩ〜50kΩだとすると、ソース機材側の出力インピーダンスは3〜5kΩ以下、できれば1.5〜2.5kΩ以下が望ましいということになります。これは現実的な値で、多くのソース機材の出力インピーダンスはこの値を守っています。

出力インピーダンスは、低すぎても困ることはないので、100Ω以下でもほとんど0Ωでもかまいません。


ロー出しハイ受け vs インピーダン・マッチング

オーディオ機器間をつなぐインピーダンスの関係の基本は「ロー出しハイ受け」です。入力インピーダンスは高い方が融通が利き、出力インピーダンスは低い方が融通が利きます。

一方で「インピーダンス・マッチング」という考え方があり、古いプロ機材や放送機材では、入出力インピーダンスともに600Ωで揃えるという方式がありました。その時代に知識として聞きかじったことがある人はいまだにインピーダンス・マッチングをしなければいけないと思っているようです。しかし、プロ機材の世界でもインピーダンスを600Ωで揃えるという考え方は消え失せており、「ロー出しハイ受け」が常識となっています。

ただ、プロ機材の世界には600Ω時代のビンテージ機材も多く残っていて、それらの入力インピーダンスは600Ωから数kΩ程度のおそろしく低い入力インピーダンスになっています。そのため、プロ機材はそのような低い入力インピーダンスの機材とつながれても正常に動作するように配慮しつつ出力インピーダンスも100Ω以下にしてあります。


出力インピーダンスに関する誤解・・・逆は真ならず

入力インピーダンスの解説のところで出力インピーダンスは入力インピーダンスの1/10〜1/20の低さがあれば足りるということを書きました。では、その逆は言えるのでしょうか。出力インピーダンスが100Ωのソース機材は、その10〜20倍の1kΩ〜2kΩの入力インピーダンスで受けていいのか、という話ですがほとんどの場合それはダメです。

出力インピーダンスが低いことと、重い負荷を与えた時でも十分な出力を出せることとは別の話だからです。

たとえば、12AX7を使った回路で0.5mAのプレート電流を流しているとします。この回路に強い負帰還をかけることで出力インピーダンスが1kΩになりました。さてこの回路を10kΩの入力インピーダンスで受けた場合どうなるでしょうか。100kΩの入力インピーダンスで受けたならば、1Vの出力での歪は余裕で0.05%を割り、最大出力電圧は20V以上が得られます。しかし。10kΩの入力インピーダンスで受けると、1Vの出力での歪は1%以上になり、最大出力電圧は3Vもおぼつかなくなります。


入力インピーダンスはどうやって決まるか

アンプの入力の直後にボリュームがある場合は、入力インピーダンスはそのボリュームの抵抗値と同じか、それよりも若干低い値になります。詳しくは「ボリューム回路の入出力インピーダンス」に解説があります。ボリュームがない場合は、入力回路の設計によって決まります。


出力インピーダンスはどうやって決まるか

こればかりは回路設計次第でどうにでもなる話なので、しっかりと回路の動作を勉強していただくしかありません。


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