私のアンプ設計マニュアル / オーディオの基礎編
ヘッドホン

ヘッドホン述懐

YAMAHA HP-1は1976年に発売ですから、まだ生まれていなかった人もいるでしょう。オワン型の重たく蒸し暑い密閉型ヘッドホンが主流だった当時、オープンエアなのに重低音からしっかりとしたミッド、そして繊細な高域までちゃんと鳴らすヘッドホンの登場は衝撃的でした。しかも、かけ心地がすばらしい。11,000円もしたのに即買いしたものです。HP-1の音は今でも立派に通用します。

当時、ろくな音がしないヘッドホンばかりで不満だらけなオーディオファンを唯一納得させてくれたのが、異彩を放っていたSTAXのコンデンサ型イヤースピーカー(ヘッドホンとは呼ばなかった)SR-3です。普通のヘッドホン端子ではダメで、パワーアンプにつなぐ専用のアダプタか専用アンプが必要で非常にお金のかかるものでしたが、これを聞いてしまうともう戻れませんでした。SR-3に唯一対抗できたのはHP-1でした。

プロの現場で必ず出会うのがSONYのMDR-CD900STです。仕事で使うのにこれ以外は認めない、という音響エンジニアはたくさんいます。モニター用途として定評がありますが、オーディオファンのリスニング用としてはあまり人気がありません。デザインは良く似ていますが、MDR-7506の方がリスニング向きだと思います。ただ、このヘッドホンは中低域にやや癖があり、分解してハウジング内にグラスウールかなければティッシュペーパーを入れるだけでバランスが良くなります。

その隣はamazonで4,000円以下で買えるYAMAHAのあまり知られていないヘッドホンです。ことの発端は、CQ出版の実験工作マガジンの記事で使えそうなバランス型に改造容易な廉価かつ音がまともなヘッドホンを探しでした。耳を包み込むリスニングタイプが好きな方には不評ですが、帯域バランスがいいので私は好んでこれを使っています。

右端はSENNHEISER PX-90という折りたたみ式の軽量ヘッドホンです。出張かばんに無理なく入る折りたたみ式でちゃんと音楽が楽しめるものを探していてみつけました。これがあなどれないワイドレンジで見かけからは想像できぬほどのローエンドを出します。しかもかなりの廉価。但し、音漏れがかなりあるので新幹線車内では隣客との距離がグリーン車くらい離れてないと・・・・

以上、全く個人的なヘッドホンレビューでした。2万円以上の高級ヘッドホンがひとつもなくてすいません。


左から、YAMAHA HP-1、STAX SR-3、MDR-7506、SONY MDR-CD900ST、YAMAHA RH-5Ma、SENNHEISER PX-90。

ヘッドホンは今は百花繚乱の様相で、こんなページで語れるようなものではなくなってしまいました。各位の探求とチャレンジと失敗経験に期待するところ大であります。


ヘッドホン・プラグとジャック

ヘッドホンプラグは一般に「1/4インチ(6.3mm)フォーンプラグ」あるいは「1/4inch TRS」などと呼ばれている機器間をつなぐためのコネクタのひとつで、ヘッドホンだけでなく、レコーディング機材のライン間を接続するなどさまざまな使い方、つなぎ方があります。ここでは、ヘッドホンをつなぐ場合についてのみ説明します。

プラグの先端部分を「Tip」と呼び、ヘッドホンプラグとして使う場合は左チャネル(L)をつなぎます。先端に続く中間のことを「Ring」と呼び、右チャネル(R)をつなぎます。根元の部分を「Sleeve」と呼び、アース(Ground、GND)をつなぎます。このTとRとSを略してTRSプラグ/ジャックと呼ばれるようになりました。

ステレオヘッドホンの場合は上記(右図)のようなつなぎかたをします。1/4インチよりも細い3.5mm径のものをミニプラグ、ミニジャックと呼びますが、3つの端子の結線ルールは1/4インチと同じです。

ヘッドホンジャックには実にさまざまな形状のものがあるので、上記のことを頭に入れつつ、使用するヘッドホンジャックの構造をよく見てどのようにつないだらいいか考えなければなりません。どの端子がTipあるいはRingにつながっているか確かめるには、お持ちのヘッドホンをジャックに差し込んで、Ωレンジにしたテスター棒を端子当ててみれば「ガサゴソ」「ジリジリ」とノイズが出るのでわかります。

なお、連動スイッチ付きのTRSジャックの実装に関する詳しい説明はここにあります。


ヘッドホンのインピーダンス

スピーカーにインピーダンスがあるようにヘッドホンにもインピーダンスがあります。スピーカーのインピーダンスは8Ωというのが最も標準的で、4Ωや6Ω、まれに16Ωというのがありますが、ヘッドホンのインピーダンスはじつに8Ωから数百Ωまで幅広く存在します。

ポピュラーなのもそうでないのも、いろいろあたって表にしてみました。この表では2つしか出ていませんが、最も数が多いのは32Ωです。廉価な普及モデルのほとんどは32Ωです。しかし、音が良いというレビューが多くみられるのは40Ω〜80Ωくらいに集まっているように感じます。

モデルメーカー公称インピーダンスタイプ
MDR-CD900STSONY63Ω密閉
MDR-7506SONY63Ω密閉
K272HDAKG55Ω密閉
K701AKG62Ωオープンエア
ATH-A900audio technica40Ω密閉
ATH-AD900audio technica35Ωオープンエア
RH-5MaYAMAHA32Ω密閉
edition10ULTRASONE32Ωオープンエア
edition8ULTRASONE38Ω密閉
DT 100 S_400BEYER400Ω密閉
DT880 E/600BEYER600Ωセミオープン
MDR-EX90SONY16Ωインナーイヤ
SHE-9850PHILIPS12Ωインナーイヤ

ヘッドホンアンプやヘッドホン出力を持った回路を設計する時、ヘッドホンのインピーダンス特性を知っておくと参考になります。インピーダンスが周波数によってどう変化するかを実際に測定してみたのが右のグラフです。ご覧のとおり、ヘッドホンのインピーダンスは周波数によって必ずしも一定ではありません。ヘッドホンを鳴らす回路方式によっては、周波数によってインピーダンスが変化することが問題になる場合があります。この問題については後述します。


ヘッドホンを鳴らすための出力

ヘッドホンはスピーカーの一種ですから、これを鳴らすにはパワーアンプのようなものが必要です。普通のスピーカーを充分に大きな音で鳴らすには少なくとも1W程度かそれ以上のパワーが出せるアンプが必要ですが、ヘッドホンは0.1W以下のパワーでも充分すぎるくらいの大音量を得ることができます。

ヘッドホンごとに能率に差がありますが、ヘッドホンを充分な音量で鳴らすには最低でも10mWくらいのパワーが必要で、大音響を余裕を持って鳴らすには50mW程度が出せるパワーが必要です。モバイルのポータブル・オーディオ・プレーヤーの最大出力は5mWから20mWくらいのものが多いようですが、据え置きタイプのヘッドホンアンプになると最大出力は20mWくらいのものから1W以上のものまであります。現実的にはヘッドホンを20mW程度のパワーで鳴らし続けた場合、確実に耳の細胞を痛めて難聴になりますのでそんなに大パワーがいるわけではありません。

ヘッドホンアンプのほとんどは、電圧駆動型といわれる設計をします。電圧駆動型というのは、負荷インピーダンスの値にかかわらず一定の出力電圧が得られるアンプのことで、普通のパワーアンプはすべてこのタイプです。ヘッドホンアンプから0.5Vの出力電圧が出ているところに32ΩのRH-5Maをつなぐと、電圧とインピーダンスの関係から得られる出力は、

出力=(0.5V×0.5V)÷32Ω=7.8mW
となります。同じ条件で63ΩのMDR-7506につなぎかえると、
出力=(0.5V×0.5V)÷63Ω=4.0mW
となり1/2に減ってしまいます。出力電圧よ出力の関係は右のグラフのとおりです。

実際の音量もRH-5Maの方が大きく聞こえます。同じ条件ではインピーダンスが低い方が出力が大きくなり、音量も大きくなるわけです。高インピーダンスタイプのヘッドホンを選ぶ場合は、出力が大きいヘッドホンアンプでないと十分な音量が得られないことがあります。現実にはヘッドホン固有の能率の差がかなりあるので、同じインピーダンスでも音量感にはかなりの差があります。一般的には、音が外に漏れない密閉型の方が能率は高いです。


ヘッドホンアンプに要求される雑音性能

スピーカーを鳴らすパワーアンプの場合、残留雑音は0.5mV以下であればほとんど聞こえないのでスピーカーから1mも離れればノイズを聞き取ることはできませんし、0.3mV以下に抑えることができればパワーアンプの静粛性はほとんど完璧といえます。

しかし、ヘッドホンはスピーカーを耳の中に突っ込むようなものなので、わずかな雑音も気になります。残留雑音が0.1mV(=100μV)程度もあると大概のヘッドホンで雑音を聞き取ることができます。静粛なヘッドホンアンプであるための残留雑音は30μV以下であることが望ましいでしょう。

能率の高いヘッドホンの場合は、残留雑音を30μV以下の抑えてもしっかりと聞こえてしまう場合があります。ヘッドホンの能率は概ねインピーダンスの大きさに反比例します。同じヘッドホンアンプをつないだ場合、インピーダンスが63Ωのヘッドホンよりも16Ωのヘッドホン方が音も雑音も大きく聞こえます。また、耳の穴に突っ込むイヤホンタイプはさらに高能率なので残留雑音は目立ちやすいです。

アンプの残留雑音の大きさは歪率特性から読み取ることができます。右のグラフの黒い線は、当サイトでおなじみのFET差動ヘッドホンアンプVersion3の歪率特性です。注目していただきたいのは、歪率特性カーブの左端の斜めになった部分です。アンプに残留雑音があって、その大きさが歪の成分である高調波よりも大きいと、左上がりの直線として現れます。

FET差動ヘッドホンアンプVersion3の残留雑音は約6μVです。6μVというのは、出力信号電圧=100mVに対して0.006%にあたり、出力信号電圧=50mVに対して0.012%にあたります。これはグラフ中のいちばん下のブルーの破線にあたります。V字で折り返して右上がりになってゆく部分は歪の成分である高調波の大きさ、すなわちこのアンプの真の歪率を表しています。

左上がりの直線が現れている領域では、出力信号電圧=100mVのところの歪率が0.006%であれば残留雑音は6μV、歪率が0.03%であれば残留雑音は30μV、歪率が0.1%であれば残留雑音は100μVなわけです。残留雑音が100μVもあるノイジーなヘッドホンアンプであっても2V出力で0.005%の低歪を誇ることができますので、歪率特性グラフから何を読み取るかが大切です。この考え方はヘッドホンアンプのみならず、すべてのアンプに共通して言えますので是非覚えておいてください。


ヘッドホンを鳴らす回路

<スピーカー端子にじかにつないだら?>

ヘッドホンはフルレンジスピーカーの親戚ですから、パワーアンプのスピーカー端子にじかにつなげば鳴らすことができます。但し、以下の問題があります。

音が大きすぎる・・・・ヘッドホンは耳につけて鳴らしますから、いわばスピーカーを耳に押し当てるようなもので、ボリュームを上げるまでもなく大音量で鳴ってしまいます。スピーカーからヘッドホンに切り替えた時にボリュームポジションを変えなくても程よい音量バランスが得られるようなことも考えなければなりません。

ノイズが気になる・・・・メーカー製のパワーアンプの標準的な残留雑音は0.5mV〜1mVくらいの水準です。これくらいのノイズですと、スピーカーからすこし離れれば気にならなくなります。しかし、ヘッドホンをじかにつないだらノイズが気になって我慢できないでしょう。この種のノイズはボリュームを絞っても減りません。相手がヘッドホンの場合は残留ノイズは0.1mV以下にする必要があります。

インピーダンスマッチングできない・・・・出力トランスを使わない半導体アンプでは何ら問題にはなりませんが、真空管アンプでは出力トランスの2次側巻き線に合ったインピーダンスの負荷をつなぐことで真空管の動作を最適化しています。出力トランスの8Ω端子に32Ωとか63Ωのヘッドホンをつなぐと、ロードラインの角度が大きく変化してしまい、出力管は設計者が意図した動作をしなくなります。また、トランスの性質上、周波数特性が劣化します。

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<手軽なヘッドホン駆動回路>

私が学生の頃は、ヘッドホンというのはオマケ的な器具でして、スピーカーを鳴らせない深夜などにしょうがなくヘッドホンで聞く、みたいなところがありました。ヘッドホンを専門に作っているメーカーなど存在しませんでしたし、各オーディオメーカーもせいぜい2〜3種類しか製品がありませんでした。ヘッドホンを鳴らすための専用アンプというのは滅多になくて、スピーカー回路にちょっと細工を施してついでにヘッドホンも鳴らすくらいの考え方が主流でした。下の2つの回路は、その頃のレシーバーやプリメインアンプの代表的なヘッドホン回路の例です。いずれもパワーアンプ部(部分的に見えている)は当時主流であったSEPP-OTL回路です。

左下の回路では、パワーアンプの出力は2Aのスピーカー保護ヒューズを経てヘッドホンジャックの連動スイッチにつながっています。回路図上はヘッドホンプラグが挿入されていないポジションになっており、出力信号はスピーカー端子に送られます。ヘッドホンプラグを差し込むと、連動スイッチが330Ωの抵抗側に切り替わってヘッドホンを鳴らします。このパワーアンプは8Ω負荷で20Wくらい出ますが、その時の出力信号電圧は12.6Vになります。ヘッドホンのインピーダンスが16Ωの場合、12.6Vの出力信号は330Ωでドロップされて、16/(330+16)に減衰しますので、ヘッドホンには最大で0.58Vがかかることになります。16Ω負荷で0.58Vというと21mWになりますから、ヘッドホンとしてはちょうどいい音量感になるでしょう。

右下の回路はいろいろと興味深いしかけがあります。まず、ヘッドホンジャックの連動スイッチの構造が左下のものと異なります。左下の回路では「切り替え式」でしたがこちらのは「ON/OFF式」で簡素化されています。まず、ヘッドホンプラグを挿入していない場合ですが、出力信号はスピーカー端子に送られるだけでなく、330Ωのドロップ抵抗を経てヘッドホン側につながったままになっています。もっとも、ここがつながったままになっていてもどうせヘッドホンプラグは挿入されていませんからかまわないわけです。さらにそこから100Ωの抵抗でアースつながっていますが、この100Ωは一体何なんでしょうか。330Ωと100Ωで構成されたアッテネータともとれますし、パワーアンプの出力コンデンサ(C149 1000μF 35V・・・赤丸)に溜まった電荷を速やかに逃がすためともとれます。確かに、この100Ωがない状態ですと、スピーカーをつながないで電源ONした直後にスピーカーをつないだり、ヘッドホンプラグを挿入すると大きなポップノイズが出ます。これを設計したLUXのエンジニアに是非真相を聞いてみたいものです。

ONKYO Integra234→ ←LUX SQ707

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<抵抗ドロップ方式の問題点>

上記のような、抵抗1本で信号をドロップさせる方式は、「音が大きすぎる」問題や「残留ノイズが気になる」問題は解決できますが、新たな問題が生じます。抵抗ドロップ方式では、ヘッドホン側からみたアンプの出力インピーダンスはドロップ抵抗の値とほとんど同じで非常に高い値になり、いわゆる電流駆動状態になります。電流駆動回路では、インピーダンスが周波数によって平坦でないヘッドホンの場合、インピーダンスが高くなる周波数がブーストされて音が変わってしまうのです。

駆動インピーダンス=10Ωと330Ωの2つのケースについてSONY MDR-CD900STで計算してみましょう。このヘッドホンのインピーダンスの実測値は、40Hzで80Ω、80Hzで110Ω、1kHzで78Ω、4kHzで83Ωでした。このようなインピーダンス変化が、ドロップ抵抗によって周波数特性にどんな影響を与えるかを計算で求めたのが下のグラフです。ご覧のとおり、駆動インピーダンスが330Ωのケースでは90Hzあたりが持ち上がり、4kHzにわずかな山ができ、10kHzから上も持ち上がりますが、10Ωではほとんどフラットです。

もうひとつの問題はインピーダンスの不整合です。出力トランスを使わない半導体アンプではインピーダンス不整合の問題は生じませんが、出力トランスを使ったアンプではちょっと面倒なことが起こります。5kΩ:8Ωの出力トランスを使った真空管式シングルアンプで考えてみましょう。2次側に8Ωのスピーカーをつないている場合は、出力管からみた負荷は5kΩになって設計どおりだとします。スピーカーのかわりに330Ωの抵抗ドロップ回路をつけて、その先に16Ωのヘッドホンをつないだとすると、出力トランスの2次側の負荷は346Ωになります。この時、出力管からみた負荷は5kΩではなく216kΩにもなります。実際にはインダクタンスの制約があるために100Hz以下では数kΩ程度、1kHzでは数十kΩくらいという風に周波数によって著しく異なる値になります。

詳しい説明は割愛しますが、使用した真空管の種類や回路方式、負帰還の有無によっては所定の性能が得られなかったり、悪い条件が重なると高圧が発生して事故のもとになります。真空管アンプが常に正常に動作するためには、あまり極端でない負荷を与えることが望ましいのです。

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<諸問題に対応した抵抗ドロップ方式>

上記の3つの問題に対応した回路は下図のようになります。ヘッドホンプラグが挿入されていない時は、ヘッドホン内臓スイッチはスピーカー側につながっていますが、ヘッドホンプラグが挿入されると出力信号は2個の抵抗によって減衰されてヘッドホンを鳴らします。この2個の抵抗値にしかけがあって、この回路では4.7Ω〜5.6Ωと3.3Ωの組み合わせですから、合計値は8Ω〜8.9Ωとなって8Ωに近い値になります。スピーカーがない分、ダミーロードを与えてやるわけです。実際には3.3Ωとヘッドホンが並列になるので、たとえば32Ωのヘッドホンをつないだ場合の並列合成値は約3Ωになるわけですが、全体では7.7Ω〜8.6Ωになるので大きな変化はありません。このアッテネータによってどれくらい減衰させるかは、パワーアンプの出力と相談して決めればいいだけのことです。

上の例は最大出力が1Wに満たないミニワッターです。5.6Ωと3.3Ωの組み合わせの場合、ヘッドホン側からみた出力(駆動)インピーダンスは2.1Ωという非常に低い値になります。さきのMDR-CD900STの場合ですと、アンプの出力インピーダンスが10Ω以下であれば周波数特性に与えるインパクトは0.3dB以内にできますから、2.1Ωなら十分低い値だといえます。もし、この組み合わせでヘッドホン側の音量が小さい場合は、3.3Ωを5.6Ωくらいに変更してみてください。

大出力のアンプを使いスピーカー側でパワーを出す聞き方の場合は、ヘッドホン側との音量バランスをとるために6.8Ωと1.5Ωとか、8.2Ωと1Ωの組み合わせにしてヘッドホン側にまわるパワーを下げたらいいでしょう。合成値は厳密に8Ωに合わせる必要はなく、8Ω〜12Ωくらいの範囲であれば十分だと思います。この抵抗器はそこそこ熱を持ちますので、パワーアンプの最大出力に応じたW数の抵抗にしなければなりません。では、パワーアンプの最大出力が100Wだったらどうすればいいか。実際に室内で鳴らすパワーでしたら相当な音量でもせいぜい数Wでしょうから、5Wくらいの酸化金属皮膜抵抗で十分でしょう。但し、ヘッドホンモードにして100Wの最大出力試験をやっちゃダメですよ。

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<初期のヘッドホンアンプ>

パワーアンプの出力を拝借してヘッドホンも鳴らすという方法が主流だった時代に、テープデッキなどパワーアンプがついていない機材ではどのようにしてヘッドホンを鳴らしていたのでしょうか。当時はまだ今のようにヘッドホン専用アンプというものが単体で普通に売られていたわけではありません。当時の製品の回路図が手元にありますのでその中からいくつかご紹介しておきます。


左から、SONY TA-2000F、MARANTZ 7T、PIONEER T-8800。

SONY TA-2000Fプリアンプ・・・トランジスタアンプの古典中の古典です。4トランジスタ構成のSEPP-OTL方式のヘッドホン専用アンプを持ったとんでもなく贅沢なプリアンプでした。この回路の音なら今でも通用します。

MARANTZ 7Tプリアンプ・・・この超有名機にはなんとヘッドホン出力があります。但し、アンプ部の動作条件をみればわかるとおり、600Ωくらいの高インピーダンスのヘッドホンを想定しており、数十Ωくらいの普通のヘッドホンを鳴らし切ることはできません。

PIONEER T-8800テープデッキ・・・通常のライン出力を流用し、トランスでインピーダンスを下げてヘッドホン出力としています。帯域特性、歪率特性ともにかなり悪く、音が出ていること確認する程度のものでしかありません。当時のテープデッキのヘッドホン出力はどれもこの程度でした。

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<最近のヘッドホンアンプ>

2000年を過ぎると、ヘッドホンの需要が増して一気にマーケットが拡大しました。この頃からヘッドホン専用アンプが多くのメーカーから発表され、それこそピンキリの状態で今日に至っています。

OPアンプが登場したおかげで、ヘッドホンを鳴らすしくみが超廉価かつコンパクトに作れるようになりました。市販のCDプレーヤを分解してみると、ヘッドホン端子のすぐ横にデュアルOPアンプを1個使ったヘッドホンアンプのちいさな基板を見つけることができます。OPアンプを使えば十分な音量とそこそこ聞ける音が得られますし、電源回路はかなりいい加減でも商品的には成り立ってしまいます。OPアンプが工業製品の低価格化と小型化をもたらしたわけその貢献ははかりしれないものがあります。

OPアンプは、自作ヘッドホンアンプの世界でも圧倒的主流となっています。抵抗器数本を周囲に配し、9Vの乾電池など適当な電圧の電源をつなげば鳴ってしまうのですから、初めてのオーディオ工作にはちょうどいい材料なんだと思います。・・・・が、OPアンプはヘッドホンを直接鳴らすことを意図して設計されているわけではありません。32Ωとか63Ωといった負荷は「想定外」のことなので、ちょっと贅沢な音の注文には対応できない、ということもまた事実です。

ヘッドホンのマーケットがにぎやかになるにつれて、OPアンプとディスクリート回路と組み合わせたり、すべてをディスクリートで構成したり、真空管を使ったりと実にさまざまな方式のヘッドホンアンプが登場してきました。どの方式がベストなのか?という質問に対する正解はありません。

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<ヘッドホンアンプの課題>

低雑音であること・・・比較的高能率なヘッドホンをつなぎ、静かな部屋で、ボリュームを絞った状態でヘッドホンからノイズが聞こえないためには、残留雑音レベルは30μV以下であることが必要です。この数字を実現するためにはかなりの設計技術と実装技術が必要です。メーカー製のヘッドホンアンプの多くは、この要求条件を満足できていません。

広帯域であること・・・ヘッドホンは廉価なものでも案外広帯域なものです。しかも耳に近接しているためロスがありません。スピーカーで20Hzがしっかりと聞こえるものは多くありませんが、ヘッドホンでは20Hzがちゃんと鳴るものはざらにあります。真空管式でヘッドホンアンプを作る場合は、低域特性に余程に工夫しないと対応できません。

負荷インピーダンスに依存しないこと・・・ヘッドホンのインピーダンスは、極端なものを除いたとしても8Ω〜150Ωくらいの幅があります。負荷インピーダンスの値によって特性が劣化したり変動しないことが要求されます。


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