<試作編>
さて、MMカートリッジ用のPHONOイコライザー・アンプができたので、今度はMCカートリッジ用のヘッド・アンプも試作してみることにします。ちなみに、MCヘッド・アンプなるものを真空管のみで構成するというのは無茶な話であり、自作の世界では通用することはあっても、必要なスペックが出ないので市場に出回るための製品化はほぼ絶望的です。
MMカートリッジ用のPHONOイコライザー・アンプの実験アンプがあっさりできてしまったので、調子に乗ってMCカートリッジ用のヘッド・アンプも作ってみます。ちなみに、愛用のDENON DL-103の仕様は以下のとおりです。DENON DL-103には1個1個に実測のデータシートがついてきます。この30年間、いくつものDL-103を使ってきましたが、実測出力電圧は0.35mV〜0.4mVくらいがほとんどでした。これを10倍程度増幅してやれば、ほぼMMカートリッジと同じ信号レベルにできます。DL-103の内部インピーダンスは約40Ωなので、400Ω以上の入力インピーダンスで受けてやらないと電圧のロスが大きくなります。600Ωあたりを考えておきます。出力インピーダンスは数kΩ程度の低い値を目標にします。そうすることで、前作のPHONOイコライザー・アンプの入力部分にある75μSのRIAA時定数の辻褄が合います。
- 発電方式:ムービングコイル形
- 出力電圧:0.3mV(1kHz 50mm/sec 水平方向)
(実測0.36〜0.37mV、1kΩ負荷時、個々のDL-103に添付される実測データシートより、右画像)- 左右感度差:1dB以内(1kHz)
- 左右分離度:25dB以上(1kHz)
- 電気インピーダンス:40Ω±20%
- コンプライアンス:5×10-6cm/dyne(レコード使用)
- 針先半径:16.5ミクロン(0.65ミル)
- 針先:0.2mm角ソリッドダイヤ(結晶方向合わせ)
- 針圧:2.5gr(±0.3gr)
- 再生周波数範囲:20〜45,000Hz
- 自重:9.5gr
- 負荷抵抗:100Ω以上(トランス使用の場合は別)
DL-103を想定して設計・製作しますので、MCヘッド・アンプの要件は以下のとおりです。
メインアンプでは、出力側に生じた雑音を測定し、これを残留雑音と呼びました。しかし、PHONOイコライザー・アンプやMCヘッド・アンプでは、「入力換算雑音」という形式で雑音レベルを表記します。これは、出力側に生じた雑音ではなく、アンプの入力端子から雑音が入力されたものと置き換えて考えた表記法です。DL-103の出力信号レベルは約0.3mV(=300μV)ですから1Vを0dBと置くと-70dBくらいということになります。入力換算雑音が-120dBというと1μVになります。これは、-70dBよりも50dB低い値ですから、50dBのノイズ・マージンがあるということになります。ちなみに、-120dBというノイズレベルは、実質的に、真空管という素子の能力のほぼ限界値です。
- 信号入力電圧:0.3mV
- 入力インピーダンス:600Ω
- 出力信号電圧:3mV〜4mV
- 出力インピーダンス:数kΩ程度(3kΩだと都合がいい)
- 利得:10倍〜12倍(20dB〜22dB)
- 周波数特性:可聴帯域でフラット
- 入力換算雑音:-120dB以下が望ましい(私には無理です!)
真空管式のMCカートリッジ用ヘッド・アンプなるものは、そもそも無茶な試みであり、ノイズ的には少々のことは我慢しなければなりませんのでご承知おきください。ノイズが少ないMCヘッド・アンプが欲しかったら、半導体で組まれることをおすすめします。トランスを使えば、もっと静かにできます。
本アンプは試作機ですので失敗覚悟で気楽にいきます。使用真空管ですが、当初は12AX7/ECC83を考えましたが、手持ちの6AU6や12V管の12AU6が遊んでいるのでこれを使ってみようと思います。6AU6は、3結にすると内部抵抗10kΩくらい、μが30〜36くらいの球になります。低雑音管として生まれた6267/EF86を3結にして使うことも考えましたが、異常に高価な球になりさがってしまった?ので敬遠しました。
Base Heater 接続 Eb Eg2 Eg1 Ip Ig2 gm rp μ Notes 6AU6、6AU6A、6AU6WB
EF94、6136
3AU6、4AU6、12AU6MT7pin 6.3V×0.3A
3.15V×0.6A
4.2V×0.45A
12.6V×0.15A5極 100V 100V -1.05V 5mA 2.1mA 3.9 300kΩ - - 250V 125V -1.06V 7.6mA 3mA 4.5 1500kΩ - - 3結 150V - -3.0V 4mA - 3.4 10kΩ 34 「G2、G3をPにつなぐ」となっているが、本機ではアースする。
1-pin 2-pin 3-pin 4-pin 5-pin 6-pin 7-pin Pin接続 G1 G3,IS H H P G2 K 6AU6(または12AU6)を3結※にして、P-G帰還で利得を整えてつつ、出力インピーダンスも下げて仕上げようと思います。6AU6を単純に3結で使用した場合について考えてみます。内部抵抗が10kΩですので、プレート負荷抵抗に56kΩを入れたとすると出力インピーダンスは8.5kΩになり、P-G帰還抵抗の47kΩを追加すると7.2kΩになります。ここに若干の負帰還がかかれば出力インピーダンスを容易に3kΩ程度にすることができます。
※6AU6の3結は、チューブ・マニュアルによると、第3グリッドはスクリーン・グリッドとともにプレートに接続せよ、とありますが、実測の結果、第3グリッドはプレートにつないでもアースしても、Ep-Ip特性はほとんど変らないことがわかりました。6AU6は、非常に堅固なシールド構造を持っています。外から見てプレートのように見えるのは実はシールドです。このシールドは第3グリッドと同じピンにつながっているため、第3グリッドはプレートではなくてアースにつなぎたいのです。
この条件における利得を概算してみます。負荷となるのはプレート負荷抵抗56kΩと負帰還抵抗47kΩ+1.6kΩ、そしてPHONOイコライザー・アンプの入力インピーダンス約50kΩの並列合成値で、これを計算すると17.1kΩになりました。裸利得は、
裸利得=34×{17.1kΩ÷(10kΩ+17.1kΩ)}=21.5倍です。グリッド側の負帰還抵抗を1.6kΩとして計算すると負帰還後の利得は・・・中略・・・12.6倍となり、グリッド抵抗によるロス0.967倍を見込んだ総合利得は12.2倍になります。アンプ部の各部の電圧・電流は概略の設計値であり、実測値ではありません。
<電源部>
電源回路は右図のとおりで、基本デザインは前作のPHONOイコライザー・アンプと同じです。B電源側の違いは、PHONOイコライザー・アンプが271V/2mAであったのに対して、200V/4mAが供給できるように定数を変更したことです。東栄のトランスは表記上は240Vですが実質220Vなので、本回路図上では220Vと表記しました。あいかわらず10μF/350Vのちっちゃな電解コンデンサ3本で賄っています。
ヒーター電源側は、0.22Ωの保護抵抗の次に4700μF/10Vを配置し、その先に1Ω抵抗と4700μF/10Vによるπ型フィルターが続きます。残留リプル電圧は、前作のPHONOイコライザー・アンプのヒーター電源の数分の1程度まで低減されています。
電源部の各部の電圧は概略の設計値であり、実測値ではありません。
ご注意:本回路はいずれもまだ製作・検証されていません。真空管で微小信号を扱うMCカートリッジ用ヘッド・アンプなどを作ろうということ自体かなり無謀な試みなので、本機の製作にはかなりのリスクを伴うことをご了承ください。
参考までに、12AX7/ECC83を使った回路も載せておきます。
12AX7/ECC83をパラレル接続にし、バイアスが-1.0Vくらいになるような動作条件を選んでいます。パラレルにすることで、元々高い内部抵抗(80kΩ)が半分(40kΩ)になっています。この動作条件での裸利得は33.2倍、総合利得は14.3倍です。
ところで、総合利得を10〜12倍くらいにまとめようとすると、グリッド側の抵抗値を3.3kΩくらいまで大きくするか、負帰還抵抗値を30kΩくらいまで小さくすることになりますが、どちらもやりたくないので14.3倍で手を打ちました。
この回路では、6AU6の時に比べて消費電流が少ないので、電源回路はそれなりに再設計がいります。
<特性とコメント>
このあたり、工事中