本音爆裂・神経逆撫

師匠と弟子のいいたい放題-30


音楽ソースの発掘
2010.6.25

弟子 「こないだ、どこかのサイトに師匠は雑食系だって書いてありましたよ。」
師匠 「そんなことないだろ。ウィーンフィルとその方面の奏者による室内楽ばっかり聞いているし。」
弟子 「オペラ好きじゃないですか、それに1960〜70年代のジャズとか、あとボサノバ。」
師匠 「うん、それはいえてる。Verveの不滅のジャズシリーズとか聞くと胸がキュンとなるもんな。」
弟子 「ちょっと失礼しますよ。」
師匠 「オイ、コラ、どこへいくんだ。」
弟子 「師匠の持ち物検査です、CDの。」
師匠 「駄目だ、駄目だ、そこにはいっちゃ。」
弟子 「うわー、LPがどっさり。」
師匠 「こら、人の持ち物に触るな。」
弟子 「あれー、ここにあるモーツァルトのピアノ曲、同じレコードが2枚ずつあるぞ。いや、3枚とか4枚あるのもある。ワルター・クライン?聞かない名前ですね。」
師匠 「そ、それはだな、僕の宝物だ。もう手に入らんのだ。」
弟子 「CD化されなかったんですか。」
師匠 「いや、CDも持っているんだけど。」
弟子 「わ、このベートーヴェンは同じ曲ばっかり15枚もある。セプテットってなんですか?演奏者は、と・・・・いろいろあるけど、Vienna Octettのが5枚ありますね、やっぱり複数買いだ。」
師匠 「それはアンプを作った時のレファレンス用。曲が好きだっていうのもあるけど、小編成なのに弦楽器がヴァイオリンからコントラバスまで1本ずつあって、しかもクラリネットやホルンまである。」
弟子 「それなら、オーケストラ曲を使えばいいじゃないですか。」
師匠 「ところが全然ちがうんだなあ。聞いてごらん。」
弟子 「うわ、すごい。楽器1つ1つがリアルだし、コントラバスって低音だけじゃなくて風が吹くみたいに生き生きと鳴るもんなんですね。」
師匠 「演奏のアーティキュレーションとか、楽器が出すいろいろな音とか、空気感をチェックしようとしたらオケでは難しい。」
弟子 「クラシックにこういう世界があるなんて知りませんでした。」
師匠 「この曲でちゃんと鳴ったら、ジャズもOKだよ。」
弟子 「アンプやスピーカーの評を読むと、ジャズ向きとかクラシック向きとか書いてあるじゃないですか。そういう話とぶつかりませんか。」
師匠 「ジャズ向きとかクラシック向きとか言うのは、音楽をごく浅いところでしか聞いてないことを自白するようなもんだと思うね。」
弟子 「このモーツァルトの弦楽四重奏も同じ演奏者、同じLPが4枚。TRIOってアンプだけじゃなくてレコードも出してたんですねえ。」
師匠 「その曲はな、とっても好きだからだ。」
弟子 「いくら好きでもこういうお金の無駄遣いはいけませんね、師匠。奥様はご存知なんですか。」
師匠 「そのモーツァルトはかみさんの宝物だ。特別なヴァイオリニストが弾いておるのだ。」
弟子 「へえ、奥様のお好みでしたか。でも、これもCDがあるじゃないですか。しかもBOXで。」
師匠 「うん、CDになったのをみつけたので買ってきたらすごく喜んだんだけど、翌朝には突っ返された。」
弟子 「え、どうしてですか。」
師匠 「悲しそうな顔してさ、音が違うって。」
弟子 「余程にお好きなんですね。」
師匠 「かみさんがある時こう言ったんだ。『音楽には2種類ある。生きてゆくのに必要な音楽と、そうでない音楽。この演奏は私が生きていくのに必要なの』って。」
弟子 「へえ、それでこんなことに。」
師匠 「さっきのモーツァルトのピアノ曲は僕が生きてゆくのに必要なんだ。だから、中古レコード屋に毎日通った。」
弟子 「出るかどうかもわからないもののために毎日通ったんですか。」
師匠 「いや、出ることは確実だったんだ。」
弟子 「なんでわかったんですか。」
師匠 「ある日中古レコード店に行ったら、ダンボール一杯フルセットで売りに来た人がいたんだ。店が買い取った直後に『今、それを売ってくれ』って言ったら今すぐは駄目で一旦検査してから倉庫に入れるという。順番に出すからいつか出てくる、というので出てくるその瞬間をつかまえようと思って毎日通っていたんだ。」
弟子 「なに、それ、ばかみたいです。」
師匠 「そう、僕は本物のばかであります。でさ、そのシリーズを店頭に出す日にぶち当ったんだよ。もう、即買い、超幸せだった。」
弟子 「で、奥様の反応は?」
師匠 「そんなもん、あきれたに決まってるだろ。」
弟子 「旦那様の道楽に我慢して付き合うってのも大変ですね。」
師匠 「ところが、今はそのレコードは僕だけじゃなくてかみさんにとっても、生きてゆくのに必要な音楽になってる。」
弟子 「なーんだ、聞いて損した。ごちそうさまでした。ということは、どこかでまたこのLPを見つけたらすぐ買っちゃうんですか。」
師匠 「うーん、そろそろもういいかなって思っているけど、見たら買っちゃうかも。」
弟子 「このハイドンの弦楽四重奏全集っぽいのは見たことないレーベルですね。ジャケット、すごくへぼいし。」
師匠 「それはウィーンのPREISERというレーベルで、演奏はどうもラジオ用に収録したものらしい。放送の都合で録音したものなので体系的な全集にはなっていなくて、ところどころ曲が変な風に歯抜けだ。」
弟子 「どうやってみつけたんですか。」
師匠 「それは友人が海外のカタログをあさっていて見つけたので、『これから注文するけど、いる?』って聞かれたので『全部頼む』ってお願いしたやつだ。」
弟子 「そういうルートもあるんですね。師匠も海外に注文したりするんですか。」
師匠 「僕は自分ではしない。そんなWebカタログ見ちゃったら、どうなるかわかるだろ。」
弟子 「毎日、自宅に荷物が届くようになって・・・・」
師匠 「そういうことだ。そのハイドンを注文してくれた友人の家には毎日のようにダンボールで海外から荷物が届く、と奥さんがあきれていた。」
弟子 「そんな調子じゃ、寝る場所ないんじゃありませんか?」
師匠 「大丈夫、奴の自宅の3階は音楽専用のオフィス兼書庫になっていてほとんど図書館状態なんだけど、まだまだいける。」
弟子 「あれま、ユーミンがほぼ全部ありますね。こんなのも聞かれるんですか。」
師匠 「ユーミンは僕と同じ世代、彼女はぼくより2だけ日年上なんだ。だから歌詞に出てくる場所が僕の生活圏と重なっている。」
弟子 「山手のドルフィンは?」
師匠 「知ってる。」
弟子 「ユーミンが通ったという伝説のあるキャンティは?」
師匠 「僕も生意気に足を運んでた。」
弟子 「いくらなんでもシンデレラ・エクスプレスは違うでしょう。」
師匠 「むははは、僕もそれに乗っていた。日曜日の下り最終の東海道新幹線が出る東京駅、行ったことあるかい?」
弟子 「一体どんな風景なんですか?」
師匠 「あの歌詞そのものだよ。」
弟子 「ユーミンはいつごろから聞いてるんですか。」
師匠 「最初のアルバムが出た時から。」
弟子 「へえ、そうだったんだ。」
師匠 「ユーミン以外に何か面白いものは見つかったかい。」
弟子 セルジオメンデスがいっぱいありますね。」
師匠 「中学の時、はじめて買ったLPがそのグリーンっぽいジャングル風のジャケットだよ。」
弟子 「これは僕もCDで持ってます。」
師匠 「へえ、どして?」
弟子 「僕らの世代でも人気あるんですよ。」
師匠 「時代が全然違うじゃないか。録音も古いし。」
弟子 「1960〜70年代というのは、僕達にとってはあこがれの時代なんです。とにかくいい音楽が沢山あると思います。この時代はもう、芸術の森ですね。」
師匠 「すごい表現だな。でも、いいってわかるところが素晴らしい。」
弟子 「この渡辺幹男っていうギタリスト、以前にBBSで紹介してましたね。」
師匠 かけてみようか。」
弟子 「うん、うん、いいノリだなあ。こういうのはどうやって見つけるんですか。マイナーレーベルもいいとこじゃないですか。」
師匠 「HMVの試聴コーナーにコンピレーションアルバムがあってさ、その中の1曲がすごく良くて、誰だと思ったら渡辺幹男っていうギタリストだった。もちろん知らない人だよ。でもとってもいいから、渡辺幹男で棚を探したらこれがみつかったので買ってきた。」
弟子 「CDショップの試聴コーナーのソースはよく聞くんですか?」
師匠 「必ず聞くね。お店ごとに結構気合入れて発掘したのを試聴コーナーに出してくるから、ジャンルを問わずこれは聞いてみる価値がある。」
弟子 「知らないアーティストが多いので僕はいつも素通りしてました。」
師匠 「もったいないなあ、それじゃ新しい発見がないじゃないの。」
弟子 「お店の推薦盤って、なんだか抵抗あるなあ。」
師匠 「自分で決めたいわけ?いいなりになりたくない?」
弟子 「まあ、そういうことなんですかねえ。」
師匠 「もっと素直になりましょう!」
弟子 「へそ曲がりの師匠らしからぬ発言じゃないですか。」
師匠 「僕も加齢とともにすこしはカドがとれてきたのだ。」
弟子 「ウッソー!あれ、どしてこんなところにNIRVANAがあるんですか。」
師匠 「あっちゃいけないかい。」
弟子 「いけなかないですけど、ここにあるっていうのがなんか違和感。」
師匠 「レファレンス用だよ。Steely DanGAUCHOなんかは、ある意味業界定番。こういうのがちゃんといい音で鳴らなかったらペケだと思うよ。」
弟子 「ぐへ、EPICAって、こんなのも聞くんですか。室内楽とボサノバとヘビメタ・・・ねえ・・・」
師匠 ゴシック・メタルとかシンフォニック・メタルって、ほとんどクラシック音楽だと思わないかい。」
弟子 「ちょっと言いすぎなような気がしますけど。」
師匠 「ほら、ボーカルのシモーネちゃん、うまいだろ。胸もデカイが。」
弟子 「こういうのは、どこでどうやって出会うんでしょうか。」
師匠 「職場の同僚がいきなり僕に聞かせた。」
弟子 「で、どうだったんですか。」
師匠 「いいなあ、って思った。」
弟子 「シモーネ嬢のムネが?」
師匠 「それもある。」
弟子 「日本のアーティスト、いろいろありますけど、三宅純ヤン富田野崎美波遠藤響子・・・法則がないですね。」
師匠 「法則?あるよ。みんな、聞いてみていいと思った。」
弟子 「なんですか?このドゥーピーズって」

師匠 「かわいいだろ。音楽もせつなくてキュート。」
弟子 「この鈴木重子って、もしかしてこれ師匠のマイクプリを使ってレコーディングしたやつ?」
師匠 「そう、全段差動マイクプリ1号機を使った正真正銘最初の1枚。」
弟子 「ほかにもありますか。」
師匠 「ここにあるの、全部そうだよ。ほかにもたくさんあるらしいけど、レコーディングは日々行われているわけできりがないから追いかけないことにしてる。」
弟子 「なんか、手作りっぽいのがありますね。」
師匠 「それはテレビ放送用のソースで、市販されなかったからアーティストがわざわざCDに焼いて僕にくれたの。なのでジャケットが手作り。」
弟子 「貴重品ですね。プレミアムつくかな。」
師匠 「ついても売らないよ。」
弟子 「このへんにあるの、変なのがいっぱいありますね。」
師匠 「どんなの?」
弟子 「何故か、オーケストラ曲を室内楽でやってるのとか変則的な編成のLPやCDが目立ちますよ。」
師匠 「それは僕の趣味だよ。ここを見てごらん、その一部のリストがあるから。」
弟子 「この人たち、完全に音楽で遊んでますね。ベートーヴェンの交響曲を3人でやってたりして。いいんですか、こんなことして。」
師匠 「いけない理由があるわけ。」
弟子 「楽聖の作品を冒涜するな、とか誰か言いませんかね。」
師匠 「この編曲はベートーヴェン本人が弟子にやらせたものだよ。」
弟子 「あれま、そうでしたか。なんでまたそんなことを。」
師匠 「誰もが家庭で演奏して楽しめるようにするためだよ。というのはかっこいい言い方で、要するに楽譜を広く売るためだ。」
弟子 「そういうのは多いんですか。」
師匠 「曲のカバーというのはクラシックの世界でもあたりまえに行われていた。リストなんか、みんなが有名曲で遊べるようにかたっぱしから編曲してる。」
弟子 「学校の音楽の授業ではそういう話は全然聞かされませんでした。」
師匠 「音楽は人生の遊びだよ。」
弟子 「真面目な音楽もあるんじゃないでしょうか。」
師匠 「遊びは真面目にやるもんだよ。この冗談のようにみえる音楽も聞けばわかるけどいい加減なものはひとつもない。どれも音楽的にみても優れている。」
弟子 「悲しい音楽もあるんじゃないでしょうか。」
師匠 「どっちもありで、それがいろんな音楽になってる。」
弟子 「どっちもありで、いろんな音楽・・・・ねえ。」
師匠 「遠藤響子の曲のひとつに僕が好きなこういう歌詞がある。『悲しみを花束にして眺めたり・・・喜びを花束にして届けたり・・・』ってね。」