21世紀になってから作る
PHONOイコライザー・アンプ 12AX7 Version2


Version1を製作してから11年が経ちました。Version1は12AX7を1本で仕上げるという割り切りで設計しています。もっとも、それが1960年頃の常識であり、LUX SQ38(1963年)もこれにならって12AX7 1本でPHONOイコライザを構成していました。しかし、利得にはほとんど余裕がなく、回路的にかなり無理をしています。もうすこしなんとかしてやりたい、と思いつつ11年も経ってしまったわけですが、決して忘れていたわけではありません。新幹線や飛行機での移動中も、何かいい方法はないものかとノートと鉛筆を取り出しては構想を練っておりましたが、なかなか考えがまとまらなかったのです。そしてようやくできあがった本機ですが、納得のゆく完成度が出せたと思います。

■2段PHONOイコライザ・・・利得の問題

12AX7を使った2段構成のPHONOイコライザは、十分な利得を得るのに非常に苦労します。以下、LUX SQ38FDの2段PHONOイコライザ回路を材料にして解説します。

初段は負帰還をカソードに戻すために抵抗を入れなければなりません。その値は2.2kΩ〜4.7kΩになります。3極管の内部抵抗はその球本来の内部抵抗(rp)に「カソード抵抗×μ」が加算されます。12AX7の内部抵抗は75〜90kΩ※ですが、たとえばカソード抵抗として3.9kΩが存在すると内部抵抗は470kΩほどにもなってしまうため、初段の利得は30〜33倍がやっとということになります。

2段目はカソードを交流的に接地できるので内部抵抗が高くなりすぎる問題は回避できますが、負荷インピーダンスが低いという問題に直面します。負荷となるのは、(1)プレート負荷抵抗、(2)RIAA負帰還素子、(3)後続のアンプの入力インピーダンスの3つで、これらがすべて並列になります。(1)が100kΩ、(2)が1kHzで360kΩ、(3)が200kΩとすると、これらの並列合成値は56kΩになってしまい、1kHzにおける利得は40〜44倍しか得られません(低域ではもうすこし高くなります)。

この場合、初段=30〜33倍、2段目=40〜44倍、すなわち裸利得は1200〜1452倍ということになりますが、50Hzで1000倍、1kHzで100倍、20kHzで10倍の仕上がり利得が必要なPHONOイコライザにとって、これは厳しい現実なわけです。

※12AX7の内部抵抗は、真空管マニュアルには62.5kΩをと記載されていますが現実的な動作条件においてはそんな数字にはありません。現実的な値は75〜90kΩです。


■2段PHONOイコライザ・・・2段目の負荷の問題

NF型のPHONOイコライザは、後続のアンプの入力インピーダンスに加えてCRによるRIAA素子が負荷になります。RIAA素子のインピーダンスは、1kHzを基準にすると、50Hzでは10倍大きな値となり、20kHzでは1/10小さな値になります。周波数が高いほど負荷がどんどん重くなるわけです。Version1では、この問題を回避するために75μSの時定数を初段入力の手前に移動させて、高い周波数において2段目の負荷が異常に重くならないように工夫しています。一方で入力回路のインピーダンスが上昇してノイズが増えてしまいましたが。

もうひとつの問題は、12AX7という球の内部抵抗が高く、しかもプレート電流が少ないために、いまどきのオーディオ機材のインピーダンス基準に合わないことです。当サイトで公開しているプリアンプやパワーアンプでは、入力にところのボリュームに50kΩを採用していますから、これらのアンプの入力インピーダンスは50kΩあるいはそれ以下になっています。一方で、12AX7は200kΩ以上の負荷インピーダンスが普通であった時代の産物なので、50kΩ以下で受けることに相当な無理があります。ちなみに、初段からみて2段目の入力インピーダンスは1MΩが確保できているのでこのような問題は生じません。

2段目の負荷が重いと、利得が低下するだけでなく、最大出力電圧が低下し歪みも増加します。電圧増幅回路から得られる最大出力電圧は、プレート電流の大きさと負荷インピーダンスを掛けた値でほぼ決まります。プレート電流が0.5mAだとして、負荷インピーダンスが100kΩの場合は50Vpeakすなわち35Vの出力が得られる計算ですが、負荷インピーダンスが20kΩの場合は7Vが上限になります。電源電圧をいくら高くしてもこの数字は変わりません。


■2段PHONOイコライザ・・・初段と2段目とRIAA素子の面倒な関係

2段目の負荷を軽くするためには、負帰還のRIAA素子のインピーダンスを高くする必要があります。RIAA素子のインピーダンスを高くすると、負帰還の受け側である初段カソード抵抗の値が大きくなります。初段カソード抵抗の値が大きくなると、初段の内部抵抗が高くなって初段の利得が低下します。逆に、初段の利得を高くしようとしてカソード抵抗値を小さくすると、それに応じて負帰還のRIAA素子のインピーダンスも低くなりますから、2段目の負荷が重くなってしまいます。

LUX SQ38FDの2段PHONOイコライザの場合、RIAA素子の値は、「300kΩ//270pF+6.8MΩ//800pF」です。この回路定数の場合、1kHzでは360kΩくらいで、50Hzでは3MΩ以上ありますが、20kHzでは40kΩ以下に低下します。これくらい大きな値にしておかないと高い周波数で2段目がもたない(直線性が劣化して最大出力電圧が低下する)のですが、一方で初段カソード抵抗は3.9kΩもあるため、初段で大きな利得を稼ぐことができません。

あちらを立てればこちらが立たずな関係にあります。ここに2段構成のPHONOイコライザの難しさがあります。この問題は真空管式だけでなく、トランジスタによる2段増幅でも全く同じことが言えます。2段目が重い負荷に耐える回路であれば、RIAA素子のインピーダンスを低くすることができ、初段の利得を上げることができます。


■試作1号機

右は2018年3月に試作した1号機の回路です。

<アンプ部>
全体としては、12AX7を使った一般的な2段構成の回路をベースとして、2段目をSRPP回路に変更した構成としました。SRPP回路の実力がどの程度なのか実地に検証してみます。(12AX7のSRPP回路が、50kΩ負荷でも特性がほとんど劣化しないことは確認済みです)

2段目を負荷に強いSRPP回路としたことで、RIAA負帰還素子の回路インピーダンスを若干下げることができました。初段カソード抵抗値を1.3kΩと一般的な値の半分として、初段の利得も若干高くすることができています。しかし、そのままでは初段管のカソード電圧(=バイアス)が低くなってグリッド電流(初速度電流)が流れ始める領域にひっかかってしまうため、B電源から1.5MΩを介してブリーダー電流を流し、初段のカソード電圧を一定値(約0.9V)に保っています。

<電源部>
電源部は、プリアンプ用として特注したRコア電源トランスです。B電源は、100Vを倍電圧整流してから、CRフィルタとトランジスタ・フィルタによって十分にリプルを除去し、左右に振り分けてからアンプ部に供給しています。回路的には特別なものはありません。ヒーター電源は、12.6Vをブリッジ整流してから、CR1段フィルタを経て得たDC12.6Vを各球に供給しています。SRPP回路の上側の球のカソードには120Vくらいの電圧がかかるため、ヒーター回路には+50V程度のヒーターバイアスを与えてあります。

<評価と問題>
試作1号機は無事音は出ましたが、以下の2つの問題が発生しました。

現象としては、超低域での歪み率の測定値のふらつきが異常に大きく、出力電圧が3V以下の領域では歪み率計の表示が暴れてしまって測定できないのです。真空管は、フリッカという不規則で非常に低い周波数(0.3Hz〜数Hzくらい)の電流のふらつきがありますが、それが極端に大きく出たような感じです。犯人は、初段カソード電圧を得るための1.5MΩによるブリーダー電流でした。1.5MΩをはずすと超低域のふらつきがピタッと止まったのです。

加えてものの見事に高周波発振も生じました。発振周波数は6MHzです。発振といっても少々わかりにくい微小発振で、振幅は出力側でわずかに100mVというものです。そのためテスターでは検出不可能で、音も普通に出てしまいますからまず気づかないでしょう。

何故わかったかというと、理由は2つあります。ひとつめは、RIAAのイコライジングの周波数特性が異常だったことによります。100kΩ負荷を与えて周波数特性を測定したところ、イコライジング特性はきわめてフラットでした。47kΩの負荷を与えると、超低域で微減が生じるはずなのに何故か全く逆の結果となり、持ち上がってしまったのです。さらに負荷を重くして33kΩとしてみると低域がさらに持ち上がってしまいました。これはあり得ない現象です。このように、計算上あり得ない不可解な現象に出会った場合、疑うべきは高周波帯域での発振です。ふたつめは、歪み率が出力電圧に応じて0.01%〜0.1%の範囲で良好な値を示す時と、出力電圧と関係なく0.5〜1%という大きな値を示したままになる時とがあったからです。このように、歪み率が出力電圧に応じて合理性のある相関を示さない場合、疑うべきは高周波帯域での発振です。


■試作2号機

試作1号機の問題を解消したのが試作2号機です。成功を念じつつ気合を入れて作りましたが、回路はOKでも実装でNGとなりました。

<アンプ部>
試作1号機において初段をブリーダー電流方式としたことで何が問題になったのか。それはB電源の電圧のわずかなゆらぎが1.5MΩを通って初段カソードから侵入し、それが3600倍も増幅されて2段目のプレートに現れたことが原因です。

初段は、ブリーダー電流方式を改め、カソード抵抗値を大きくして十分なカソード電圧(=バイアス)を確保しつつ、交流的には当初の設計どおり1.3kΩとなるように直列にしたCRを抱かせました。

1.6kΩ//6.8kΩ=1.3kΩ

また、段間の結合コンデンサとして(たまたまそこにあった)0.33μFという大きな容量のものを不用意に使ってしまったのを改めて0.1μFに減らしました。これで初段で発生するフリッカの影響が2段目で増幅されてしまう現象をある程度低減できます。

高周波発振問題は、2段目のプレート〜グリッド間に10pFの位相補正コンデンサを入れることで解決しました。コンデンサ容量は4.7pFあれば一応の安定は確保されることを確認しましたが、安全をみて10pFとしてあります。

なお、このコンデンサにはDC120Vがかかるため200V以上の十分な耐圧が必要ですが、10pFくらいの容量で200V以上の耐圧が得られるコンデンサはそう多くありません。確実なのはディップマイカ・コンデンサですが、いまどきこれを置いている店は多くなくしかも1本250〜400円ほどします。

<電源部>
電源部は、試作1号機とほとんど同じですが、ヒーター電圧を12.6Vに合わせる微調整を行っています。

←ボツになった試作2号機。

<評価と問題>
まず、周波数特性ですが、これ以上望めないくらい正確ににRIAA基準特性に合致しました。20Hz〜20kHzの全帯域にわたって、47kΩ負荷で+0.4dB/−0.1dBとなり、33kΩ負荷では±0.1dBという好成績となりました。

試作1号機で起きた高周波発振の問題も解消されて、負荷インピーダンス値に逆行するような低域端の不可解な持ち上がり現象もなくなりました。

問題は歪み率データから読み取れる残留ノイズです。1kHzで測定していてなんとなく思っていたよりもノイズが多いな、と思って歪み率計の100HzのHPFをONにしたところ表示される歪み率が下がりました。ということはどこかで100Hz以下のノイズ(おそらくハム)を拾っているということです。

右の歪み率データで、注目していただきたいのは100Hz(青)における左上がりの直線の領域です。1Vの時の値が0.05%ですから、1V×0.05%=0.5mVのノイズが出ていることがわかります。同じ条件での1kHzのデータはここに書き入れていませんが、100Hzの時とほぼ重なりました。そして、100HzのHPFをONにした状態の1kHzと10kHzが赤と黒の線です。

試作2号機では、入力RCAジャックとその周辺の信号ケーブルが電源トランスの下を這っています。入力信号ケーブルにはシールド線を使いましたが電磁誘導ノイズに対しては無力ですから、電源トランスからの漏洩磁束を拾ってそれが増幅されたわけです。このPHONOイコライザは、1kHzにおける利得は115倍ですが100Hzでは500倍もあります。入力回路は負帰還ループの外であるため負帰還効果によるノイズ抑圧の恩恵も受けられませんから、入力ケーブルが拾ったハムはそのまま500倍増幅されてしまいます。いくらRコアが優秀であるからといって、このような条件では流石にノイズゼロとはゆきませんでした。

試しに後面パネルの入出力のRCAジャックを取り外して前面パネルに穴を開けて移動させてみました(右の2つの画像)。こうすることで25cmほどもあった入力信号ケーブルは数cmまで短縮でき、電源トランスからも可能な限り離すことができました。入力系のRCAジャックとケーブルの移動は効果てきめんで、今まで拾っていたハムがほとんどなくなりました。

しかし、このままではアンプの後面からはAC100Vケーブルが出て、前面からはオーディオ・ケーブルが出ることになるので、見た目がよくないし使い勝手も悪くなります。本製作ではこの問題も解決しなければなりません。


■本製作

<全回路図>
本機の最終決定回路は右のとおりです。回路構成は試作2号機のままで、ところどころ回路定数を微修正しています。

回路図中に書き込んである各部の電圧のうち、電源関係の電圧はAC100Vを供給した時の値ですので、AC100Vが変動した場合はその変動に応じた値になります。また、アンプ部の個々の電圧は平均的な特性の12AX7/ECC83を挿した場合の参考値です。現実には最大±15%くらいのばらつきがありえますが、その程度であれば問題ありません。12AX7という球は、動作電圧や電流が少々変化しても、特性に影響を与えるμ値はほとんど変化しないからです。

<アンプ部>
初段は、一般的なカソード帰還の方式としつつ、できるだけ多くの利得が稼げるように各定数を決めています。利得を稼ぐには、プレート負荷抵抗はできるだけ大きな値にすることが必要です。プレート負荷抵抗を大きくするためにはプレート電流を減らせばいいのですが、減らしすぎると12AX7自身の内部抵抗が高くなってくるので0.4mA〜0.5mAくらいが手頃です。

後述するRIAA素子との関係でカソード抵抗値は1.3kΩあたりが良いので、DC抵抗は1.6kΩとし、220μF+6.8kΩを抱かせてAC的に1.3kΩとなるようにしてあります。

ところで、3本の12AX7のうち1本はユニットを左右で使っていますが、左右チャネル間クロストークへの影響は大丈夫なのでしょうか。SRPP回路の上側球はプレートが交流的にアースされますので、両ユニットともにプレートはシールドケースのように機能して、グリッドやカソードを外部の誘導から守ってくれます。そのため、初段は別の12AX7を割り当てて、3本目の12AX7をSRPP回路の上側球に割り当てているわけです。従ってシールドケースも省略しています。

<RIAA素子と利得の設計>
RIAA素子は「120kΩ//650pF+2.2MΩ//2200pF」としました。回路上のCRから求めたRIAA特性を決定する時定数は以下の通りです。

75μS: 650pF×120kΩ=78μS
318μS: (650pF+2200pF)×(120kΩ//2.2MΩ)=324μS
3180μS: 2200pF×2.7MΩ=5940μS
利得が有限なアンプでNF方式を採用する場合は、計算上で規定どおりの時定数に合わせても正確なRIAA特性は得られません。何故なら、利得は有限であるために低域側は計算どおりになるわけがないこと、負帰還の性質として高域側もやはり計算どおりになるわけがないからです。そのため、低域端はすこし減衰し、高域端はすこし持ち上がり、中域においてはS字状のうねりが生じます。これをきれいに仕上げるにはこのように微妙にずらしてやる必要があります。

私の古いメモを見ると、「3180μSは利得の余裕がないほど大きな値に」「しかし、やってみないとわからない」「75μSは大きめに」「仕上がり利得が低い時はより大きめに、高い時は控えめに」「120kΩ×2200pFの値は260〜270くらいがベスト」などと書いてあります。

本機で使えそうなRIAA素子の組み合わせの候補は以下に挙げたあたりが考えられます。抵抗器はE24系列から、コンデンサはE12系列から、そしてコンデンサは2個組み合わせたくらいで正確なRIAA特性が得られるように考慮しています。利得は、いまどきのラインソースの信号レベルとの合わせやすさを考慮して100倍かそれよりも少し多いくらいとしました。LPレコード全盛期のPHONOイコライザは50倍〜100倍が一般的でしたから本機の利得は若干高めです。

RIAA CR値時定数1kHzインピーダンスRk値1kHz利得
Plan191kΩ860pF(=680pF+180pF)78μS326μS5760μS113kΩ1kΩ113倍
2MΩ2880pF(=2200pF+680pF)
Plan2100kΩ780pF(=680pF+100pF)78μS333μS5940μS124kΩ1.1kΩ113倍
2.2MΩ2700pF
Plan3110kΩ710pF(=560pF+150pF)78μS329μS5808μS136kΩ1.2kΩ113倍
2.4MΩ2420pF(=2200pF+220pF)
Plan4120kΩ650pF(=470pF+180pF)78μS324μS5940μS149kΩ1.3kΩ115倍
2.7MΩ2200pF
Plan5130kΩ600pF(=330pF+270pF)78μS324μS6000μS161kΩ1.5kΩ108倍
3MΩ2000pF(=1000pF+1000pF)
Plan6150kΩ510pF=(390pF+120pF)76.5μS331μS5940μS186kΩ1.6kΩ116倍
3.3MΩ1800pF

最も高い裸利得が得られるかわりに高い周波数で負荷が重いのはPlan1で、裸利得は低下するが負荷が軽いのはPlan6です。部品の入手の容易性なども考えて、Plan2またはPlan4が適当だと判断しました。

<電源部>
電源部は、試作2号機と同じです。

高圧電源は、AC100Vを倍電圧整流して約300Vを得てから、続く3.3kΩ+22μFのリプルフィルタで残留リプルを減らします。続く2SC3425を使ったリプルフィルタでさらに残留リプルを除去してから、4.7kΩによって左右チャネルに振り分けます。

560kΩと120kΩによって分圧して得た48Vは、ヒーター・バイアスです。SRPP回路の上側の球のカソードには120Vくらいの電圧がかかるため、ヒーター〜カソード間の電圧差を減らす配慮が必要です。カソードに対してヒーター側にプラスの電圧がかけることで、ヒーターから飛び出した電子がカソードやグリッドに飛び込むことを防止できるので、初段での発生するノイズの低減効果もあります。

ヒーター電源は、AC12.6Vをブリッジ整流して約15Vを得てから、簡易なリプルフィルタを経てヒーターに12.6V/0.45Aを供給しています。Rコア電源トランスの電流容量はAC0.75Aなので、ブリッジ整流した時に取り出せる最大電流は0.47Aですからぎりぎり定格内に収まっています(それを見越して0.75Aで特注したのですが・・・)。ヒーター電源の残留リプルは20mV強ほどありますがこれで十分な雑音性能を得ることができます。

プリアンプ用Rコア特注電源トランスを使わない方法について補足説明をしておきます。使用した電源トランスをほぼ同等の整流出力電圧が得られる電源トランスとして、東栄変成器のZ-5VA(90〜110V:100〜115V/5VA)とJ-121(100V:12V/1A)があります。Z-5VAは、1次側=0-100V、2次側=0-110Vで使うと、回路定数を変更することなく使うことができます。J-121は、ヒーター電源回路の1Ωを省略(ショート)させ、3.9Ω/3Wを3.3Ω/3Wに変更することで置き換えが可能です。但し、これらの電源トランスはRコアよりも漏洩磁束が多いため、電源回路を切り離すなどのレイアウト上の工夫が必要です。また、J-121は高さが54mmあるため、本機で使用したケースには収まりません。

<レイアウトと実装>
PHONOイコライザアンプの入力ラインは、信号レベルが低い(数mV)上に回路インピーダンスが高め(数kΩくらい)であるため、外部からの誘導ハムに非常に弱いという問題があります。本機の設計過程でも、微量なから入力ラインが電源トランスからの誘導ハムを拾ってしまい設計に苦労しました。アンプ部と電源部を別筐体に分けてケーブルでつなぐようにすればハムの問題は比較的容易に解決できますが、なんとかコンパクトに仕上げる方法はないものかと思案の末のRコア電源トランスの特注であり本機のレイアウトとなりました。

細長いケースを使い、ノイズに弱い入力部やアンプ部を後方に寄せて、ハム源である電源部は前方に集中させました。AC100Vケーブルを筐体内に這わせると、ノイズに弱い部分の近くを通らざるを得ないので、L型のACケーブルを使って厄介者を外に追い出しました。

レコードプレーヤはトーンアームが右側についていますので、製品の多くは電源ケーブルは左側から、RCAケーブルは右側から出ています。このRCAケーブルは電源ケーブルに接近するだけでハムを拾いますので※、レコードプレーヤだけでなく他のオーディオ機材の電源ケーブルにも近づけっることができません。レコードプレーヤと本機を最短でつなぎ、かつ電源ケーブルに接近させないためには、本機はレコードプレーヤの右側に置くのがベストということになります(ラックを使って上下でもかまいませんが)。本機の電源ケーブルを右側に出したのは、右図のような配置とした時に、電源ケーブルがレコードプレーヤから来ているRCAケーブルに接近したりクロスしないためです。

※ハムを拾いやすいのはMMカートリッジです。MCカートリッジはインピーダンスが低いのでMMほどはハムを拾いません。


■部品について

12AX7/ECC83・・・12AX7の欧州名はECC83で同じものです。12AX7/ECC83はポピュラーな球なので非常に多くの互換球が製造されました。単純に12AX7/ECC83と差し替え可能な球には、12AX7A、12AX7(T)、7025、7025A、6681、E83CC、12DF7、12DT7、ECC803S、6057、M8137、CV4004があります。SOVTEKの12AX7WAは12AX7と異なる類似球を改造したものですがほぼ互換性があります。12AD7はヒーター電流定格が12AX7の1.5倍(12.6V×0.225A、6.3V×0.45A)なので本機の電源回路では使えませんが、電流定格を考慮した回路とすれば同じ球として使えます。本機で使用したのは、1,000円程度で入手した松下製の12AX7(T)/ECC83です。

2SC3425・・・耐圧が350V以上、コレクタ損失が500mW以上のパワートランジスタで、hFEが30〜100程度であれば大概のトランジスタが使えます。2SC3425は、耐圧=400V、コレクタ損失=1.2W、hFE=35〜55です。しかし、そういうトランジスタはなかなか手に入らないでしょう。hFEが20程度のものなら入手容易です。その場合は電源回路の100kΩを68kΩくらいに変更してください。

W02G・・・200V/1.5Aのダイオード・ブリッジです。耐圧100V以上、定格電流1.5A以上の個別のダイオードで組んでもかまいません。

電源トランス・・・本サイトで頒布している特注のRコア電源トランスを使いました。代替可能なものについては、■本製作の<電源部>のところに解説があります。

RIAA素子・・・「120kΩ//650pF+2.2MΩ//2200pF」のうち、2200pFにはDC120V以上がかかりますので耐圧が250V以上のものが必要です。650pFは、470pFと180pFのフィルム・コンデンサを並列にしています。こちらは25V以上の耐圧があれば足ります。この場面では積層セラミック・コンデンサは使えません。RIAA素子で使用するコンデンサは選別したセットを頒布しています。

コンデンサ・・・アルミ電解コンデンサは通常品を使いました。段間結合コンデンサにはDC250V耐圧のメタライズド・フィルム・コンデンサを使いました。位相補正用の10pFはDC400V耐圧のディップマイカ・コンデンサを使いました。ちなみに、各コンデンサにかかるDC電圧は以下のとおり。

・470pF、180pF・・・過渡電圧=13V、動作時電圧=5V
・2200pF・・・過渡電圧=290V、動作時電圧=120V
・10pF・・・過渡電圧=300V、動作時電圧=120V
・0.15μF・・・過渡電圧=300V、動作時電圧=100V
・0.47μF・・・過渡電圧=120V、動作時電圧=120V
抵抗器・・・回路図にW数の記載がないものはすべて1/4W金属皮膜抵抗器を推奨します。1/2W〜3Wのものは、W数さえ十分であれば種類は問いません。

アルミ・ケース・・・本体側はLEAD P102(W250×H50×D100)、カバー側はLEAD P402(W180×H50×D100)です。底板がついていますが、カバー側は底板をはずして取り付けます。焼付け塗装してあり加工仕上げもきれいです。板厚は1mmなので加工は容易です。

◆部品頒布のご案内はこちらです。→ http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm


■製作手順

<平ラグユニットの製作>
平ラグパターンおよび真空管ソケット周辺の配線は以下のとおりです。アンプユニットの平ラグパターンは、配線の最短化を考慮して左右で異なりますのでご注意ください。実際の配線ではどんな位置関係になっているのか、下の方にある画像と比べてみてください。(クリックで拡大)

抵抗器は足を長めにして平ラグに密着しないように少し浮かせます。アルミ電解コンデンサのリード線の間隔よりも平ラグの穴の間隔の方が広いので、リード線を「│└┐」型に折り曲げて幅を合わせます(右下の参考画像)。平ラグと周囲をつなぐ線材は長めのものをあらかじめ取り付けておくと後が楽です。

←参考画像

<ケースの加工>
この画像は、穴の位置を間違えていたり(トランスの取り付け穴)、開け忘れているもの(配線を通す穴)がありますので真似しないでください。お手本にはなりません。

ケース加工図面はこちら。画像の作例には若干の不具合がありましたので、こちらの図面では修正してあります。(クリックで拡大)

注意点は以下の通り:
・カバーと留める4個のビス穴はやや大きめ3.5〜3.6mm径にしておくと、かぶせた時の面合わせがやりやすいです。
・真空管ソケットの18mm径の穴は、2mm〜3mm径のドリルで開けた穴の列をニッパで切ってからやすりで仕上げます。テーパーリーマーは、余程の切れ味が良くないと難しいでしょう。ボール盤を持っている方は、18mm径のホールソーを使えば10秒で開けられます。
・真空管ソケットを留めるビス穴は、先に18mm径の穴を開けておき、そこに真空管ソケットを当てて穴の位置決めをします。全部の穴を同時に開けてしまうと何故かビス穴がずれてビスが入りません。
・ロッカスイッチやACインレットはバネでカチリとはめる方式なので、角穴は小さめにしておかないとガタつきます。穴開けは、2mm〜3mm径のドリルで開けた穴の列をニッパで切ってから、現物合わせしつつやすりで仕上げます。ハンドニブラーを使うにしても最後はやすりで仕上げないと精度が出ません。


<真空管ソケットまわりの先行配線>
ケースに真空管ソケットを取り付けたら、まずヒーターの配線を行います。ヒーター配線の先はケース内の電源ユニット3につなぎますので、20cmくらい残しておけば足ります。次に、10pFのコンデンサとSRPP回路の上側球のカソードまわりの配線を行います。後工程で追加で配線する場所は、ハンダをチョン付けの仮固定にとどめておきます。真空管ソケットまわりは混み合うのでこの部分は先に行っておかないと後で苦労します。

<平ラグ取り付け上の注意>
平ラグは、ケース上面に2個、内部に3個取り付けますが、ビス穴が平ラグの位置とかぶっているために手順を間違えると後でビスを回せなくなります。最も安全確実な方法は、先にスペーサだけ田植えしておき、平ラグは後から乗せて固定するという手順です。なお、スペーサは電源ユニット3のみ15mmを使い、他はすべて8mmを使いました。

<構造部品の取り付け>
電源トランス、ACインレット、ヒューズホルダー、電源スイッチ、入出力ジャック、アース端子を取り付けます。電源ユニット1,2は8mmスペーサで取り付けます。RCAジャックを取り付ける際の知恵についてはここ(http://www.op316.com/tubes/tips/k-terminal.htm)に記述があります。

←アース側端子は折り曲げてハンダでつないでから取り付ける

<ケース上面の電源まわりの配線>
電源トランスにスパーク・キラーを取り付け、電源トランス〜電源ユニット1,2をつなぐ配線を行います。電源トランスのからの線(一次側AC100V×2本)、電源ユニット1,2から引き出した線(ヒーター×2本、B電源×2本、LED×2本)はケース穴から内部に突っ込んでおきます。

<アースライン>
本機のアースラインはとてもシンプルかつ理想的な構造です。
・電源関係のアース・・・電源ユニット2→電源ユニット3→アース母線。
・アンプ部のアース・・・アンプ部ユニット(L/R)→アース母線。
・アースラインのシャーシ・ポイント・・・アース母線→4個のRCAジャックの取り付け部分。

<内部の配線と仕上げ>
手順1:ACインレット、ヒューズホルダー、電源スイッチ、電源トランスをつなぐ配線を行います。電源トランスへの通電試験もやっておきます。ヒューズホルダーにヒューズを入れて忘れないように。
手順2:電源ユニット3を15mmスペーサで取り付けます。
手順3:電源ユニット1,2(上面)と電源ユニット3(内部)をつなぐ配線、LEDまわりの配線、真空管ソケットと電源ユニット3とつなぐヒーター配線を行います。この段階でヒーターの点灯確認と、電源ユニットの動作試験ができます。アンプ部への電流供給がないので、電圧はやや高めに出ます。
手順4:アンプ部ユニット(L/R)を8mmスペーサで取り付けます。
手順5:真空管ソケット〜アンプ部ユニット(L/R)〜電源ユニット3をつなぐ配線を仕上げます。初段のグリッドがオープンのままなのでアンプ部を含めた通電試験はできません。
手順6:アース母線を取り付けます。作例では、0.9mm径の銅線を3本使っています。「コ」の字型にしたものを使って左右の真空管ソケットのセンターピンをつなぎます。次に「L」字型にしたもので中央の真空管ソケットのセンターピンと先に取り付けたアース母線の中央部とアース端子とをつなぎます。最後に「コ」の字型にしたものでRCAジャックのアース側をつなぎつつアース端子ともつなぎます。
手順7:初段グリッドとPHONO入力のRCAジャックをつなぐ線と、47kΩのグリッド抵抗を配線します。
手順8:アンプ部ユニット(L/R)とLINE出力のRCAジャックをつなげば完成です。


右の画像では、電源トランスの取り付け穴の位置がまずくて折り曲げた段差にひっかかったので、円形の特殊なワッシャを当ててしのいでいます。
本サイトの図面はそのようなことにならないように穴の位置を修正してあります。

<完成>
ACメガネケーブルはL型のものを使い、本機の外側を這わせることで誘導ハムのリスクを回避しています。


■測定

特性の測定結果は以下のとおりです。

利得: 115倍(47kΩ負荷、1kHz)
最大出力電圧: 10V(THD=0.1%)、20V(THD=0.5%)at 100Hz〜10kHz、47kΩ負荷
RIAA偏差: ±0.3dB(20Hz〜20kHz、33kΩ負荷)
残留雑音: 200μV〜400μV(帯域80kHz)
消費電力: 12W〜13W
上記の性能は、本サイトの作例から逸脱しない限り再現性があります。

本機の周波数特性のRIAA偏差は、負荷インピーダンス(=後続のアンプの入力インピーダンス)によって超低域領域でごくわずかに変化します。本サイトで公開しているアンプ群の入力インピーダンスは、そのほとんどが25kΩ〜50kΩの範囲ですので、33kΩあたりでほぼ完全なフラットとなるようにチューニングしました。もっとも、20kΩ〜100kΩの範囲であれば全く問題ないといっていいでしょう。

真空管式のPHONOイコライザの場合、歪み率は1V出力時で0.1%くらい、10V出力時で1%くらいが当たり前ですから、本機は格段の低雑音かつ低歪みが得られていることになります。ちなみに、3本のカーブの形状の違いの理由は以下のとおりです。

1kHzとの対比で説明します。100Hzの歪み率が全体にわたって高いのは、負帰還量の違いによるものです。RIAA特性を得るために周波数が低いほど負帰還量が減るからです。同じ理由で、周波数が高いほど負帰還が増えるので10kHzではより低歪みになります。しかし、RIAA素子があるために周波数が高いほど2段目の負荷が重くなるので、最大出力電圧の限界値は低下します。20Vを境に歪が急増しているのはそのためです。

残留雑音は、使用する12AX7/ECC83の個体によって若干ばらつきます。新品の状態ではノイズが大きく、ノイズの質も刺激的なところがありますが、数百〜数千時間を経てノイズは徐々に減ってゆき耳障りも良くなります。球の寿命ですが、12AX7/ECC83は温度が低いので余裕で10,000時間を超えるのが普通です。


■ふりかえり

完成直後の感想です。

今まで使ったPHONOイコライザの中では特に静かで気持ちがよいです。
本機で聞くLPソースは、LPにありがちな音の濁り感がなくなり、明瞭さが増しました。
MCカートリッジ(DENON DL-103)以外の音は何かボケたところがあっていつのまにかMM嫌いな私でしたが、放置されていたSHURE M95EDやM75MB2、oftofon FF-15EMK2が思いのほか良く鳴るので復活しました。

手持ちのLPには、デジタル化されていない良いソースがたくさんあるので、それを聞きながらこの記事を書き進めています。



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