高性能
MCヘッドトランス
<本製作>


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MCヘッド・トランス(トランス探し)の章でかなりグレードの高いトランスがいくつか見つかったので、このうちの1つを使って実用性の高いMCヘッドトランスを製作することにします。

■回路図

MCカートリッジの昇圧トランスの回路はご覧のとおり実にシンプルです。1次側は基本的にMCカートリッジと直接接続し、抵抗やコンデンサなどは一切必要ありません。2次側は、プリアンプのPHONOイコライザに内臓された47kΩが負荷になります。トランスの性質として最適な負荷インピーダンスが47kΩ以下の場合は負荷抵抗(RL)を追加して、47kΩとの合成値が希望値になるように調整します。

回路図中のトランスの端子番号はTpAsタイプに対応していますが、端子の出し方が異なるトランスでも番号の順序は基本的に同です。アースは、左右共通のまま入力から出力まで貫通させ、入力端子付近または出力端子付近でシャーシアースを取ったらいいでしょう。トランスには静電シールドや内部のコアなどの金属部分からの引き出し線があり、回路図では5番がそれに該当しますが、これはアースに接続します。回路図には表記されていませんが、トランスのケースや取り付けネジ部もアースに接続します。

MMカートリッジを使う時にトランスをスルーさせたい場合はバイパススイッチを使う方法がありますが、トグルスイッチは接触抵抗が高く微少電流に適さないので、接点の接触性が良いロータリースイッチを使ってください。下の回路図は6回路2接点のロータリースイッチを使った例です。両切り回路とし、バイパスさせる時はトランス回路は入出力ともに切り離します。1次側は数十Ω〜数百Ωオーダーの低インピーダンス回路であるため、スイッチを2ユニット分並列にして接触抵抗の影響を低減させています。


■ハムを誘導しない実装のポイント

製作例として2つの実装パターンを紹介します。左側が「良くない」実装で、右側が「望ましい」実装です。良くない実装は容易に誘導ハムを拾いましたが、望ましい実装ではハムを拾いにくくなっています。アースの引き回しが違うのがわかりますか。

×→  ○→

両者の違いをひとことで言うと、信号ラインとアースラインが離れているか接近しているかの違いに尽きます。左側の画像の実装を見ると、入力端子(向かって左側)とバイパススイッチ(手前のパネル中央)をつなぐ信号ラインは左隅を這っていて、バイパススイッチと出力端子(向かって右側)をつなぐ信号ラインは右隅を這っています。一方でアースは入出力端子のところでまとめてあり、太い2本の線を束ねて基板のセンターを走るアースと1対1でつないであります。

この実装方法の何が問題であるかというと、入力側・出力側それぞれに隅を這っている信号ラインと中央のアースラインが離れておりかなり大きなループ(輪っか)ができているという点です。外部の誘導磁界がこのループを横切ると、ループは発電機としてノイズを発生させます。事実、本機の隣に電源トランスを持ったPHONOイコライザを持ってくるハムが出ました。

右側の画像の実装では、入力端子とバイパススイッチをつなぐ信号ラインにアースも巻きつけて密着させ互いにループを作らないようにしてあり、出力側もまた同様です。さらに、バイパススイッチと基板上のトランスをつなぐ信号ラインもループができないように工夫しています。入力から出力まで、アースラインは常に信号ラインに寄り添っているわけです。

入力端子のところのアースと出力端子のところのアースは分離されています。そのため、RCAジャックをパネルと導通させていいのは入力側か出力側いずれか一方だけということになります。上の回路図では出力側にシャーシアースがありますが、本機では入力側でシャーシアースを取りました。どちらでなければならないという決まりはありません。そのため出力端子側はパネルとの間に白い絶縁リングを当てています。


■回路インピーダンスと左右チャネル間クロストーク■

MCカートリッジのインピーダンスは数十Ωと非常に低いので、左右の信号ラインを近接して這わせても左右チャネル間クロストークに影響が出ることはありません。しかしMMカートリッジはインピーダンスが高いので回路インピーダンスも高くなり、左右の信号ラインを近接させると高い周波数になるほど左右チャネル間クロストークが悪化します。MCカートリッジを使った場合でも、昇圧トランスの2次側はMMカートリッジと同様の配慮が必要です。

MCカートリッジしか使わないというのであれば、左側画像の実装のように入力側はシールド線ではないむき出しの線材でも問題はありませんが、MMカートリッジを使った場合はそれではまずいので右側画像の実装では入力側・出力側ともにシールド線を使いました。使用したシールド線は無名のあり合わせを使っています。確かビデオデッキか何かの付属についてきたRCAケーブルを捨てずにとっておいたものでその切れ端です。

シールド線は一般に外部からのノイズから信号ラインを守るために使われますが、本機は全体がアルミケースで囲われていますから、外部からのノイズから信号ラインを守るという目的としてはシールド線を使う意味はありません。シールド線を使ったのはひたすら左右チャネル間クロストーク対策です。

もうひとつの注意点はMCカートリッジを使った場合の左右共通アースラインのDCRです。MCカートリッジはインピーダンスが数十Ωと非常に低いため、アース側で生じる共通インピーダンスが通常のアンプ設計と比べて無視できない値にになります。たとえば、0.16sq(AWG25相当)の線材の場合、DCRは0.106Ω/mありますので、30cm(本機の場合)では0.035Ωとなります。回路インピーダンスは、40Ω(DL-103の場合)+470Ω(47kΩ×1/100)=510Ωですので、その比率は1:14,400すなわち83dBです。このケースでは、すべての周波数帯域において左右チャネル間クロストークは-83dBよりも良くなることはないということです。本機では、入力側のアースラインにはやや太目の0.3sqの線材を使いましたので、-84dBではなく-89dBとなっています。


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