Pre Amp No.3

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真空管式MCヘッド・アンプ

<1979年版>


オーディオ花盛りの1970年代、もっぱら半導体アンプひとすじであった私ですが、何を思ったのか真空管式のMCカートリッジ用ヘッドアンプを作ったことがあります。書庫を整理していたら当時の回路図が出てきたのでここにご紹介することにします。まずは、いきなりですがこれが全回路図です。記録によると、これが書かれたのは1979年とあります。


■アンプ部

当時、トランジスタ式のMCカートリッジ用ヘッドアンプは何台も作っていました。真空管でできないものかと思っていろいろと調べましたが、トランス式やトランジスタ式ばかりで真空管を使った例は全く見当たりませんでした。真空管の固有雑音の多さを考えると商品にはならないのだなと思いましたが、真空管でやってみたい衝動抑えがたく、無理を承知でノイズの嵐だったら解体しようと覚悟を決めて作ったのがこれです。

12AX7を使用した単段SRPP回路で、負帰還はかけていません。SRPPとしたのは、プリアンプのPHONO入力インピーダンスが50kΩが標準であるため、通常の抵抗負荷回路だとロードラインが立ってしまうからです。かといってノイズが多いカソードフォロワは使えません。12AX7の動作条件としては、プレート電流は0.25mAくらいだったと記憶します。プレート電流を減らした方がノイズ的に有利だと思ったからです。

入力部のLとCはテレビのバズ混入対策です。このアンプを試聴した場所が都心のマンションの階上であったため、このような対策なしには音を聞くどころではなかったためです。上側球のカソード抵抗に入れたCも同様の目的のものですが、ここに入れるのはおすすめしません。


■電源部

電源部は独立したユニットになっていて、アンプ部から離して設置するようになっています。電源トランスは、ジャンク屋で500円で手に入れたニキシー管点灯用のものらしいですが、カットコアのかなりしっかりしたものです。B電源は180Vをブリッジ整流した後、2段におよぶトランジスタ・リプル・フィルタを経てアンプ部に供給されます。回路としては目新しいものではありません。

ヒーター電源はCR1段およびトランジスタ1段のリプル・フィルタを経てやや低めの11Vを供給しています。コンデンサ容量が2200μFというのは今の感覚からいうとかなり少ない感じがしますが、当時はこんな容量でもかなりデカくて高価でした。CDC2503というのは米国製のローノイズ・トランジスタで、当時、私が愛用していたストックの流用です。


■特性・試聴感など

記録が残っていないので推定するしかありませんが、利得は34dB(50倍)くらいだったと記憶します。DENONのDL-103だけでなく、ortofonのMC-20をつないでも充分な利得がありました。ノイズは、思ったほど大きくはありませんでしたが、かといって「静か」といえるものではなく、実用ぎりぎりのレベルでした。確かに、これでは商品にはならないでしょう。このアンプは、当時、人気のあったortofonのMCA-76とは対照的な輪郭のはっきりとしたキレの良い音がしました。これに気を良くして現在使用中のプリアンプにも真空管式のMCカートリッジ用入力を実装したわけです。ノイズのリスクはありますが、真空管式のMCカートリッジ用ヘッドアンプは1台作ってみる価値はあると思います。

■製作アドバイス

本機の回路をベースに製作される方のためにいくつかポイントをまとめました。

アンプ部ですが、バズ対策の入力のLとCはとりあえずいらないでしょう。470pFも不要です。入力グリッド抵抗が90Ωとなっていますが、DENON DL-103には小さすぎますので220Ωくらいに変更してください。抵抗類はすべて金属皮膜抵抗などの低雑音タイプを使ってください。カーボン抵抗だとノイズが目立ちます。真空管は振動を拾いやすいので、しっかりとしたシャーシを使ってください。

電源部の部品では特殊なものは要求しませんので、入手可能なもので間に合わせてください。B電源のリプル・フィルタで使用したトランジスタ2SC1420はもう入手できませんが、耐圧300VのNPNタイプならば種類は選びません。2007年時点で入手容易なものというと2SC3425があります。アンプ部の電源電圧は200Vとなっていますが、クリティカルではなく許容範囲は広いので、190V〜250Vくらいの範囲であれば問題なく動作します。ヒーター電源はもうすこし丁寧にリプルを取ってやったらいいでしょう。CRでがっちり固めるもよし、3端子レギュレータでスマートにまとめるのもよしです。


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