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テンプレートは不可能
トラブルシューティングというと、便利なテンプレートがあってテンプレートに書かれた質問に答えてゆくと、やがて「ここがトラブルの原因ですよ」という答えが得られるものを期待された方も多いのではないでしょうか。

そんなあなたは、電子回路におけるトラブルをなめているかもしれません。試作を繰り返して設計し、何度もチェックを行って製造されたメーカー品ならばある程度のテンプレート化も可能です。しかし、今まあなたの目の前にあるのは、いきなり作り始めた試作1号機であり、一発で動作する保証などない、ほとんど出来損ないとも言うべき代物だと思ってください。しかも、トラブルの原因を作ったのはあなた自身なのです。

何故、トラブルシューティングにテンプレートがないのか。

このホームページに「FET式差動ヘッドホンアンプVersion3」というシンプルなヘッドホン・アンプがありますので、これを例にして説明します。このヘッドホン・アンプを完成するためには、ユニバーサル基板だけでも280ヶ所のハンダづけがあります。このうちの1ヶ所でもハンダづけ不良があれば回路は正常に動作しません。これによって生じるトラブルは、90パターンくらいあります。ハンダ不良以外では、ジャンパー線のミス、部品の間違い、部品の取り付け向きの間違いなどがありますから、トラブルのパターンは200種類以上になります。基板の実装以外では、全体をつなぐ配線、ケース加工、レイアウト、アースの始末などが原因となるトラブルも想定しなければなりません。製作者は、どこでミスをするかわかりません。これだけのケースを洗い出しさないと実用性のあるテンプレートは作れないのです。

トラブルが生じた時の現象の種類は、音が出ない、音が歪む、ノイズが出るという風に種類はそれほど多くありません。初心者は、音が出ない時はこうしなさい、ノイズが出た時はこうしなさい、というようなテンプレートがあれば十分だと考えてしまうのかもしれません。

現実のトラブルは、そんなに甘くはありません。

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