タイムドメインLightのアンプ部を入れ替える悪戯


ある日、私のBossaNovaギターのお師匠様でありますT.Y氏がタイムドメインLightなるアンプ付きスピーカーを持って来られました。ふーん、巷で結構話題になっているこのスピーカーはこんな鳴り方をするのね、なるほどなるほど、と聞いていたのですが、どうも音が歪みっぽいというかイガイガした感じで気に入らない感じがします。「何使ってるんだろうねえ」とか言いながら中を開けてみたら東芝のカーラジオ用パワーアンプICのTA8207Kが出てきました。道理で歪みっぽいと思いました。このICはそういう音がするのです。でもねー、もう少しなんとかならないものかねー、という話になってこのさいだから(何がこのさいなんだか・・・)中を入れ替えてしまおう、ということになったのでした。


中から出てきたアンプ部基板

回路図を起す

最初の作業は、プリントパターンを追っての回路図起しです。正体不明な部品はほとんどなく、ほどなく全回路図を得ることができました。

パワーアンプICのTA8207Kをほぼ推奨回路どおりに使った標準的な回路です。ただ、ひとつ気になるのがメーカー推奨回路では入力にDCカットのコンデンサがあるのに、本機にはそれがありません。

ボリュームの後ろに10kΩと2.2kΩによる-14dBほどのアッテネータがあります。アンプを自作される方にとってはこんな無駄なようなアッテネータの存在は奇異に思われるかもしれません。TA8207Kのようなカーステレオ用のICは元々設定利得が50dB(300倍)くらいで非常に大きいのが特徴で、外付けの負帰還抵抗で利得を下げたとしても安定度の都合で40dBくらいが下限であり、アンプとしてはまだ利得が余っています。そのためわざわざこんなアッテネータを入れて利得の辻褄を合わせるわけです。カーステレオ用のICはみんなこんな調子です。

アンプ出力コンデンサには1000μF×2を奮発しているのに、かんじんの電源部には左右共通で470μF1個しかありません。出力コンデンサ付きOTL回路は電源部のコンデンサが上側半サイクルの信号の通り道ですから、こちら側も増やしておかないと片手落ちになります。もっとも、メーカーの設計エンジニアさんでもこのことがおわかりでないの方が多いので、こうなってしまうのが標準だったりしてorz。LED点灯回路のZDですが、何か意図があるのでしょうか。


巧妙な低域カット

タイムドメインLightの特徴といえば、口径が小さなスピーカーに超低域を入れないためにかなり高い周波数から低域をカットするフィルターがついていることでしょうか。

どんなしくみになっているかというと、ボリュームの手前にある0.1μFのコンデンサとボリュームとによっておよそ80Hzから下を-6dB/octで切っています。このHPFはボリュームの位置によってカットされる周波数が80Hzから180Hzに動くようになっているため、ボリュームを上げれば上げるほど低域は出なくなります。

このスピーカーは、低域側では十分なストロークがとれません。広帯域アンプで無理に低域を突っ込んでみるとあっさりと飽和歪みが生じます。ところが、本機に内蔵されたHPFが実に巧妙な動きをするようになっていて、ボリュームを上げてゆくにつれて低域がどんどんカットされるためにストローク飽和が生じにくいのです。歪ませるくらいならばっさりとカットしてしまえ!という割り切りがあるということですね。

ナチュラルさが信条の私はこの種の音作りが全くNGな人なので、設計者には申し訳ないですが回路を変えさせていただきました。


早速、分解

決まればやることは早い。早速分解します。

完全に分解してしまってはまずいので、端子まわりや入力まわりなど使えそうなところだけは残します。


改造作業

新たな回路は下図のとおりです。パワーアンプICはTA8207Kよりもはりかにましな東芝製TA8201AKを使いました。残念ながらこのICは製造中止かつマーケットから姿を消しました。LEDまわりやボリュームまわりは元のプリントパターンを生かしています。入力のところに2ヶ所もコンデンサ(4.7μF)がはいっているのは、単に頭が混乱していたからでボリュームの前のコンデンサはいりません。ICまわりの回路および部品はほぼ東芝推奨どおりです。利得は許容されるぎりぎりまで下げていますが、それでも過剰なので入力のところで22kΩと4.7kΩによるアッテネータをつけています。なお、下の回路図は片チャネル分だけです。

元々ついていたICが12本足であったのに対し、新たに搭載しようとするICは7本足でこれが2個になります。そこで、すでに開いている12個の穴を使い、穴に合わない足は横に曲げて出すことにしました。


完成

なんともみっともない仕上がりですが、ある穴をできるだけ使い、既存のプリントパターンも無理やり流用したためこんなことになりました。神よ、お許しください。

TA8201AKはBTL接続なのでかさばるコンデンサがなくなり、すっきりしました。なお、TA8201AKはスピーカー出力にHOT側もCOLD側もDCが出ているのでスピーカー・ケーブルの扱いでは、むき出しにならないような注意がいりますが、面倒なので元のままのRCAジャックを使っています。よいこはこういうことをしてはいけません。

出てきた音は、オリジナルに比べて歪み感はなくなり確実にワンランクか2ランク上になりました。入力のところのローカットをなくしたのは一長一短で、小さなコーンが低域のストロークを扱いきれないためエッジが当たってしまってあまり大音量で鳴らすことはできません。しかし、中小音量におけるバランスはかなり良くなり、しかもコンパクト・スピーカーにありがちな薄い音ではなく、しっかりとした芯のある中域が得られています。


TA8201AK

今やほとんど入手不可能になってしまいましたが、若干の手持ちがあります。希望される方はこちらにどうぞ。まだ残っていればお分けします。

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