FET & CRD選別冶具


DC調整回路なしでJ-FET差動回路を組むために使用する、高精度の2SK30Aペアおよび2SK170ペアを選別するための簡単な測定器具です。


J-FETを選別する

J-FETのペアといっても、一体何をもってペアとするかははなはだ悩ましい問題です。メーカーは、IDSSによってランク分けをして出荷していますから、IDSS値が同じ(近い)ものをもってペアを組む方法があります。この方法はかなり使えます。なんといっても測定が簡単です。ゲートをソースにつなぎ、「ドレイン」〜「ゲート+ソース」間に6〜12Vくらいの電圧をかけ、そこに流れる電流を測れば、それが(ある意味)IDSSです。この場合、バイアスは0Vなわけで実際の動作条件とは大きく異なります。個体ごとにgmが異なれば、バイアスを与えた実際の動作条件における特性が揃ってくれません。幸いなことに、IDSSが同じ個体では、gmも近い値を示してくれることが多いので、この方法は使えないわけではありません。

実は、差動回路では、IDSSやgmが異なってもその違いは特性には現れません。異なるgmの個体で差動を組んでも、2つの差動出力から得られる波形は同じです。そこが差動の差動たる所以です。望ましいのは、IDSSもgmも少々ばらついてもかまわないかわりに、同じドレイン電流を流した時の「バイアスが同じになって欲しい」というのがこちらの願いです。そこで、任意のドレイン電流が設定できて、その時のバイアス値が正確に測定できるような冶具を作ることにしました。


「冶具」は何と読むか

これは断固として「やぐ」と読みます。「じぐ」なんてことは絶対にありません(キッパリ)。どうも最近は「治具」という漢字が当てられてこれを「じぐ」と読むらしいですが、まあこれは英語の「jig」の当て字とみれば許してあげてもいいですが、「冶」を「じ」とは絶対に読みませんので「冶具」と書く限りは「やぐ」以外には読みようがないですね。

では「冶具」とは一体なんぞや、ですが私の記憶をたぐりますと、子供の頃か学生の頃、確かに「冶具(やぐ)」という語を本で見たことがあるからです。意味としては、職人などが自分の仕事の効率化や正確さを実現するために、主に手製の道具あるいは道具とともに使う補助具のことをさしていました。以来ずっと「冶具(やぐ)」として覚えていたのですが、今回製作したしかけはまさに私がイメージしていた「冶具(やぐ)」そのものなのでした。

このことに決着をつけたいと思って広辞苑を引いたところ、「冶具」も「治具」載っておらず肩透かしを食いました。「冶具」は「治具」の誤記であるという説明も目にしますが、言葉の問題をそういう風に簡単に結論付けていいのかーっ、と言いたいのであります。私は「治具」という言葉を知るはるか昔から「冶具」という語を何度か目にしていますので、この説明は当たっていないと思います。

とかなんとか書いてますが、私の主張はどうやら圧倒的少数派らしいです。言葉は時代で変化し、最終的には多数決で「正」となるのでじたばたしてもしょうがないのですがね。じたばた・・。


回路としくみ

被測定FETのゲートとドレインを固定した状態で、ソース側に入れた可変型の定電流回路によって被測定FETに強制的に一定の電流を流すしかけになっています。たとえば、定電流特性を「1mA」にした状態で被測定FETに何を持ってきても必ず「1mA」が流れるしかけになっています。ドレイン電流を一定値にした常態を作り出し、その時の「バイアス」すなわち「ゲート〜ソース間電圧」が測定できるようになっています。この方法ですと、測定したいドレイン電流を正確に固定した状態でFETを次から次へと交換して、同一条件における個々のJFETのバイアス特性の違いを精密に把握できるわけです。

12Vの電源電圧をおおよそ6Vずつ2つに分けて、上半分の6Vは被測定FETが動作するための「ドレイン〜ソース間電圧」になり、下半分の6Vは定電流回路の動作のために使われます。

6.2Vの定電圧ダイオードを動作させるための電流は2.2kΩで供給されます。ここに流れる電流は、(12V−6.2V)÷2.2kΩ=約2.7mAからまかなわれます。2.7mAのうちの一部は右に分かれて5kΩのボリュームの中を流れます。5kΩのボリュームは2SC945を使った簡易型の定電流回路に与えられるベース電圧を制御するためのものです。ボリュームの位置によって2SC945のベース電圧は0.77Vから4.5Vまで変化します。2SC945のベース〜エミッタ間電圧は0.6Vでほぼ一定ですから、エミッタ電圧は0.17Vから3.9Vくらいの範囲で変化することになります。0.17V〜3.9Vのところに390Ωの抵抗がありますので、ここに流れる電流は0.43mA〜10mAで可変となるわけです。

この回路の安定度について考えてみましょう。2SC945のコレクタ電流は0.43mA〜10mAの範囲なわけですが、2SC945のhFEがおおよそ200なのでベース電流はおおむね0.002mA〜0.05mAの範囲になります。温度変化などでhFEが変化するとベース電流も若干ですが増減します。そこで測定中にベース電流が少々変化してもいいように5kΩのボリュームには0.05mAよりも充分に大きい0.75mAを流しています。そして、0.75mAが流れる経路にかかる電圧を一定にするために6.2Vの定電圧ダイオードがそこにあるわけで、しかも定電流ダイオードには電圧を安定させるために0.75mAよりも多めの1.95mAを流しているわけです。この電流は多ければ多いほど定電圧ダイオードは安定しますが、今度は発熱による影響が出てしまいなますので欲張らずに2mA程度にとどめています。

ダイオード(1S1586)は2SC945のベース〜エミッタ間電圧の温度補償用です。ダイオードの順方向電圧と2SC945のベース〜エミッタ間電圧は同じ-2mV/℃の温度特性を持ちますので、気温が変化した時。互いに同じだけ電圧変動するおかげできれいに打ち消し合ってくれるわけです。


全回路図と実装

全回路は下図のとおりです。電源は外付けで、DC12Vのスイッチング電源を使います。2つのスイッチを組み合わせることで、被測定FETのIDSS、定電流特性(可変)、その時のバイアス(ゲート〜ソース間電圧)の3つが測定できます。被測定FETのドレイン電流の検出は、ドレイン側の100Ω(1%級)で行います。(+)、(−)の端子にDCVレンジにしたデジタル・テスターをつなぎます。連続して複数のFETの選別を行う時は、定電流特性を固定したまま、あとはひたすら被測定FETを取り替えつつバイアス値を読み取ります。

内部はこのような簡単なものです。位置決め15分、穴あけ30分、配線1時間半くらいでしょうか。部品はすべてあるものを工夫して使って仕上げました。特別な部品はありません。DC12VジャックについているOSコン(紫色)は単なる気休めです。もらいもののOSコン、いつまでも持っていても仕方ないので使いました。はっきり言って、これはいりません。

S1テスター位置S2測定モード
100Ω両端電圧Idss(定電流回路OFF)
100Ω両端電圧バイアス(定電流回路ON)
バイアス(=ゲート〜ソース間電圧)バイアス(定電流回路ON)

※下の回路図中の「2.5」とある抵抗値は正しくは「2.2kΩ」です。


自作ガイド

本回路をそのまま真似て自作される場合は、主要部品は以下の通りとしてください。いずれも秋葉原なら千石電商の2Fにあります。入手困難な方は部品頒布をご利用ください。

2SC945 2SC945または2SC1815-GRランク。
1S1586 1S1586、1S1588のほか1S2076といった小信号シリコン・ダイオード。ショットキ・バリア・ダイオードは不可。
ZD 6.2V HZ6-C2など、6.2V±0.2Vくらいのもの。


使い方

S1は、何を測定するかの切り替えです。たとえば、2SK170を選別した時は、ドレイン抵抗(100Ω)の両端電圧を測定することでId=2mAとなるようにVRを調整します。100Ωに2mAですから電圧は0.2Vです。一旦調整したらそれで終わりなので、S1はバイアス(G-S間電圧)を測定する側に切り替えます。こうしておくとどんな2SK170をつけても常にId=2mAの条件が維持されます。2SK30A(Yランク)を選別する場合はId=0.75mAなので0.075Vです。

S2は、バイアスを可変にするか、G〜S間をショートさせてバイアス=0Vにするかの切り替えです。JFETの選別では常に「バイアス可変」ポジションです。「G〜S間をショート」は、2SK30をCRDがわりに使う時の選別で使います。


ご注意

半導体は温度によって特性がかなり変化します。JFETやCRDも例外ではありません。JFETやCRDを手で持つと体温で温度が上昇し、本選別冶具に取り付けた時に一旦温度が下がり、測定のための電流を流すと自己発熱で再び温度が上昇します。そのため、選別作業中はしばらく測定値が動きますので安定するまで待ってください。また、作業全体を通じて気温が変化しないように注意してください。

一度選別したものに、後から購入・選別したものを足す場合は、すべて測定をやり直してください。

測定結果は、測定された時の温度においてのみ有効で、これをアンプに組み込んだ状態ではおそらくかなりの温度上昇となるので測定結果とは異なる値になります。

測定では毎回決まった電流値を設定するためボリュームの特定部分ばかりが磨り減ります。そのため、頻繁に使っているうちにボリュームの接触面が劣化して調整が効かなくなります。この問題を解決するために改訂版に変更しました。



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