偽ステレオ・エンハンサ

ステレオの左右の広がり感を拡大するエンハンサです。ご予算500円くらいで作れてしまうこの回路をアンプとスピーカーの間に割り込ませるだけで、激変効果(爆)が得られるという魔法のような装置です。


■その前に・・・逆相信号とスピーカーの関係のお話

ステレオで左右のスピーカーを正しく接続したら、左の音は左から、右の音は右から、そしてセンターの音は真ん中から聞こえますね。しかし、左右どちらか一方のスピーカーの±の接続を逆にしたらどうなるかご存知でしょうか。簡単なことですので、まだやったことがない方は是非やってみてください。左の音は左から、右の音は右から聞こえますが、センターの音はポジションが定まらなくて左右に散ったように聞こえます。2つのスピーカーから位相が逆の音を鳴らすと音が散ってしまうのです。

左のスピーカーからは左チャネルの音を出し、右チャネルからはすこし小さくした左チャネルの音を鳴らすとどうなるか。左から聞こえるはずの音がすこしセンターに寄ってしまってステレオ感が損なわれてモノラルっぽくなります。

では、左のスピーカーからは左チャネルの音を出し、右チャネルからはすこし小さくした左チャネルの逆相の音を鳴らすとどうなるか。左から聞こえるはずの音はさらに左に寄ったように聞こえてしまうのです。そこにはスピーカーがないのにです。そのような効果を発生させるのが下の回路です。

パワーアンプの左チャネルからは100mVの信号が出ていますが、右チャネルからは信号がない(0V)状態で考えてみましょう。本来左チャネルの信号電流は左のスピーカー(4Ω)の中を通ってまっすぐアンプに戻ってゆくはずですが、その帰り道に2.2Ωの抵抗が割り込んでいます。そのため、信号電流は2.2Ωと右チャネルのスピーカー(4Ω)に分かれて流れます。この時、右チャネルのスピーカーからみると信号電流は逆方向(マイナスからプラスに)流れます。つまり位相が逆になります。

スピーカーに印加される信号電圧は左側が73.8mVで右が-26.2mVですから2.8倍ほどの差があります。この差は電力にして約8倍です。こうすることで「左のスピーカーからは左チャネルの音を出し、右チャネルからはすこし小さくした左チャネルの逆相の音を鳴らす」ことができるわけです。


■本機の回路■

左側は普通のステレオスピーカーのつなぎかた、右側が本装置の回路です。じつに簡単ですね。スイッチをONにすれば普通の接続になり、スイッチをOFFにするとステレオ・エンハンサになります。抵抗値ですが、4Ωスピーカーに対して明確な効果を実感するには1Ωでは不十分で1.5〜2.2Ωくらいが必要です。8Ωスピーカーでしたら2.7〜4.7Ωくらいがいいでしょう。

こういうモノがいいとか悪いとかそういう問題ではなく、とても簡単なしくみですから暇があったら是非実験してみてください。スピーカーから出る音と位相の関係を実感できるので良い学習になります。よく聞いてみると、真に左右に広がったわけではないこと、センターの音が抜けた感じになってしまうこと、抵抗値を大きくしすぎるといよいよ音が散ってしまうことがわかると思います。特に中低音の厚みが失われます。また、左右2つのスピーカーの間隔を狭くしてやってみると、左右の広がり効果はよりはっきり認識できるでしょう。

ステレオの左右の広がり効果を狙った本来のエンハンサはもうちょっと凝ったことをしていますが、原理的にはこのような位相効果を使っています。スピーカーを左右に離して配置せずに中央に集めた製品がいろいろ出ていますがそれなりにステレオ感があるのは、この種の位相効果を利用しているからです。スペースの都合でどうしてもスピーカーの間隔が稼げない時はこんな簡単なものが役に立つかもです。

また、ポップスなどで変な方向から音が聞こえてくるものがありますが、これは逆相信号を作って意図的にミックスしたり、最初から位相を逆にしたマイクを混ぜて立てたりもします。完全な逆相(180°)ではなく、90°〜120°くらいの信号を使うとより自然な感じになります。1970年代に流行した疑似4チャネルではこの技術が多用されましたし私も作ったことがあります。180°ではない位相操作は回路が複雑になるのでこんな簡単な実験はできませんがいずれ機会があればご紹介します。



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