SRPPレポートその2


SRPPレポートその1では、SRPP回路は、「上側球カソード側」から出力を取り出した場合には、出力インピーダンスが低下することによるさまざまなメリットがあることがわかりました。SRPP回路では上側球と下側球は異なる球でもかまわないことはすでに多くの実験によって確認されています。プッシュプル動作を営んでいない回路ですから当然といえば当然ですが。

では、「下側球だけを5極管にしたら、5極管並みの利得が得られて、しかも、SRPP特有の低出力インピーダンスが得られるのではないだろうか?」と思って検証してみたのが本実験です。うまくいったらご喝采、拍手してくださいね。駄目だったら「3極管並みの利得しか得られなくて、しかも、5極管並の高出力インピーダンスになってしまう」かもしれません。


回路のあらまし

実験の基本回路が下図(左)です。実験では、5極管(6AU6)のかわりにFET(2SK30A GR-class)を使用しました。2SK30Aのgm特性は、Y-classが"6267"と、GR-classが"6AU6"と酷似していますので丁度いい代替になります。FET(または5極管)の上に普通のSRPP上側球がのっかった形です。

しかし、2SK30Aはドレイン-ソース間耐圧が50Vくらいしかありません。しかも、このタイプのFETはドレイン-ソース間に20V以上の電圧をかけるとゲート電流が増加するという問題があるので、できたらドレイン-ソース間電圧は10V程度におさえたいところです。そこで、下図(右端)のように高耐圧トランジスタ(2SD798)のカスコード回路を挿入することにしました(こんなことするんだったら最初から5極管でやればよかった)。2SD798は本来このような目的のための石ではないのですが手持ちのジャンク利用ということでご了解ください。


動作条件

増幅素子:

使用した2SK30A(GR-class)のIdssは4.6mAです。上側の真空管は、6DJ8(Sylvania)と6FQ7(東芝)の2つの場合を測定しました。耐圧を稼ぐためのトランジスタは2SD798です。

オペレーション:

電源電圧(Eb)は210Vです。そのときの6DJ8/6FQ7のプレート-カソード間電圧は100Vとなるように上側球のカソード抵抗値(Rk)を調整します。2SD798のコレクタ-エミッタ間電圧も100Vで、2SK30Aのドレイン-ソース間電圧は10Vです。全部あわせて210Vになります。動作電流は2.5mAです。

利得:

さらにカソード抵抗を450Ω〜1.75kΩの間で変化させて、上側球のプレート〜カソード抵抗間電圧が50V、100V、150Vとなるような3つの場合について利得を測定しました。FETや5極管の常として、利得は負荷抵抗値に比例します。SRPP回路の場合も同様で、上側球を直流抵抗(これを真空管抵抗と呼ぶ)とみなした値と等価となります。プレート電流が2.5mAですから、真空管50V、100V、150Vというのは、真空管抵抗の性質から20kΩ、40kΩ、60kΩの抵抗と等価になります。

RkEpIp真空管抵抗利得
450Ω50V2.5mA50V÷2.5mA=20kΩ57倍
1.11kΩ100V2.5mA100V÷2.5mA=40kΩ115倍
1.75kΩ150V2.5mA150V÷2.5mA=60kΩ173倍

ごらんのとおり、測定した利得と上側球のプレート〜カソード抵抗間電圧値(Ep)とはきれいに比例しています。Epが150Vのときの利得は173もあります。これで、当初の目的のうちの「5極管並みの利得が得られ」が達成されたことになります。

出力インピーダンス:

出力インピーダンスは、6DJ8の場合で7.6kΩ、6FQ7の場合で11.7kΩと充分低い値が得られました。第二の目的である「低出力インピーダンスが得られ」たことになります。1段増幅回路で、利得が100以上あって出力インピーダンスが10kΩ前後などという真空管回路はこれまでありませんでしたから、実験は大成功です。これで、歪み率特性が良かったら文句なしです。

歪み率と出力電圧


歪み率特性は、6DJ8も6FQ7も全くといって良いほど同じで、負荷が32kΩの時だけは6FQ7の値が高く出ています。6FQ7の時の方が出力インピーダンスが高いですから当然の結果です。歪みの源泉は2SK30Aですから6DJ8か6QF7かどうかはほとんど関係がありません。右上がりの直線になっており、2次歪みの特徴がよく現れています。1V出力時の歪み率は0.2%弱ですが、これは12AX7や6FQ7といった一般的な3極電圧増幅管の水準とほぼ同じです。

電源電圧が210V(本回路の場合有効電源電圧は200V)の増幅回路では、最大出力電圧の理論値は約70Vです。6DJ8の場合でクリッピング・レベルは60Vでしたのでほとんど理論値に近い高い効率の増幅回路であることがわかります。



まとめ

本回路を使用して、電源電圧を210Vから250V以上に上げてやれば、単段増幅で300Bを余裕で低インピーダンスでフル・ドライブでき、ある程度の余裕を持ってNFBがかけられることになります。

300Bや2A3を固定バイアスで動作させた場合、グリッド抵抗が50KΩ以下という制約があります。5極電圧増幅管では次段入力インピーダンスが50KΩ以下ではとてもまともな動作は望めません。どうしてもカソード・フォロワ等を挿入しなければなりませんでした。本回路では、32kΩ負荷でも充分な出力電圧が得られますから、出力段が、グリッド抵抗値が50kΩ〜100kΩしかない固定バイアスであっても一向に構わないことになります。

また、下側のFET+TR(カスコード)のかわりに6AU6や6267といった真空管を使用しても同様の効果が得られることはいうまでもありません。

右図は、5極電圧増幅管6AU6の12V版12AU6を下側に使い、上側には12AU7の片ユニットを使った例で、本HomePageの5極+3極SRPPドライブ6F6GT全段差動プッシュプル・アンプで使った回路です。上側球のカソード抵抗(5kΩVR)を可変とすることで、かなり広範囲に利得を変化させることができ、実機では、約170倍の利得を得ています。

また、本回路を使った製作例には、「「富嶽」とその仲間達のページ」というサイトの中の50CA10pp(回路図あり)が知られています。


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