21世紀になってから作る
PHONOイコライザー・アンプ 12AX7バージョン


真空管式のPHONOイコライザーの定番回路といえば、チャネルあたり12AX7単管で構成した2段アンプでしょう。じつに簡単な構成で、電源も簡素なものですが、作ってみたら立派にお役目を果たしてくれるものができました。12AX7は非常に高い内部抵抗を持つためになにかと難しい面があるわけですが、現代のシステムに組み込んでも実用になるように動作条件や定数バランスはかなり追い込んだつもりです。

■アンプ部

製作した2段PHONOイコライザー・アンプの回路は下図のとおりです。スタディー編の「2段PHONOイコライザー・アンプ(パート2)」をベースにしています。

RIAAイコライザーのうち75μSの時定数を初段グリッドの前に持ってくる方式です。初段でできる限り利得を稼ぐために、プレート負荷抵抗を390kΩとめいっぱい大きくとっています。この値を2倍にしたら利得も2倍になるというものでもありませんが、まあ、少しでも利得を稼いでおこうというわけです。同時に、初段カソード抵抗も2.2kΩとさらに小さしました。初段カソード抵抗は小さい方が利息が稼げますが、やりすぎるとバイアスが浅くなりすぎてグリッド電流が流れはじめるのでほどほどにしておかなければなりません。初段バイアスは実測でほぼ0.9Vです。

初段グリッドの1500pFは50V耐圧のものでかまいませんが、負帰還側の1500pFには動作時に約100V、電源ON直後には200V以上の電圧がかかるので、耐圧は最低でも250Vのものが必要です。なお、これくらいの容量のコンデンサというと最近はセラミック・コンデンサが主流ですが、セラミック・コンデンサは電圧をかけると容量が変化してしまうものもあり見分け方が難しいので、フィルム・コンデンサやマイカ・コンデンサ等挙動がわかっているものを選んだらいいでしょう。

2段目のプレート負荷抵抗は220kΩで、2段目の負担をほんのわずかでも軽くするために、出力側のクリックノイズ防止抵抗は2MΩと大きくしましたが不都合はありませんでした。ここは入手容易な1MΩで問題ありません。2段目のバイアスも実測約1Vでやや浅めな値です。出力側の結合コンデンサは欲張って1.5μFをつけていましたが、後述する理由のために0.47μFに減らしました。0.68μFを上限とし0.22μF〜0.68μFの範囲を推奨します。

電源電圧は265V(後に254Vに変更)で、初段と2段目を共通にしています。ここにいれた22μF/350Vの電解コンデンサはリプル・フィルターというよりも信号経路を構成するのが本来の役割なので、電源部ではなくアンプ部側に実装します。

12AX7/ECC83のデータは以下のとおりです。マニュアル・データのEp=250Vの動作は実用的ではないので、より現実的な実測データを入れておきました。

Base HeaterUnits EpEg1 Ipgm rpμ Notes
12AX7/A
ECC83
7025/A
6681
MT9 6.3V×0.3A
12.6V×0.15A
3極×2 100V-1.0V 0.5mA1.25 80kΩ100 マニュアル
データ
165V-1.5V 0.5mA1.23 80kΩ98 実測データ

1-pin2-pin 3-pin4-pin 5-pin6-pin 7-pin8-pin 9-pin
Pin接続 2P2G 2KH H1P 1G1K H(CT)

右の画像はアンプ部の様子です。段間コンデンサ(0.22μF)と2段目のグリッド抵抗(1MΩ)はソケットにじかづけしていますが、それ以外のCRはすべて平ラグに実装しています。いちばん奥に見えるのが22μF/350Vの電源コンデンサ、その手前が1000μF/10Vのカソード・コンデンサ、その手前の褐色の大きいのが1.5μF/250V(後に0.47μFに変更)のフィルム・コンデンサ、いずれも通常品です。

本回路と同じものを製作される場合は、出力側のコンデンサは1.5μFではなく、0.22〜0.68μFくらいの容量の方が良いと思います。理由は2つあって、1つめは、トーンアームは数Hzあたりに共振周波数を持つため、10Hz以下の帯域まで周波数特性を伸ばすのは意味がないばかりかマイナス面の方が大きいからです。2つめは、電源ONした時、B電源電圧が一気に上昇しますが、この上昇が過渡電圧となって2段目プレート側にも現れます。出力側コンデンサ容量が大きすぎると、この過渡電圧が出力側に現れて後続のアンプの初段を破壊してしまうことがあるからです。


■電源部

電源回路は右図のとおりです。使用したトランスは、東栄製240V:100V(5VA)のトランスと100V:6.3V(1A)のヒータートランスです。2つ合わせて1270円という安さです。

B電源は、トランスの1次と2次を入れ替えて使用し、240V巻き線をブリッジ整流して296Vを得ています。当初はブリッジ整流用のダイオード・スタックを使うつもりでしたが、手元にIN4007(1000V、1A)があったのでこれを4本使ってブリッジを組みました。無負荷時でも規定の電圧が得られずに15V〜20Vくらい低く出ているのは、トランスの1次2次を逆に使っているからです。

整流直後に挿入されている1MΩの抵抗は、電源OFF時にコンデンサに蓄積された電荷を逃がすためのものです。流れる電流はわずかなので、電荷を逃がし切るにはかなり時間がかかります。470kΩくらいに減らすことを推奨します。

リプル・フィルタは、小指の先ほどの大きさしかない10μF/350Vの電解コンデンサ×3個による真空管プリアンプにあるまじき簡素かつ安価な構成です。しかし、計算してみればわかることですがこれで申し分のないレベルまで残留リプルは抑えられています。しかし、この容量を小さくしたために、本機のB電源電圧はAC100Vの変動を受けやすくなってしまいました。AC100Vの変動および電源スイッチON時の過渡電圧の影響を緩慢にするという意味で、後に2個の5.6kΩを10kΩに変更しています。その結果電源電圧が10Vほど低下しましたが大勢に影響なしです。3個ある10μFもできれば22μFに増やしてください。


ヒーター電源は、当初、思い切って6.3VのAC点火を試みましたが、盛大なる50Hzハムが出てあえなく敗退しました。電源回路にスペースの余裕がないので、S4VB(たまたまあった60という600Vタイプ)によるブリッジ整流の後、手持ちの2200μF/10Vの電解コンデンサ2個(合計4400μF)による簡素なDC点火になったわけですが、実にこれでヒーター・ハムはほとんどなくなりました。ヒーター電圧が高く出たので手持ちの0.33Ωを追加してドロップを試みましたが、まだ6.6Vと高めなので0.47Ω〜0.68Ωくらいがちょうどいいと思います。後に0.68Ω/2Wに変更したところ、6.6Vあったのが6.2Vになりました。S4VB20は製造中止になりましたが、S4VB60ならまだ手に入るようです。

もし、本回路と同じものをお作りになるのでしたら、ハム対策をより確実にするために、ヒーター電源の平滑コンデンサは4400μF(2200μF×2)ではなく合計で9400μF(4700μF×2)くらいに増量されることをおすすめします。

細長いシャーシの前半分が電源部で、ハムの巣である2個の電源トランスはアンプ部からいちばん離れた場所に追いやっています。手前の平ラグは、向かって左半分がB電源、右半分がヒーター電源です。


■製作

製作される方のために、本機のラグの配線パターンをご紹介しておきましょう。

<アンプ部>

片チャネルあたり1個の10P×2列の平ラグを使っています。INPUTおよびOUTPUTは入出力のRCAピンジャックからの線です。B+はB電源ユニットにつながります。2つのEもそれぞれ、RCAピンジャックと電源ユニットにつながっています。アースにあたる端子は黒く網がけしてあります。0.22μFと1MΩだけは真空管ソケット側で配線しています。Hというのはヒーターの配線です。私は左右対称にして配線しましたが、制約はありませんのですきずきで決めてください。

<電源部>

AC240VおよびAC6.3Vは、2個の電源トランスの2次巻き線につなぎます。IN4007は個別のダイオードですが、S4VB20はブリッジになったスタック(1個にモールドされている)です。2つある「〜」記号のところにAC6.3Vをつなぐと、「+」および「−」からDC出力が得られます。


■アースの配線

ハムが出ないアースの引き方は以下のとおりです。

考え方としては、電源部とアンプ部とを分けます。そして、電源部の中だけで残留リプルが実用上ない状態を作り出します。また、アンプ部のV+とアースをつなぐ電解コンデンサは、アンプ部側に配置します。こうすることで、電源回路のアース内に流れているリプル電流がアンプ部まで出て行って悪さをしないようにし、またアンプ部の信号ループが電源部まで迂回しないようにします。

ヒーター回路も独立した回路にしておき、電位を決めるだけのために1本の線でアンプ本体のアースとつなぎます。この線には電流は流れていません。アンプ部は、左右の区別はしないようにして、また初段と次段との区別もしないでいっしょくたに考えるのがポイントです。電源部とは、このいっしょくたになったアンプ部との間で1本の線でつなぎます。入力端子のアースと出力端子のアースは一応分けてアンプ部とそれぞれ1本の線でつなぎます。左右の区別はしないようにします。ここまでできていれば、アンプ部のどこからシャーシに落とすかは本質的に関係なくなります。本機の場合は実害はありませんが、(よく記事に書かれているように)電源部からシャーシに落としてはいけません。

電源トランスからE端子が出ていたら、電源部のアースにつなぎます。真空管ソケットのセンターピンはアースにつなぎます。シャーシへのアースとアース端子とは同じ場所にしてあります。パネルや裏蓋が塗装してある場合は、取り付けネジのところの塗装をはがして、取り付けた時にシャーシと導通するようにします。本機の配置ではシールド線は不要ですが、シールド線を使う場合は、片側だけをアースします。


■特性とコメント

利得は左右ともに「89.5倍」できれいに揃いました(※後に、初段カソード抵抗が2.4kΩから2.2kΩに変更されたため、利得は97倍に増えています)。

利得とRIAA特性にインパクトがある初段グリッド抵抗(47kΩ)とコンデンサ(1500pF)、初段カソード抵抗(2.4kΩ→2.2kΩ)、RIAA素子(220kΩ、1500pF)は、絶対値もさることながら左右の値が相対的に揃った値のものを選別することも重要です。

周波数特性は左下図のとおりです。47kΩ負荷の時と33kΩ負荷の2つのケースについて測定しました。このデータは1.5μFをつけていた時のもので、33kΩ負荷ではかなりフラットに近い(20Hzで+0.6dB)ですが、47kΩ負荷では50Hz以下のレスポンスの上昇は目立ち、20Hzで+1.4dBくらいになっています。しかし、推奨値の0.33〜0.47μFに変更するとほとんどフラットになります。5kHz以上の高域では、47kΩ負荷と33kΩ負荷ともにほんのわずかに上昇がみられます(最大で+0.4dB)が、これは出力インピーダンス600Ωのオーディオ・ジェネレータを信号源に使っての計測なので、測定時の時定数が71.4μS(47.6kΩ×1500pF)となっていることによります。もっとインピーダンスが高いMMカートリッジをつないだ時はもすこしフラットに近づきます。

歪み率特性は右上図のとおりです。CR-NF型の特徴の良い面が顕著に出ており、通常のNF型イコライザの弱点である10kHzにおける歪み率の悪化が生じていません。

当初、DC点火をしても左チャネルに50Hzのハムが残りました。これは、縦長(300mm×100mm×50mm)のシャーシの中でAC100Vラインが左チャネル付近を通っていることが原因でした。ちょっと迂闊でした。手元に2芯シールドがなかったので、撚ったAC100Vラインにアースにつないだ単線をぐるぐる巻きにした簡易2芯シールドケーブルを作ってハムを退治しました(右下図=本アンプの恥部・・・今は銅箔で覆って少しは見栄えが良くなっています)。残留ノイズは実用上充分な低さですが、ヒーター電源はもう少しコンデンサ容量を奢ってもいいでしょう。

肝心の音ですが、透明感があってキレがあります。低域はすっきりとしていてRIAA偏差によるブースト感はありません。こんなシンプルな回路で、しかも無理なロードラインを引かざるを得ない偏った動作条件なわけですが、全体としてみればこんな不利な設計にしてはよくまとまった特性が得られたと思います。12AX7単管構成、正直いって見直しました。

お勉強と問題点叩き出しの目的で作ったのに、これで立派に実用になってしまうので、ん〜、どうしたもんでしょう。思ったほど問題が出てこない。期待ハズレだったわけです(変な困りかた)。おかげで、我が家では2台のレコード・プレーヤーが元気に活躍するようになってしまいました。このPHONOイコライザー・アンプは立派に実用になります。2010年現在、このアンプは差動プリや全段差動PPアンプとともにムスメ宅のメインシステムになっています。

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