大人の自由空間
特性の測定
製作したブレッドボード・ベーシックアンプの概要

実験1号機として製作したのは、ノグチ製トランスを使った「6AH4GT全段差動プッシュプル・ブレッドボード・ベーシックアンプ」です。できる限りシンプルな構成、少ない部品点数、そして特に「無調整」がコンセプトです。

初段管:JAN6188(6SL7GT)
出力段管:6AH4GT
定電流回路:トランジスタ独立定電流方式
出力トランス:ノグチ PMF-25P×2
電源トランス:ノグチ PMC-190M
消費電力:65W

 L-chR-ch
総合利得(無帰還):9.10倍9.36倍
総合利得(NFB):6.62倍6.76倍
D.F.(無帰還):1.741.78
D.F>(NFB):2.642.77
NFB量:2.8dB2.8dB
残留雑音(補正なし):1.10mV1.02mV

但し、6AH4GTはばらつきが大きく、球の組合わせによって裸利得が2dBくらい狂います。出力管をペアで組むと、バイアスが深いペアを使った側のチャネルの利得が著しく低下します。また、6SL7GTも、球によって利得が異なる場合があるので、初段、出力段ごとに球の組み合わせを考えて全体の利得を揃えました。


全回路図


周波数特性

PMF-25Pは、比較的低い周波数帯域に微妙なピークとディップがある出力トランスです。無帰還時の特性をみても、51kHz付近に目だったピークがあり、43kHz付近、73kHz付近そして350kHz付近の3個所にディップがあります。各ディップのすぐ上には潜在的なピークの存在が想定されます。したがって、そもそもこの出力トランスで40kHz以上の帯域におけるフラットな特性は望めません。周波数特性をフラットにしようとして負帰還をかければかけるほど、ピークが頭を持ち上げてくるだけです。

無帰還時と負帰還時のデータは以下のとおりです。この程度のわずかな負帰還では動作の不安定要素はなさそうなので、位相補正は全く行っていません。それでも周波数特性の暴れは生じていません。両端ともに落ちはじめのポイントがちょっと早いような気がします。それでも、わずかな負帰還で10Hz〜40kHzで-3dBですので、これでよしとします。

測定:2002.8.8

このような特性を持った出力トランスの場合、周波数特性を伸ばそうとして負帰還量を増やすと、最初のピーク(50kHz付近)がむくむくと持ちあがってきてあっという間に0dBラインを越えてしまいます。そうなってしまうと波形は崩れ、耳障りな音になってしまいます。これを抑えようとして高域における強い位相補正を行うと、かえって周波数特性が劣化します。どうあがいても50kHzまで素直に伸びたフラットな特性は望めませんので割り切りも大切です。


左右チャネル間クロストーク特性

全段差動プッシュプル回路のハイライトは、チャネル間のクロストーク特性の良さでしょう。本機では、チープな電源を左右チャネルで共有しています。シングル・アンプでこのような電源にした場合、100Hz以下の低域における右チャネル間クロストークは著しく悪化します。しかし、以下の実測特性からもわかるように、残留雑音を測定しているようなもので、左右間での信号の漏れは全周波数帯域において「ない」と言っていいでしょう。

測定:2002.8.8


歪み率特性

初回の6AH4GTは、ばらつきが大きすぎたので少しましなペアを探し出し、測定をやり直しました。1kHzにおける5%歪み時の出力は約3.3Wです。出力トランスの電力ロスを考えると、こんなもんでしょう。非常に特徴的なのは、100Hzでの歪みがかなり大きいということです。小出力時にそれが目立ちます。負帰還をもう少しかけることができれば数字全体をもっと良くできますが、それをやるだけの利得の余裕はありません。むしろ、シンプルな回路構成と、位相補正しなくても安定動作できていることをもってよしとすべきでしょう。

測定:2002.9.15

得られた音は、全段差動プッシュプル・アンプらしい腰の座った低域、張りのある中域、そして充分な帯域感があります。とても、こんな簡単な構成の駄球アンプとは思えないところが、全段差動の面白いところです。

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