4.出力段の動作ポイントの検討


6F6のプレート特性

6F6のプレート特性データは以下のものが発表されています。このデータは、スクリーン・グリッド電圧(Eg2)が250Vのときのものです。Eg2が250Vよりも高いときは、0Vのカーブはもっと上にずれますし、250Vよりも低いときは、0Vのカーブは下にずれます。

6F6は、負荷抵抗の高めな球です。それは、Eg2=250Vの場合に取り出せるプレート電流の最大値は80mA程度しかなく、少ないプレート電流で大きな出力を出そうとするとどうしても負荷抵抗を高くしなければならなくなるからです。

とりあえずロードラインを引いてみる

差動プッシュプル電力増幅動作でのロードラインの引きかたは、通常の文献でみられるような一般的なAB級プッシュプル動作のロードラインとはずいぶん違います。シングル動作のロードラインとほとんど同じといってもいいでしょう。

差動回路では、2つの球に流れるカソード電流の合計値はいかなる場合も一定で変化しません(AB級では出力が大きくなると2管に流れる電流の合計値はどんどん増加します)。一方の球に流れる電流が1mA増えれば、もう一方の球に流れる電流はきっちり1mA減少し、互いにシーソーのように増減しあいます。従って、電流の最小値は0mA、最大値は動作点の電流のぴったり2倍となるようなロードラインとなります。

直列になった2本の球で、1つの出力トランスの負荷をドライブする構造なので、1本の球あたりで出力トランスの負荷の1/2を担う計算になります。出力トランスの1次インピーダンスをかりに10KΩとすると、その半分の5KΩのロードラインを引けばいいことになります。(差動でない通常のAB級プッシュプル動作ではこのようなロードラインの引きかたではないので注意してください!)

プレート電圧を250Vとして、そのときのプレート電流が35mA、40mA、45mAの3つのケースについてロードラインを引いてみました。

さて、45mAの場合はプレート電流の最大値がその2倍の90mAになりますが、Eg1=0Vのカーブとの交点でのプレート電流は約79mAと読み取れ、6F6ではこれ以上の電流を流すことはできないことがわかります。40mAの場合も、Eg1=0Vの交点でのプレート電流は約77Vでこれも不十分です。35mAの場合は、74mAとなって4mAのおつりがでます。Eg1=0Vのカーブは球によってバラツキがありますから、この程度のおつりは必要です。

35mAの場合は、プレート損失は8.75W(=250V×35mA)で6F6の許容値11Wよりもかなり少なく、ちょっともったいない気もします。

負荷インピーダンスを変えたらどうなるか

今度は、プレート電圧250V、プレート電流40mAの条件のままで負荷インピーダンスをいろいろ(5KΩ、8KΩ、10KΩ)変えてみることにします。

5KΩの場合:プレート電流の最大値は充分余裕があり大丈夫です。ロードラインをこのまま左にずらして、プレート電圧を250Vから200Vちかくまで移動させてもまだ大丈夫そうです。

8KΩの場合:プレート電流の最大値はぎりぎりです。250Vのままプレート電流をすこし減らした方がよさそうです。

10KΩの場合:プレート電流を減らすか、プレート電圧を高くするかしないと十分な最大値が得られそうにありません。

最適化されたロードライン

あれこれ考えながらでっちあげたのが以下の最適化された条件でのロードラインです。

CASE: RL(Ω)Ep(V)Eg2(V)Ip(mA)Pp(W)理想最大出力(W)
5KΩ255V250V41.0mA10.46W4.20W
8KΩ267V250V39.5mA10.55W6.24W
10KΩ282V250V38.0mA10.72W7.22W

結果はごらんのとおりで、6F6では負荷インピーダンスは高い方が大きな出力が得られることを証明する結果となりました。

もちろん、スクリーン・グリッド電圧を250Vから285V〜300Vに上げてやれば、5KΩや8KΩでもっと大きな出力を取り出せるような条件とすることは可能ですが、スクリーン・グリッド電圧を高くするとスクリーン・グリッドに流れる電流もどんどん増加する関係にあり、ただでさえスクリーン・グリッド電流値の大きな6F6ではちょっと考えてしまいます。「スクリーン・グリッド電圧はもっと下げたいが、6F6では250Vくらいかけないと10KΩ負荷でも十分な出力が取れる動作にならない。」というのが本音です。

ここでの結論

負荷インピーダンス10KΩを前提に設計を進めることにします。そこで、スクリーン・グリッド電流(Ig2)も試算してみます。「ある一定のスクリーン・グリッド電圧(Eg2)のときのプレート電流(Ip)とスクリーン・グリッド電流(Ig2)の比はほぼ一定」という性質を利用して計算します。6F6のシングル動作データより、スクリーン・グリッド電圧250Vのときの標準動作で、Ip=34mA、Ig2=6.5mAというのがありますので、これをIp=38mAとして同じ比率で算出します。

RL(Ω)Ep(V)Eg2(V)Ip(mA)Ig2(mA)Ik(mA)Pp(W)Pg2(W)理想最大出力(W)
10KΩ282V250V38.0mA7.3mA(推定)45.3mA(推定)10.72W1.82W(推定)7.22W


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