6AH4GT 全段差動プッシュプル・アンプ回路図


アンプ部

電源部


回路の説明

<初段・ドライバ段>

入力信号は、初段2SK30Aの差動プッシュプルで受けています。反対側の2SK30Aのゲートは負帰還の入力となっており、負帰還量をドライバー1本で調節できるように100Ωの半固定抵抗器を入れてあります。2SK30Aの共通ソース側は選別した2mAの定電流ダイオード(CRD)で定電流化してあり、また、2SK30Aの2つのドレイン負荷抵抗(10kΩ)は1%の精度で選別することで高い位相反転精度を得ています。この2SK30Aは、1%の精度でIdss(とgmと)で選別することでプッシュプル・バランス調整を省略しています。こんな高い精度で選別することの意味は、ただ単に無調整にしたかったからです。1%の精度のペアの選別はそんなに難しいことではありません。20本くらいあれば十分揃います。残った2SK30Aの測定データを記録しておくことで以後なにかと便利に使えます。

初段FETの負荷抵抗は10kΩですが、この値を大きくすれば利得も比例して大きくなり、歪み率はほぼ反比例して小さくなります。しかし、ドライバ段の入力容量が少なくとも60pFはあるので(計算省略御免)、この値を大きくすると超高域特性が劣化します。10kΩとしたのは、超高域特性を重視した結果です。

ドライバ段は初段と直結となっており、共通カソード側も初段と同じように選別した2本CRD(あわせて4mA)で定電流化しています。2つのプレート負荷抵抗も1%の精度で選別しました。この抵抗の精度が悪いとすべてが台無しになってしまいます。

1本5円程度で10Ω〜1MΩのあらゆる系列の1/2W型抵抗を常時12本くらいずつストックしておいて、その中から選別しています。1%精度の抵抗を買うよりもこの方法の方が安上がりです。抵抗器等小物部品の整理保存には、釣りのフライ用のケースが重宝します。

出力段のバイアスは、マイナスではなく、プラスの電位を可変することでプレート電流バランスを調節しています。回路図中の、バイアス供給抵抗(100kΩ)の値はこれではやや不足で、最終的には82kΩに変更しています。

<初段・ドライバ段電圧配分MAP>

初段〜ドライバ段の各部の電圧配分についてまとめてみます。ドライバ段の電源供給電圧は203V、カソード電圧は17Vです。出力段のバイアスが約21Vですから(後述)、ドライバ段は、ピーク値で±21Vが余裕で取り出せなければなりません。ドライバ段の有効電源電圧は、203V-17V=186Vですが、これで十分なドライブができます。


6FQ7を使用した場合、電圧利得はおおよそ15倍ですから、初段は、ピーク値で±1.4Vが取り出せなければなりません。初段の電源供給電圧は24V、定電流ダイオードによって決定される2SK30Aのドレイン電流は1mAですから、ドレイン負荷抵抗(10kΩ)によって生じる電圧降下は10Vになるので、6FQ7と直結になっている2SK30Aのドレイン電圧は、24V-10V=14Vになります。

直結となったドライバ段のグリッド電位は、初段の定電流ダイオードの値(2mA)と電源供給電圧(24V)とドレイン負荷抵抗(10kΩ)によって決定される、ドレイン電圧(14V)と同じになります。しかし、14Vになるはずのグリッド電位が変動したとしても、ドライバ段のプレート電流は定電流ダイオード(4mA)でのみ決定され、グリッド電位の影響を受けることはありませんから、この直結回路の動作は非常に安定しているといえます。

<出力段>

OPTの直流抵抗が各巻線間で約20Ωの差があったので、片側に20Ωの抵抗を挿入することで直流抵抗をそろえました。これで2本のプレート電圧を測定・比較すれば高い精度で電流バランスが取れるようになりました。カソード側に10〜20Ωの抵抗を挿入して電流の測定ができるようにする方法もありますが、ここに抵抗を挿入することによる出力管の内部抵抗の上昇を嫌ったからです。出力段の共通カソード側にもトランジスタとダイオードによる定電流回路が挿入されています。

一見複雑そうに見えるアンプですが、よく見てみると対称構造を持った結構単純な回路構成であることがわかると思います。

定電流回路は簡単なものです。トランジスタのベース電圧は、シリコン(SiDi)の順方向電圧(約0.6V)と定電圧ダイオード(ZD)のツェナ電圧(約6.0V)とによって、6.6V一定となります。トランジスタのベース〜エミッタ間電圧も約0.6V一定ですから、トランジスタのエミッタ電圧は6.0V一定になり、100Ωには常に、6.0V÷100Ω=60mAの電流が流れます。トランジスタの電流増幅率(hFE)は100くらいでしたので、ベース電流は、60mA÷100=0.6mAになります。

本回路で使用した定電流ダイオード(CRD)は2mAタイプのものですが、実測したところ1.7mAでした。1.7mAのうち、ベース電流に0.6mAが取られますから、定電圧ダイオード(ZD)側にまわしてもらえる電流は1.1mAとなります。定電圧ダイオードは、1mA以上の電流を流してやれば十分な定電圧特性が得られますから、これでOKです。従って、合計61.1mA(=60mA+1.1mA=59.4mA+1.7mA)がこの定電流回路の総電流になります。

<電源>

電源部ですが、我が家の商用電源電圧が104VくらいあるのでPTの一次側のAC100Vにヒーターの5V3Aを直列にしています(5V0.6Aは巻き線の容量オーバーになるので使えない)。また、電源スイッチもヒューズも省略してしまったのですが、これは後悔しています。何かと不便で事故にも遭遇しました。

280V×2をシリコン整流してから簡単なπ型フィルタを1段はさみ、そこから先は左右CHに振り分けてからトランジスタによるリプルフィルタを挿入しています。2SD799は、カタログ上のhFEは350もありますが、電流の少ない領域で実測すると100もありませんし相当にバラツキがあります。安価で入手できるトランジスタなので4本購入してhFEの高い2本を使いました。初段用の電源は、ツェナ・ダイオードによる簡単な定電圧電源となっています。

初段FETの定電流のためのマイナス電源はごらんのとおりごく簡単に仕上げています。そもそも定電流回路なのでこの程度で充分すぎるくらいです。