■■■The Mini Watter Tube Amplifier 「真空管アンプの素」■■■


本書の表紙 ・ 6N6P解説ページ ・ 12AX7シングルミリワッター ・ T-1200の位相特性 ・ 10種類の出力トランス実測データ(T-850とT-1200)

<出版概要>

書名: The Mini Watter Tube Amplifier 「真空管アンプの素」
出版社: 技術評論社
発行日: 2011.10.6
大型本: 336ページ
価格: ¥3,360
ISBN-10: 4774148539
ISBN-13: 978-4774148533
予約: amazon.com


<執筆の考え方と内容>

オーディオアンプ設計・製作ガイドをめざして

真空管式のオーディオアンプを自分で作りたい、という方が少しずつ増えているように思います。しかし、実際にはじめてみるとたちまち多くの壁にぶつかります。雑誌の記事やインターネットの製作例をたよりに作りはじめてみたものの、わからないことだらけで作業は遅々として進まず、ようやく出来上がって電源スイッチを入れても出てくるのは音楽ではなくてノイズばかりで、そのうち煙まで出てくる始末。それでも、何度か失敗を繰り返しているうちに少しずつそれらしいものが出来るようになってくるのですが、そこまでたどり着くには相当の時間や投資が必要です。

なにごとによらずものづくりにはたくさんの知識や経験がいります。オーディオアンプづくりは必要とされる知識や経験の量が非常に多いので、それらを身につけるのに時間と手間がかかるのです。それを一冊の本を手元に置くことで真空管アンプのしくみがある程度わかって、実際に製作することができ、さらに若干の応用もできるようにしようなどというのが本来無茶なことなのかもしれません。 しかし、自作オーディオのための良きガイドブックは必要です。これが本書の第一のテーマです。本書は私にとって3度目のチャレンジにあたります。

オーディオアンプを自由にデザインしたり作ったりできるようになるためにはさまざまな知識やスキル、設備が必要です。
(1)オームの法則や熱力学など物理の基礎知識、電子回路に関する一般知識。
(2)オーディオ回路特有の知識と設計スキル。
(3)電子部品の構造や選び方、使い方などの実装技術。
(4)パネルやシャーシの穴あけなどの金属加工技術。
(5)配線技術、ハンダづけの技術。
(6)部品調達のルート。
(7)工具、測定器と作業スペース。
(8)ものづくりの段取りや手順のセンス、手先の器用さ。
(9)デザイン・センス、音のセンス。
(10)お金と時間、そして興味とやる気。

つまり、いくら興味やお金や時間があっても学習と訓練をしなければ満足できるオーディオアンプは作れません。失敗が続くうちにやる気が放棄に変わってしまうかもしれません。過去に学校の授業をさぼった方は、今になってあの時のつけを払うことになります。手先が不器用な方は訓練をする必要があります。ハンダづけは訓練でどんどん上手になりますからしっかり練習してください。 オーディオアンプの設計や製作のための基本的な知識やノウハウを身につけるには、必ずしも複雑で大規模なオーディオアンプのことを知る必要はありません。本書では、可能な限りシンプルでコンパクトな真空管式のオーディオアンプを教材としてお話を進めてゆきますが、そこにはオーディオアンプづくりで必要なエッセンスがたくさん詰まっています。いろいろなページを開いて繰り返し読んでいただくことで、ひとつずつ疑問が解けてゆくと思います。

ミニワッターを作る

さて、生活のさまざまな場面で「いつもいい音で聞きたい」と思った時、そこで鳴らす音楽は必ずしも大出力・大音量ではないと思います。私達の日常生活の場では、体を包み込むような臨場感のある音量で鳴らせる場面はそれほど多くなく、また、時間帯を問わずそのような聞き方ができる専用のリスニング環境を持った方は非常に少ないでしょう。コンパクトでパワーも小さいけれど音のクォリティはちょっといいアンプを作ろう、しかも入手容易な真空管を使って廉価に仕上げてみよう、そして初心者の手に負える真空管アンプを設計して皆で作ってみようというのが本書の第二のテーマです。 廉価でコンパクトなオーディオアンプというとどうしてもミニパワー特有の小さいサイズの鳴り方になってしまうものです。しかし、私たちの耳は小さな音量の時ほどいろいろな意味で感度が高く、繊細な音を聞き分けることができます。良い音で聞くためには必ずしも大きな音である必要はありません。ミニパワーなりにスケール感、帯域感のある音をめざしたいと思います。

振り返ってみると、この企画は私にとって非常に多くのものを得たことに気付きます。その最大のものは、「小音量で聞くことの愉しみ」を知ったことです。今まで何度も聞いてきた私なりのレファレンスCDというのがいくつかあるのですが、本書で製作した試作機で聴いていると、今まで気がつかなかったいろいろな音が聞こえてきたのです。一般に、聴取音量が小さいほど低域や高域が聞き取りにくくなると言われていますが、それとは逆の現象に出会ったといっていいでしょう。 さまざまな楽器、さまざまな音がマスクされることなく、明瞭に聞き取ることができるのは、ミニワッターならでは楽しみ方ではないかと思います。「耳を澄ます」とはよく言ったもので、ミニワッターは豊かな音量で少々鈍感になったあなたの耳に「澄ます」ことを教えてくれるかもしれません。

ハードルが下げたが情報量は増えた・・・今度の本はいろいろな意味でハードルを下げた内容になりました。しかし、初心者向けの本だから簡単な子供向けのような絵や説明でいいという考えは捨てました。むしろ初心者であるほどより多くのことについて学習しなければなりません。ですから内容量はとても多くなりました。Web版「私のアンプ設計マニュアル」の改訂版だともいえます。

シングル・ミニワッターが教材・・・すでに本サイトでおわかりのように、非常にシンプルな構造のシングルアンプが教材であること、使用部品点数が少なく、しかもトランス類などが格段に廉価であることなどがあげられます。はじめて真空管を作るなら、全段差動よりもずっと作り易いシングル・ミニワッターがいいかもです。限られたおこずかいで家族に内緒でセカンドアンプ、というのはいかがでしょう。

ベテランが読んでも面白いかも・・・むずかしい課題ですが、だいぶ頑張りましたよ。なにしろ、この本のための実験を通じて私自身がこれまでの考え方を変えるようなデータが出ましたからね。負帰還の章は情熱本よりもはるかに丁寧な内容です。

データが豊富・・・シングル用の小型出力トランスの実力を測定したデータ、10種類の球をミニワッターに実装した時のデータがあります。そんなちゃちな出力トランスなんか興味ねえよ、という方には向かない本です。。


<もくじ>

第1章 基礎知識

・直流と交流、交流の波形と電圧の関係オーディオ信号の大きさと電圧
・オームの法則との出会い、オームの法則・・・回路と電流と電圧の関係、単位の大きさ、電力の計算、複合した抵抗値の計算
・コンデンサの性質、複合したコンデンサ容量値の計算
・デシベル算
・アッテネータ回路
・インピーダンスの話
・真空管アンプの基本構成
・真空管の歴史と今、真空管の基礎知識・・・動作原理、形と実装
・部品の基礎知識・・・E系列、抵抗器のカラーコード
・アースの基礎、シールドとノイズ対策
・熱の設計
第2章 真空管増幅回路

・真空管アンプの設計要素
・電圧増幅回路と電力増幅回路
・真空管データシートの見方
・電圧増幅回路の基礎・・・ロードライン、電圧増幅のしくみ、動作ポイントの設定、バイアスを与える・・固定バイアス方式、カソード・バイアス方式、直流負荷と交流負荷、交流負荷のロードライン
・実験回路解説
・真空管の3定数とは、増幅率(μ)、相互コンダクタンス(gm)、内部抵抗(rp)、「μ」と「gm」と「rp」の関係
・電圧増幅回路の利得の計算
・電圧増幅回路におけるコンデンサの設計
・電力増幅回路の基礎・・・事前のチェック、ロードライン、電力増幅回路の設計の仕上げ、電力増幅回路の不思議な現象、最大出力を計算する、電力増幅回路のドライブ、電力増幅回路の利得と総合利得の計算
・出力トランスのインダクタンスとコンデンサの設計
・実験回路の全体
第3 応用・発展回路

・2段直結回路、<ルーツ>、<単純な2段直結化>、<2段直結回路の電圧構成>、<直結回路のバイアスの決まり方>
・出力段のA2級化、<グリッド電流とA1級/A2級>、<出力段動作条件の見直し>
・初段動作条件の見直し
・出力段の信号ループ、<信号ループのショートカット>、<出力トランスのインダクタンスとコンデンサの相互関係>
第4章 電源回路

・電源回路の設計要素
・電源回路の基礎・・・AC100Vライン、電源トランス、整流回路、整流出力電圧と電流、残留リプルと平滑、CR式リプル・フィルタ、残留リプルの影響度、半導体式リプル・フィルタ
・電源スイッチON/OFF時の過渡的な動き
・ヒーター回路、ヒーター巻き線の直列と並列、ヒーター・ハム対策、ヒーター電圧の調整、ヒーターの交流点火/直流点火
・決定回路の全体図
第5 負帰還のしくみ

・帰還(フィードバック)とは
・オーディオアンプにおける帰還(フィードバック)
・入力と出力のかたちが同じでない
・実測して観察する、無帰還時の測定結果、負帰還時の測定結果
・負帰還信号の演算回路
・負帰還利得の計算法
・負帰還における位相関係
・負帰還における安定性
・高域ポール(極)とスタガ比、高域ポールとその計算法
・ミニワッターの低域ポール
第6章 試作機の製作

・試作&実験計画
・試作1号機の回路
・試作2号機の回路
・トランス配置の検討
・試作機の製作
第7章 試作機による実験データ

・五つの実験レポートの概要
・レポートその1・・・ヒーターハム対策
・レポートその2・・・左右チャネル間クロストーク
・レポートその3・・・出力トランス別実測データ(T-600、T-850、T-1200、KA7520、KA5730、ITS-2.5W、ITS-2.5WS、PMF-B7S、T-600(12kΩ)、T-850(12kΩ)、PMF-230)、小型出力トランスのブランド事情
・レポートその4・・・実験レポート 7kΩか14kΩか
・レポートその5・・・真空管別データ(5687、6N6P、6350、7119、6DJ8、5670、12AU7、6FQ7、12BH7A、12AX7)
第8章 製作ガイド

・自作の三つのポイント
・シャーシ加工
・ミニワッター用汎用シャーシ
・テスターと工具、
・構造部品の取り付けと配線
・測定と調整
第9章 部品ガイド

・部品リストを作る
・部品解説
・部品データと販売サイト
第10章 製作例

・入出力機能を充実させた6N6Pミニワッター
・ヒーターDC点火6DJ8ミニワッター
・14GW8ミニワッター
第11章 トラブルシューティング

・トラブルにおけるベテランと初心者
・トラブルをつくらない製作手順
・私が冒したミス、
・トラブルTOP10
・トラブルシューティングの方法、自力解決のポイント、インターネット・ヘルプによる解決のポイント


<掲載データ>

・電源トランスと出力トランスの位置関係による残留ハムの実測データ。
・11種類の廉価小型シングル用出力トランスの実測周波数特性&歪み率データ。異なるブランドの出力トランスの多くが実は同じ中身、同じ工場だったとは・・・
・10Hz〜20kHzの周波数別の出力トランス固有歪み率データ(T-600、T-1200)。こういうデータはなかなかないと思います。
・ミニワッターで使用した真空管特性データ、動作条件、ロードラインおよび実測特性データ。(5687、6N6P、6350、7119、6DJ8、5670、6FQ7、12AU7、12BH7A、12AX7番外編)



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