<入手可能部品で作る>

ヘッドホン・バッファ
Headphone Buffers


■■ヘッドホン・バッファとは

オーディオ回路にはバッファ・アンプという概念があります。基本的に利得は1倍すなわち増幅しないアンプですが、入力側および出力側の接続の状態や負荷の条件が変化しても、入出力間で互いに影響し合わないバッファ的な性質を持っています。 そこで、ヘッドホン出力端子を持たないオーディオソース機材の出力とヘッドホンの間にバッファ・アンプを割り込ませることで、無理なくヘッドホンをならせるのではないかと考えたわけです。

一般にヘッドホン・アンプには2〜3倍の利得が必要です。しかし標準的なCDプレーヤやDAコンバータは約2Vrmsの出力信号レベルがあるので、十分な音量でヘッドホンを鳴らすためには利得は必要ではなく、増幅しない(利得=1倍)バッファ・アンプでもヘッドホンを十分な音量で鳴らすことができます。オーディオ回路では、利得のある/なしで設計が天と地ほども違ってきます。増幅しなくていいのであればシンプルで高性能な回路がたくさんあります。増幅しなくていいのであればリソースをすべてヘッドホンを駆動することに投入できます。 このようなアンプを、ヘッドホン・バッファと呼ぶことにしましょう。


■■エミッタ・フォロワ型ヘッドホン・バッファ

■回路の概要

コレクタ共通回路(エミッタ・フォロワ)を使ってヘッドホン・バッファとして使えるようにしてみたのが回路<1>です。トランジスタがたった2個のじつに簡単な回路ですが、なんとかヘッドホンを鳴らすことができます。

図<1>

ヘッドホンを駆動しているのは2段目のTTC015Bで、コレクタ電流を59mAほど流しています。TTC015Bのコレクタ損失は、

59mA×6.92V=408mW
です。これくらいの発熱ならばTTC015Bはさほど高温になりませんし、コンデンサなど周囲の熱に弱い部品を痛めることもありません。 エミッタから出力を取り出しており、3300μFのコンデンサでDCをカットしてから、発振対策の0.47Ωの抵抗を経てヘッドホン出力となっています。エミッタ・フォロワ回路は発振しやすいので念のためにベース側にも47Ωの抵抗を入れてあります。 ヘッドホン出力のところに入れてある470Ωは、3300μFに溜まる電荷を逃がすためのものです。これがない状態で電源をONにしてからヘッドホンをつなぐとヘッドホンに過渡電流が流れて大きなポップノイズが出ます。

■出力インピーダンスと入力インピーダンス

コレクタ共通回路の出力インピーダンスは、以下の式で概算できます。

出力インピーダンス=(Rin/hFE)+(26/Ic)
Rin:信号源インピーダンス(Ω)
Ic:コレクタ電流(mA)
図<>は、エミッタ・フォロワ型ヘッドホン・バッファの出力段のエッセンスを抜き出したものです。Rinにあたるものは47Ωの抵抗で、TTC015BのhFEは180くらいです。式中の26という値は定数です。Icは59mAです。出力と直列に0。47Ωがありますのでこれも足してやります。これらを式<>にあてはめると、

出力インピーダンス=(47Ω/180)+(26/59mA)+0.47Ω=1.17Ω
コレクタ共通回路の入力インピーダンスは、以下の式で概算できます。

入力インピーダンス=(RL+(26/Ic))×hFE
RL:負荷インピーダンスの合計
負荷となるのは、ヘッドホンのインピーダンスに0.47Ωを足したものと470Ωと120Ωの並列合成値です。ヘッドホンのインピーダンスが33Ωの場合は24.8Ωになります。 hFEは180でIcは59mAですから、入力インピーダンスは以下のようになります。

入力インピーダンス=(24.8Ω+(26/59mA))×180=4.54kΩ
この値ではオーディオ・アンプとして低すぎるので、2SC1815によるコレクタ共通回路を1段追加しました。使用したのはGRランクです。 2SC1815段の入力インピーダンスを概算で求めてみます。エミッタの負荷となるのは4.54kΩと3.3kΩですがこの並列合成値は1.91kΩですが47Ωがあるのでこれも足します。2SC1815のhFEの実測値は270でIcは2.5mAですから、入力インピーダンスは以下のようになります。

入力インピーダンス=(1.91kΩ+(26/2.5mA)+47Ω)×270=520kΩ
回路全体としての入力インピーダンスにはベース・バイアスを与えるための抵抗(82kΩと150kΩ)が加わりますので、これらを計算に入れると本機の入力インピーダンスは48.1kΩです。

■最大振幅時のAC動作の解析

TTC015Bに59mAのコレクタ電流を流した時のベース〜エミッタ間電圧が0.6V、2SC1815のベース〜エミッタ間電圧は0.61Vくらいなので、TTC015Bのエミッタ電圧を電源電圧の1/2の7Vくらいに落ちつかせるには2SC1815のベースに8.1Vを与えるような回路定数を選ぶことになります。2SC1815のベース電流(約0.01mA)に対して82kΩおよび150kΩに流す電流を多めにすることで2SC1815のhFEがばらついてもその影響を受けにくいようにしています。 さて、この回路が33Ωのヘッドホンを駆動した時の交流動作の様子を表したのが図<2>です。

(A)は信号が入力されていない初期の状態です。120Ωとトランジスタには59mAのコレクタ電流が流れているだけで、ヘッドホン(33Ω)には電流は流れていません。

(B)は1Vrmsの信号が入力された時のプラス側のサイクルのピーク(+1.414V)の瞬間を表しています。エミッタ電圧は1.414V増しの8.494Vになっており、エミッタからヘッドホン(33Ω)に向かって吐き出すように43mAが流れています。

(C)は1Vrmsの信号が入力された時のマイナス側のサイクルのピーク(−1.414V)の瞬間を表しています。エミッタ電圧は1.414V減の5.666Vになっており、ヘッドホン(33Ω)からエミッタに向かって吸い込むように43mAが流れています。

図<2>

この時、TTC015Bは元々流れていた59mAを基点としてコレクタ電流を増減させ、その差分を使って負荷を駆動しているわけです。ですから負荷を駆動する信号電流は元々流していた59mAを超えることはできません。(C)の場面ではコレクタ電流は4mAまで減っており、これ以下に減らす余裕がわずかしかありません。この回路で33Ωのヘッドホンを駆動すると1Vrms以上の出力を得ることは困難であることがわかります。 より大きな出力を得るには、2段目のコレクタ電流をもっと増やす必要があります。しかし、消費電流や発熱量が増加させた割りに得られる効果は大きくありません。

■実測特性

図<3>はこのヘッドホン・バッファの歪み率特性を出力電圧(V)で表したもので、図<4>は同じデータを使って出力電力(mW)で表したものです。33Ωの線を見ると1Vあたりから歪が激増し出力電圧の限界であることがわかりますから、上記の計算と実測結果はよく一致します。 出力電力でみると、0.1%の低歪みで得られるのは33Ω負荷でたったの1mW、62Ω負荷では3mW、150Ω負荷では5mWほどです。歪み率を1%まで許容するとなんとか30〜40mWが得られますから音が出るおもちゃとしてはいいかもしれませんが、当初の目標である「市販のヘッドホンアンプに見劣りしない高音質」にはとうてい及びません。

なお、歪み率特性のグラフの左上がりの線から残留ノイズの大きさを読み取ることができます。出力電圧が0.03Vの時の歪み率は0.04%くらいですが、このことは0.03Vのオーディオ信号の中に0.04%のノイズが含まれていることを意味しています。

0.03V×0.04%=0.012mV(12μV)
これは超低雑音と言っていい値です。

図<3,4>

■エミッタ・フォロワ型ヘッドホン・バッファの改良

エミッタ・フォロワ回路をそのまま使ったのでは満足のゆく特性は得られませんでしたが、カレント・ミラーという回路技術を使って工夫することで特性を劇的に向上させることができます。 カレント・ミラー回路とは、その名のとおり回路上の2つの電流(カレント)が鏡(ミラー)に映したように同じ振る舞いをする回路です。基本回路は同特性の2つのトランジスタを向き合わせるように配置します(図<5(A)>)。この回路では向かい合った2つのトランジスタのコレクタ電流は常に等しくなります。主導権を握っているのは左側に流れる電流です。左右2つのトランジスタが同じ特性の場合、右側のトランジスタのコレクタ電流は左側と(ほとんど)同じになります。

図<5(B)>のように抵抗器と組み合わせることで値が異なる2つの電流が比例して変化するようにできます。この場合、左右のトランジスタのコレクタ電流は抵抗値の比率に応じて変化するようになります。また左右の抵抗値が同じであればコレクタ電流は(A)の回路よりも正確に同じになります。

図<5>

実際に製作したのは改良版のヘッドホン・バッファは図<6>の回路です。基本は2段エミッタ・フォロワで、出力段はTTC015B(上側)で変わりませんが、初段はPNPトランジスタの2SA1015に変わりました。 カレント・ミラーを構成しているのは、シリコン・ダイオードの1N4007と下側のTTC015B、そして2つの抵抗器です。トランジスタではなくダイオードを使っていますがカレント・ミラーとしての機能は変わりません。

図<6>

■最大振幅時のAC動作の解析

上側のTTC015Bからみるとエミッタ抵抗がTTC015B(下側)に置き換わったことになり、しかも下側のTTC015Bは能動的な動きをして上側のTTC015Bを助けます。 オーディオ信号が入力されるとその振幅に応じて2SA1015のコレクタ電流が変化します。その変化はカレント・ミラー回路の110Ωの両端電圧の変化として現れます。そしてカレント・ミラーの性質として8.2:110の比率でより大きな電流となってTTC015Bのコレクタ電流を流そうとします。 この回路が33Ωのヘッドホンを駆動した時の交流動作の様子を表したのが図<7>です。

(A)は信号が入力されていない初期の状態です。出力段には63mAのコレクタ電流が流れているだけで、ヘッドホン(33Ω)には電流は流れていません。

(B)は2.33Vrmsの信号が入力された時のプラス側のピーク(+3.3V)の瞬間を表しています。エミッタからヘッドホン(33Ω)に向かって吐き出すように100mAが流れています。この時、下側のTTC015Bのコレクタ電流は63mAから30mAに減っているため、上側のTTC015Bの負担が軽くなっています。

(C)は2.33Vrmsの信号が入力された時のマイナス側のピーク(−3.3V)の瞬間を表しています。ヘッドホン(33Ω)からエミッタに向かって吸い込むように100mAが流れています。この時、下側のTTC015Bのコレクタ電流は101mAに増加しており、上側のTTC015Bのコレクタ電流はわずか1mAです。このように、上下2つのTTC015Bが互いに協力し合って±100mAもの信号電流を引き出しています。

この回路は、非対称なのにプッシュプル的な動作をすることで負荷の駆動効率を高めているだけでなく、エミッタ・フォロワ回路で必然的に生じてしまう歪を打ち消す機能まで持っています。

図<7>

■基板パターン

時間がかかりましたがなんとか基板パターンを公開することができました。手が不自由なので線がゆらいでいますがご容赦ください。ユニバーサル基板を使いながら両面パターンにして無駄を省いているため、設計性能が出やすくなっています。タカス製のIC-301-72シリーズが適します。ジャンパー加工についてはこちらの解説を必ずお読みください。(基板の画像は実験中のものなのでパターンが若干異なるためお手本にはなりません)

■改善された実測特性

図<8>はこのヘッドホン・バッファの歪み率特性を出力電圧(V)で表したもので、図<9>は同じデータを使って出力電力(mW)で表したものです。33Ω負荷の線を見ると2。3Vあたりから歪が激増し出力電圧の限界であることがわかりますから、上記の計算と実測結果はよく一致します。

最低歪みは0.004%となり、33Ωから150Ωに至るまで0.1%の低歪みで60mW〜150mWが得られています。歪み率特性のグラフから残留ノイズを求めると6μVとなり超々低雑音と言っていい値です。 図<10>は本回路の周波数特性ですが、5Hzから1MHzまでほぼフラットとなっており、オーディオ・アンプとしては過剰な広帯域特性となっています。

図<8,9>

図<10>

表<1>

帯域が広すぎる点がちょっと気になりますが、出力も歪み率特性の残留ノイズも申し分のない実用性のあるヘッドホン・バッファになりました。本機の音はナチュラルかつクリアで、超低域から超高域までバランス良くヘッドホンを鳴らします。深夜に耳を澄ませてみてもヘッドホンから本機のノイズを聞き取ることはできません。


■■SEPP型ヘッドホン・バッファ

SEPP(シングル・エンデッド・プッシュプル)回路は、NPNおよびPNPトランジスタを組み合わせたプッシュプル構造のエミッタ・フォロワ回路の一種です。 SEPP回路の基本形は図<11>のような構造をしています。

図<11>

NPNトランジスタとPNPトランジスタが互いに逆さまになりながら電気的に並列になった一対のエミッタ・フォロワ回路を構成しています。アイドリング電流として両トランジスタに適当なコレクタ電流を流しておくためには、両ベース間にバイアス電圧を与える必要があります。エミッタに入れた2つの抵抗はSEPP回路として必須ではありませんが、トランジスタの熱暴走を防ぎ回路の温度安定を得るためには欠かせません。 負荷を駆動する電流のうち吐き出し側(Iout)は上側のNPNトランジスタが受け持ち、吸い込み側(Iin)は下側のPNPトランジスタが受け持ちます。2つのトランジスタが役割分担をすることで大きな駆動電流を得ることができる回路です。

■SEPP回路のアイドリング電流

この記事で登場するヘッドホン・バッファおよびヘッドホン・アンプのSEPP回路のほとんどは、バイアス回路に橙または赤のLEDを使用しています。このタイプのLEDのカタログ・スペックを見ると順電圧は2Vと記載されています。これを6mA程度の順電流で動作させた時の順電圧は、1.7V〜1.9Vあたりになります。記事で登場するSEPP回路では、これくらいの範囲の動作を想定しています。

出力段のアイドリング電流は、バイアス電圧(=LEDの順電圧)と、2つのエミッタ抵抗(5.6Ω)と、出力段トランジスタのベース〜エミッタ間電圧と、周囲温度の4つの相互関係で決まります。バイアス電圧が高いほど、エミッタ抵抗値が小さいほど、出力段トランジスタのベース〜エミッタ間電圧が低いほど、周囲温度が高いほど、アイドリング電流は多くなります。

バイアス電圧(=LEDの順電圧)が1.78Vくらいの時、アイドリング電流は50mAくらいになり、出力段トランジスタ1個あたりの消費電力は、

50mA×7V=350mW
になります。アイドリング電流が70mAの時は、

70mA×7V=490mW
となりますが、これくらいであればまだまだ余裕があり十分に許容範囲です。

■エミッタ・フォロワ+SEPP回路

図<12>はNPNトランジスタのTTC015BとPNPトランジスタのTTA008Bを使ったSEPPによるヘッドホン・バッファです。SEPP回路だけでは十分な入力インピーダンスが得られないので、入力側に2SC1815-GRを使ったエミッタ・フォロワ回路を1段追加してあります。

バイアス回路にはオレンジ色のLEDを使いました。ここで使うLEDは、3mm径の赤かオレンジの通常品で問題ありませんが、青や白はダメです。LEDに4.3mAを流した時の順電圧は1.73Vです。この回路では、SEPP回路を構成するTTC015BとTTA008Bのベース〜エミッタ間電圧と2つのエミッタ抵抗(5.6Ω×2)で生じる電圧の合計が1.73Vとなるような条件で均衡します。 これを計算で正確に求めるのは難しいので大体の見当をつけて実験回路を組んでみたところ、以下のような電圧配分に落ち着き、アイドリング電流は46mAとなりました。

0.608V+0.518V+0.604V=1.73V
図<12>

図<13,14>はこの実験回路の実測特性データです。残念ながら十分に低歪みとは言えません。歪みを増やしている犯人は初段(2SC1815)のエミッタ・フォロワ回路です。 エミッタ・フォロワ回路では、コレクタ電流は信号波形に追従してリニアに増減します。ところがベース〜エミッタ間電圧はコレクタ電流の変化に追従して指数関数的(ノンリニア)に増減します。エミッタ・フォロワ回路は、入力と出力の間にノンリニアなベース〜エミッタ間電圧がサンドイッチになっているために不可避的に歪が生じるのです。

図<13,14>

■エミッタ・フォロワ+SEPP回路の改良

初段のエミッタ・フォロワ回路に低歪み動作をさせるためにちょっと工夫をしてみたのが図<15>の回路です。 変更点は一ヶ所だけで、初段のエミッタ負荷抵抗(1.5kΩ)をJFETを使用した定電流回路に置き換えています。JFETは、ゲート〜ソース間をショートさせると定電流ダイオードになります。 この回路ではエミッタ負荷側が定電流化されているために信号が入力されてもコレクタ電流は一定で変化しません。そのためベース〜エミッタ間電圧も一定値を保つので歪が生じないのです。

図<15>

図<16,17>は改良後のSEPP型ヘッドホン・バッファの歪み率特性です。表<2>は改良の前後を比較したものですが、改良後は同じ50mWを得た時の歪み率が1/5〜1/7に減っています。

図<16,17>

表<2>


■■ダイヤモンド・バッファ型ヘッドホン・バッファ

■ダイヤモンド・バッファとは

図<18>は、ダイヤモンド・バッファの基本回路です。NPNトランジスタとPNPトランジスタを組み合わせた2段エミッタ・フォロワ回路ともいえるもので、4個のトランジスタがひし形(ダイヤモンド)に配置されているのでこのような名前がつきました。 この回路が面白いのは前段の2つのトランジスタ(Tr1、Tr2)のベース〜エミッタ間電圧の合計が、出力段(Tr3、Tr4)のバイアスを担っているという点です。そのためわざわざ後段のトランジスタのためのバイアス回路を必要としません。NPNトランジスタとPNPトランジスタそれぞれを前段・後段で同じトランジスタを使用すると(Tr1=Tr4、Tr2=Tr3)、各トランジスタのコレクタ電流(Ic1〜Ic3)はすべて同じになります。

図<18>

図<19>は、製作したヘッドホン・バッファの回路です。 前段の2SA1015-GRと2SC1815-GRのベースに電源電圧の1/2の電位を与えます。2SA1015-GR側はTTC015Bを経由してエミッタが出力となり、2SC1815-GR側はTTA008Bの別ルートを経由してTTC015Bのエミッタ出力と合流します。 出力段のバイアスは、前段の2つのトランジスタのベース〜エミッタ間電圧に47Ωで生じた電圧を加えたものになります。出力段のアイドリング電流は、前段の4つの抵抗値を調整することで調節可能です。

図<19>

図<20,21>はダイヤモンド・バッファ型ヘッドホン・バッファの実測特性ですが、SEPP型ヘッドホン・バッファ(改良後)と非常に良く似た歪み率特性となりました。どちらも低歪みと広帯域が得られており、高性能なヘッドホン・バッファとして通用します。

図<20,21>

表<3>


■■デジタル由来のノイズ・フィルタ

iPhoneやBluetoothレシーバといったデジタル・ソース機器が可聴帯域外のノイズを出して微妙に音質を損ねていることはこちらの記事で説明しました。 本書で取り上げているヘッドホン・バッファはいずれも超広帯域であるため高周波ノイズを素通ししてしまうため、40kHzあたりから上の帯域をスムーズにカットするロー・パス・フィルタを実装することにします。

図<22>

ロー・パス・フィルタの基本回路は図<22>のとおりです。このロー・パス・フィルタ回路は、低い信号源インピーダンスで送り出し、高い入力インピーダンスで受ける使い方をします。 減衰を開始するカットオフ周波数はL(インダクタ)とC(キャパシタ)で決定され、減衰し始める部分のカーブの形状(肩特性)はインダクタと直列に入れたR(抵抗)で決定されます。(1)の式は桁が大きすぎて使いにくいので(2)の式の方が現実的で使いやすいです。

カットオフ周波数(Hz)=1/(2π√LC)・・・L(H)、C(F)・・・(1)
カットオフ周波数(kHz)=1/(2π√LC)・・・L(H)、C(μF)・・・(2)
たとえば、L=4.7mH、C=0.0033μFの時のカットオフ周波数は、

1/(6.28√0.0047・0.0033)=40.4kHz
になります。Rの値がゼロの場合はカットオフ周波数付近に鋭いピークが生じますが、適切な値を入れてやることでピークが消えて素直でなだらかな減衰カーブが得られます。この回路定数でRの値を変化させた時の実測周波数特性は図<23>のようになります。減衰カーブが素直な形になるのはR=1.5kΩくらいの時です。なお、実験で使用した4.7mHのインダクタは30Ωほどの直流抵抗があるため、実質的なRの値は1.53kΩになります。 20kHzくらいまではフラットで、-3dBの減衰ポイントは41kHzあたりとなり、そこから上は-12dB/octの減衰をします。デジタル時代のオーディオ・アンプとしては適切な特性なので、本書で製作するヘッドホン・バッファやヘッドホン・アンプでは標準的にこのロー・パス・フィルタを組み込むことにします。

図<23>

ヘッドホン・アンプのどこにロー・パス・フィルタを入れたらいいかを表したのが図<24>です。入力端子の直後で、スイッチをボリュームの手前です。ボリュームの後ろに入れるとボリュームのポジションによってフィルタ特性が変化してしまいます。スイッチをOFF側にするとロー・パス・フィルタはスルーして解除され、ON側にすると有効になります。

図<24>


■■プラス電源回路

本書でご紹介している実験回路、ヘッドホン・バッファやヘッドホン・アンプはすべてDC15V、0.5A〜1Aの電源で動作します。 このような電源はスイッチング電源を使った市販のACアダプタを使えば容易に構成できます。本書で使用したスイッチングACアダプタは、秋葉原の店頭や通販で廉価に入手できるものですが、出力電圧は15V±1%と正確かつ安定化されており十分に低雑音です。 本書の製作に適する規格は以下のとおりです。

入力電圧: AC100V〜120V(国内用)のものとAC100V〜240V(ユニバーサル・タイプ)のものがある
出力電圧: DC15V
出力電流: 0.5A〜1A
プラグ外径: 5.5mmが一般的
プラグ内径: 2.1mmが一般的(1.3mm、2.1mm、2.5mm、3mmなどがある)
センタープラス/マイナス:通常はセンタープラス
図<25>は本書のプラス電源を使用するヘッドホン・バッファおよびヘッドホン・アンプで共通して使用できる電源回路です。 電源スイッチと並列に入れてあるのは電源OFF時にスイッチの接点で発生する火花を抑制するスパーク・キラーです。スパーク・キラーは0.1μFのコンデンサと120Ωの抵抗器を直列にしたものなので自作できます。 スイッチング電源には数十mV〜数百mVのリプルとスイッチング・ノイズが残留しています。帯域はかなり広く可聴帯域から高周波帯域に及びます。これらを除去するために簡単なLCフィルタを追加しています。使用したインダクタは470μHで電流容量は0.5A以上、直流抵抗は実測で3Ω弱でした。コンデンサは高周波特性が良い積層セラミック・コンデンサ(10μF)とアルミ電解コンデンサ(1000μF)のダブル構成です。 アンプ部へは抵抗器(R)で左右に分けて供給しています。こうすることで電源ライン経由でのオーディオ信号の左右チャネル間クロストークの劣化を防いでいます。Rの値はアンプ部への供給電圧が14Vくらいになるように消費電流に応じて決めますが、100mAであれば15Ω、130mAであれば10Ωです。

図<25>

Rの値は、チャネルあたりの消費電流から0.8V程度の電圧降下となるように計算で求めます。10Ω〜18Ωくらいになるでしょう。電源電圧が14Vから±1V程度ずれても特性に重大な影響は生じないため、この抵抗値に厳密さは要求されません。


■■使用部品について

2SA1015-GR、2SC1815-GR・・・・東芝製がまだそれなりに流通しています。セカンド・ソース品も問題なく使えます。厳密な選別の必要はありません。同時に購入した程度に揃った4本をそのまま使っても調整しきれるような回路定数を選んでいます。

TTC015B、TTA008B・・・・千石や秋月、その他通販で入手できます。2SC3421-Yや2SA1358-Yも使えます。厳密な選別の必要はありません。かなりばらついたものをそのまま使っても動作が破綻しない回路方式&回路定数を選んでいます。

LED・・・・SEPP回路のバイアス用のLEDは、3mm径の赤かオレンジの通常品で問題ありませんが、青や白はダメです。

インダクタ・・・・電源で使用した470μHは厳密さは要求されないので、220μH〜1mHの範囲で十分です。直流抵抗は2〜4Ωが良く、1.5Ω以下ですとACアダプタの保護回路が働いてしまうことがあり、5Ω以上では電源電圧が低めになります。秋月などで入手できます。


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