<入手可能部品で作る>

ヘッドホン・アンプ
Headphone Amplifiers


■■OPアンプを使ったヘッドホン・アンプ

■汎用のOPアンプでヘッドホンを鳴らす

ヘッドホン用として最適化されているかどうかはさておき、汎用のOPアンプでもヘッドホンを鳴らすことは可能です。インターネットを検索すれば、OPアンプを使ったシンプルなヘッドホン・アンプの作例はくらでも見つかります。 図<1>は、OPアンプを1ユニットだけ使った最も簡単なヘッドホン・アンプです。回路は限りなくシンプルで±7V程度の電源を用意するだけでヘッドホンを鳴らすことができます。

図<1>

利得は、56kΩと1.5kΩの並列合成値(1.46kΩ)と1kΩで決定されその自由度は広いです。

利得=1+(56kΩ//1.5kΩ÷1kΩ)=2.46倍
OPアンプには、入力の差動回路のデバイスにトランジスタを使ったタイプとFETを使ったタイプがあります(表<1>)。トランジスタを使ったタイプは入力回路にはバイアス電流が流れますが、FETを使ったタイプではバイアス電流はほぼゼロです。図<>の回路は、どんなタイプのOPアンプでも差し替えができるように、バイアス電流の有無に関係なく回路が正常に動作をするように工夫してあります。

そのために入力側はコンデンサを入れてDCを遮断し、OPアンプの±2つの入力にはともに同じ値(56kΩ)の抵抗をシリーズに入れてあります。バイアス電流が流れるタイプのOPアンプの場合でも、ほぼ同じ値の電圧降下が生じることでヘッドホン出力に現れるDCオフセットが生じにくくしてあります。

入力のコンデンサを省略するとDCオフセットが大きくなってしまうだけでなく、ソース機材側でDC漏れが生じた時にそのDC漏れがヘッドホン出力にも及んでしまうので一人前のオーディオ・アンプとしては好ましくありません。

※バイアス電流の向きによっては2つのアルミ電解コンデンサに逆電圧がかかりますが逆耐圧以下なので問題ありません。

表<1>

■実測特性と課題

実測特性は図<2,3>のようになりました。使用したOPアンプは入手が容易でヘッドホン・アンプとしての自作例が多いOPA2134です。OPA2134は音に誇張がないバランスの良いOPアンプです。 150Ω負荷の線がOPアンプ本来の特性に最も近く、負荷インピーダンスが低くなるにつれて出力電圧がどんどん低下して歪みも増えています。 OPアンプの電気的特性では負荷に対してどれだけの電流を供給できるかを表した出力電流定格(Short-Circuit Current)があります。OPアンプを低インピーダンス負荷で動作させた時、この値が負荷を駆動するできる限界を決定します。OPA2134の出力電流定格は常温でおおよそ±44mAです。出力信号波形のピーク時にこの値を超えると波形は歪んでしまいます。

±44mAの信号電流を33Ω負荷、62Ω負荷、150Ω負荷に流した時の出力信号電圧は以下のようになります。

33Ω負荷の時: 1.45V(ピーク値)、1.03V(実効値)
62Ω負荷の時: 2.73(ピーク値)、1.93V(実効値)
150Ω負荷の時: 6.6V(ピーク値)、4.67V(実効値)
この数字をふまえて図<2>のグラフを見てください。33Ω負荷の時の無歪み出力電圧は1.03V(32mW)で、62Ω負荷では1.9V(58mW)ですので上記の数字と一致します。150Ω負荷で一致しないのは出力電流ではなく電源電圧の制約のためで3.1V(64mW)どまりです。 このようにOPアンプ単体で低インピーダンスのヘッドホンを鳴らそうとすると、出力電流定格や電源圧がボトルネックになります。

図<2,3>

■OPアンプ+SEPP回路

OPアンプ単体では低インピーダンスのヘッドホンを余裕を持って鳴らすのが難しいことがわかりました。 OPアンプの弱点はヘッドホン負荷を駆動する電流容量不足にありますから、もっと大きな駆動電流が得られるSEPP回路を追加してやれば問題は解決します。この解決法はメーカー製のアンプのライン出力でもよく採用されています。 図<4>は出力電流を強化した回路ですが、OPアンプとヘッドホン負荷との間にSEPP回路を割り込ませたことを除くと他の部分は図<1>の回路と全く同じです。

OPアンプの出力をSEPP回路のバイアス部のセンターにつなぐ必要があるため、ダイオードに順電圧が低いSBD(ショットキ・バリア・ダイオード)を混ぜてバイアス回路を2分割できるように工夫しています。シリコン・ダイオードは1N4007、SBDは1Aタイプの小型の整流用の一般品で十分です。SEPP回路のアイドリング電流は使用したSBDの順電圧によって50mA〜70mAくらいの範囲で変化しますが十分に許容範囲です。 さらにバイアス用のダイオードは容量が大きめのコンデンサでバイパスさせています。このコンデンサを省略しても回路は正常に動作しますが歪が増加します。

図<4>

■改善された実測特性

図<5,6>はOPアンプ+SEPP回路ヘッドホン・アンプの特性ですが、SEPP回路のおかげで負荷を駆動する電流の制約がなくなったため余裕のある動作が得られています。最低歪み率は0.001%に届くようになりOPアンプ本来の実力が発揮されています。負荷インピーダンスの影響による出力低下がなくなり、電源電圧の利用効率ぎりぎり一杯の3.2Vまで歪まなくなりました。

音響的にも明らかな改善がみられました。OPアンプ単体では音が詰まったような印象だったのが、のびやかで余裕を感じさせる鳴り方に変わりました。

図<5,6>

表<2>


■■簡易型プラス・マイナス電源回路

OPアンプを使ったヘッドホン・アンプは、プラス7V、マイナス7Vの2電源を必要とします。 プラス側の供給電流とマイナス側の供給電流が全く同じ場合は、 1つの電源を2分割した擬似プラス・マイナス電源が可能です。OPアンプでは、プラス側とマイナス側の差はバイアス電流だけなので大きくても1μA程度とごくわずかであり、抵抗器2本による簡易擬似プラス・マイナス電源が使えます。

しかし、ヘッドホン・アンプに仕上げた場合はヘッドホン出力側に現れるDCオフセットの影響が無視できません。たとえば、10mVのDCオフセットが生じているヘッドホン・アンプの出力に32Ωのヘッドホンをつなぐと、ヘッドホンには

10mV÷32Ω=0.31mA
のDC電流が流れっぱなしになります。この電流が大きいとプラス・マイナス電源の電圧バランスが狂います。この問題を回避するには本機のようにアンプ側の回路を工夫してDCオフセットが最小になるようにしたり、電源側の電流差の吸収能力を高める必要があります。

簡易型プラス・マイナス電源の回路は図<7>のとおりです。 2本の470Ω(1/2W型)で分割した擬似プラス・マイナス電源回路がどれくらいの電流差の吸収能力があるかですが、電源の直流域の内部抵抗は470Ωの1/2の235Ωですので、1μAのアンバランスあたり0.235mVの電圧変動となり、1mAでは0.235Vの電圧変動になります。

供給源としてはDC15VのスイッチングACアダプタを使いますので、電源の入口には470μHと10μFによるノイズ・フィルタがあります。電源のインジケータLEDへは4mAほど流していますが、LEDの明るさは直列に入れた抵抗値で調整します。 アンプ部にはプラス側とマイナス側ともに4700μFを入れてありますが、ACアダプタの出力にこのような大容量のコンデンサをつなぐと電源ON時の過渡電流で保護回路が作動してしまいます。そこでスイッチングノイズのフィルタも兼ねて470μH(DCR=約2Ω)のインダクタと、プラス側とマイナス側それぞれに4。7Ωを入れて電流制限の機能も持たせてあります。 なお、回路図中の0.01μFはOPアンプの動作の安定を確保するためのコンデンサなので、電源回路側ではなくできるだけOPアンプの近くの電源レールに実装してください。

図<7>


■■エミッタ共通回路1段ヘッドホン・アンプ

■エミッタ共通回路

今度はOPアンプを使わずにディスクリート回路でヘッドホン・アンプを設計してみます。電圧利得が得られるトランジスタ回路の基本はエミッタ共通回路です。図<8>は、エミッタ共通回路による1段増幅回路で、これから説明するエミッタ共通回路1段ヘッドホン・アンプの増幅を担う核心部分です。

図<8>

■DC動作

まず、この回路のDC動作について解析してみます。コレクタから十分に大きな振幅の出力を得るためにコレクタ電圧は電源電圧(12V)の1/2の6Vとしてあります。コレクタ負荷抵抗は1kΩで、コレクタ電流は約6mAですが、その時のベース〜エミッタ間電圧の実測値は0.67Vとなりました。2SC1815-GRのhFEの実測値は270であったので、ベース電流は

ベース電流=6mA÷270=0.022mA
となります。ベース〜アース間に入れた6.8kΩに流したブリーダ電流0.099mAとベース電流0.022mAを足した0.121mAが43kΩに流れます。この回路では、コレクタとベースをつないだ43kΩによってDC帰還をかけてあり、ベース電流にブリーダ電流を加えることでDC動作の安定を高めています。hFE値に少々のばらつきが生じてもコレクタ電圧が電源電圧の1/2から大きくはずれないようにしています。

■AC動作

この回路のAC動作ですが 、信号が入力されてベースがプラスに振れるとコレクタ電流が増加してコレクタ電圧は下がります。つまり、ベース入力側とコレクタ出力側が逆の動きをします。エミッタ共通回路は入力信号と出力信号の位相が反転します。 エミッタ共通回路の電圧利得は以下の式で求めることができます。式中の26は定数です。

電圧利得(倍)=コレクタ負荷抵抗Ω/((26/コレクタ電流mA)+エミッタ抵抗Ω)
電圧利得は、コレクタ負荷抵抗値が大きいほど、コレクタ電流が大きいほど、エミッタ抵抗が小さいほど高くなります。そしてhFEの値は電圧利得とは関係ありません。この式をこの回路にあてはめると以下のようになります。

電圧利得=1000Ω÷((26÷6.0mA)+2.2Ω)=153倍
エミッタ側に入れた2.2Ωを撤去すれば電圧利得をもっと稼ぐことができますが、最大振幅に振れた際に微細な寄生発振を認めたのでこれを回避するために2.2Ωを追加しています。 エミッタ共通回路の電圧利得と入力インピーダンスは以下の式で簡単に求めることができます。

入力インピーダンス(Ω)=((26/コレクタ電流mA)+エミッタ抵抗Ω)×hFE
入力インピーダンスは、コレクタ電流が少ないほど、hFEが大きいほど、エミッタ抵抗が大きいほど高くなります。この回路の入力インピーダンスはこのようになります。

入力インピーダンス=((26÷6mA)+2.2Ω)×270=1.76kΩ
ここで解説した内容は、次に登場する2つのヘッドホン・アンプにおいても変わることはありません。

■エミッタ共通回路+SEPP回路

図<8>の回路をベースにしてSEPP回路を追加し、ヘッドホン・アンプらしくしたのが図<9>の回路です。出力段はすでにおなじみのSEPP回路で、第<>章のSEPPヘッドホン・バッファと同じ回路です。なお、ここで使うLEDは、3mm径の赤かオレンジの通常品で問題ありませんが、青や白はダメです。

図<9>

■負帰還のかけ方

反転アンプに負帰還をかける場合は図<10(A)>のようになり、非反転アンプの場合は図<10(B)>のようになります。それぞれの場合の負帰還後の利得はR1とR2の比で決まります。

反転アンプの場合: 利得=R2/R1
非反転アンプの場合: 利得=1+R2/R1
この式はアンプの無帰還時の利得が非常に大きい場合のもので、利得が有限の場合はこの式で求めた結果よりも低くなります。 エミッタ共通回路は反転アンプなので負帰還のかけ方は(A)に該当します。現実的にはヘッドホン出力から直接アンプの入力にかけます。この場合、入力インピーダンスは入力と直列に入れた抵抗(1kΩ)とほとんど同じかそれよりも少しだけ大きな値となります。 このヘッドホン・アンプ以外のヘッドホン・アンプはすべて(B)に該当します。

図<10>

■入力インピーダンスを高くする

図<9>の回路はヘッドホン・アンプとして立派に動作しますが、入力インピーダンスが非常に低いのが難点です。PCやiPhoneなどのイヤホン端子につなぐ場合はヘッドホン・アンプの入力インピーダンスは1kΩ以上あれば問題なくつないで使うことができます。しかし、通常のオーディオ・ソース機器の場合は20kΩ〜100kΩくらいの入力インピーダンスの機器とつなぐことを想定していますから、極端に低い入力インピーダンスで受けると十分な音量が得られなかったり、歪が増加したり、低域でのフラットネスが得られないかったりします。 そこでヘッドホン・アンプとして実用性のある高い入力インピーダンスを得るために、アンプの入口のところに2SC1815によるエミッタ・フォロワ回路を追加したのが図<10>の回路です。

エミッタ・フォロワ回路のおかげで入力インピーダンスは高くなりましたが、アンプとして高い入力インピーダンスを維持するためには、負帰還回路を構成する抵抗値も大きくなってしまいました。

図<11>

■実測特性

このヘッドホン・アンプの実測特性は以下の通りです。最大出力は100mW〜200mWに達しますが、その時の歪み率は1%ほどもあります。0.1%の歪み率で得られる出力は10mW以下ですので好成績とはいえません。残留雑音は26μVなので実用上十分なローノイズ性能ですが他の回路と比べるとノイズは多めです。高感度なイヤホンの場合はかすかにノイズが聞こえることがあるかもしれません。入力回路が大きな値の抵抗で構成されており、物理現象としての雑音(ジョンソン・ノイズという)が不可避的に生じているためです。周波数特性は十分にワイドレンジです。

図<12,13>

図<14>

表<3>


■■エミッタ共通回路2段ヘッドホン・アンプ

■PNP〜NPN2段直結回路

エミッタ共通回路1段ヘッドホン・アンプをベースにしてエミッタ共通回路をもう1段増やして利得を稼ぎ、負帰還量を増やしたのが図<15>の回路です。 PNPトランジスタとNPNトランジスタによる2つのエミッタ共通回路を直結し、一方が上下逆さま(この回路ではPNP側が逆さま)になっています。1970年代、この回路スタイルの普及によって半導体アンプの全直結化とDC帰還が可能になりました。次にご紹介する差動回路とともに今日のオーディオ回路の基礎を作ったと言っていいでしょう。

図<15>

■DC安定のメカニズム

この回路のDC安定は、出力から初段エミッタにかけているオーバーオールの負帰還がDC領域まで効いていることで得ており、その基本動作のエッセンスだけを抜き出したのが図<16>です。

図<16>

初段のベース電圧は、RB1とRB2によって電源電圧を分圧した電圧VB1によって決定され、これがこの回路の動作を決定する初期値となります。2段目トランジスタのベース〜エミッタ間電圧は約0.6Vとなりますが、これは初段のコレクタ負荷抵抗RC1の両端電圧でもあります。初段コレクタ電流IC1は、0.6VとRC1によって一意に決定されます。ところで、初段ベース電圧VB1はすでに決定されているので、初段エミッタ電圧は自動的に初段ベース電圧に約0.6Vを足したVB1+0.6Vになります。負帰還抵抗RNFには初段コレクタ電流IC1が流れるので、RNFに生じる電圧も自動的に決まり、さらには2段目のコレクタ電圧(=VB1+0.6V+VRNF)も自動的に決まります。2段目のコレクタから初段のエミッタに100%のDC帰還がかかるので、この回路はDC的にきわめて高い安定性を持ちます。そしてこのDC安定メカニズムはSEPP回路を追加しても変わることはありません。

現実の回路では、各トランジスタのベース電流も考慮して設計しますが、回路動作の本質は変わりません。

■実測特性

このヘッドホン・アンプの特性は図<17,18>および表<4>のようになりました。実用十分な低歪み率特性と静粛さを持っています。ただこのアンプは電源ON時のポップノイズが少々目立つという欠点があります。音の評価については主観が入って難しいところですが、ポジティブな言い方をすれば輪郭がはっきりとした前に出る音、ネガティブな要素としてはいささか雑味を感じます。

図<17,18>

表<4>


■■トランジスタ差動2段ヘッドホン・アンプ

■これまでの経緯

もう10年も前のこと、FET差動ヘッドホン・アンプを発表した時からバイポーラ・トランジスタによる差動化ができないかと考えました。しかし、実際にやってみるとDC安定を得るのが案外難しい、簡単に発振してしまうなど課題が多くて長らく頓挫していました。Version3はシンプルな構造なのに、バイポーラ・トランジスタによる同じ構成の単段差動によるヘッドホン・アンプとして誰でも確実に作れるものは難しかったのです。バイポーラ・トランジスタによる差動回路を使ったオーディオ・アンプなんてどこにでもあるというのに、何故か難しいのです。

Version4になってからもう一度チャレンジしてみようと思っていたところに出版の話がきたので、試作機を何台か作ってみたところ、安定して動作するものができたというわけです。デバイスが違えば音も微妙に異なるのは仕方がないことで、一連のヘッドホン・バッファからヘッドホン・アンプまで、それぞれに魅力あるものができたと思っています。

■回路の説明

この回路はど見覚えがある方、あれっと声を出してしまう方も多いと思います。何のことはない、FET/Tr差動ヘッドホンアンプ Version 4の初段差動回路をJFETからバイポーラ・トランジスタに置き換えてただけなのです。PNPとNPNが入れ替わって上下ひっくり返っていますが、初段にNPNを配して2段目にPNPを持ってきてもかまいません。(試作機では初段に2SC2240、2段目に2SA970を使いましたが、得られた特性はほとんど同じでした)

図<19>

出力段のSEPP回路はヘッドホン・バッファのところですでに説明済みですので省略します。2段目は不完全ながら差動回路を構成していますが、回路動作はエミッタ共通回路2段ヘッドホン・アンプの2段目と同じなので回路の基本動作については省略します。

このヘッドホン・アンプを特徴づけているのは、初段と2段目が差動回路を構成しているところにあります。特に初段の差動回路は、ヘッドホン出力から100%のDC帰還がかかっており、アンプ全体のDC安定とオフセット電圧を決定する重要な役割があります。

オフセット電圧は、2つの2SA1015-GRのベース電流によって2つの56kΩの両端に生じる電圧の差で決まります。2つの2SA1015-GRのhFE値が近いほどオフセット電圧は小さくなりますが、差が生じても100ΩVRの調整で吸収しきれるようにしてあります。トランジスタの基本的性質の初歩を学習していればその計算は容易だと思いますが、すこし解説しておきます。

初段2SA1015のコレクタ電流は回路図の情報から容易に求まります。

(6.9V−0.72V)÷6.8kΩ=0.91mA
0.91mA÷2=0.455mA
2SA1015のhFEがそれぞれ、200、250、300、350、400の時のベース電流を求めて、さらに56kΩの両端に生じる電圧も求めてみます。

0.455mA÷200=0.00228mA・・・・×56kΩ=127mV
0.455mA÷250=0.00182mA・・・・×56kΩ=102mV
0.455mA÷300=0.00152mA・・・・×56kΩ=85mV
0.455mA÷350=0.0013mA・・・・×56kΩ=73mV
0.455mA÷400=0.00114mA・・・・×56kΩ=64mV
一方で、エミッタ側に入れた100Ωの半固定抵抗器による調整範囲は、

0.455mA×100Ω=45.5mV
ですから、hFEが200と400のかけ離れたトランジスタで差動回路を組んでしまうと調整しきれませんが、hFEが250と350くらいのばらつきであれば十分に調整可能です。販売されているトランジスタのhFEは、仕入れた単位ごとに結構揃っているものなので、同じ店で同じタイミングで購入したものであれば問題なく使えると判断しました。気になるのでしたら、hFE簡易測定機能付きのテスターで確認されたらいいでしょう。

■基板パターン

時間がかかりましたがなんとか基板パターンを公開することができました。手が不自由なので線がゆらいでいますがご容赦ください。ユニバーサル基板を使いながら両面パターンにして無駄を省いているため、設計性能が出やすくなっています。タカス製のIC-301-72シリーズが適します。ジャンパー加工についてはこちらの解説を必ずお読みください。

■調整

初段差動回路の半固定抵抗器(100Ω)を調整して、ヘッドホン出力に現れるDCオフセット電圧を0V近づけるだけです。余程にひどいばらつきがない限り、無理なく±5mV以内に追い込めるでしょう。

■実測特性

オーディオ・アンプは物理特性がすべてではありませんが、ひとつのアンプの改良過程では、音質のグレードアップと物理特性の改善は強い相関があります。ここでご紹介した一連のヘッドホン・アンプは、主たる増幅回路は共通しています。改良を重ねるたびに物理特性の向上とともに音質のグレードアップも得られました。

図<20,21>

図<22>

この記事の測定条件は、すべて基板をアルミ板の乗せただけの片面シールドで行っていますが、本機では残留雑音は8μVとかなり良い数字をマークしました。しっかりとしたシールド効果のある金属ケースに入れてやればもう少し下がるかもしれません。

表<5>


■■プラス・マイナス電源回路

差動2段ヘッドホン・アンプはプラス7V、マイナス7Vの2電源を必要とします。 プラス側の供給電流とマイナス側の供給電流は全く同じ場合は、プラス側とマイナス側それぞれ2つの電源を用意しないで、1つの電源を2分割した擬似プラス・マイナス電源が可能です。差動2段ヘッドホン・アンプでは、プラス側とマイナス側の差は初段差動回路のベース電流相当で0.003mA〜0.004mA程度とごくわずかなので擬似プラス・マイナスを採用します。

但し、差動2段ヘッドホン・アンプは電源ON時に十数mA程度の過渡電流が流れるため、OPアンプで採用した2本の抵抗器で分割した簡易型が使えません。

電源回路は図<23>のとおりです。一見してSEPP回路そのものであることがわかります。約15Vを2分割してSEPP回路のエミッタ出力にあたる部分をアースにつないでいます。この回路は、プラス側の供給電流とマイナス側の供給電流にアンバランスが生じても、SEPP回路がそのアンバランスを吸収してくれます。

図<23>

どれくらいの吸収能力があるかですが、このSEPP回路をアンプの出力段として見立てた時の出力インピーダンス(内部抵抗)は約8Ωですので、1mAのアンバランスあたり0.008Vの電圧変動となり、抵抗器2本による簡易型よりもかなり優秀です。 電源ON時に過渡的に50mAが流れたとしても0.4Vの電圧変動にとどまるため、アンプ側の動作の立ち上がりで破綻することはありません。

アンプ部にはプラス側とマイナス側ともに左右合計で9400μFを入れてありますが、ACアダプタの出力にこのような大容量のコンデンサをつなぐと電源ON時の過渡電流で保護回路が作動してしまいます。そこでスイッチングノイズのフィルタも兼ねて470μH(DCR=約2Ω)のインダクタと、プラス側とマイナス側それぞれに4.7Ωを入れて突入電流を制限する機能も持たせてあります。

供給源としてはDC15VのスイッチングACアダプタを使いますので、電源の入口には470μHと10μFによるノイズ・フィルタがあります。電源のインジケータLEDへは4mAほど流していますが、LEDの明るさは直列に入れた抵抗値で調整てください。アンプ部へは4.7Ωの抵抗で左右に分けて供給しています。こうすることで電源ライン経由でのオーディオ信号の左右チャネル間クロストークの劣化を防いでいます。

電源の供給路と直列に抵抗を入れたら電源のレギュレーションが悪くなると気にする方も多いと思いますがそれは杞憂です。このヘッドホン・アンプは、かなりの大音量で鳴らしてもA級動作の範囲に収まってしまうので消費電流は変化せず、電源のレギュレーションの影響を受けることはありません。かりに電源のレギュレーションのせいで電源電圧が少々低下することが起きても、それで音のダイナミクスが損なわれるわけではありません。


■■使用部品について

2SA1015-GR、2SC1815-GR・・・・東芝製がまだそれなりに流通しています。セカンド・ソース品も問題なく使えます。厳密な選別の必要はありません。同時に購入した程度に揃った4本をそのまま使っても調整しきれるような回路定数を選んでいます。

TTC015B、TTA008B・・・・千石や秋月、その他通販で入手できます。2SC3421-Yや2SA1358-Yも使えます。厳密な選別の必要はありません。かなりばらついたものをそのまま使っても動作が破綻しない回路方式&回路定数を選んでいます。

LED・・・・SEPP回路のバイアス用のLEDは、3mm径の赤かオレンジの通常品で問題ありませんが、青や白はダメです。

インダクタ・・・・電源で使用した470μHは厳密さは要求されないので、220μH〜1mHの範囲で十分です。直流抵抗は2〜4Ωが良く、1.5Ω以下ですとACアダプタの保護回路が働いてしまうことがあり、5Ω以上では電源電圧が低めになります。秋月などで入手できます。


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