本音爆裂・神経逆撫

師匠と弟子のいいたい放題-23


駄球論評
2003.9.4

弟子 「師匠、今年の阪神はついに優勝ですね。」
師匠 「ダメ阪神にもついに順番がまわってきたってわけだ。」
弟子 「順番ってことは、来年は別の球団に順番がまわるわけですかね。」
師匠 「そんなことどっちでもいいや、巨人が負けてくれれば。」
弟子 「どうも阪神ファンていうのは、阪神を応援してるのか、巨人の足を引っ張って喜んでいるのかわからないところがありますね。」
師匠 「まあ、300Bが巨人だったら、阪神は6L6みたいなもんさ。」
弟子 「その6L6に値がついちゃって、300Bが大暴落。」
師匠 「いや、今年の300Bはフィラメント電圧が3Vしかなかったっていうのが真相だね。ちゃんと5Vになったら6L6の出番はないかも。しかも、今シーズンの6L6のヒーター電圧が8Vくらいあって、つい頑張っちゃった。」
弟子 「8Vもかけて大丈夫なんですか。」
師匠 「燃え尽きちゃったかもね。」
弟子 「シーズンが終った途端に断線とか・・・」
師匠 「あははは、いえてるなあ。」
弟子 「でも、6L6だって名球なんじゃないんですか。」
師匠 「ま、名球なんだろうね、こんだけヴァリエーションがあって、普及していて、ロシアでも再生産されるようになってるわけだし。」
弟子 「でも、はっきり言って6L6の音って、どんな構成のアンプでもいまいちな気がしてならないんですけど。」
師匠 「実力のない名球ってわけだ。」
弟子 「これだけ名が売れちゃうと、流石に駄球とはいいにくいですもんね。」
師匠 「じゃあ、6V6はどう思う?」
弟子 「6L6よりも音がいい、とはいえないような気がしますが。」
師匠 「同感。」
弟子 「じゃ、これは駄球?」
師匠 「誉高い6V6に向かってなんちゅうことを言うんだい?」
弟子 「す、すいません。事情を知らないもんで。」
師匠 「でも、6V6で芯のある中低域が出た、ってあんまり聞かないよね。」
弟子 「じゃあ、6V6も実力が伴わない名球ということにしますか。では、6F6はいかがですか。」
師匠 「早々に出てきたかい。」
弟子 「日本駄球協会での師匠の会員番号は6F6でしたよね。ということは・・・」
師匠 「6F6は真性駄球だと思っている。」
弟子 「真性駄球・・・ですか。」
師匠 「だって、普及した5極管第一号だし、5結の音は現代に通用しそうもないし、3結でも内部抵抗が中途半端に高くてバランス悪いしね。」
弟子 「そういえば、米国系では6F6が5極管の原点ですよね。」
師匠 「歴史ある駄球ってわけさ。もちろん、実力もたいしたことない。」
弟子 「6F6と同じ特性の42とか2A5も駄球ですね。」
師匠 「軍用の1613も1611も欧州のKT63も、みんな揃って歴史的駄球。」
弟子 「大ファミリーだなあ。」
師匠 「まあ、音が出りゃあいいっていう時代の産物だから、直熱管みたいなフィラメント・ハムは出なくなってすっきりしたわけだし、こんなんでも御の字だったんではないかな。」
弟子 「ちょっと待ってくださいよ。6F6といえばオルソンアンプがあったじゃないですか。」
師匠 「それしかないっていうのもねえ。あのアンプの原回路をそのまま作っても懐古趣味を超えるわけでなし。」
弟子 「6F6の親戚筋の6K6GTとか、MT化された6AR5はどうしましょうか。」
師匠 「輝かしい歴史とか名誉はないけど、巷の純正駄球ということでそれなりに評価したいね。」
弟子 「では、6V6のMT版の6AQ5関係はいかがしましょうか。」
師匠 「う〜む、参ったね。名球の誉れはなさそうだな。きわどいところで、駄球落ちにするか。」
弟子 「あれまー、6V6と泣き別れですか。」
師匠 「MT7ピンベースの中ではトップクラスに入れてもいいけどね。」
弟子 「MT7ピンベースの出力管というと、トランスレス球がたくさんありますね。どれも、貧相で格好悪いです。」
師匠 「その中でも、30A5のプレートは角張っていて風格があるよ。パワーも、他の球よりか大きくてシングルで2.1Wもある。」
弟子 「6AQ5の半分もないじゃないですか。」
師匠 「でも、30A5は名球としよう。」
弟子 「駄目ですよ、世間は認めません。」
師匠 「駄目かね、僕んちにあったVictor製の箱型ステレオに使われていたんだけどな。」
弟子 「えこひいきはいけません。」
師匠 「30A5が駄球なら、35C5も50C5も、50EH5もみ〜んな駄球になっちゃうぜ。」
弟子 「世間の目はそんなもんです。この中に1本あたり2000円以上する球があります?」
師匠 「ないな。通販のAESだったらどれも4ドル以下だもんな。」
弟子 「みんな、清く正しいお駄球ということで、どうですか。」
師匠 「十把ひとからげっていうのは気に食わんが、消えるのは時間の問題お駄球達ということにしとくか。」
弟子 「ところで師匠、以前、30A5とか50C5とか探していませんでした?」
師匠 「変なことを覚えているな。」
弟子 「なんかたくらんでいるんじゃないかって、ずっとチェックしております。」
師匠 「僕がはじめて聞いたステレオは30A5だったからなあ。なんか、いいアンプができないかって思っているんだ。」
弟子 「で、なんかできそうなんですか。」
師匠 「それがね、ほんとうに忘れられてしまったみたいで、こんな球をもっている店がないんだ。」
弟子 「売れないってことですか。」
師匠 「買う奴がいないので、ただのゴミになってしまったような気がする。」
弟子 「淋しいですね。」
師匠 「なーに、そのうち面白いアンプ作ってやるさ。」
弟子 「じゃ、次いきます。MT9ピンはどうですか、6BQ5とか。」
師匠 「6BQ5はシングルで5W出ることになってるから、6Z-P1とか6AR5がせいぜいだったラジオ少年にとっては高級管だったんだけど、いまどき、価格的にはどうなんだい。」
弟子 「AESで7ドルから31ドルですね。SOVTEKからTelefunken、Mullardまでありますよ。」
師匠 「ホウホウ、こりゃ立派なもんじゃ。でも駄球だな。」
弟子 「なんでですか。」
師匠 「この球でまともな音を出すには、やっぱり苦労するからだ。それに、ハイエンドの奴等はこんな球、相手にせんだろう。」
弟子 「国産のみですけど、NECに6R-A8っていうMT9ピンの3極管がありますね。」
師匠 「こいつは今やとんでもない価格がついちゃったから、もはや駄球ではない。かといって名球でもない。だから贋名球。」
弟子 「なんですか、贋名球って。」
師匠 「これだよ。」
弟子 「いいんですか、こんなこと勝手に決めてしまって。」
師匠 「いや、これは日本駄球協会総合研究所が発表したデータだから信憑性があるよ。」
弟子 「・・・。」
師匠 「これで見ると、6R-A8のほかに東芝の6G-A4も贋名球で、実力のない名球の6V6は駄球ってことになっている。しかも、6F6以下のところにいるな。」
弟子 「6F6の値が上がっちゃったってことですね。」
師匠 「不思議なもんだね。こんな球の値が上がっていくなんてさ。そのうち、贋名球になっちゃうかもね。」
弟子 「師匠がお好みのテレビ用駄3極管の6AH4GTも上の方にきていますね。」
師匠 「6AH4GTは、オーディオ球として素質があったのにずっと埋もれていた。それがインターネットであっという間に知られてしまったからね。いいんだか、わるいんだか。」
弟子 「でも、埋もれたままっていうのよりはいいと思いますよ。」
師匠 「そう言ってもらえるとちょっと気が楽になるな。最近値が上がってきてしまったので気にしていたんだ。」
弟子 「じゃあ、そろそろ6AH4GTにとって代わる新顔の実力派駄球が欲しいですね。」
師匠 「そうなんだけど、ないんだよな、これが。」
弟子 「6BM8なんてどうなんですか。」
師匠 「僕は6BM8族はいい球だと思うね。超3アンプ御用達にしとくのはもったいない。」
弟子 「でも、名球っぽくはないですね。」
師匠 「ハイエンド・オーディオの連中からは馬鹿にされているみたいだから、21世紀の中核的駄球ってことでいいんじゃないの。供給もいまだ豊富だし。」
弟子 「中核的駄球ですか、力がこもってますね。」
師匠 「但し、6BM8や50BM8みたいに使いやすいヒーター電圧のを安直に使うんじゃなくて、8B8とか16A8みたいな半端な球をもっと活かして欲しいもんだね。」
弟子 「8Vに16Vかぁ、いかにも使いにくいですね。」
師匠 「そうでもないさ。5V+5V+6.3Vで16.3Vだよ。16A8ならそのまま、8B8なら2本直列にすればいいじゃない。」
弟子 「どうも、6.3Vピッタンコでなきゃ駄目なように思ってしまいます。」
師匠 「頭が硬いなあ。さて、6BM8と同じ構成の複合管に6GW8があるけど、僕としては、こいつの人気がいまひとつなのが面白くないんだな。」
弟子 「6GW8はれっきとしたオーディオ球ですよね。」
師匠 「12AX7+6BQ5といっていい組み合せだからね。こっちの方がオーディオ用としては徹底している。球の造りもずっと手がかかっているし。」
弟子 「それは知りませんでした。」
師匠 「でも、人気いまひとつだから、原因不明不発駄球ってことにしとこう。」
弟子 「MT9ピンでほかに何かお勧めはありませんか。」
師匠 「そうだな、12B4-Aなんていうのはどうだい。」
弟子 「それってEp-Ip特性を見るといかにも直線性が悪そうな球じゃなかったでしたっけ。プレート損失も5.5Wしかなくて、こんなんで出力管って言っていいんですか。」
師匠 「ところがだ、これが玄人好みの結構すごい球でね。」
弟子 「でもねえ、見るからに駄球っぽいから玄人好み駄球とさせていただきます。MT管はこのへんにしておきまして、GTベースの中小型球に戻りましょう。6F6とか6V6のほかにもあるんじゃありませんか。」
師匠 「うん、あるよ。たとえばね、テレビ球の6W6GT。」
弟子 「あんまり聞きませんね。製作記事も見たことないですし、インターネットで検索しても作例は出てきません。」
師匠 「これがね、けっこうイケるお駄球なんだ。」
弟子 「でも、人気さっぱり、超廉価球ですよ。6W6GTのどこがいいんですか。」
師匠 「ははは、そりゃあなんたって誰も相手にしてないってことさ。」
弟子 「そんなんじゃ説明になってません、師匠。」
師匠 「まずね、見てくれはダサい。間違いなく格好わるい。」
弟子 「あ、ほんとだ。ずいぶん不格好なプレートですね。」
師匠 「な、ヘンテコでみっともない格好してるだろ。でもね、この球のほんとうの弱点は動作電圧にあるんだ。標準動作のプレート電圧が200Vで低め、スクリーン・グリッド電圧は更に低くて125V。どうだい?」
弟子 「まず、手頃な電源トランスがなくて、しかもスクリーン電源の供給が面倒くさいですね。」
師匠 「おまけにヒーター電流を1.2Aも食いやがる。」
弟子 「これじゃ、不人気でも仕方ないですね。」
師匠 「ところが、6W6GTは実に巨大なファミリーを形成していてね。6W6GTのほかに12W6GTと25W6GTがある。50L6GTとか25L6GT、12L6GTって名前くらいは聞いたことがあるだろ。この球は6W6GTと全く同特性なんだぜ。」
弟子 「すごいですね。」
師匠 「6DG6も同じ特性。1632っていう高信頼管バージョンまである。」
弟子 「そちらの方面の世界ではいかによく使われたかってことですね。それなのにオーディオ球としての地位はないに等しいです。」
師匠 「ということで、6W6GTは地底帝国駄球。ちなみに、良く似た球に6Y6Gがあるけど、これも立派な隠遁生活を送っている。」
弟子 「ところで、プレート損失が10W前後のコンパクトな球で名球っていうのはないんでしょうかね。」
師匠 「45という素晴らしい球があるじゃない。」
弟子 「あ、そうじゃなくて、45の存在は承知していますけど、45以外にないのかなって。」
師匠 「45よりもひとまわり大きい2A3の存在の方が大きいから、2A3を追いかけようとした球はたくさんあるだろ。さっき話題になった6G-A4とか6R-A8ね。」
弟子 「でも、それが手にはいらないから、しょうがなく6AH4GTや6EM7で我慢ってことになるんでしょうか。6CK4なんて、どうってことない球なのに、もう手にはいんないですよ。」
師匠 「Ep-Ip特性見たら、こんなのをオーディオ用に使おうなんて思う奴は少ないと思うよ。」
弟子 「ところが使ってみたら思ったほど悪くなかった。」
師匠 「でもねー、やっぱりヒドイ特性だと思うな。45のデータなんかと比べてしまうともう次元が違う感じ。」
弟子 「テレビ球出身は、オーディオ球としてみたらすべて駄球ってことなのかな。」
師匠 「戦後登場した近代オーディオ管はほとんどすべてテレビ球の焼き直しなんだぜ。6G-A4も6CA10もみんなそうだ。」
弟子 「今やとってもお高くなっちゃたのにねえ。」
師匠 「さて、そろそろ大型球にいくかな。」
弟子 「冒頭のところで6L6の話題が出ましたね。実力のない名球なんていう厳しい評価になっちゃいましたけど。」
師匠 「それに比べたらEL34は立派だと思うね。大量票を集めて名球当確。」
弟子 「KT88とか6550Aはどうですか。」
師匠 「ほんとうのところあんまりコメントしたくないんだけど、大きくて値段が高いから名球。はい、次。」
弟子 「やっぱり、お値段が高いと駄球扱いは無理でしょうか。」
師匠 「大きくてもお安い球はあるよ。6080とか、6AS7Gの仲間達。」
弟子 「ああ、そういう方面の球がありますね。いわゆる猫またぎ球ってやつですか。」
師匠 「ポートフォリオの区別では問題児ってことになっているけど、広い意味で駄球なんじゃないの。猫またぎ駄球。」
弟子 「こうやってみると、名球よりも駄球の方が圧倒的に多いですね。といいますか、名球は数えるほどしかない。」
師匠 「いわゆるオーディオマニアって奴は数少ない名球に群がっているわけだよ。それで、寄ってたかって数限りあるごく一部の球の値を吊り上げている。」
弟子 「それはそれでいいんじゃないですか。世の中には、無名球、安い球を持って行って『この球は音がいい』って言っても信じようとしない人、嫌がる人もいますよ。」
師匠 「それはいえてるな。実力ある駄球捜しをする側にとってはその方が都合がいい。」
弟子 「師匠の駄球の旅は当分終わりそうにないですね。最後に、駄球についてなにか一言ございますか。」
師匠 「そうだな、駄球のおかげで回路技術の工夫のヒントがたくさん得られたってことかな。駄球を相手にしていると、とにかく頭を使うからなあ。」
弟子 「それはいいことですね。ボケ防止には是非お駄球をどうぞ。」
師匠 「あははは、全くそのとおりだな。300BとかDA30みたいな超名球ばっかり使っていたら、球も頭もボケちまう。」


苦情とご質問は受け付けておりません、あしからず。

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