12AT7 特性実測データ


MT管のなかで電圧増幅回路の常連といえば12AX7族と12AU7族でしょう。ただ、12AX7には内部抵抗がとても高いという泣きどころがあり、内部抵抗の低い12AU7はμが低いという悩みがあります。それはどちらもgmが低いからです。gmが低い球では、内部抵抗の低さとμの大きさが両立しません。12AT7は、12AU7や12AT7い比べてgmは高いため、内部抵抗は12AU7並に低いのに、μは12AX7並の大きさを持っています。

とここまで書くと、なんだかオールマイティーみたいな球に見えてしまいますが、現実はそんなに甘くありません。12AT7は、そもそもオーディオ増幅回路用として設計されたわけではないため、直線性は悪く、雑音性能も十分とはいえません。

とはいうものの、では12AT7はどの程度のものかというあたりも気になるので、このデータ・ライブラリに取り上げてみました。12AT7にたいへん良く似た特性の球にはほかに6AQ8があります。


NEC製12AT7

測定したのは1本だけで、他のメーカーの球の測定もさぼりました。

オーディオ用電圧増幅管の多くが、プレート電流がある一定値以上ではμ(Ep-Ip特性の左右の間隔)はほとんど同じ、内部抵抗(Ep-Ip特性の角度)もになるのに対して、12AT7ではプレート電流が多くなればなるほど曲線の間隔は開いてμもどんどん大きくなってゆき、内部抵抗もどんどん上昇してしまいます・・・Ep-Ip特性が扇型に開いたようになります。この特徴は6AQ8や5965、12BH7A等でもみられます。

そして、12AU7並の低い内部抵抗と、12AX7並の高いμが得られるのは、プレート電流10mA以上(下のグラフから飛び出てしまう)の領域に限られます。

このような性質の球では、高いプレート電圧での動作や少ないプレート電流での動作にはあまり向きません。また、低歪みが要求される回路にも不向きです。かといって、カソード・フォロワならいいかというとgmがそんなに高いわけでもないので(カソード・フォロワの出力インピーダンスはgmの高さで決まります)gmの高い5687や6DJ8にはかないません。どうにも中途半端な球という気がしてなりません。

12AT7について悪いことばかりになってしまいましたが、これは私個人の感想ですので他意はありません。しかし、ごらんのとおりのカーブでは、ちょっと考えてしまいます。


データライブラリに戻る